Home / BL / 血と束縛と / 第4話(4)

Share

第4話(4)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-11-02 20:00:17

 夜からコーディネーターと打ち合わせをして、ファミレスで適当に食事を取ってから部屋に戻ってきたとき、和彦はもう、何もする気力が残っていなかった。ただ、汗をかいた不快さが我慢できず、三田村に頼んでバスタブに湯を溜めてもらう。

 こんな生活に入る前までなら、何があっても自分一人ですべてこなさなければならなかったのだから、そういう意味では、ずいぶん優雅になったものだ。

 ソファに転がって、夜のニュース番組を眺める。世間で起きていることに、すっかり興味が持てなくなっているが、それでもテレビをつけるのは習慣だ。

「――先生、湯が溜まった」

 三田村に声をかけられ、体を起こす。よほど億劫そうに見えたのか、三田村は無表情のまま、それでいて声には気遣いを滲ませながら言った。

「今夜はゆっくり休めばいい。明日は予定が何も入ってないから」

「本当に、予定通りになればいいけどな。犬っころが、目を輝かせて転がり込んできそうな気がする」

 三田村にもその可能性が否定
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 血と束縛と   第38話(3)

    ** 店を出ると、予想以上に冷たい夜風に頬を撫でられて和彦は首をすくめる。  隣に立った御堂はコートを羽織ることなく腕にかけると、灰色がかった髪を掻き上げながら辺りを見回した。すると物陰から、男たちがスッと姿を現す。和彦と御堂にそれぞれついている、護衛の男たちだ。  ここで二人は別れることになるため、和彦は御堂に礼を言って頭を下げた。食事をご馳走になったのだ。 「君と秘密の話ができるなら、安いものだよ。悪かったね。明日も仕事があるのに、遅くまで引き止めてしまって」 「とんでもない。こちらこそ、御堂さんとゆっくり話ができて楽しかったです」  もう一度頭を下げて、護衛のもとに向かおうとした和彦だが、御堂に呼び止められて振り返る。 「――近いうちにまた誘ってもいいかな?」 「えっ……、ええ、それはもちろん」 「実は数日前に伊勢崎さんから連絡があって、近いうちにまたこっちに来るようなんだ。そのとき、ぜひ佐伯くんも食事を誘いたいと言われた」  伊勢崎、と聞いてドキリとする。この瞬間、和彦の脳裏に鮮やかに蘇ったのは、伊勢崎玲の若く凛々しい顔だ。もちろん、御堂が指しているのは、玲の父親である龍造のほうだ。  うろたえる和彦に対して、御堂はこう続けた。 「息子が世話になった礼をしたいと、伝言を言付かった」  居たたまれない気持ちとは、まさに今の和彦の心境を指すのだろう。おそらく龍造は、『世話』という言葉に特別な意味を込めているはずだ。  よほど罪悪感に満ちた顔をしたのか、御堂は安心させるように和彦の肩に手を置き、小声で言った。 「心配しなくていい。玲くんのことで抗議したいとか、そういうつもりではないだろう。むしろ――君に感謝しているはずだ」 「感謝、ですか?」 「伊勢崎龍造は……というより伊勢崎組は、長嶺組と接触する機会を持ちたがっていた。君はきっかけとしては最適だ。そんな君に無体を働いたら、伊勢崎組はこちらでは身動きが取れなくなる。賢吾の執念深さについては、わたしがたっぷり語って聞かせているからね。だから今後のことを考えて、君とまず友好的な関係を築きたいんだろう」  伊勢崎組

  • 血と束縛と   第38話(2)

