LOGIN確かにアステール河近郊は大聖堂があるネロ区でも手が出しにくい地域だ。
王国の西南に位置するネロ区は、その昔はラカンとの戦闘で焼け野原になった所でもある。
アルテール河は雨期になれば必ずと言って良い程氾濫し、戦争と水害で人が多く死んだ土地だ。鎮魂の為と言う理由で教会はその場所に大聖堂を建て、現在教会派の本拠地となっている。
ファージ侯爵家の武器が入る程の木箱なら子供一人余裕で入る事だろう。
河口から海へと出ればラカンまでそう遠くはない。
「アラベル。お前達は教会の悪事の片棒を担いでいるのでは?」
黙って聞いていたウケイが、ただ静かにそう口を挟む。
「何だ、バレてたのか」
「モリガンから
「あぁ。ルアド・モリガンが教会と繋がっていると知って、近づいた。あの阿呆は俺達を使ってるつもりだっただろうが、俺達がヤツを利用
体がもう覚えてしまった。 あの熱で腹を穿たれる甘い喜びと、溶け合って互いを貪り合う幸福を――。 公爵の硬い掌が体の外側を象る様に撫でる。 オルタナはその感触を追うようにただ、皮膚の感触に身を捩った。「ふぁっ……あっ……」「今日はいつになく敏感だな?」 触れるか触れないか、まるで羽でなぞる様な触り方をしておいて良くもそんな事が言えたものだと、オルタナはチラリと睨む。 でも睨んでも抗う事も出来ず、ただもどかしさに耐えかねて悪戯になぞる公爵の右手を掴んだ。「もぅっ……ちゃんと、して」「そんな顔で睨んでも可愛いだけだぞ、オーリィ」「意地悪しないで」 オルタナは掴んだ公爵の右手の甲に口付けて人差し指を口に含んだ。「煽るじゃないか」 長くて節のある公爵の指を、飴でも舐るように濡らす。 その様を上から見下ろしている公爵は、満足そうに口角を上げた。 覆いかぶさって来た公爵はキスを落として、左手で夜着を剥ぎ取る。 そして双果の陰で開かれるのを待ち侘びている蕾を、濡れた人差し指で確かめた。 疼いているのが自分でも分かる。 待ち侘びて綻んでいる秘所を知られて、羞恥にオルタナは顔を背けた。 ゆっくりと侵入してくる指に、短く喘ぐ。 息が詰まりそうな圧迫感と、擦れる快感が腰に響いて仰け反った。「あっ、んんっ……」 口付けられながら秘所を弄られると、より一層息苦しさに思考を奪われる。 ゆるゆると中を確め、何かを探すその指の動きに焦れ、腰が浮く。 ゆっくり、ゆっくり。 小さな火種を消えない様に育てるように、公爵の指は肉壺の内壁を撫で回し、腹側のシコリを態と避けている。 いつもなら見つけたとばかりにそこを攻めて来るのに――。
視察に行く前日。 公爵は休みを捥ぎ取ったと言って午前中は寝台の中から出ようとしなかった。「ヴィー様、もうお昼前だよ……」「んー……?」「いい加減起きないとオブライアンさんが困ってるかも……」「困らせておけばいい」 そう言った公爵はうっすらと笑ってまた瞼を閉じる。 疲れているのだろうけれど、このまま寝台に籠っていたら何もせずに一日が終わってしまいそうで、オルタナは自分だけでも、と寝台から出ようとした。 明日やるべき事をやる為にも、どこか風や草の匂いがする所でスッキリしておきたかった。「どこへ行く?」「ヴィー様は寝てていいよ。僕ちょっと散歩にでも……」「ダメだ」「うぇっ⁉」 半身を起こしたオルタナに、そう言って公爵の腕が腰に巻き付いた。「今日は俺を構え」「ちょ、すぐ戻って来るからっ……」「外へ行きたいのか?」 片目をチラリと開けて、公爵は不満そうにこっちを見ている。 求めないからだ――そう言われた事をふと思い出した。 言っても良いものか一瞬躊躇った後、オルタナは呟く。「どこか景色の良い所に行きたいな……」「遠乗りにでも行くか?」「良いのっ⁉」「んんっ……キスしてくれたら行きたくなるかもな」 いつの間にか両目を開けてこちらを見ている。 オルタナは公爵のこの寝起きの甘い感じが凄く好きだった。 一緒に居る程に、なるほどこの人は弟なのだと思い知る。 外では人を寄せ付けない風格を持っていても、気を許した人達の中だと意外と甘えたで、それを惜し気もなく武器にしている節がある。 朝は特に、人が構いたくなるフェロモンを垂れ流している気がした。 オルタナは腰に巻き付いた公爵の蟀谷にふわっと
