LOGINそれからしばらくして、出来上がった料理が居間に運ばれて来た。
「お待たせ〜。今夜は肉じゃがだよ」 伊織が四人分の皿に盛り付けた肉じゃがをちゃぶ台に置くと、途端に牛肉の良い香りが俺の鼻を伝って胃袋を刺激した。美味そうだ。 ふと、肉じゃがに釘付けになっていると、背後から視線を感じた。振り向くと、伊織の後ろにいたもう一人の姿が目に入る。 「……こんばんは」 「こ、こんばんは……」 その視線の主は、小さな女の子だった。ミルクティーのような色のショートカットの髪の毛に、こちらをジッと見つめる黄緑色の眼。 その表情にははっきりとした警戒心が宿っているのが分かって、俺は慌てて背筋を正した。 「凛寧、新しい従業員の成海。仲良くするんだぞ」 「だからまだ働くって決めたわけじゃ……小鳥遊成海です」 頭を下げると、向こうも少しだけ下げてくれた。 彼女が、凛寧……さん? ちゃん? 呼び名はともかく、この家の台所担当をこんな小さな女の子がしているなんて思いもしなかった。見たところ、小学生高学年から中学生くらいだろう。 「……凛寧でいい」 「ど、どうも」 口にしたわけではなかったが、呼び名で悩んでいるのがバレていたようだ。凛寧は店主と伊織の間に座った。 「じゃ、食べようぜ。いただきまーす!」 店主の元気の良い挨拶と共に、各々も口にしてから食べ始めた。 「いただきます」 俺も食材と作ってくれた人への感謝を込めて、しっかりと手を合わせた。 まずは茶碗に盛られた白米を一口。少し芯が残っていて硬いが、風味が良い。明らかに炊飯器では出せない香ばしさ。土鍋で炊いたのだろうか。いつも家だと炊飯器だから、いつか土鍋にもチャレンジしたいところだと思っていた。 味噌汁も一口飲む。具はわかめだけとシンプルな味噌汁だが、その分余計なものに惑わされずしっかりと味を感じることができる。 そして、ついにメインの肉じゃがに手を伸ばす。香りを嗅ぐと、若干の生臭さと青臭さを感じた。おそらく糸こんにゃくとじゃがいもの下処理が甘かったのだろう。だが、このくらい全く問題にはならない。大きく口を開けて、じゃがいもを頬張った。 「……うん、美味い」 形がしっかりとしているが、火は満遍なく通っていて美味しい。おつゆの甘みが個人的にはもう少しあっても良いかもしれない。みりんを増やせばこんにゃくの生臭さも消すことができるだろう。 何はともあれ、疲れた体に染み渡る味だ。久しぶりに誰かの作ったご飯を食べた。それに作ってもらっておいて文句などありはしない。あるはずがない。あったら俺がぶっ飛ばす。 「美味しいよ、凛ちゃん。リクエスト聞いてくれてありがとう」 「……どういたしまして」 「こういう家庭料理って良いよなあ。酒よりご飯が欲しくなる味だ」 そう言いながら、店主の横にはいつの間にかしっかりと一升瓶とお猪口が置かれている。 こいつ、飲兵衛か。それならせめて助けてくれた礼に、いつか合うつまみでも差し入れしてやろうと思った。 彼らの会話を聞きながら黙々と食べ進めていると、また視線を感じた。 「……!」 真正面にいる凛寧が、また俺を見ていた。何か食べるマナーが悪かったとか、そういう失礼があっただろうか。 「……そういうのじゃない、気にしないで」 また、こちらの思考を読み取ったかのような発言。まさか、人の心がわかるとか、そういう能力を持っているのだろうか。 「よし、じゃあ緊張もほぐれた頃だし、ウチの従業員を紹介するぜ。俺はもう済んだから、凛寧からな」 店主が箸で凛寧を指し、伊織がそれを咎めた。 