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301.社長の過去と真実④

「あぁ……。でも、ちょっと本音、言ってい……?」すると、少し間を開けて、慧さんが何か引っかかったのか、そんな言葉を伝えてくる。「本音、ですか……?」「あぁ……。悪い。ホントはさっきの少しだけカッコつけた」「え?」カッコつけた? え? どれ??「ホントは、この家に帰ってきて、依那がいなくて寂しかった……」そう小さく切なく呟く。慧さんがそう呟いた瞬間、胸がギュッとなる。「ごめんなさい……!」「いや、謝ってほしいんじゃなくて。オレが勝手にちょっと不安になっただけ」「え? 不安って?」「依那がこのまま戻ってこなかったらって……」「え!? そんなことあるわけないじゃないですか!」あたしは身体をグイっと後ろに向けて、慧さんと斜め越しに向き合う。「あぁ、うん……」そう返事はしたものの、なぜか慧さんは少し寂しそうな顔をしているように見えて……。「慧さん。何かあったんですか? 何かあるならちゃんと話してください」あたしはそのまま座ってる身体を少しずつ動かし、横向きに座り直し、身体は慧さんの方へ向け、ちゃんと慧さんの顔を見つめながら伝える。あたしにそんなストレートに寂しかったとか不安だとか伝えてくれるなんて、初めてだよね……?雰囲気も表情もなぜかその言葉通りのように感じて、いつもの慧さんと違う人に思える。「いや……、こうやってちゃんと会って話せたら、大丈夫だって感じられた」「それでも。こうする前は不安だったってことですか? どうしてですか? なんか慧さんを不安にさせる何かがあったってことですか?」「正直さ。早く依那に会いたいって気持ちと、依那がオレから気持ち離れてたらどうしようって気持ちもあって……」「なんでそんなこと……」「オレの過去を知って、こんな状況になって、依那が愛想尽かすんじゃないかって……」「え……? それって、あの報道のことですよね……?」「あぁ……。オレがいない間にこんなことになって、依那すごく傷つけたんじゃないかって心配で……」あぁ……。やっぱそういうことか。慧さんはあたし以上に、あたしを想って苦しんでたんだ。あたしなら大丈夫なのに……。「慧さん。……酷いです……」「え……?」あたしのその言葉に慧さんは顔をあおざめる。「あたしの慧さんの想い。そんな軽く見てたんですか?」「えっ!?」あたしのそ
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302.社長の過去と真実⑤

「あたしは何も気にしてないです。だけど、慧さんがこれまで頑張ってやってきたことや優しさが、そんなくだらない根も葉もない噂で否定されてしまうことが、あたしは何より悔しいです」「依那……。そんな風に思ってくれてたのか……?」「もちろんですよ。あたしは誰が何を言おうと、慧さんの味方です。あたしが慧さんを支えます。だから、慧さんは安心してあたしに気持ち預けてください」「依那……。ありがとう……」そう言って、慧さんがギュッとまた抱き締めてくれる。「ホントはずっと思ってたんです」「何を……?」「あたしはいつも慧さんがいてくれることで支えられて力をもらえて守ってもらってるけど、慧さんがホントに辛い時に、あたしはそういう存在になれるのかなって……」「もちろんなってるよ。そばにいてくれるだけで、依那という存在がいるだけで、十分オレは救われてる」「はい。でも、そういうのだけじゃなく、慧さんが抱えてるものとかそういうのがあるなら、あたしも一緒に抱えたいっていうか……」「え……?」「今の慧さんのそういう存在になれてること、それもホントすごく嬉しいです。だけど、あたしの知らない過去で、もし慧さんが何か抱えていたとしたとして。あたしはそんな過去の慧さんも今の慧さんも、あたしがしてもらってるように、すべて支えたい、守りたいって思ってます」あたしが伝えるその言葉に、慧さんがちゃんと目を見て耳を傾けてくれる。