เข้าสู่ระบบ聖さんを助けてあげられるのは、私しかいない──。 聖さんの目を覚まさせてあげられるのは、私。 聖さんを心から本当に愛しているのは、私だけ──。 (私に笑いかけてくれたあの日から、聖さんは私の彼なのよ……!) 徳居の視線は、レジで注文するもみじに真っ直ぐ向かっている。 その視線は悍ましく暗い。 レジで注文した商品を待ち、商品を受け渡されたもみじが出口に向かう。 「……社内に戻るの。私の聖さんのところに、戻るのね……」 恨みのこもった低い声でぼそり、と呟いた徳居は出口の自動ドアを潜り、外に出て行くもみじを追う。 一定の距離を保ち、ヒールの音を立てないよう気をつけながらもみじの後を、徳居は追っていた。 もみじが社員証を取り出した瞬間、徳居は足を速めた。 ピッ、と電子音がして、ゲートが開く。 もみじが通ったすぐ後に徳居も続き、ゲートを潜り抜けた。 背後からの足音、そして近過ぎる気配に、ようやくもみじが異変を感じて振り返る。 もみじの斜め前には、受付があり、そこには会社の受付がいる。 「──えっ、なにっ、誰……っ」 もみじが、戸惑った声を上げる。 今の徳居は、メイクもしておらず、髪の毛も綺麗に纏めていない。 社内で1度、2度しか徳居を見かけた事のないもみじにとって、目の前にいる女が徳居だとはすぐに結びつかなかった。 「──玖渡川 もみじっ!お前っ、お前が聖さんを……!このアバズレが!」 「えっ、──きゃあっ!」 徳居は言いたい事だけを叫ぶと、目の前にいるもみじの首に両手を伸ばした。 そして、もみじの細い首に両手をかける。 突然の事に驚愕したもみじの手から、買ったばかりのカフェの飲み物がガシャン、と床に落ちた。 ◇ 営業フロアでの説明を終えた髙野辺と蒔田が廊下を歩いていた。 すると、背後から2人を追ってくる足音が聞こえてきた。 「──しゃ、社長!」 「……?」 男の声に、髙野辺が不思議そうに振り返る。 するとそこにいたのは。 「──君は、神咲社員か。確か、徳居元社員と同時に中途採用された……」 「そっ、そうです……!」 髙野辺の言葉に、神咲は足を止め、頷く。 「それで……どうした?私に何か用でも?」 髙野辺の言葉に、神咲はぐっと唇を噛み締め、真っ直ぐ髙野辺を見た。 「あのっ、俺……いえっ、私は徳居社員が
徳居はふらり、と覚束無い足取りで社員用のゲートに向かう。 鞄の中から社員証を取り出し、慣れた手つきで翳した。 今までであれば、ゲートが開き、中に入る事が出来た。 だが、今日は──。 ビー、と警告音が鳴り、ゲートは閉じたまま。 「──え?」 どうして、ゲートが開かないの? そう思った徳居は、もう一度自分の社員証を翳した。 だが、結果は変わらない。 「──え?えっ?」 どうして、と焦りが出てくる。 徳居がゲート前で手こずっていると、受付から不審者を見るような目で見ていた受付の担当者が、受付を出てこちらにやって来るのが見えた。 「〜っ、もう……!」 どうして開かないのよ、と悪態をつきつつ、徳居は1階に併設されているカフェに向かう事にした。 このままあそこで開かないゲートに手こずっていたら、受付の人間がやって来てしまう。 受付の人間ならまだしも、警備員が来てしまったら。 (追い出されてしまうわ……!) そんな事になったら、意味がない。 徳居はちら、とゲートに視線を戻す。 自分の姿がそこから無くなった事で、受付の人間は首を傾げながら自分の持ち場に戻る後ろ姿が見えた。 警備員がやって来るような気配もなく、徳居はほっと胸を撫で下ろす。 (……昨日話をされたばかりだって言うのに、もう私のデータを消去したって言うの……?酷い、酷すぎるわ、聖さん……。私が何をしたって言うのよ……!) ただ、ちょっと。 あの女が痛い目に遭えばいいと思っただけなのだ。 (それなのに、聖さんも聖さんだわ……!こんな大事にしなくたっていいじゃない……!会社の損失だって、そこまで酷い訳じゃないでしょう!?TK株式会社は凄い大きな会社なんだし、今回の商品が出せなくなったとしても、大した事にはならないのに……!) カフェにあるテーブルと椅子に、どすっと乱暴に腰を下ろす。 今思い出してもイライラしてしまう。 (それなのに……聖さんは少し大袈裟過ぎるわ……贔屓、絶対にあの女を贔屓しているのよ。こんな大企業の社長が、既婚者の不倫相手に落ちぶれて、それで不倫相手を贔屓するなんて、絶対にダメよ……!私が聖さんの目を覚ましてあげなきゃ……!) そんな事を考えていると、徳居の目に、ある人物の姿が入る。 ずっと、憎んでいた人物。 自分の彼を、不倫などと言うろくでもない