     ここで、料理が冷めてしまうことが気になり、和彦は焼き魚に箸を伸ばす。一方の御堂は、焼き物にステーキを選んだ。なんとなく意外な気がしたが、御堂は苦い顔をして、体力をつけるために肉を食べろと周囲の人間たちから忠告されているのだと教えてくれた。 それを聞いた和彦は、他人事とは思えなくて破顔してしまった。「大事にされてますね」「お互いにね。――さっきの君の質問の答えにも繋がるけど、君は本当に、総和会から大事にされているよ。だからこそ一部の人間は、わたしが目障りで仕方ないだろう」 和彦の頭に浮かんだのは、二人の男の顔だ。あえて名を出すまでもなく、御堂とは認識を共有しているはずだ。「総和会は、君の機嫌をなるべくなら損ねたくないんだ。だからこうして、わたしが君と会うのも大目に見られている」 だからといって、批判がないわけではないだろう。自分の知らないところで駆け引きが行われているのかもしれないと推測し、和彦は改めて、総和会という組織の得体の知れなさに思いを巡らす。 そんな組織のトップに君臨しているのが、長嶺守光という男なのだ。そして、自分の父親は――。 不穏な触手がまたじわりと広がったようだった。和彦は、世間話を装って切り出す。「御堂さんは、賢吾さんとつき合いが長いのでしたら、長嶺組の本宅に出入りされていたこともあるんですか?」「まあ、数回といったところかな。お互い、友達の家に遊びに行くという年齢でもなかったし。一応わたしは組の関係者だったから、まだ堅気の人間のほうが、気軽に出入りできていたかもしれないな」 御堂の言葉に、微かに肩が揺れる。「……その頃は長嶺組の組長は、今の総和会会長だったんですよね……」「ピリピリしていたよ。勢力争いが活発な頃だったからね。長嶺組が、というわけじゃなく、極道の世界全体が。本来こういう表現をしちゃいけないんだろうが、だからこそ、活気があった。影響力もあったから、忌避されながらも、反面、その影響力は頼りにもされていた。今はなんでもやりにくいよ。慎重に、警察の目をかいくぐることに神経を注いでいる」 一見してヤクザとは程遠い優

  • 血と束縛と   第38話(1)

     一度気づいた可能性は、和彦の中で不穏な触手を伸ばしていた。 自分の父親が、現在、自分をオンナにしている男と、かつて肉体関係にあったなど考えたくはない。しかし、頭から振り払えないのだ。 おぞましいと身震いをした次の瞬間、では自分の現状はなんだと自問し、ここで和彦の思考は停止する。そこでまた、俊哉と守光の関係について、一人では答えの出せない思索に耽る。その繰り返しだ。 若い頃の俊哉が、かつて面倒事を守光に処理してもらったことは、守光自身の口から教えられた。そのとき和彦は、〈縁〉による二つの家――というより、二人の男の意外な繋がりにただ驚いたのだが、今となっては、守光は何か含みを持たせていたのではないかと疑わずにはいられない。 それともただの考えすぎなのだろうかと、一縷の望みにすがるように思ったりもする。 俊哉が若かったということは、当然守光も若く、今のように刺青を隠したりはしていなかったのかもしれない。千尋が知らないだけで、当時は他人に気安く肌を見せていた可能性だってある。だが、エリート官僚である俊哉が目にする可能性は、どれぐらいになるのか。 和彦は胸苦しさを覚え、ふっと息を吐き出す。自分は父親を信じたいのか、それとも貶めたいのか、それすら判断できないということは、まだ頭も気持ちも混乱しているのだ。 わかりきったことを自分の中で確認した和彦は、何げなく視線を上げてドキリとする。御堂が真剣な顔をしてこちらを見ていた。目が合うなり、すかさず指摘される。「――今晩は、心ここにあらずといった感じだね」 動揺した和彦は反射的に視線をさまよわせたあと、すみませんと小声で謝罪する。「何か気になることがあるみたいだ」「いえ、そんな……」 一緒にいるのが御堂だからと、安心感からつい気を抜いていたらしい。和彦は座椅子に座り直すと、グラスを取り上げる。ワインを勧められたが、今日は冷茶にしてもらった。 目の前にはすでに料理が並び、最近肌で感じている秋の訪れを、使われている食材でも知ることができる。お茶を一口飲んでグラスを置いた和彦は、飾りとして添えられている紅葉を指先でつついた。 今日、いつも

  • 血と束縛と   第37話(31)

