初夏――テラスには、すらりとした長身の男が一人立ち、ゆっくりと煙草をくゆらせていた。ここからは立都市の街並みが一望できる。彼はすでに、すべてを手にしている。――芽衣も含めて。遅かれ早かれ、彼女も自分のものになる。それでも胸の奥はどこか空虚だった。たとえ手に入れたとしても、それはもうあの頃とは違うと分かっているからだ。何かを確実に失ってしまっている。自分はかつての陽白ではない。彼女もかつての芽衣ではない。ふと、別の可能性を思い描く。――氷室彰人。芽衣の義理の叔父。大学を出てすぐに星耀エンターテインメントに入り、彼女のために道を整え、何不自由ない生活を用意した男。そして二十年かけて、ついに経営の中枢に立った。もし、自分も同じ道を選んでいたなら。芽衣はもう少し幸せだったのだろうか。――だが、そんなことは誰にも分からない。あの頃、自分にとってはあれが唯一の道だった。立都市では与えられる機会があまりにも少なかった。海外に出ることが、最も早く成功へ辿り着く方法だったのだ。指先で、煙草の赤い火がじりじりと燃える。彼は中へは入らなかった。芽衣が忙しいことはよく分かっている。やるべきことを山のように抱えているのだ。男はそのまま、夜十一時まで外に立ち続けた。やがてガラス扉を開け、静かに寝室へ戻る。だが――芽衣はすでに眠っていた。長い手足を投げ出すようにソファに横たわり、ノートパソコンはまだ淡く光っている。そのそばで、母親が小さなブランケットをそっと掛けていた。芽衣を見る眼差しは優しさに満ちている。陽白の胸がふっと柔らかくなる。歩み寄り、母と並んで芽衣を見下ろすと、母は小さく囁いた。「こんなに疲れて……あんた、少しは支えてあげなさいよ。女の子一人であれだけの会社を背負うなんて大変なんだから。今は景気も良くないし、芸能界だって厳しいのよ。人気の人だって、配信で商品売ったりしてる時代なんだから」陽白は静かに微笑んだ。「大丈夫だよ、母さん」そう言って、彼は身を屈め――そのまま芽衣を横抱きにする。芽衣はうっすらと目を開けた。陽白の母の姿が見えず、意識はまだぼんやりとしている。本能のまま、陽白の首に腕を回し、胸に顔を埋めて小さく呟いた。「……帰らな
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