◇ 髙野辺が営業フロアに足を踏み入れる前。 廊下を歩く髙野辺の隣を一緒に進む蒔田が、書類に目を通しながら話しかける。 「社長。……本当に説明をされるつもりですか?」 蒔田の言葉に、隣にいた髙野辺は彼をちらりと横目で見やった後、頷いた。 「──ああ。他の社員にはあの報告で十分だが、営業フロアは混乱しているだろう。隠す事なく、直接説明した方が良い。……他の社員に疑いの目が行く事も防がないとな」 「……なるほど、おっしゃる通りですね」 髙野辺は、同期入社した神咲が恐らく疑いの目で見られる事になる、と予想していた。 同時期に入社しただけ。 彼にとっては完全なとばっちりだ。 だが、営業社員の彼らが今回の新商品発売のために苦労した事は髙野辺も知っている。 自分達の努力が、無駄になってしまったのだ。 犯人は既に解雇され社内にはいない。 そうなると、自分達の行き場の無い怒りや憤りは、その場の1番立場の弱い者に行きやすいのだ。 「今回の件は、単独犯だ。その同期も恐ろしく愚かで、救いようの無いものだった。その人物は既に会社を去っている事をフロアでしっかりと説明する」 前を見据え、はっきりと口にする髙野辺に、蒔田は「かしこまりました」と答えた。 ◇ 髙野辺が営業フロアで、社員達への説明をしている同時刻。 出社後、デザイン室に直行したもみじは、自分の仕事に取り掛かっていた。 パソコンの前に座り、デザインに集中していたが、普段よりも集中力が続かなく、椅子にぐっと背を預けて伸びをした。 「──どうしよう、集中が続かない」 集中が続かない理由は、もみじにも分かっていた。 昨日から、胡桃の事をぐるぐる考えてしまっているのだ。 それのせいで、中々気持ちを切り替える事が出来ず、もみじはデザインに苦戦していた。 「こんなんじゃ駄目なのに。切り替えなきゃ……髙野辺さんは、私を信じてくれて、この仕事を任せてくれたんだから……」 ぺちり、と頬を叩いて気合いを入れ直すもみじ。 だが、どうしても目の前のデザインに集中し切れず、もみじは椅子から立ち上がった。 「……ちょっと甘い物を買いに行かせてもらおうかな」 髙野辺から、会社では自由に過ごしてもらって構わないと言ってもらっている。 「1階にあるカフェに、飲み物を買いに行ってこよう……」 スマホだけを持
──マジかよ。 ──徳居さんが? ──でも、そう言う事だろ?彼女のデスク、綺麗さっぱり無くなってるじゃないか。 ひそひそ、ざわざわ。 営業フロアは、朝から騒がしく落ち着かない。 それもそのはず。 会社から正式に昨日の件が説明されたのだ。 社員に一斉メールで送られたそれ。 犯人の社員は明確に誰とは書かれていなかったが、その人物と同じ部署にいる人間には、誰が犯人か察せてしまった。 徳居が犯人だったのだ──。 それで、噂話が終われば良いのだが、そうはいかなかった。 徳居と同期で、中途採用された神咲にも、その視線は集まっていた。 神咲は頭を抱え、どうして俺が、と何度も呟いた。 (何で徳居さんはあんな馬鹿な事を……!社員のログインに関して、この会社はシステムで徹底管理している……社内システムの磐石さは、入社時に説明されていたのに……!) どうして徳居がこんな真似をしたのか、神咲にはいくら考えても分からなかった。 自分と同じようにTK株式会社で働くことを誇りに思っていたのではないか。 (国内随一のデザイン会社だぞ!?だが、もしかして徳居さんは最初からこれを狙っていたのか?他社に雇われた、産業スパイ?) 他社に雇われた人間だったのだったら、納得がいく。 最初からこの会社への思い入れも、熱量もなかったのではないか。 (せっかく、同期入社したのに……) 神咲が頭を抱えていると、彼の近くにこのフロアの営業社員が数人やってきた。 「神咲、お前……徳居さんの同期だろ?」 「何か知ってたのか?」 「徳居さん、うちの会社の情報を盗むために他社に雇われたんじゃあ……」 神咲と同じ事を考える人物もいるようだ。 そんな事を聞かれても、神咲には徳居の事など何一つ分からない。 そのため、顔を上げた神咲は自分の先輩である社員を見つめ、答える。 「いえ、俺も何も……」 (昨日、徳居さんは朝の時間帯に情報を盗んだんだろう……。あの表情、きっとそうだ……) だが、神咲の返事に他の社員は不服そうに顔を歪めた。 「──本当か?お前、同期だからって庇っているんじゃあ……」 「そうだよ。お前ら、1度2人で一緒に飯に行ってたじゃん。仲良さそうに見えたけど──」 「──ッ、止めてください!俺は無関係です……!」 どこか、疑うような目を向けてくる他の社員達