     本当に元気だなと思いながら和彦は、いつもの癖で千尋の頭を手荒く撫でる。「ぼくはまだ動けないから、お前だけ先にシャワーを浴びてこい……」「二人でゆっくり入ろうよ。俺が全部やってあげるから」「……それはちょっと、魅力的な提案だな」「じゃあ、すぐにお湯溜めてくるっ」 締まりのない笑顔を見せた千尋がベッドを飛び出して行こうとしたので、慌てて腕を掴んで引き止める。「下着ぐらい穿いていけっ」「えー、どうせすぐ脱ぐじゃん……」 ぶつぶつ言いながらも、ベッドの端に腰掛けた千尋が、床に落ちた下着を拾い上げようとする。わずかに上体を起こして、まだ目に新鮮に映る刺青に見入っていた和彦だが、あることが気になり、何げなく尋ねた。「なあ、刺青を入れたら、組か長嶺の家で、祝い事みたいなことはするのか?」 下着を掴んだまま、不思議そうな顔で千尋が振り返る。「祝ってもらえるのかな?」「……ぼくに聞くなよ。いや、お前の家は行事ごとはいろいろしっかりやっているから、これはどうなのかと気になっただけだ」「うーん、大っぴらにはしないよね。組員同士ならさ、気安く話すかもしれないし、体を見せることもあるだろうけど。俺が知る限り、じいちゃんとオヤジが背中にあるものを披露したなんて話は聞いたことないかなー。そもそも、ごく限られた組員か、特別な相手以外は知らないと思うよ。俺たちの体にどんな刺青が入っているかなんて。それどころか、入っていること自体、どれぐらいの人間が知ってるか。俺も、特別な人にしか見せるつもりないし」 ここで千尋が意味ありげにニヤニヤと笑う。「じいちゃんとオヤジの刺青って、それぞれの気質がよく出てるだろ? 日ごろ長嶺の男たちを、食えない古狐だとか、蛇みたいに陰湿な野郎だなんて、陰口叩いている奴らは、まさかそのまんまのものが、背中に堂々と彫ってあるなんて、思いもしないだろうね」「――……よくまあ、そんな命知らずなことを楽しそうに口にできるな、お前」 苦笑を洩

  • 血と束縛と   第37話(30)

     胸元を撫でられ、触れられないまま硬く凝った突起を探り当てられる。指の腹で軽く擦られただけで、うつ伏せの体を波打たせるほど感じてしまう。千尋が嬉しそうに言った。「あとでいっぱい舐めて、吸って、噛んであげる。今はこれで我慢してね、先生」 胸の突起を指で挟まれ、抓るように刺激される。痛みはあるが、手荒い愛撫の心地よさが勝っていた。和彦が喉を鳴らして反応すると、もう片方の突起も同じ愛撫を施される。 内奥で千尋の欲望が蠢く。いや、蠢いているのは和彦の内奥のほうだ。さきほどから淫らな蠕動を繰り返し、若い欲望を貪り続けている。 そんな和彦を攻め立てながら、思い出したように千尋が切り出した。「――先生、俺のために刺青入れてよ」 和彦は、突然耳に飛び込んできた情熱的な――ある意味物騒とも言える言葉に、完全に虚をつかれた。「えっ……」「小さくていいし、ずっと先でもいいから。俺だけは特別って意味で、何か肌に彫ってほしい」「……刺青は、絶対入れない」「俺の頼みでも?」 背骨のラインに沿って指先が這わされ、ゾクリと体が疼く。千尋の口調は、甘ったれの青年のものではなく、己が持つ力を自覚した筋者のそれだった。「だったら、ぼくの頼みは無視するつもりか? 賢吾――お前の父親にも同じことを言われたけど、ぼくは承諾しなかった。……ここでお前の頼みに頷いたら、あとできっと同じことを、嫌でもお前の父親に約束させられる」「それは困る、かも……」 千尋にしっかりと腰を抱き寄せられて、内奥深くを強く突かれる。間欠的に声を上げながら和彦は、腰に回された千尋の腕に爪を立てた。内奥で、千尋の欲望はこれ以上なく大きく膨らんでいた。「はあっ……、このまま、先生のこと抱き殺しちゃいそう。好きすぎて、堪らないっ。独占できないのが、ムカつくのに、すげー興奮するんだ」 苛立ちともどかしさをぶつけるように千尋が激しい律動を始め、和彦は体を前後に揺さぶられる。嵐に巻き込まれたと感じたのは、わずかな間だ