「凛寧はサトリと人間のハーフなんだ。成海はサトリって知ってるか?」 知らない。首を横に振った。 「サトリは人の心を読む妖怪さ。だから凛寧も俺達が考えていることを、口にしなくても理解することができるんだ。隠し事はできないぞ〜」 「あ、だから……」 やっぱり俺の心を読んでいたんだ。……そしてやっぱり、人間じゃないんだ……。こんなナチュラルに『普通』じゃない知り合いってできるものなんだな。 店主の視線が、俺の隣に座る男へ向けられた。 「そんで、伊織。ウチの力仕事担当だ。すげーんだぞ、車だって片手で持ち上げられる!」 「……この前はカボチャを割ってくれた。素手で」 「す、素手で……⁉︎」 「照れるなあ、もう。さっき名乗ったけど改めて。八坂伊織です。一応人間なんだけど、鬼のなり損ないというか……人より力が強いだけの役立たずだけど、もし困ったことがあったら力になるから、よろしくお願いします」 そう言って爽やかに笑った伊織は、俺に向かって手を差し出してきた。……恐らく握手を求められている。それに反射的に手を出そうとして、寸前の店主と凛寧の言葉を思い出す。 カボチャを素手で割る……。 伊織は止まってしまった俺と自分の手を交互に見て、しまったというような表情をした。そしてその手を引っ込めようとしたのだ。 「っ!」 俺は、覚悟を決めて、その手が下げられる前に握った。 「……!」 「こちらこそ、よろしくお願いします!」 伊織がはっと息を呑んだ。それから握られた手を見て、嬉しそうに頷いた。握られたその手は、驚くほど温かくて、それでいて繊細な力加減でこちらを気遣っていることが分かった。 「良かったな、伊織」 「うん。でも店主、彼の都合も聞かず無理やり従業員にするのは良くないよ」 店主が「ええー」とガキみたいに文句を言うが、至極正論で俺は大助かりだ。やっぱり伊織に話を通した方がいいと判断したのは正しかった。 「あと、今は留守にしてるけど、もう二人いるんだよ。明日には会えると思う。二人ともすっごく良い人たちだから安心してよ」 伊織が言う。思っていたより、意外と大所帯らしい。良い人とは言うが、何となく普通の人間ではないような気がした。 「ごちそうさまでした」 やがて食事が終わり、食器を下げようと立ち上がるなり、風呂に入れと言われて店主に案内された。 歩く度に僅かに床が軋む音がする。外からは見えていた広い縁側沿いの廊下の先に、これまた年季の入った風呂場があった。 「良いだろ、檜風呂だぜ」 店主の言う通り、そこにあったのはバスタブではなく檜の浴槽だった。石造りの浴室は、まるで旅館の浴場のような趣があって、雰囲気がめちゃくちゃ良い。 「ほい、タオルと浴衣。上がったら居間にいるから声かけてくれな。じゃ、ごゆっくり〜」 ガタガタ、ぱたん。少し立て付けの悪い音を立てて戸が閉まった。渡された浴衣を見て、自分の替えの下着がないことに気付いたが、仕方がない。今夜は我慢して、明日登校する前に家に戻って変えよう。 制服を脱いでシワにならないように畳んで棚に置く。初対面の人の家で風呂まで借りるのは正直気まずいが、内心で俺は密かにはしゃいでいた。 「でかい風呂なんていつ以来だっけ……」 旅行なんて普段は全く行かないし、アパートの浴槽は足を伸ばせるほど大きくない。子供みたいにはしゃいでしまうほどには、この和風の風呂場はロケーションが最高だった。 カポーン、そんな音が聴こえてきそうな反響の中、俺は風呂場に足を踏み入れた。 「……ムニッ?」 何かの声がした。俺が何かを踏んだ音ではない。 