LOGIN橘美咲(たちばな みさき)が命を落としたのは、新堂翔太(しんどう しょうた)と最も愛し合っていた頃。 対向車が突っ込んでくる。その瞬間、翔太は真っ先に美咲をかばう。でも、激しい衝撃で美咲の体はフロントガラスを突き破り、宙を舞う。 瀕死の美咲が目にしたのは、脚を骨折した翔太が必死に這いつくばって自分に近づき、力いっぱい抱きしめてくれる姿だった。 翔太は声にならないほど泣きじゃくり、涙と口から流れる血が美咲の頬にぽたぽた落ちてくる。「美咲、お願いだ、死なないで……お前がいなきゃ生きていけないんだ」 全身が冷たくなり、声も出ない。悔しさと未練だけが胸に残ったまま、静かに目を閉じる。 ――次に目を開けると、美咲は三年後の世界にいる。 戻って最初に向かったのは、新堂家の豪邸。翔太に会って、サプライズを仕掛けたかった。 けれど、再会の瞬間、翔太は眉をひそめる。「……お前は誰だ?どうやって入ってきたんだ?」 美咲は固まる。説明しようとしたそのとき、主寝室のバスルームからバスタオルを巻いた女性が現れる。 その女は、美咲に瓜二つの顔。美咲は息を呑む。
View More里奈が警察に送られてから二日後、橘家の両親は神谷家の別荘にやって来た。玄関から莉子が出てくると、佳子はすぐに駆け寄り、思いきり彼女を平手打ちしようとした。「美咲!よくも妹を刑務所に送ったわね!あの子はちょっと間違っただけよ。姉なら妹を助けるべきでしょ!今すぐ警察に行って、里奈を出してきなさい!」佳子は美咲にいつも強気で接してきた。神谷家のお嬢様になった今でも、その癖は抜けない。道中では「謝ろう」と思っていたのに、顔を見ると我慢できなかった。どこかで「美咲なら、まだ昔の情に流されてくれるかも」と思っていた。あれだけ自分たちに愛されるため、何年も媚びてきた娘なのだから。だが、佳子の手は空中で止められ、莉子はその手を強く突き飛ばした。誠一が妻を支え、怒鳴ろうとしたそのとき、神谷家の家族が玄関に出てきた。誠一はすぐに頭を下げ、必死にすがりつく。「莉子さん、里奈はただちょっと間違いを犯しただけなんです。あの子は翔太さんにそそのかされて、愛が憎しみに変わってしまったんです。全部あの男が悪いんです。あなたたちは長年姉妹だったじゃないですか、男のことで仲違いする必要なんてありません。どうか今回だけは、里奈を許してやってください」佳子も泣きながらすがる。「美咲、あなたも二十年以上私たちと過ごしたでしょ?母と娘の情で、どうか里奈を許してあげて……」二人は存分に芝居をしてみせた。この一ヶ月、ずっと神谷家の報復を恐れていたが、何も起きなかったので少し安心していた。もしかしたら、美咲はまだ事故の真相を知らないのかもしれない、昔の情や育ててもらった恩を忘れていないのかもしれないと思っていたあれだけ自分たちに尽くしてきた娘だっただから。できれば美咲が里奈を許してくれて、そのうえで神谷家が今後ビジネスで橘家に便宜を図ってくれれば、橘家の地位ももっと上がると。二人はそんな打算まで巡らせていた。だが、目の前の神谷家の家族は、冷たい目で二人の芝居を黙って見ているだけだった。ふと顔を上げると、五人全員の目には、冷たさと憎しみしかなかった。そのとき、パトカーのサイレンが鳴り響く。誠一と佳子は驚き、声を荒げる。「どうして警察なんて呼んだんだ!美咲、里奈を許さないなら、もう二度と会わない!警察まで巻き込むなんて!」佳子も声を震わせる。「
一週間後。東雲市の最も豪華な宴会場で、莉子は神谷家の人たちに囲まれて、華やかなドレス姿で歩いていた。彼女の足はもうすっかり回復し、以前のように何の不自由もなかった。彼女が戻ってきてからずっと準備されてきた歓迎会は、ついに幕を開けた。ステージの上で、莉子は神谷家の家族に盛大に紹介される。最前列には健太が立ち、穏やかな笑みを浮かべて莉子を見つめている。莉子がふと彼と目を合わせると、会場の空気に甘いピンク色の泡が浮かぶような錯覚すら覚える。その隅、翔太は人ごみに紛れ、切なげな目でステージ上の彼女を見つめている。一ヶ月前の、あの無力で苦しそうな姿はもうどこにもない。今の彼女は、神谷家と健太に守られて、かつて彼のそばにいたときよりもずっと幸せそうだ。翔太は、少しだけ心が軽くなった気がした。でも、どうしても悔しさが残っている。本来なら、彼女は自分のものだった。