章真に連れられ、結安は静かに周囲を見渡していた。――怖くないわけじゃない。けれど、家へ帰ることのほうがもっと怖かった。家の前には借金取りが押しかけ、中には刺青だらけの男たちまでいる。まだ高校三年生の自分が戻れば、どうなるかなんて想像するまでもない。それに、章真が自分に何か企みを持っていることくらい、結安にも分かっていた。それでも――今の彼女には、この人以外に頼れる相手がいなかった。高校を卒業して、地方の大学へ進学して。遠くへ逃げるように、新しい人生を始める。それだけが今の結安の望みだった。結安は生まれながらに恵まれた少女だった。けれど、一夜にして天国から地獄へ突き落とされた。――もう、他に道はない。使用人の蝶野は目の前の少女を静かに観察していた。素直で大人しい子だ。ただ……あまりにも綺麗すぎる。こんな若い娘を章真と同じ屋根の下で暮らさせて大丈夫なのだろうか。そんな不安がよぎった瞬間、階段を上がりかけていた章真が気だるげな声で言った。「考えすぎ。まだ子供だろ。成人まであと三か月だし。これからは彼女の身の回りを頼む」「かしこまりました」蝶野は恭しく頭を下げた。そのまま結安を連れて二階へ向かう。途中でふと思い出す。東側の部屋は章真の寝室に次ぐ特別な客室だった。隣接してはいないが、バルコニー同士が向かい合っており、距離もかなり近い。若い男女をそんな場所に住まわせるのはやはり少し気になる。けれど――章真には女性の噂が絶えない。確かに結安は目を引くほど可愛いが、さすがに恋愛対象にはならないだろう。十二歳差。ちょうど一回りも離れているのだ。……きっと、自分の考えすぎだ。実際、その通りだった。章真の頭の中にあるのは、どうやって結安の実家の会社を手に入れるか――それだけだった。数兆円規模の巨大企業。一生に一度あるかないかの好機だ。小娘一人に、そんな価値が敵うはずもない。しかも、まだ子供。最初から女として意識することなど、まったくなかった。その時、スマホが鳴る。相手は、そこそこ名の知れた女優だった。通話を繋ぐと、甘く絡みつくような声が耳に届く。「章真、私、帰国したの。でも立都市には二日しかいられなくて……ねえ、会いに
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