로그인内奥深くを小刻みに突き上げながら、ふいに賢吾がそんなことを言う。和彦は賢吾の逞しい腰に両足を絡ませながら、頭上の枕を握り締めて嬌声を堪える。大きく呼吸を繰り返してやっと、言葉を紡ぐことができた。
「どういう、意味だ……」「心底嫌いな男に感じさせられて、悔しい反面、ひどく興奮しているんじゃないのか。脅されて言うことを聞かされたはずなのに、体はしっかり、その嫌な男から与えられた快感で悦ぶ。淫奔な体と、下手なヤクザより肝が据わって、したたかな性質を持った先生らしい色気だ」 賢吾には当然、レストルームの個室で鷹津に何をされたのかすら、報告してある。正確には、組み敷かれながら報告させられたのだ。 和彦と鷹津の間にセクシャルな行為が行われることを、賢吾は楽しんでいるようだった。それだけでなく、興奮もしている。 大蛇が熱い。賢吾の汗で濡れた背を何度もてのひらで撫でながら、和彦は心の中で呟く。賢吾の興奮が移ったのか、鷹津との口づけを思い出し、和彦の体に強烈な疼きが駆け抜けていた。 そんな和彦を見下龍造がきっぱりと言い切り、低く声を洩らして笑った。人によっては不快と感じる笑いかもしれないが、和彦は、奇妙な既視感に襲われる。何かと思えば、和彦にとっては馴染み深い、〈オンナ〉と関係を持つ男特有の、悪意のない傲慢さを、龍造からも感じ取ったのだ。 龍造の理屈に危うく流されそうになり、寸前のところで弱々しく抗弁する。「それは……、伊勢崎さんの話で、玲くんの場合とは違うはずです」「違わない。俺たちの理屈ではな。玲についても、あいつは事情を知ったうえで、自分の意思で〈オンナ〉に手を出した。悪いオヤジである俺は、そのことを利用しようとしている。現に、あんたが断れないことをわかっていて、こうして呼び出した。一度繋がった縁を断ち切らないようにな。だから佐伯先生、あんたは罪悪感なんてものを感じる必要はない。性質の悪い父子と縁を持っちまったと、むしろ舌打ちしてもいいぐらいだ」 どう返事をするべきかと、戸惑いながら御堂を見ようとして、すかさず龍造に言われた。「言っておくが、見かけによらず、秋慈も食えない奴だぞ。俺の気質を十分知ったうえで、それでもあんたを誘ったんだ。こいつも、あんたを利用する気満々ってことだ」 龍造の言葉を肯定するように、御堂の横顔に一切の表情はなかった。和彦なりに、御堂のしたたかさは知っているつもりで、自分と同類というのもおこがましい。御堂は、極道として生きている男なのだ。 ふっと息を吐き出した和彦は、ようやく表情を和らげる。「はい、罪悪感は捨てました。理由もわからないまま優しくされるより、利用したいと言われたほうが、すっきりします。……警戒もできますし。ぼくの警戒なんてあてにならないと、賢吾さ……、長嶺組長は、渋い顔をするかもしれませんが」「一度、会って話してみたいもんだなあ。長嶺組長に。昔、遠目に見かけたことがあるんだが、そのときは、傍らに怖いオヤジがいて、近づくこともできなかった」「そんなことを言いながら、もうあれこれと算段をしているんでしょう、あなたは。わたしと佐伯くんは巻き込まないでくださいね」 御堂の言葉に龍造が唇を歪めるようにして笑い
和彦は慌てて肉を掬い上げる。さきほどから龍造が、こちらのペースを一切無視して、次々に鍋に肉を入れてしまうため、いくら食べても追いつかない。すかさず御堂が龍造を窘めた。「しゃぶしゃぶなんですから、佐伯くんのペースで食べさせてあげてください。しかも肉ばかり……。人のことはいいから、自分が食べることに集中したらどうです」「……すっかり、佐伯先生の保護者だな。秋慈」「彼に何かあったら、面倒なことになるのは、あなたですよ」 大仰に肩を竦めた龍造が、すかさずまた猪口の酒を呷る。「玲の奴が、こんな〈大物〉と知り合うのは予想外だった。せいぜいお前の伝手で、長嶺組の幹部でも紹介してもらえたらラッキーだと思っていたんだがなあ」「結果としては上出来だったでしょう。北辰会の〈大物〉幹部のあなたとしては」 龍造が苦々しげに唇を歪めた理由は、やはり、御堂の言葉を皮肉として受け止めたからだろう。 この二人の会話は傍らで聞いていて心臓に悪いと、密かに和彦は嘆息する。だからといって玲の話題が出て知らない顔もできず、おずおずと会話に割って入った。「……玲くんは、元気にしていますか?」 この問いかけに対して、龍造は満面の笑みを見せた。「おう、元気も元気。秋の連休にこっちに来てから、高校を卒業した後の自分の生活が具体的に見えてきたんだろうな。受験勉強も、必死にやっているようだ。それに、部活を引退してから走るのもやめていたくせに、気分転換になるといって、夜、一人でまた走り始めた」「そう、ですか……」「身が燃えて仕方ないんだろう」 さりげない言葉とともに、男の色気を含んだ眼差しを龍造から向けられる。瞬く間に和彦の頬は熱くなった。動揺のため微かに震える手で、なんとかグラスを取り上げると、冷たいお茶を喉に流し込んだ。「俺の前ではなんとか取り繕っている……つもりなんだろうが、やっぱりまだガキだ。のぼせ上がったまま突っ走っているという感じだなあ」「……すみ