「何用ですか? ラティ様」「お願があって来たの」 王妃はそう言って扉を開けたウケイを押し込める様に、無遠慮に部屋へと入って来る。 まだ十二年しか生きていない小さな王妃は、腹黒い侍従に利用される為に生きて来たようなものだ。「今は特別休暇中です。お願いなら陛下になさいませ」「ネロ区の視察に行きたいの」「はい? 何をバカな……」 ネロ区はドラコン教の本拠地。 そんな所に反対勢力の王妃が行けば、何も起きないわけがない。「大公妃がいる夜会なら、これが最短距離で行けるチャンスなのよ」「ダメです。私は休暇中の身、ご同行しかねます」「付いて来てなんて言ってない」「は?」「夜会で大公妃に直談判するつもりよ」「いけませんっ!」「レイも同じことを言うのでしょうね」「分かり切った事を……作戦立案が笊すぎます」「だから、先手を打ちに来たんじゃない」「……どういう意味です?」「夜会で私が強行突破したらレイは必ずウケイの所に来るわ。私を止める様、頼みに来るはず」「それを説得しろと? それは無……」「オルティ一人で行かせて良いの?」 眉尻を下げた王妃は心配している様に見せかけているけれど、これはただあざといだけの演技だ。 その程度の事、見抜けぬ育ての親ではない。 この小さな王妃をこんなに小賢しく育てたのは誰だ……私だ。「演技が下手過ぎます」「……んもぅ、たまには流されなさいよ!」 幼い頃から敏い子だった。 輿入れ直前に博士号まで取得した頭脳は伊達じゃない。 育った環境のせいか周りの事に敏感で、人の動きをよく見る様に教え込んで来た。 だから彼女がこちらが出国する為の駒として利用しようとしている意図にい
ウケイはサリバン家の別荘から王城へと戻り、アウルム修道院で採取して来た例の植物とエヴレカの遺骨、そして一緒に見つかった耳飾りを調べる事に専念していた。 王陛下の誕生祭が間近で王城の従者達も忙しなくしている事は分かっていたが、これより優先される事があるわけがない。 王陛下にも王妃の傍を離れる許可を貰い、夜会にも出席しないと伝え、城内にある自分の研究室に籠って没頭していた。 植物と遺骨にエヴレカの痕跡があるのか調べる為に、自分が開発して来た薬剤に反応するかどうかで血液を含むかどうかは分かる。 だが、それをエヴレカの血と判定するには生前のエヴレカの皮膚か、髪が必要だった。 でも開発途中のこの薬剤は、個人を特定するにはまだ至れておらず、近しい血縁の者を区別することが出来ない。 それが今回は功を奏する結果になった。 ウケイはオルタナがアウルム修道院で熱を出して寝込んでしまった際に、こっそりとその髪を拝借しておいたのだ。 調べなくとももう分かっていたけれど、確かめなくてはならない。 学者と言うのは、頭で分かっていても目の前に現実が現れない限り、認められない厄介な癖を持っている。 並べた小皿の中で試験薬に浸るそれらが、じわじわと同じ碧い色に染まって行くのをただ黙って眺めた。「エヴレカ……すまない……」 机上に両手をついて俯いたウケイは、閉じた瞼の隙間から悔恨が滴り落ちるのもそのままに、唇を震わせた。 アラベルから聞いた経緯と、エヴレカが苦しんでいたであろうその時間に自分がしていた事の浅ましさが許せない。 自分の子の存在さえ知らず、余所の子を必死になって育て、ようやく見つけた時には白い欠片になってしまっていたのだ。 ――――何の為の番か。 運命なら尚の事、惨い仕打ちではないか。 涙一つ、恨み言さえ、受け止めてやる事が出来なかった。 エヴレカと別れてサンノ国へ帰り、
エルダーは拙くも会話が成立するようになった大佐から聞き出しせたのは、これまでの教会との関係と、それに至る経緯だと言った。 大佐の転落人生は、何処から漏れたのか姉の病状を知っているケルメスから声を掛けられた事から始まる。 姉を助ける為に種芥子を手に入れる代償として、ラカン南部から酒樽に入れて運ばれて来た種芥子を、モリガン区の関所を通して王国内に入れる事。 だが、それを待たずして大佐の姉は死に至る。 モリガン兵を殺害する為に使われた種芥子は、この最初の仕事で手に入れて使われなかった種芥子だったらしい。 それ以降、モリガン家の秘密を握っているケルメスから半ば脅されて、最初は酒樽一つから密輸が始まった。 それが今に至っており、その報酬にラカンの増強剤を貰い服用していた為に、βでありながらあの体格だったようだとエルダーは言った。「ナタリーからの報告ではこの数年は中毒症状が出ていたのではないかと」「そうか。後は何か聞き出せたか? ノエル」「ケルメスから家督を継ぐ後ろ盾になってやると言われたらしい」 あのクソ爺っ!! いずれこうなると分かっていて、よくもそんな戯言を吐けたものだ。「それから、姉を殺したのは自分だとも……」「……ノエル少佐、それってどういう事?」「姉を部屋から連れ出したのは自分だと、言っていた。散歩に連れて行こうとして、そこで事故が起きたと言う事だろう」「なるほど。だからモリガン伯は陛下に箝口令を布いて貰ったのか……」「ヴィー様、どういう意味?」「死因が事故だとしても息子が原因と噂になれば、息子の今後の進退に関わって来る。特にβのルアドには、一つの汚点でも命取りになるからな」「つまり……モリガン伯爵は息子の為に箝口令をお願いしたって事?」「まぁ、推測に過ぎないが……事故か自殺か分からないと言う話に、息子が連れ出した、という情報が加われば“殺した”と言う仮説を唱える奴も出て来る」