湯気が立ち上る浴槽の中に、何かが浮いている。ピンク色の小型犬くらいの大きさをした丸っこいフォルムの生き物だ。 「ムニムニ、ムム?」 生き物だと判断したのは、それが動いていたことと、変な鳴き声を上げたから。その謎の生き物は、象のような形の少しだけ長い鼻を持ち上げて、俺に向かって伸ばしてひくひくと動かしている。 「……え、何?」 これは、何だろう。何と形容したら良い生き物なんだろう。恐る恐る近寄って手を差し出すと、鼻の先をぴたりと掌にくっつけた。 むにゅん。そんな柔らかい質感が伝わる。それと同時に、ふわっと頭の奥が軽くなったような気がした。眠気が和らぐような、そんな感覚だ。 「ムンムン、ムニムニ」 その生き物は何故か満足気に頷くと、鼻を離して湯船にぷかぷかと浮いた。引き続き入浴を楽しむようだ。 俺はとりあえず一旦その謎生物を放置して、湯桶でお湯を掬いながら体を洗った。少しだけ熱めの湯が心地良い。 一通りさっと洗って、念願の湯船に浸かった。 「はあ〜〜〜……」 思わず魂が出ていきそうな声と共に息を吐く。足を伸ばして、両手で湯を掬って顔にかける。めちゃくちゃ気持ち良い……。 「ムニ〜」 すい、と謎生物が寄って来て、俺の肩にぶつかって止まる。最初は気が付かなかったが、表面は毛で覆われているようだ。 「……お前はここに住んでるのか?」 「ムン、ムニムニ」 「いや、わかんねーし」 何を言っているのか全く分からない。だけど、俺が笑うと謎生物も笑ったような気がした。 そのまま一人と一匹で、心ゆくまで温まる。謎生物はいつから入っていたのか分からないが、俺がのぼせる前に上がると、ぴょこぴょこと後ろをついて来た。 タオルでガシガシと体を拭いて、浴衣に袖を通す。浴衣なんていつ以来だろう。紫色の綺麗な模様だ。風呂場の入り口でぶるぶると体を揺すって水気を落とした謎生物は、まだ乾いていない身体で戸をすり抜けて出て行った。 ……すり抜けて? 「ちょっと待て!」 慌てて戸を開ようとして、立て付けの悪さに少しだけ苦戦する。そして謎生物を追いかけた。 謎生物は縁側にちょこんと座って、追いかけて来た俺を不思議そうに見ている。ああもう、こいつが座っている木の床がびしょ濡れだ。 「濡れたまま歩き回んな。そのままじゃ冷えるだろ。乾かすからこっち来い」 濡れた身体でこんな湿気に弱い家を歩き回るんじゃない。手招きをすると、謎生物は意外と大人しく着いてきて、俺たちは風呂場へと戻った。 棚からドライヤーを取り出してコンセントを繋ぐ。人ならざる者が住むこの家にも電気が通っているのがちぐはぐでちょっと面白い。 ブォーン。ドライヤーの風を謎生物に当てると、驚いたのかビクッと跳ねる。しかし逃げることはせず、次第に慣れたのか鼻歌でも歌いそうな雰囲気で俺に乾かされている。毛が乾くのは短いからか意外と早く、ふわふわで滑らかな肌触りが気持ち良い。 「……良し、多分乾いた」 「ムン♪」 謎生物は早く乾いたのが良かったのか、嬉しそうに鳴いた。俺も自分の髪の毛をそこそこに乾かして、ようやく風呂場を後にした。 縁側を歩きながら外を眺めると、もうとっくに日が暮れて月が顔を出している。ふわりと白い光の玉が宙を漂っていて、草木の間からこちらを覗く目玉が見える。 それはもう、いつもの事だ。見慣れた光景だ。 俺にとって普通のこの光景が、ここでも普通でいられるのなら、それは良いことなんだろうか。人ならざる者が見えるこの体質が普通ではないのだとしたら、俺もここの関係者になるに相応しいのだろうか。 「……やめやめ。変なことには関わらない。