こういうことを今まで言える機会がなくて、ずっと伝えられなかったけど、ホントはずっと伝えたかった。あたしにとって、慧さんがどれほどの存在か、どれだけ大切に想っているかを知っておいてほしかった。「正直、依那がそこまで考えてくれてるなんて思ってなかった……」そして、その言葉を受け止めて、そう言う慧さんは、少し驚いた表情を見せてるような気がするけど、だけどどこか安心したようなそんな表情にも見える。「あたしの慧さんへの想いは、それほど大きいんですよ?」あたしはいつものように、いつものその大きな想いを笑顔で伝える。「ん……」慧さんは、そう呟きながら柔らかく頷いて、穏やかに微笑む。その一言とその微笑みだけで、慧さんがわかってくれてるのだと、なんとなくそんな風に感じる。「依那……。依那に話しておきたいことがある」すると、あたしの目をしっかり見つめて静かにそう伝えて
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303.社長の過去と真実⑥

「報道されてたあの記事。あの中の話は全部が全部嘘ってわけじゃないんだ」「そう……なんですか……?」「正直中途半端に関係を持って、結婚を促した相手もいる」「え……?」いきなり思ってなかったような言葉が出てきて、少し動揺してしまう。「依那と初めてあの店で出会った時もそういう流れだったから、依那も全然知らないことはないとは思うんだけど」「あ、あぁ……。確かに、そんな話でしたね……」そうだ。その頃のこと、今ではすっかり忘れてた。だけど、その時のことを思い返せば、確かにあの時、知らない間に結婚の話になっていたからと言って、あたしは彼女役を頼まれたんだった……。あの時は、ただモテる人の理解出来ないお遊びの世界なんだと、特にそこまで気にはしなかったけど、今思えば、他の女性とそんな話になっていたってことなんだ……。「でもそれはホントに酒に酔った時で。その時はホントに自分の本音が出てしまうんだ……」確かに覚えてないとは言ってたけど、少しはそういう気持ちがあったということなのだろうか……。しかも、本音……?実は結婚したいと思う人がいたってこと……? 「それは、その人たちと結婚をその都度考えるほど好きだったってことですか……?」どんな状況であれ、正直あたしはそんな頃の慧さんだとしても、そんな風に言ってもらえる女性が羨ましいと思ってしまう。「いや……。今まで依那以外こんなにも誰かを好きになったことはなかった」だけど、今の慧さんがそう言ってくれることも嬉しくて。「その反対だったんだよ。結婚とか誰かと真剣に付き合うとか、オレにとってどうでもいいことで価値あることだと感じてなかったから」すると、あたしが気になっていたような答えと正反対の言葉が慧さんから返ってきた。「それは、どうして……ですか?」「オレにとって、好きだの愛だの信じられるものじゃなかった。簡単に口にする女たちほど、オレにとっちゃくだらない存在でしかなかったんだ」そう答える慧さんの言葉からは、決してその時の特定の誰かを愛しく想ってるような、そんな感じの雰囲気は感じられなかった。それどころか真逆な嫌悪感のような、そんな雰囲気に感じるほどで。そこまで嫌悪感を持つほど、慧さんに何があったんだろう。女性に対して、何か慧さんは気にかかることがあったっていうこと……?「オレと出会った女たちは
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304.社長の過去と真実⑦

