LOGIN淡い金髪と吸い込まれるような青い瞳を持ち、誰に対しても平等に微笑みを絶やさないソフィア。その完璧な振る舞いから、学園では誰もが憧れる「女神さま」として崇められていた。 しかし、その微笑みは彼女が周囲に馴染むために作り上げた、精巧な仮面に過ぎなかった。本当の彼女は、誰よりも寂しがり屋で、心から信頼できる誰かに甘えたくて仕方のない、年相応の少女だった。 そんな彼女の本質を偶然知ることになったのは、クラスで「根暗」と目されていた少年、ユウだった。 ある日、ユウが体調を崩したソフィアを介抱した際、彼女は仮面の裏に隠していた「寂しさ」を彼にだけさらけ出してしまう。
View Moreソフィアは、ユウが自分を「一人の女子」として意識していることに薄々気づきながらも、それを嫌がるどころか、誇らしげに胸をときめかせていた。自分だけに見せる彼女の素顔。真夜中の静寂が、二人の距離をじりじりと、けれど確実にかき消していく。湿った髪と、思わず零れた本音の行方「えっと……こういう姿は、前回見ていましたよね……寝顔も見られてしまいましたし……」 ソフィアは膝を抱えるようにして、わずかに視線を伏せた。言い終えると、彼女はおずおずと顔を上げ、潤んだ瞳でじっとユウを見つめてきた。湯上がりで微かに湿り気を帯びた金髪が、さらりと頬に張り付いている。学校での「女神」の神々しさとは違う、石鹸の香りを纏った一人の少女としての生々しい美しさ。そんな姿をこんな至近距離で、それも深夜の密室で眺めているのだ。意識するなという方が、土台無理な話だった。「あの時は、そんなことを考えている余裕もなかったしな」 ユウは照れ隠しに、ぶっきらぼうに言葉を返した。実際、あの夜は熱を出して苦しむ彼女を助けることで頭がいっぱいだった。だが、今の言葉は裏を返せば「今は余裕があって、そんなことを考えている」と言っているようなもので。「そんなこと……ですか? ……いえ、なんでも……ない……です。夜月くんの……えっち。エッチです……うぅぅ……ぅぅ……」 ソフィアはユウの言葉の裏側に気づいたのか、耳の先まで一気に朱に染め上げた。彼女は慌てて近くにあったクッションを引き寄せると、逃げ込むように顔を埋め、小さくなって唸り声を漏らした。クッションに遮られてこもったその声は、甘く、どこか楽しげで、それでいてひどく恥ずかしそうで。(……反則だろ、それ) 普段の彼女からは想像もつかない、あまりにも子供っぽくて愛らしい仕草。クッションから覗く彼女の耳が、羞恥でぴくぴくと震えている。ユウは、どうにかして理性を繋ぎ止めようと、温かくなった紅茶を喉に流し込んだ。だが、静まり返った部屋の中で、クッションに顔を埋めたままの彼女が発する、柔らかで、けれど熱烈な「女の子」の気配を無視することなんて、到底できそうになかった。真夜中の名残惜しさと、深まる夜の余韻「だ、だよな……ご、ごめんな。つい、誘われたのが嬉しくて……夜中に一人暮らしの女の子の家に上がり込んじゃったけど……断るべきだったわ」 ユウは慌てて立ち上がる
彼女は一歩、玄関の土間へ踏み出し、彼を真っ直ぐに見据えた。「信用をしていますし、何かしましたら……ユカちゃんへ言いますから。どうぞ、ご遠慮なくお入りください」 ソフィアは、自分自身の内側から溢れ出す積極性に、驚きを禁じ得なかった。これまでの人生、誰も自分の聖域であるこの部屋に招き入れたことはなかった。親しい友人さえも踏み込ませなかったその境界線を、彼女は今、自らの手で取り払おうとしている。(わたし……どうしてしまったのかしら……) ユカの名を出して冗談めかしてはいるが、その瞳には真剣な熱が宿っていた。信用しているから。自分を助けてくれた、この不器用で優しい「騎士」にならば、すべてを委ねてもいい。無意識のうちに芽生えたその想いが、彼女をかつてないほど大胆にさせていた。 夜風が廊下を吹き抜け、薄いパジャマの生地を揺らす。差し出された招待に、ユウは困ったように眉を下げ、彼女のあまりにも純粋な信頼を前に、立ち尽くしていた。聖域の開放と、無防備な信頼「はあ。それでも、警戒はしておけよな……あまりにも無防備すぎて心配になるぞ」 ユウは観念したように大きな溜息を吐き出した。その表情には、彼女の身を案じる守護者のような危うさと、どうしようもない困惑が入り混じっている。