「こ、こもも……っ、私っ、私どうしたらっ!」 パニックに陥っている徳居の声に、胡桃は訝しげに声を潜めた。 〈何よ……?何があったのかちゃんと説明してよ〉 「わっ、わたっ、クビにっ」 〈──はあ?クビ……?〉 徳居が口にした「クビ」と言う言葉に、電話向こうにいる胡桃の雰囲気が変わった。 徳居が言葉につっかえながら時間をかけて説明すると、胡桃は電話の向こう側で暫く沈黙した。 「こもも……?こもも……」 私はどうしたらいいの。 そう続ける徳居に、胡桃は舌打ちをしたくなるのを耐え、答えた。 〈……分かったわ。詳しい話は後日。謹慎を命じられているんでしょう?余計な事はしないで、家に閉じこもっててよ〉 胡桃はそれだけを言うと、徳居がまだ何かを言っているにも関わらず、通話を切ってしまった。 徳居は、自分の部屋で胡桃に何度も電話をかけ直したが、今度は繋がる事は無かった──。 ◇ そして、迎えた翌日。 徳居が朝起きると、自分のスマホにTK株式会社の人事部から連絡が入っていた。 届いたメールを確認すると、一通の添付がある。 それを見た瞬間、徳居は小さく声を漏らし、視界を滲ませた。 「──あ、あぁ……っ、本当に……?私、本当に聖さんの会社をクビに……?」 徳居のスマホに届いていた添付書類。 それは、解雇理由証明書だった。 処分内容が記載されたそれらに目を通す事なく、徳居はスマホをソファーに投げつけた。 「苦労してっ、苦労してTKに入ったのに……っ、聖さんの傍で働くために苦労したのにっ、それなのに……っ!私の邪魔をしたのはあの女なのにっ!どうして私だけがこんな目に遭うの!?」 徳居は、わっと大声で泣き喚く。 「あの女の毒牙から、聖さんを守りたかっただけなのにっ!ただ、それだけなのにっ!」 顔を覆って泣いていた徳居は、ふ、と伏せていた顔を上げた。 「──そう、そうよ……。あの女さえいなければ……!あの女に、聖さんは毒されているから、騙されているから……っ!」 徳居は投げたスマホを引っつかむと、急いで出かける支度をする。 普段使っていた通勤用の鞄を手に持ち、中にあるICカードを確認する。 「……このままじゃダメよ、戦わなきゃっ!」 徳居は正気を失ったような目で呟くと、よたよたと玄関に向かって歩いて行った。 ◇ 一方、TK株式会
もみじが、徳居を訴えるとは思わなかったのだろう。 もみじは優しい人間だ。 自分に被害がなければ、今までのもみじだったらそのまま不問にしていただろう。 だが、徳居の背後には胡桃がいる。 それに、胡桃の言いなりになって徳居はもみじを陥れようとした。 今回、デザイナーであるもみじはそもそもアクセス権限を持っていない。 だからもみじが無実だ、という事はすぐに判明した。 だが、もしもみじにも権限があったら? もみじは自分の名前を勝手に使われて、犯人にされる可能性があったのだ。 人から疑われて、調査対象になっていたかもしれない。 会社の損害を、もみじが払わなければいけないという事になったかもしれない。 今回はたまたま運が良かっただけで、この先も似たような事がまた起きるかもしれない。 だが、今回しっかり罪を追求して、徳居に指示をしたのが胡桃だと分かれば。 胡桃がきちんと罰せられれば。 同じことを繰り返さないかもしれない。 もみじは、そう考えたのだ。 だが、もともと心根が優しいもみじだ。 相手が悪い事をしたとはいえ、もみじは精神的にも相当辛いだろう。 (そんなもみじさんを、俺がしっかり支えないと……) 髙野辺は心の中で強く誓い、もみじに顔を向けた。 「もみじさんが、徳居さんの背後にいる妹まで追求したい事は分かりました。……まず、社内に今回の件は、徳居元社員による蛮行だったと発表します。……そして、もみじさんは、自身の名誉を傷つけられた事で、彼女を名誉毀損で訴えましょう」 「名誉毀損……」 「ええ、そうです。もみじさんはただの一般社員じゃありません。れっきとした、我が社のデザイナーだ。……それに、コンテストの受賞者でもある。あなたの名前を騙る事は、その信用や信頼を失墜させる大変酷い行為です」 髙野辺の説明に、もみじはこくりと頷く。 「徳居元社員に対して、民事訴訟を起こす──……それを、我が社でも発表します。そうすれば、きっとすぐに徳居さんに指示をした妹──嶋久志 胡桃の耳にも入るでしょう。徹底的にやりましょう、もみじさん」 髙野辺の強い視線を受け、もみじは深く頷いた。 頑張りましょう、と手を差し出してくれる髙野辺の手を、もみじはぎゅっと強く握った──。 ◇ 「出て、出てよ……!私、これからどうしたらいいの……っ」 徳居は、