「オレさ。母親に捨てられたんだ」「え……?」それは思ってもいない言葉で、あたしは言葉をそのまま失ってしまった。「オレさ。昔は母子家庭で母親と二人特に贅沢じゃない生活だけど、それなりに幸せに過ごしてたんだ。一緒にいる時はいつも愛情を伝えてくれる人で、決して生活に余裕があるわけじゃなかったんだけど、外食してオレが喜ぶ姿を見るのが好きだっていって、しょっちゅういろんなところに食べに連れて行ってくれてた。オレもその時間がすごく好きで、母親と一緒に美味しいと言い合って笑い合う時間が幸せだった。だけど……。そんな母親が急に姿を消したんだ」「え……? 急に、ですか……?」「父親は、他に家庭があってさ。そんなしょっちゅう会うような関係じゃなかったんだけど、一時期から定期的にオレだけ会うようになって。そのうち向こうの家族にも一緒に会うようになった」慧さんは、淡々とその当時のことを思い出すように、落ち着いたまま伝えてくれる。「向こうには子供がいなくて、会った時はオレを向こうの子供のように可愛がってくれた。そしたらいつの間にかそっちの家の子になってた」「え? どういうことですか!?」「母親はいなくなったものと思えって、今の父親の相手を母親と思えばいいって。そこからなんの説明もなく母親に会うことがなくなった」「そんな……酷い……」ドラマみたいな話でちゃんと頭に入ってこない。だけど、きっと慧さんにとってはドラマでもなく現実なんだ……。きっと今言葉にしていることも、少なからず苦痛や葛藤があるのだと思う。なのに、慧さんはそれを伝えようとしてくれている。だから、あたしは慧さんの伝える一つ一つの言葉を、しっかり受け取る。そこに慧さんのどんな思いが隠されているのか、どんな思いでそれを伝えようとしてくれているのか、ちゃんとわかりたい。どんな些細なことでも、ちゃんと知りたい。「その時父親に母親がいなくなった理由聞かされたんだ。好きな男が出来たからオレを捨てたんだって。だから父親が引き取ったって」「えっ……?」そんな……、ホントに……?そんな愛情を注いでたのに、いきなり好きな人が出来たからっていなくなるもの……?慧さんを連れて行かずに……?「一番自分に愛情を持ってくれてたと思ってた母親が、いきなり何も言わずにいなくなった。その時、幼いながらに思ったんだ。あぁ、
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305.社長の過去と真実⑧

「それから一時期人間不信みたいになってさ……。でもそこで助けてくれたのが柾弥だった」「本村さん……」「まだ小学生だったオレが父親側の学校に転校させられて、環境も慣れてない時に気にかけてくれたのが柾弥でさ。あいつがずっとそばにいてくれたから、オレは腐らずにいられた」「そうだったんですね……。本村さんがいてくれてよかったです……」本村さんはそんな小さい頃からそんな辛い思いをしていた慧さんをずっと支えてきたんだ……。それを聞いただけで、どれだけ大切な存在だったかがわかる。「でもその新しい家族にさ、今度は本物の子供が出来て。当然愛情はそっちに全部行くことになってさ。元々父親ともそこまで顔合わせたのは数えるくらいで全然慣れてもなかった中、そんな状況になって、オレの居場所はそこからなくなった」そんな……。お母さんがいなくなっただけでもその愛が消えて辛かったはずなのに……・子供なのにそんな壮絶な苦しい思いを一人してたんだ……。「でもそんなオレと一緒にずっと柾弥はいてくれて、ある意味柾弥の家族のがオレにとっては有難い存在っていうかさ」「だから本村さんとホントの家族のようなんですね……」「そう。だけど、女性に対してはさ。どうしてもそういう愛情とかオレには生まれてこなくて。絶対的だと思ってた愛情がいつかあんなにあっさり無くなってしまう怖さ知ってしまったから。自分に対して近寄ってくるのも上辺だけでしかないんだって、そう思ってしまう自分になってた」慧さんにとって、本村さんが一緒にいてくれて支えてくれたことで、きっとたくさん救われたことも多いとは思う。だけど、お母さんの愛情がいきなり消えてしまった悲しみの大きさは、その時は寂しさや悲しさが薄れても、一生なくなってしまうことはきっとなくて。きっとそれを他の女性たちにも重ねてしまっている……。慧さんの中で、そんなにも向き合うことが辛い理由だとは思っていなかった……。「そんな中で、藤代さんとはどうして……?」なんとなく藤代さんだけは特別なような気がして、思わず尋ねてしまう。今は藤代さんには本村さんがいることはわかっているけど、でも、それほどの慧さんが、どうして藤代さんだけは、ちゃんと付き合おうって思ったのか、少し気になった。「あぁ。瑞希は、今思えば同志みたいな感覚だったかもな。柾弥と同じ感じかな。お互い尊重