さっそく出た玲の名に、和彦の心臓の鼓動は大きく跳ねる。意識するまいと思っても、顔が強張りそうになる。ゆっくりと息を吐き出して気を静めながら、さりげなく龍造の様子をうかがう。 初めて会ったときにも思ったが、やはり龍造はオシャレだった。ジャケットは脱いでいるものの、ライトブルーのスリーピースで、今晩の集まりが気取らないものであるという表れかノーネクタイだ。やはり髪は後ろで一つに束ねられ、寒い季節だというのに艶々とした肌は日焼けしている。 朗らかさを感じさせながらも、老獪なワンマン経営者を思わせる風体なのは、本人も計算してのことなのかもしれない。両目に宿る鋭さと力強さは、堅気が持つにしては物騒すぎる。それを誤魔化すための外見のアクの強さだと考えれば、しっくりくるのだ。 掘りゴタツとなっているテーブルに御堂と並んで腰掛けると、正面の席に座った龍造が上機嫌といった面持ちで、しかし油断ならない無遠慮な視線を向けてくる。「けっこうな贅沢だ。特別なオンナを目の前に二人も並べて、メシが食えるなんて」 ドキリとするような龍造の発言に対して、表情を変えることなく御堂が応じる。「わたしは、〈もう〉違いますよ。何より、デリカシーに欠ける発言はやめてくださいね。笑って受け流せるわたしと違って、佐伯くんはそうではないので。今晩は楽しく食事をするのが目的でしょう?」「……すっかり怖くなったねー、お前は」「そうですよ。あなたが知っている頃のわたしとは、違うんです」「そうだったかな――」 意味ありげな視線を龍造が投げかけ、御堂は無表情で受け止める。そんな二人を控えめに眺めながら、和彦はもうすでに居心地の悪い思いを味わっていた。 龍造と御堂が体を重ねている光景を目にしたのは、遠い過去のことではない。そのとき和彦の隣にいたのは、よりによって龍造の息子である玲だった。おそらく、伊勢崎父子は〈オンナ〉という存在に魅入られている。いや、執着していると言ってもいいかもしれない。玲は、龍造に影響を受けたのだ。 親しげではあるが、腹の探り合いのようなものも透けて見える二人のやり取りに、どんな顔をすればいいのだろうと和彦が困惑していると、仲居
『俺は、独占欲と執着心は強いが、だからこそお前に対して寛容でありたいと思っている。〈浮気〉を大目に見たのも、そのためだ。鷹津の件で塞ぎ込んでいたお前が、たまたま目の前に現れた高校生のおかげで気が晴れた。それだけの話だ。それ以外の面倒臭い話は、俺や秋慈に任せておけばいい』「……そう言われると、ぼくはどうしようもない人間だと思えてくる。別に、立派な人間だったつもりはないけど」『いいじゃねーか。どうしようもない人間で。三世代の男たちのオンナでありながら、極道どもの面倒を見て、有り余る愛情を気に入った男たちに分け与えて、クリニックの切り盛りをして。ひれ伏したくなるほど、どうしようもない人間だ』 話しながら興が乗ってきたのか、賢吾がくっくと笑い声を洩らしている。ひどい言われようだが、すっかり毒気を抜かれた和彦も、唇の端にちらりと笑みを浮かべる。 そんな、どうしようもない人間をオンナにして、大事にしているのだから、賢吾もまた、どうしようもない人間なのだ。そう思ったら笑うしかなかった。『まあ、しっかり美味いものを食わせてもらってこい』 賢吾に背を押されたことにいくらか安堵して、吐息交じりに和彦は応じた。**** 伊勢崎龍造との食事会は、火曜日の夜に設けられた。 クリニックを閉めた和彦は、いつものように長嶺組の迎えの車に乗り込み、途中で、御堂が乗る第一遊撃隊の車と合流する。 あくまで建前は、個人的な食事会に招待されたというもので、長嶺組も第一遊撃隊も護衛はいつも通り――と和彦は聞かされていた。 店の駐車場に降り立ち、風の冷たさに首を竦める。午後に入ってから曇り空が広がり、急激に冷え込んできた。「――こんなに寒くなるなら、伊勢崎さんの誘いに乗るんじゃなかったよ」 隣に停めた車から降りた御堂が、秀麗な顔にうんざりとした表情を浮かべてこぼす。黒のスーツを身につけているせいか、印象的な灰色がかった髪が引き立ち、御堂の存在をより特別なものに見せている。 対する和彦は、仕事を終えたばかりで着替える時間もなかったため、ありふれたシャツにパンツ
