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第 9 話

Penulis: 藍葉
その瞬間、小学校で読んだ『首飾り』という作品が頭をよぎった。

「社長、これは高価すぎます。もし壊したら弁償できません……」

お年玉を無理やり渡そうとする親戚と、それを必死で断る子どものような勢いで手を振る。

「故意に壊したのでなければ弁償はいらない」彼は呆れたように彼女を見た。「俺のパートナーがそんな地味な格好でいたら、俺の立場がないだろう」

綾香は一瞬言葉に詰まった。

確かに自分は裕福ではない。

今季のオートクチュールドレスなんて買えるはずもなく、このドレスだって去年、元社長に付き添ってパーティーへ出るために思い切って買ったものだ。

百六十万円以上したのに、一度しか着ていない。

「じゃあ……接待が終わったら返します」彼の面子に関わる話なので、これ以上断れなかった。

健司は再び身を寄せ、彼女の首にネックレスをつける。

温かな吐息が首筋をかすめ、指先が何気なく肌に触れるたび、綾香の身体がわずかに震えた。

ほんのり赤くなった耳を見つめながら、健司がふいに口を開く。「綾香、もしかして今でも俺のことが忘れられないのか?」

「あんな冷たい元夫なんて、忘れられなくなる理由がありますか?」綾香は横目で彼を見た。

けれど彼にはわからない。彼女がお見合いを十七回もしたのに、誰ひとり好きになれなかったことを。

彼が残した影響は、それほど大きかったのだ。

「その言い方、感情が入ってるよな。まだ俺に未練があるのがバレバレだ」健司はどうすれば彼女を苛立たせられるか、よく分かっていた。

「社長、自意識過剰ですよ。立派な元夫ってどういうものか知ってます?」

死んだ人間のように存在感を消すことだ。

「今の社長なら、言い寄ってくる女性なんていくらでもいるんじゃないですか?」綾香は冷ややかに笑いながら、人を惑わせるほど整ったその顔を見つめた。

「番号札でも取る?優先的に案内してあげるよ」

綾香は睨みつけた。「上司と寝る趣味はありません。身近な相手には手を出さない主義なので」

健司はさらに聞いた。「じゃあ、そういう欲求が出たらどうするんだ?手で済ませる?」

綾香「?」

今の二人の関係で、そんな話をするのが適切なのだろうか。

綾香は奥歯を噛みしめながら答えた。「その場限りの相手を探します。体力があって、サービスもいい人を」

「秘書のくせに、なかなか派手だな」健司は彼女のぷるんとした赤い唇を見つめた。

そういえば、もう長いことその味を確かめていない。

「それでも社長には負けますよ。三日三晩も姿を消して、ずいぶん派手に遊んでましたもんね」綾香は淡々と言った。

ほう、昔の話を持ち出すのか。

健司は面白そうに目を細めた。「元夫だけど、一度遊んでみるか?」

綾香「……」

その瞬間、健司の大きな手が伸びてきて、彼女のうなじを掴んだ。

強引に引き寄せられ、そのまま唇を塞がれる。

「んっ……」

突然のキスに、綾香は頭が真っ白になった。胸を押して離れようとしたが、彼のもう片方の手で簡単に押さえ込まれる。

健司は強引に唇を割り込み、容赦なく彼女を求めた。

「くろ……んっ……」

彼は彼女の呼吸まで奪うように唇を重ね続けた。

胸元には大きな手が添えられ、その重みがじわりと伝わってくる。

何気ない仕草に見えながら、その指先は彼女の柔らかさを確かめるように動いていた。

もう四年ぶりだな……

運転手の田中大輔(たなか だいすけ)は、即座に仕切り板を上げた。

今この瞬間だけは、自分が耳も聞こえず目も見えない人間になりたいと思った。

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