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306.社長の過去と真実⑨

「あぁ……。それは、オレが唯一自分が意識してない時出る本音だろうって柾弥が。多分どこかでそういう形を望んでいるオレが少なからずいるっていうのと、それと同時にそれだけ自分に気持ちを向けてくれるのかも試したかったのかもしれない……」「そういうことだったんですね……」「だけど。自分の中で、ホントに結婚したいかって言われるとそうではなくて。だからこそ口に出来てたのかもしれないって思う。結局はずっと根底に愛情だとかそういうの信じられない自分がずっと存在しているのはわかってるから……」多分お酒が弱くて意識がなくなる時だからこそ、そういう部分が出てきてしまっているような気がする。慧さんは、普段は絶対そんな無責任なことを言わない人だから。だから、そこまで慧さんの心を知らない人は、ただ単純に結婚という言葉を聞かされたら、その気になってしまうのも無理はないのかもしれない。その言葉の裏に、慧さんのいろんな気持ちが重なっていて、だけど、上辺だけで慧さんを狙っているような人には、その本当の部分は気付くことは出来ない。「矛盾してるだろ……」慧さんがそう言って悲しそうに笑って呟く。「そんなことないです。それが矛盾だとか正解だとかそういうのはないと思います。その気持ちも全部慧さんの中で存在している気持ちだし、それを無理になくそうとかしなくていいと思います」「依那……」「っていうか、もうあたしがずっといるからいいんじゃないですか?」「え……?」「あたしが慧さんにこれからもたくさん慧さんを好きだって気持ち伝えていきます。寂しかったらあたしがずっとそばにいます。なんでも話聞きます。あたしが慧さんのそういう部分全部埋めていきます。だから、慧さんは安心してあたしと一緒にいてください」あたしは握っていた手を、もう一度ギュッと握りしめて、しっかり慧さんの目を見つめ、優しく微笑む。どうかあたしのこの想いが伝わってほしい。慧さんにはもうあたしがいるということ。あたしが誰より慧さんにたくさんの愛を伝えていくということ。慧さん的には、今までの女性を傷つけたかもしれないと思っているかもしれない。だけど、そんな女性たちは結局すぐに離れていくほど真剣じゃなかったということ。ホントに慧さんを大切に思っている人は藤代さんのように、きっと離れずにいたはずだから。「ありがとう、依那……」
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307.社長の過去と真実⑩

「最初は怖かったんだ」そして、慧さんが静かにそんなことを呟く。「え、怖いって……?」「依那がオレを好きだと言ってくれた時。ホントは好きになるのが」「そう、だったんですか……?」「最初は依那がオレを好きでいてくれるほど、同じように気持ちを返せるかもわからなかった。だから、最初は依那と恋愛を始めることに躊躇したんだ」「確かに……。最初はなかなか頷いてくれませんでしたもんね」あの時、なんとなくそんな気はしていた。慧さんの中で、何かが引っかかって、恋愛に前向きじゃないということ。だから、あたしも同じだけ返してもらえるなんて思ってなかった。別に同じじゃなくていいと思っていた。あたしが好きという気持ちを受け止めてくれれば。その中で少しくらいは情が湧いてくれればいいな、なんて、最初はホントにそれくらいの気持ちだった。だって、明らかにあたしが慧さんに感じる〔好き〕と、慧さんがあたしに感じる〔好き〕は同じ重さにならないのはわかっていたから。ただ、あたしが慧さんを好きでいたかった。慧さんを好きなあたしで、ずっとそばにいたかった。「だけど、依那が必死に頑張ってくれたから。