「はい、もちろんです。ユウさん以外を誘うことは無いですし。ドアを開けることなどありませんので、ご安心をしてください。インターフォン越しにお断りをしていますし」 ソフィアは当然のことのように、けれど少しだけ誇らしげに胸を張った。その言葉に、ユウは心臓が跳ね上がるのを感じた。 そうだ。彼女は学校でも、そしてこのマンションでも、誰も寄せ付けない「氷の女神」だったはずだ。隙を見せるどころか、他人が自分に触れることさえ許さなかった少女が、今、目の前でパジャマ姿のまま、自分一人だけを招き入れようとしている。(目の前の美少女は別人なのか……無防備すぎだろ。反則だっての……ここまで言われて断るのも悪いよな。勇気を出して言ってくれてるのかもしれないし……) ユウは、彼女の背後に広がる暗い部屋を見つめ、自身の理性と戦っていた。女子の部屋。それも、あのお堅いソフィアの私室だ。けれど、彼女の瞳は潤み、期待と、そして自分を拒絶しないでほしいという微かな震えを湛えている。その「勇気」を無碍にすることは、今の彼にはでき
一人暮らしの部屋を襲う、不意の来訪者。ドクドクと耳の奥で早鐘を打つ心臓の音が、恐怖を煽り立てる。インターフォンのモニターへ手を伸ばそうとするが、指先は氷のように冷たく、震えて動かない。恐怖に押し潰されそうになった時、無意識に唇から零れたのは、今の彼女が最も信頼を寄せる人物の名だった。「……どうしよう。ユウくん……たすけて……」 その直後、手元でスマートフォンが震え、再び青白い光を放った。 ピロン♪ 震える手で画面を覗き込む。そこには、数分間の沈黙の答えが、彼らしいぶっきらぼうな優しさとともに綴られていた。『おーい。買ってこいと催促しておいて、居留守か? それ、ひどくね。まあ、ちょうどコンビニに用事があって……ユカにも買い物を頼まれてたから、ついでに買ってきてやったぞ』「……えっ?」 メッセージの内容を理解した瞬間、恐怖は霧散し、代わりに熱烈な喜びと驚きが胸いっぱいに広がった。返信が途切れたのは呆れられたからではなく、彼女の零した「困りごと」を解決するために、彼が即座に夜の街へと駆け出してくれたからだったのだ。 ソフィアは弾かれたように立ち上がると、パジャマの乱れを直す間も惜しんで、玄関へと走り出した。ただの冗談のつもりだった。それなのに、彼は本気で受け止め、こうして自分のために行動してくれた。 鍵を開け、重い扉を勢いよく開け放つ。そこには、少し息を切らし、片手にコンビニのレジ袋を提げたユウが、街灯の光を背負って立っていた。「……夜月、くん……」 冷たい夜風と共に、彼の温かな気配が流れ込んでくる。ソフィアは、安堵と、言葉にできないほど大きな幸福感に瞳を潤ませながら、扉の前に立つ自分の「騎士」を、蕩けるような甘い眼差しで見つめ返した。月光下のパジャマと、不器用な献身「えっと……その、冗談と言いますか、まさか本当に買ってきてくださるなんて思っていなくて……ビックリしちゃいました」 ソフィアは開いたドアの隙間から、困惑と喜びが混ざり合った声を漏らした。まさか、メッセージを送ってからわずか数十分の間に、彼が自分のために夜道を走ってくれるなんて想像もしていなかったのだ。「いや、それはいいからさ、牛乳を受け取ってくれよ。ついでに、卵も買ってきたぞ」 ユウは少し照れくさそうに視線を泳がせながら、手に提げたレジ袋を差し出した。 ソフィアは、その瞬
『ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ、ちゃんと生きていますから』 何度も打ち直しては消し、ようやく決めたのは、驚くほど素っ気ない、けれど精一杯の「強がり」を込めた短い返信だった。送信ボタンを押した瞬間、再び訪れる静寂。ソフィアはスマートフォンを胸に抱き寄せ、天井を見上げた。心臓の鼓動が、指先にまで響いている。たった数行のやり取りが、これほどまでに世界を輝かせて見せるなんて。彼女は暗い部屋の中、月明かりよりも柔らかな微笑みを浮かべながら、彼からの次の通知を、今か今かと待ちわびていた。夜の軽口と、甘やかな独占欲 すぐに届いた返信は、どこまでも過保護で、けれど逃げ場のなさを感じさせるほど真っ直ぐなものだった。『そうか、お前は強がりそうだけど。遠慮するなよ。すでに、お前の弱っている姿を見ているしな。