すべては自分が間違えたから、こんなことになってしまった。でも、あれほど深い思い出を重ねてきた二人なのに、彼女はどうしてこんなにもあっさりと、自分を切り捨てることができるのか――パーティー会場は祝福と歓声に満ちていた。みんなが莉子を称え、彼女を中心に回っていた。だが、光の届かない会場の隅には、ひときわ暗い目で莉子を見つめる視線があった。それは、まるで闇の中の毒蛇のようだ。莉子は神谷家の父母とともにテーブルを回って挨拶し、兄の大輔と和也も後ろについている。健太もすぐ近くにいた。天井のシャンデリアがきらめき、会場全体をやさしい光で包み込んでいた。そのとき――パンッ!突然、銃声が響いた。ガシャーン――!シャンデリアが爆発し、無数のガラスの破片が床一面に降り注ぐ。神谷家の両親は、すぐに莉子の上に覆いかぶさるようにして彼女を守った。大輔も和也も、健太もすぐさま莉子のもとに駆け寄る。会場は一気に暗くなり、あちこちで悲鳴が上がる。割れたガラスに切られて倒れる人、混乱したまま押し合い逃げ惑う人。だが、翔太だけは人の波に逆らい、莉子の方へと突き進んでいた。そのとき、空気に強いガソリンの匂いが立ち込め、会場の隅から火の手が一気に広がる。燃え広がる炎が、会場全体を真っ赤に染めていく。現場はますます混乱を極めた。大輔と和也は必死に人々を誘
美咲はすぐに健太の様子の変化に気づいた。翔太が現れてからの午後、健太は普段より明らかに口数が減り、それでも視線だけは何度も美咲の方へと向けていた。美咲が顔を向けるたび、健太は慌てて視線をそらす。美咲はつい手を伸ばして、健太の袖をつかんだ。「健太さん、翔太のこと、気にしてるの?」健太はしばらく美咲を見つめた。お互い、「気にしない」なんて嘘だって、分かっていた。本気で好きでも、政略結婚の相手でも、美咲の人生に二十年も関わってきた男の存在を、気にしない男なんていない。「うん、気にしてる」健太はまっすぐに認めた。その言葉に、美咲の胸はずしんと沈む。説明できない寂しさが心を締めつける。次の瞬間、健太はもう一度静かに口を開いた。「莉子さん、彼が君に与えた傷も気にしてるし、君にとってあんなに大きな存在だったことも気になる。でも同時に、君を守ってくれていたことに感謝もしてるし、何よりも今は、君のそばにいられて本当に良かったと思ってる。何よりも、僕は君のことが心配でたまらないんだ」健太は美咲の目をまっすぐ見つめる。その瞳は、まるで夜空みたいに澄んでいた。「莉子さん、君のことがどんどん大切になっていく。心から大事だと思うし、もっと早く君を見つけていればよかったって、そう思わずにはいられない。莉子さんでも、美咲さんでも、僕は本気で君を好きになった」その一言に、美咲はドキリとし、まるで頭の中で花火が弾けたような音と、心臓が跳ねる鼓動を感じた。健太がずっと読んでいた恋愛小説も、こういう気持ちを教えてくれたのかもしれない。美咲はそんなふうに思った。頬が熱くなるのを感じながら、健太の目に浮かぶ優しい笑みに気づく。健太がそっと手を伸ばして、美咲の手を握った。「莉子さん、僕と付き合ってくれる?」健太の手のひらから汗ばんだ緊張が伝わってくる。美咲は口元に微笑みを浮かべ、「うん」と頷いた。三日後、美咲は退院した。神谷家の家族も健太も一緒に迎えに来てくれた。ランチのあと、健太が美咲を連れてデートに出かける。その後ろには、少し離れて翔太の車がずっとついてきていた。あの日、病院で美咲を見かけてからというもの、翔太は何度も近づこうとして、健太や神谷家の人たちに阻まれていた。美咲に会いたい。けれど、いつも遠くから、健太と美咲が一緒
翔太の視線は、健太が美咲の手を支えているところで止まった。翔太は美咲を見つめながら言った。「美咲、お前、もうあいつのことが好きなのか?」そのまま美咲の目をまっすぐ見て、じりじりと距離を詰め、目の前まで来る。「お前、本当に他の男に心移りしたのか?俺たちが八歳から積み重ねてきた絆や、あの日交わした約束、全部忘れたのか?」美咲は、痛みと問い詰めが混じった翔太の視線を見て、ふいに笑った。その笑みには皮肉が満ちている。「翔太、私にそんなことを言う資格ある?」翔太は目を赤くして美咲の肩をつかもうとする。「お前は俺の妻なんだ――」バシッ――その手は空中で、力強く振り払われる。「翔太、忘れたの?私はただの新堂家の家政婦でしょ。