それに、それまでの普段の頑張りとか、依那がどういう人間だとか、ちゃんと知ることが出来てたから、オレは依那を信じたくなった」「慧さん……」そうだったんだ……。やっぱりあたしは頑張ってよかったんだ。確かに何もしなければこの想いは伝わらないし、きっと慧さんの気持ちが動くこともなかったはず。だからどんなカタチでも自分が出来る限り努力して頑張るということは、きっと何かしらの自分の幸せに繋がっていく。だけど、それ以上に、慧さんが、普段のあたしを理解してわかってくれていたということが嬉しかった。「いや、違うな」「え……?」一瞬 "違う"と訂正されて、あたしへの気持ちが勘違いだったのだとか、そんなことを言われるかとドキッとしてしまう。「多分、依那は最初からオレの中で他の誰とも違ってたんだと思う。オレのどんな姿見てもちゃんと受け入れてくれて、上辺とかじゃなく、オレという人間とちゃんと向き合ってくれてた」よかった……。違った……。だけど、慧さんのその理由が、あたしには当たり前すぎることなのだけど、逆に慧さんにとってはそうじゃないということを知る。そして、そんな人しか近くにいなかった
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308.社長の過去と真実⑪

「だけど、依那を好きになればなるほど、どんどんその怖さはホントは大きくなってた……」「それは、どうしてですか……?」「こんなにも好きになった依那が、母親みたいにいつか突然消えてしまう怖さがホントはずっと消えなかった……」「え……、ずっとですか……?」「いや、そりゃ一緒にいる時はそんな風にずっと思ってたってわけじゃないんだけど。でも幸せになればなるほど、依那を好きになればなるほど、ふと怖くなるんだ。どれだけ言葉で笑顔で愛情を伝えてくれても、それは絶対じゃないことをオレは経験してしまってるから……」どんどん慧さんの話す声が小さくかすれていく。慧さんの身体も少しずつその気持ちの表れか、俯き加減になって小さくなっていく。あたしはそんな慧さんの言葉とそんな姿を目の当たりにして、涙が溢れてきてしまう。あんなに堂々としていた人が、こんなに小さくなってしまうほど、この人が抱えてるものや不安なことはきっと大きくて。どういう言葉をかければ、どう接すれば、その荷物を楽にして、その不安を取り除けるのかもわからない。だけど、こんなになっている慧さんを、あたしは守りたい。支えたい。そう思ったら、あたしは目の前の小さくなった慧さんを自然と優しく抱き締めていた。そんな慧さんはあたしが抱き締めても、この腕の仲に収まってしまうんじゃないかと思うほど小さくなっていて。こんな慧さんは初めてで……・だけど、そんな慧さんを心から愛しいと感じる。そんな慧さんをあたしが幸せにしたいって思う。「慧さん……。大好きです。あたしは絶対絶対いなくなりません。ずっと慧さんだけを想い続けます」「依那……」そう呟いて、慧さんもそっとあたしの背中に腕を回して抱き締め返してくれる。「そんなありえない不安まったく考えなくて大丈夫です。あたしは慧さんがいないとダメですから。あたしが慧さんを支えます。慧さんの力になります」「オレも……。オレも、依那がいないと生きていけない……」普段は絶対口にしないであろう言葉を、慧さんが静かに呟く。初めて聞くその言葉に、慧さんのいろんな想いが込められているのだと、胸が締め付けられてギュッとなる。慧さんの中で、そこまで弱音を吐くほど、弱っていて不安だったんだ……。慧さんはずっと強い人だと思ってた。なんでも完璧で、自分一人でなんでも出来て、それでいてずっと
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309.社長の過去と真実⑫