賢吾の言葉に歓喜したわけではない。しかし和彦の体が示した反応は、そう取られてもおかしくはないものだった。淫らに蠕動する内奥が、高ぶる一方の逞しい欲望をきつく締め付けながら、粘膜と襞をまとわりつかせる。 腕を掴まれ引っ張られた和彦は上体を起こし、背後から逞しい両腕に抱き締められる。両足の間に片手が差し込まれ、濡れた欲望を手荒く掴まれて扱かれていた。「あっ、もう、無理だ――……」 内奥を突かれ、執拗な愛撫を与えられているうちに、泣きそうになりながら和彦は小さく喘ぎ声をこぼす。 和彦の欲望が何度目かの高ぶりを示し始めたと知り、賢吾が吐息とともに呟いた。「ああ……、最高だ、和彦」** すぐ耳元で携帯電話が鳴っていた。 まるで深い水の底から引き上げられるように、意識が覚醒していくのを感じながら、和彦は枕の下をまさぐる。 電話に出ると同時に目を開けると、カーテンの隙間からわずかに光が差し込んでいる。まだ日は落ちていないようだった。『よく寝られたか?』 起きてすぐに聞くには刺激的ともいえるバリトンに、一瞬眩暈に襲われた。和彦は声を発しようとして、軽く咳き込む。寝る前に加湿器を入れておくのを忘れていた。『もしかして風邪を引いたのか――』「違う、部屋が少し乾燥しているだけだ。……それより、筋肉痛がひどくなった気がする」 非難がましくぼそりと呟くと、電話の向こうから微かに笑い声が聞こえてくる。どうやら賢吾の機嫌のよさはまだ持続しているようだ。『起こして悪かったが、また寝る前に、ダイニングに行ってメシを食え。笠野に言って、準備させておいた。俺が搾り取った分、またしっかりと精をつけてもらわないといけないからな』 起き抜けに自分は何を聞かされているのだろうと、和彦は絶句する。『……和彦?』「呆れてるんだ。あんた、組長だろ。威厳とか、そういうものを大事にしないと。いい歳なんだし」『お前にだけだ。俺がこういうことを言えるのは』
「少し動かすぞ」「い、やだ……。まだ、痛い――」 和彦の拒絶は案の定無視され、綿棒をわずかずつだが出し入れされる。和彦は立て続けに切迫した声を上げ、腰をもじつかせる。そんな和彦の様子から感じるものがあったのか、ふいに賢吾が、小さな口から再び綿棒を引き抜いた。その瞬間、和彦自身も異変に気づき、上擦った声を上げる。 賢吾の見ている前で、わずかに漏らしていた。 これまでのつき合いで、賢吾の厄介な#癖__へき__#は薄々とながら気づいていた。全身を戦慄かせながら和彦が賢吾の様子をうかがうと、口元に薄い笑みを浮かべて、食い入るように濡れた下腹部を見つめていた。「――また、いいか?」 静かな歓喜を滲ませた声で問われ、和彦は顔を背ける。たった一つの返事しか求めていないのは、いつものことだ。 息を吐き出すと同時に、綿棒を押し込まれて苦痛の声を洩らす。無理な行為に及んでいるという自覚はあるのか、賢吾は時間をかけて小さな口を犯しながら、和彦の体の強張りを解こうとするかのように、ささやかな愛撫を加えてくる。 小刻みに震える内腿にてのひらを這わせ、膝に唇を押し当て、ときには柔らかな膨らみを優しく指で揉みしだき、思い出したように綿棒を繊細に蠢かし――。 痛みと異物感に、否応なく和彦は順応させられていく。そうしないと、いつまで経っても苦痛から逃れられず、和彦の反応の変化を待ち望み、一心に見つめてくる賢吾に応えられないのだ。「ふっ……、んんっ、はあっ、はあっ、はっ……ん」 我ながら度し難いと、和彦は震えを帯びた吐息をこぼす。こんなひどいことをしてくる男を喜ばせたいと思うなんて、と。 和彦が欲情に濡れた眼差しを向けると、賢吾はスッと目を細めた。「やっぱりな。俺の与える痛みに、もう馴染み始めてるだろ。性質が悪いが、だからこそ――大事で可愛い、俺のオンナだ」 囁かれた言葉に、全身に快美さが駆け抜ける。綿棒が一層深く押し込まれたが、口を突いて出たのは苦痛の声ではなく、尾を引く甘い呻き声だった。 もっと聞かせろと言わんばかりに綿棒が出し入れ
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する