あなたの妻は別にいるんじゃなかった?」「違う、違うんだ!」翔太の瞳には、苦しみがあふれる。「美咲、そんなふうに言わないでくれ。俺が悪かった。お前を守れなかった。お前に隠して、里奈に傷つけさせるんじゃなかった。本当に、本当にすまない……だからもう一度だけ許してくれ。あんなに長い間一緒だったんだ、な?」もう一度美咲の腕をつかもうとする。バシッ!今度は美咲の平手打ちが翔太の顔を思い切り打つ。翔太の顔が横に跳ね、口の中に血の味が広がった。だが翔太はすぐに美咲の手をつかみ、自分の右頬にも同じように打たせる。「美咲、お前が許してくれるなら、何発でも打ってくれ。どんなに殴られてもかまわない。もう一度だけ許してくれ……」美咲が抵抗しても、翔太は必死に食い下がり、涙ぐみながら顔を見つめる。少しでも心が揺れる表情を探して、何度もすがる。そこで、ずっと黙っていた健太が動いた。彼は翔太が美咲の腕をつかんでいるのを静かにほどき、次の瞬間、翔太を思い切り殴り倒した。翔太の目には、憎しみと嫉妬がいっそう色濃く宿る。口元の血を拭い、今にも飛びかかろうとする。二人はもみ合いになり、取っ組み合いの喧嘩になる。「ボディーガードは!?」美咲が声を上げると、隠れていたボディーガードたちがすぐに現れ、翔太を押さえつける。翔太は必死にもがき、美咲から視線を離さない。「美咲、俺はもう全部知ってるんだ。三年前の事故は橘家の仕組んだことだった。里奈が整形して近づいてきたのも全部計画だった。俺も騙されていた。信じてくれ!美
里奈は勝ち誇ったような顔で美咲を見下ろした。「あんた、昨日の夜聞いてた?翔太は私だけを愛してる。今の私が好きなの。全部知ってて、あんたが本物の美咲だって気づいてても、私があんたをいじめるのを止めようともしなかった。翔太はもう、あんたのことなんて少しも愛してない!後悔してる?三年前に死んでいればよかったのに、なんでまた現れたの?」里奈は憎しみをあらわにして言い捨てる。「さっさと消えなさい。二度と現れないで!」美咲は皮肉な笑みを浮かべる。「里奈、本当に翔太が一途にあんたを愛してるなら、何でわざわざ警告しに来るの?どんな手を使って翔太のそばにいられるようになったのか、あんた自身が一番
美咲の頬はひりひりと焼けるように痛む。目の前の翔太を見上げるが、口を開きかけて、結局何も言えなかった。この瞬間、もうすべてがどうでもよくなる。事故の真相も、自分の正体も、翔太の愛も、裏切りも、もう関係ない。美咲の目にかすかに残っていた光が、完全に消える。翔太は手を背中で強く握りしめ、後悔の波が胸に押し寄せる。やりすぎたと心の中で思う。口を開きかけるが、泣きじゃくる里奈を抱きしめると、結局何も言わず、そのまま彼女を連れて去っていく。その夜、美咲はボディーガードたちに縛り上げられた。何が起きているのか分からないうちに、男の大きな手で思い切り頬を打たれる。一発、ま
バキッという音が響き、美咲は自分の足の骨が折れる感覚をはっきりと感じた。激しい痛みが全身を貫いて、思わず悲鳴が出た。世界がぐらりと揺れる。「やめろ!すぐ止めろ!」翔太が乗馬場に駆け込んできて叫んだ。他の馬たちはすぐ止まったが、里奈の馬だけは暴走したまま。「翔太、助けて!馬が言うこと聞かない!翔太、助けて――!」意識が遠のく中、美咲は翔太が馬を追いかけて必死に走る姿を見た。彼は美咲を縛っていたロープを掴んだ。その瞬間、馬がぐいっと引っ張られ、ひづめを高く振り上げる。里奈は手を放して馬から落ちる。「翔太――!」土壇場で、翔太は美咲を一度だけ振り返ると、迷いなく里
美咲は激しく抵抗していたが、やがて痛みと絶望に飲み込まれ、力が抜けた。そのまま引きずられていった。個室に閉じ込められ、ベッドに押し倒され、服を無理やり破られる。水野は目を血走らせ、興奮した様子で美咲の体を乱暴にまさぐる。美咲が抵抗しなくなると、ますます好き勝手に触り続けた。美咲は虚ろな目で天井の灯りを見つめながら、そっと手をベッドサイドに伸ばした。水野が油断した瞬間、ベッド脇のスタンドを手に取ると、全力で水野の頭めがけて振り下ろした。鈍い音と共に、額から真っ赤な血が流れ出す。美咲は急いで部屋のドアを開け、そのまま逃げ出した。パーティー会場を抜けて、道路沿いをひた
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