困ってることがあれば何でも言ってくれ』 その文字を目にした瞬間、ソフィアは「弱っている姿」という言葉に、あの看病の夜を思い出して顔を真っ赤にした。けれど、それ以上に胸を占めたのは、これまでに味わったことのないような全能感に似た充足感だった。(……独り占め、ですね) 学校で誰にでも平等に接し、誰にも深入りさせない彼が、今はこうして自分だけのために言葉を紡ぎ、自分だけを心配してくれている。この電子の繋がりの中だけは、誰も邪魔者の入らない、二人のためだけの秘められた時間。 どう返せば、この楽しい時間が少しでも長く続くだろうか。指先を画面の上で遊ばせながら悩み、その贅沢な悩みさえも愛おしく感じる。 困っていること、と言われて、彼女はふと台所の様子を思い浮かべた。冷蔵庫の中、明日の朝には空になりそうな紙パックの姿。(……困っていること、そういえば……牛乳が無くなっちゃいますね……冗談で言ってみよう……かなぁ……) 普段の彼女なら、そんな些細な日常の欠乏を他人に零すなど、プライドが許さなかっただろう。けれど、今の彼女は少しだけ浮かれていた。彼に甘えるための、小さな「きっかけ」を求めていた。『……うるさいです。大丈夫ですよ、もおっ! ですが、ご心配ありがとうございます。ふふっ、では……今はですね、牛乳がなくなってしまって、困っているのですが……』 送信ボタンを押してから、彼女はベッドの上で身悶えるようにクッションに顔を埋めた。こんな冗談を言える相手がいることが
けれど、頭で分かっていることと、心が感じることは別だった。自分の目の前で、他の誰かが――たとえそれが実の妹であっても――当たり前のように彼に触れ、その温もりを独占している。その事実を突きつけられた瞬間、ソフィアの胸の奥が、冷たい氷を押し当てられたようにぎゅぅっと締め付けられた。(……あ、れ。わたし、どうしたのかしら……) 視界が少しだけ揺らぎ、胸の奥からどろりとした、得体の知れないモヤモヤとした感情が溢れ出してくる。それは今まで生きてきて一度も経験したことのない、醜くも切ない、独占欲という名の暗い情動だった。ユカの純粋な笑顔が眩しければ眩しいほど、ソフィアの心には濃い影が落ちていく。彼
月下の独占欲と、女神の返上「……それって、また……星野さんの家に上がるってことか。えっと……男女二人っきりは不味いだろ。ユカを呼ぶか……」 ユウが動揺を隠すように妹の名前を出すと、ソフィアは柵を握る手にぐっと力を込め、どこか悲しげで、けれど強い意志を秘めた瞳でユウを射抜いた。「あの、二人だけの秘密と約束をしましたよね……二人っきりはイヤ……ですか? ご迷惑でしたか?」 その声は、夜風にさらわれて消えてしまいそうなほど繊細で、守ってあげたいと思わせるほどに儚かった。真っ直ぐに向けられるその問いに、ユウは喉を鳴らした。「イヤじゃない。迷惑でもない……ただ、ユウと家で会ってるとバレれば、
四月の夜風はまだ少し肌寒く、火照った身体を冷やすにはちょうど良かった。ユウはベランダの椅子に深く腰掛け、スマートフォンの画面の中で目まぐるしく動くゲームに没頭していた。液晶の淡い光が、暗いベランダに青白い影を落としている。 その時、静寂を切り裂くように、聞き慣れた、けれど以前とは違う柔らかな響きを持った声が届いた。「夜月くん、こんばんは」 顔を上げると、向かいのマンションのベランダに、月光を浴びて淡く光る金髪が見えた。ソフィアだ。柵に寄り添う彼女の姿からは、以前のようなユウを遠ざけるような刺々しさや、張り詰めた「女神」の警戒心は完全に消え失せていた。「星野さん、こんばんは。体調は大
交換される約束と、震える強がり おかゆを平らげ、少しだけ血色の戻ったソフィアが、膝の上で指先を弄びながら視線を泳がせた。「あの……面倒を見ていただき、ありがとうございました。看病をして頂いたお礼を……したいのですが……何かあり……ますか?」 上目遣いにこちらを伺う瞳には、純粋な感謝と、彼との繋がりを少しでも繋ぎ止めたいという切実な願いが宿っているようだった。ユウは腕を組み、うーんとしばらく考え込んだが、やがて思い至ったように指を鳴らした。「ん……それじゃ、お前の連絡先を教えてくれよ。昨日は、どうして良いのか困って焦ったからな……。そうなる前に、近くに住んでいるんだから、遠慮なく俺に連