それに限るよな」 「ムニ?」 「何でもない。てか、お前は本当に何?」 「ムーンムン」 店主に声を掛けるために、再び歩き出す。来た道を戻って居間の戸を声を掛けながら開けた。それからしばらくして、出来上がった料理が居間に運ばれて来た。 「お待たせ〜。今夜は肉じゃがだよ」 伊織が四人分の皿に盛り付けた肉じゃがをちゃぶ台に置くと、途端に牛肉の良い香りが俺の鼻を伝って胃袋を刺激した。美味そうだ。 ふと、肉じゃがに釘付けになっていると、背後から視線を感じた。振り向くと、伊織の後ろにいたもう一人の姿が目に入る。 「……こんばんは」 「こ、こんばんは……」 その視線の主は、小さな女の子だった。ミルクティーのような色のショートカットの髪の毛に、こちらをジッと見つめる黄緑色の眼。 その表情にははっきりとした警戒心が宿っているのが分かって、俺は慌てて背筋を正した。 「凛寧、新しい従業員の成海。仲良くするんだぞ」 「だからまだ働くって決めたわけじゃ……小鳥遊成海です」 頭を下げると、向こうも少しだけ下げてくれた。 彼女が、凛寧……さん? ちゃん? 呼び名はともかく、この家の台所担当をこんな小さな女の子がしているなんて思いもしなかった。見たところ、小学生高学年から中学生くらいだろう。 「……凛寧でいい」 「ど、どうも」 口にしたわけではなかったが、呼び名で悩んでいるのがバレていたようだ。凛寧は店主と伊織の間に座った。 「じゃ、食べようぜ。いただきまーす!」 店主の元気の良い挨拶と共に、各々も口にしてから食べ始めた。 「いただきます」 俺も食材と作ってくれた人への感謝を込めて、しっかりと手を合わせた。 まずは茶碗に盛られた白米を一口。少し芯が残っていて硬いが、風味が良い。明らかに炊飯器では出せない香ばしさ。土鍋で炊いたのだろうか。いつも家だと炊飯器だから、いつか土鍋にもチャレンジしたいところだと思っていた。 味噌汁も一口飲む。具はわかめだけとシンプルな味噌汁だが、その分余計なものに惑わされずしっかりと味を感じることができる。 そして、ついにメインの肉じゃがに手を伸ばす。香りを嗅ぐと、若干の生臭さと青臭さを感じた。おそらく糸こんにゃくとじゃがいもの下処理が甘かったのだろう。だが、このくらい全く問題にはならない。大きく口を開けて、じゃがいもを頬張った。 「……うん、美味い」 形がしっかりとしているが、火は満遍なく通っていて美味しい。おつゆの甘みが個人的にはもう少しあって
信じがたい現実が目の前にある時、一般的に、人はどんな振る舞いをするのだろうか。 俺はというと、使い古されたちゃぶ台に置かれた渋い色の湯呑みを眺めている真っ最中だ。「文福茶釜直伝の茶だぜ。美味いからゆっくり味わえよ〜」 和服の男は俺と向かい合うように自分用の湯呑みもちゃぶ台に置いて、少しよれた紫色の座布団の上にどかりと座った。文福茶釜って、何だっけ。 あの後どうなったかというと、俺は誘われるがままにこの民家へ上げられ、こうして茶を振る舞われている。 いや、俺だってすぐに帰ろうとした。こんな怪しいヤツに関わると碌なことはないって、誰かに指摘されなくたって分かることだ。『でもまだ徘徊してるかもよ、さっきの』 ところがそう言われてしまえば、逃げ出そうとしていた俺の足はぴたりと止まった。「どした、ジュースが良かった?」「……いただきます」 別に飲み物に悩んでいたわけじゃないが、世話になった以上、このまま黙っていても失礼だろう。 俺は慎重に湯気の立つ湯呑みを手に取って、少し息を吹きかけ冷ました後に口をつけた。 