  • 血と束縛と   第37話(29)

     千尋に尻の肉を鷲掴まれ、和彦は声を上げる。「おいっ……」「じっとしてて。すぐに気持ちよくしてあげるから」 思いきり双丘を割り開かれ、何をされるか察して身を捩ろうとしたが、次の瞬間、ぴしゃりと尻を叩かれた。このとき和彦の全身を貫いたのは痛みではなく、強烈な疼きだった。 熱い吐息が尻に触れ、鳥肌が立ちそうになる。「千、尋っ……」 柔らかく湿った感触が、いきなり内奥の入り口で蠢き始める。和彦は激しく羞恥を刺激され、千尋にこんなことをさせているという罪悪感にも似た感情に襲われるが、同時に、抗いがたい愉悦も生み出していた。「はっ、あっ、あぁっ」 執拗に内奥の入り口を舌先を舐められ、くすぐられ、少しずつ下肢から力が抜けていく。堪らず和彦が腰を揺らすと、もう一度千尋に尻を叩かれて、笑いを含んだ声で言われた。「恥ずかしがるけど、すごく好きだよね、舐められるの。先生のここ、もう真っ赤になって、ヒクヒクしてる。快感に弱い、先生そのものだ。だから可愛いし、大好き」 舌先がわずかに内奥に押し込まれてきて、浅ましくひくつかせてしまう。そこに、一本の指がやや強引に挿入された。「んんっ」 和彦は鼻にかかった甘い呻き声を洩らす。すぐに指が引き抜かれ、代わって舌が入り込む。油断ならない千尋の手が前に這わされ、柔らかな膨らみを優しい手つきで揉まれる。父親譲りの器用な指にあっという間に弱みを探り当てられた瞬間、和彦はビクリと背をしならせていた。 指先で弄ばれ、刺激を与えられる。さんざん弱みを嬲られたあと、今度はやや乱暴な手つきで柔らかな膨らみを揉みしだかれて、和彦は立て続けに甲高い声を上げていた。 腰が溶けてしまうと思ったところに、再び内奥に指を挿入される。今度は二本の指を出し入れされながら、発情し始めたばかりの襞と粘膜を擦り上げられる。ぐるりと内奥を撫で回されたかと思うと、浅い部分をまさぐられ、指の腹で強く押し上げられたときには、痺れるような法悦に軽い眩暈に襲われる。「――先生、入れるね」 和彦が全身を戦慄かせる頃になって、千尋がひそっと囁きかけてく

  • 血と束縛と   第11話(22)

     さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第8話(33)

    ** 別れ際、玄関で秦に抱き締められてから、和彦は部屋をあとにした。 エレベーターの中で、もう二度と秦と会わないということはおそらく不可能だろうなと、ぼんやりと考える。秘密を共有してしまったということもあるが、秦との間に確かな結びつきができたことを実感していたのだ。 賢吾や千尋、三田村との間で生まれた結びつき――縁と、同種だ。肉欲と切っても切れない縁で、それはすぐに、情へと変化する。さすがに和彦も、それぐらいは学習していた。 複雑になった事態と人間関係を、自分はどうするつもりなのか、考えたくなかった。体も心も、秦から与え

    last updateLast Updated : 2026-03-24
  • 血と束縛と   第11話(20)

     外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第4話(2)

     また指で呼ばれ、和彦は賢吾のあとについていく。工事後は待合室となるホールでは、施工業者の人間が集まって持ち込む機材について話し合っている。その様子を一瞥した賢吾は、奥の部屋へと向かう。 「……護衛の人間は?」  ホールを見て、賢吾が一人でこのフロアにやってきたのは確認した。 「物騒なツラした人間を、一般の業者がいる場所に連れてくるわけにはいかないだろ。設計士は前からの馴染みだが、業者のほうはそうじゃないんだ。クリニックを始める前に、妙な噂は立てたくない」 「自分は物騒なツラじゃない、と言いたいんだな」  皮肉でもなんでもなく、思ったまま

    last updateLast Updated : 2026-03-19
More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status