「うん……。依那はオレにとって光だよ」「光……?」「そう。暗闇にいるオレを明るく照らしてくれて引っ張り上げてくれる」優しく穏やかに微笑みながら、そんな言葉を伝えてくれる慧さん。「フフ。あたしそんなすごい人じゃないですよ?」「いや。依那はオレにとってそれくらい、いなきゃいけない必要な存在だから……」「だとしたら嬉しいです」慧さんがストレートな言葉で伝えてくれるのが嬉しい。そして、いつのまにか、慧さんにとって自分がそんな存在になっているのだと、嬉しくて胸がいっばいになる。そして慧さんは身体を離して、あたしを見つめる。「ごめんな……。こんな情けない姿見せて……」すると、今度は少し悲しそうに微笑む慧さん。「えっ、どうしてですか? 嬉しいです」「嬉しい……? こんなのが……?」不思議そうな顔をして慧さんが尋ねる。「はい。ホントはずっと甘えてほしかったんです」「甘える……?」「はい。というか、慧さんのそういう弱い部分とか本音を、ホントはあたしにも見せてほしいなって思ってました」「そうだったのか……?」「はい。きっと慧さんの中で、何か抱えてるものがあるんだろうなっていうことはわかってました。だけど、それを無理やりあたしから聞き出すことでもないし。慧さんがいつか自分から話したいと思った時、それを聞きたいって思ってました」慧さんが素直に伝えてくれる分、あたしも素直な今までの気持ち・今の気持ちを伝えたいと思った。でも、きっとこの言葉も今までのあたしだと、やっぱりまだ伝える勇気はなくて。自信も強さも今のように自分で感じることが出来なかったから。だけど、今はこの想いを、ちゃんと慧さんに伝えたい。そして、あたしがどれだけ慧さんを大切に想っているのかを知ってほしい。「そっか……。気付いてたのか……」「だから全然話してくれなくて、あたしもちょっと不安だったんですよ?」「え、不安?」「そうですよ。弱みも見せたくなくて、そんな大切なことを話したいと思うほど、あたしはまだそれまでの存在じゃないんだなって……」あたしを大切に想ってくれているのはわかっていたけど、でもそれはどこまでの気持ちかは慧さんにしかわからない。慧さんが全部を見せたいと思うほど、全部を知ってほしいと思うほど、あたしはまだそこまでにはなれてないんじゃないかと、正直どこか寂しか
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310.社長の過去と真実⑬

「まだまだですね」「え?」「あたしの慧さんへの愛を全然わかってないです」「依那」「どんなことがあっても、あたしは慧さんを好きになっていく一方です。カッコいい大人の慧さんも、弱みを見せてくれる慧さんもどんな慧さんも愛しいって思います。あたしが支えたいって思うし、守ってあげたいって心から思います」だから、それなら、今、あたしがその不安を取り除いて、もっと慧さんにこの想いをこの愛を伝えるだけ。今あたしを信じてくれている・必要としていくれている慧さんなら、きっともうそれをわかってくれるはず。どれだけ慧さんが不安になっても、あたしはその度、慧さんにこの想いを伝え続ける。「フッ。どこまで強いんだ。依那……」「別に強くないですよ?  慧さんへの愛が大きすぎるだけです」そう言ってあたしは慧さんを見つめながら笑う。「フッ。依那は結局そうやってオレがどんな場所にいても、どんな状況でも、その想いを伝えてくれて満たしてくれるんだよな」「そうですよ。慧さんがどんな場所にいても、あたしのこの大きな愛で幸せな場所へと引っ張り上げます!」「うん。頼むな」「はい! 任せてください! あたしが一緒にいる幸せをこれからも慧さんにたくさん伝えていきますね!」「あぁ」そして、慧さんは、今までとは違う嬉しそうに優しい笑顔をあたしに返してくれた。ようやく慧さんとこうやって、本当の想いを伝え合うことが出来た。あたしたちは、まだまだこれから始まったばかりなのかもしれない。もしかしたら、まだまだこれからも知らない慧さんがいるかもしれない。だけど、これからも、その度、そんな慧さんと向き合っていけばいい。その都度、あたしの想いを伝えていけばいい。何があっても、あたしのこの想いは慧さんと共にあり続けるから――。
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