ふわり、香ばしい茶葉の香りが鼻をくすぐり、滑らかな舌触りがほんのりと苦みを伴って舌の上を流れて落ちる。かと思えばお茶本来の甘味が、舌に残る苦味を和らげるように広がった。「美味い……」「だろ〜?」 男は満足げに笑うと、湯呑みを口元に運ぶなりごくりと一口飲み込んだ。 熱くないんだろうかと思った矢先、「あちぃっ!」と悲鳴が上がった。もしかして馬鹿なんだろうか。「本当は茶菓子の一つでも出してやりたかったんだけど、生憎切らしてるんだ。今買いに行ってると思うから、食べたきゃもう少し待ってくれ」「いや、別にいらないですけど……」「遠慮するなって!」「遠慮しているわけじゃなくて……。ていうか、そろそろ名前を教えてもらっても良いですか? ウチで働けってさっき言ってましたけど、どういう意味ですか? 俺を襲ってきたあの化け物は一体なんだったんですか? それともう帰って良いですか?」「待て待て待て」 矢継ぎ早に質問すると、男は慌てて手を振りながら湯呑みを置いた。茶は確かに美味いが、こんな怪しいヤツをそう易々と信じるもんか。 男は湯呑を置いて、胡坐を組み直した。「まず自己紹介からしよう。俺はこの『奇縁堂』の店主だ。ちなみに名乗れるような名前はない
仄かに花の香りがした。 それが、店先に咲いた桜の香りだと気付いた時、胸の奥で寂しさにも似た静寂を感じて、深く息を吸った。「さ、店開きしようか」 背後で暖簾をかける音がした。何度も耳にしたその音が、不思議と真新しく聴こえる。 振り返ったその景色は、ほとんど変わりはしないのに。「買い物に行かなきゃ」「俺も行くよ。買わなきゃいけない物ってあったっけ」 見慣れた後ろ姿たちが、暖簾をくぐっていく。もう一度背後を振り返るが、探した姿はもう見えない。 春の温もりを纏った風が頬を撫でた。俺はそっと目を閉じて、店に入ろうと踵を返した。 その時、玄関の前で大人しく座っていた白い犬が鳴いた。 「わん!」 後ろ姿を見送った方角の反対側に体を向けて、ふさふさな尾を千切れんばかりに振っている。 「あ、あのう。ごめんください」 白い着物を着た女性だ。細長い指を胸の前でもじもじと絡ませて、俯きがちにこちらを見ている。 きちっと整えられた着物の裾から覗く青白い足は、地面に触れる寸前で淡く霞み、その輪郭は曖昧だった。 女性は恥ずかしさを滲ませた小さな声で、懸命に言葉を紡いだ。 「ええっと……困り事があったらここへ行きなさいって教えてもらって……」「ああ、なるほど」 脳裏に、聞き慣れた声が蘇る。 日は移ろい、同じ時は二度と存在しない。その刹那の出会い、それすなわち奇縁——あの人の口癖が、いつの日か自分の口癖になっていくのだろうか。 合縁、奇縁、袖振り合うも他生の縁。 果たして、この縁がいったい何を結ぶのか。「いらっしゃいませ。まずは一服、それから話を伺いましょう。ようこそ、奇縁堂へ」 りん、りん、と鈴が鳴る。軽やかなその音は、まるで来客を歓迎しているかのようだ。 この音を聴く度に思い出す。 二年前の春。桜も散った終わり頃の、今も色褪せない記憶を。とんだ不運と気の迷いから始まったと思っていた、運命という言葉にするにはドラマチックすぎる摩訶不思議な縁を。 あの日も、鈴が鳴っていた。———— 走りながら、考えた。いわゆる『普通』とは一体何なのかを。 階段を駆け降りながら、考えた。こんなにも走らなければならない理由を。「誰か……っ!」 小鳥遊成海は、荒れた呼吸の合間に喘ぐように叫んだ。「助けてくれー!」 道端にいた鴉が三羽、驚いた様子