「誰に……?」「あれはナタリスの双子の弟。つまり、エルダーも俺の義弟だ」「あぁっ! そっか、眸の色が一緒だ……」「エルダーは特警の専属拷問官だ」「拷問官……サリバン家のご子息って……」「義父の血が一番濃いのは、エルダーの様な気がするな。もう一人アエラスと言う弟がいるが、それが一番真面だな」 そう言って公爵は困った様に笑った。 今回の件も含めて、オルタナはナタリスの思い描いた通りに動かされた気がして、少し腑に落ちない気もした。 言い方は酷い物だったけれど、あそこでナタリスに豚と罵られ、自白剤を匂わせられなければ、今この結果に辿り着けなかったかもしれない。 あの衝撃的な罵詈雑言が、事ある毎に脳裏に浮かんでいたのは確かだ。 ナタリスは十年前の魔女ドーラの逮捕劇の後、公爵が魔女ドーラの傍に潜り込ませた特警所属の軍医だ。 彼なら祖母の“魔女の薬”や“遣り口”を知っていても不思議じゃない。 大佐の状況がエルダーからナタリスへと漏れていたとしたら、あのサリバン家の別荘の地下でこうなる様に仕向けたのかもしれない、と――。「ナタリス様は今、どうしてるの?」 最後にナタリスを見たのは王都に戻る前、サリバン家の別荘で公爵にガン無視されて落ち込んでいた時だ。「モリガンへ戻した。モリガンの医療班が伯爵の容態を診ているから、そっちに行かせた」「モリガン伯爵の容態、悪いの……?」「良くはないな。もう殆ど意識がないから、今回の手が使え無いのが残念だ」「そっか……」 父親と言う存在を知らないオルタナからしてみたら、大佐の父親への執着は理解し難い。 でももしモリガン大佐が娘を想う気持ちの半分でも大佐に向けてくれたら、こんな事にはならなかったかも知れない。「じゃあ、もう大佐は
「ございません」 そう言ったしわがれた祖母の声に、周りの貴族達が眉を顰める。 貴族は美しい者が好きだ。 だから祖母を敬遠するのも仕方ないのかもしれない。 けれど、オルタナはこの久しぶりのあからさまな空気に、怒りを覚える。 見下している癖に、困ったらすり寄って来て、嘲笑している癖に、死にかけると縋りついて来る。 そんな人間でも祖母は、結局は助けて来た。 自分を育てる為、居場所を確保する為、自分の心を捨ててでも人々を助けて来た人なのに、彼らは祖母が一言発しただけでま
ミレー中尉に至ってはヴィンス・サリバン公爵閣下の番がどうお得なのかを延々と語って来る始末。 結局、番の話は有耶無耶になったが、この日を境にノエルやミレーとも普通に会話出来るようになった。 庭の方から子供の笑い声が聞こえて、オルタナは不思議に思い二階の私室の窓から顔を出す。 広く美しい庭園のガゼボで、ミレーと少女が笑い合っている。 少女は下級貴族の様な質素な装いで、傍には見た事のない中年の髪のない下男らしき男が侍っているが、少女の髪は鴉の濡羽の様な美しい黒髪だ。 あんな黒髪を持つ少女が下級貴族
口に入れた瞬間から、何が入っているのかを考えて、危ないと判断したら吐き出す。 でもそれが遅れれば、体に支障が出る。 どんな薬草で、どういう症状が出るのか。 どの程度なら問題なく食べられる物なのか、常に考えていなければならない。 勿論死ぬほどの量は含まれていないが、祖母はスパルタだったから、吐こうが下そうが、白目をむいて倒れようが容赦なかった。 そうして具合を悪くする度、祖母が作ってくれるのはミルクベリーのスープだった事を思い出す。 母乳に近いと言われる栄養価の高いベリ
そう聞かれて、オルタナはただ全力で左右に首を振って答えた。「こっちを向いて。オル……オーリィ」「へっ?」「怖くない、と言っていただろう?」「ちょ、まっ……」「ぶはっ! ははははははっ……流され過ぎだぞ、オーリィ」 公爵は、我慢ならないと言った風に腰を折って笑う。 解かれた手首には、まだ公爵の熱が残っている。 何が起こっているのか未だに整理が付かないオルタナの脳内は、混乱し熱を持って呆然とするしかなかった。







