車の前に立ち、信行は振り返って車内を一瞥した。真琴が助手席に乗り込み、腕を組んだまま目を閉じて眠りについたのを確認すると、思わず口元に笑みがこぼれる。ただこうしてそばにいてくれるだけで、まだ救いがある。真琴は車に戻ったが、信行自身はすぐには乗り込まず、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、眼下に広がる夜景を淡々と見下ろしていた。真琴がいれば、それだけで心が落ち着く。由美のことなど、渚のことなど、今やすっかり頭から抜け落ちていた。特に渚に関しては、何度か一緒に飯を食い、顔を合わせたはずなのに、実はその顔すらまともに覚えていない。相手がどれほど美しい女子アナウンサーであろうと、だ。身動き一つせず、一人で外に立ち尽くして随分と物思いに耽った後、再び車内に戻ると、真琴は本当に助手席に寄りかかって寝息を立てていた。だが、普段から頭を酷使している彼女の激務を思えば、信行にもそれがいかに無理からぬことか納得できた。あれだけ神経をすり減らしていれば、ひどく疲れるのも当然だ。後部座席から上着を取り出してそっと掛けてやり、手を伸ばしてその頬を優しく撫でる。眼差しはどこまでも温かかった。車内には暖房が効いている。信行はすぐに車を出そうとはせず、運転席に座ったまま、ただ静かに寝顔を見つめ続けた。手は頬から離さず、ずっと優しく触れ続けている。やがて随分と時間が経ち、真琴が寝返りを打ったところで、信行はガソリンが尽きるのを懸念し、ようやくエンジンをかけて山を下り始めた。曲がりくねった山道。信行はひどくゆっくりと車を走らせ、時折助手席へと視線を落としては、右手でこっそりとその手を握りしめていた。昔は、二人の間にこれほど親密なスキンシップなどなかった。今となっては、頭に思い描ける限りのロマンチックなことを、すべて真琴と共に経験したいと願っている。車が真琴のマンションの下に停まった時には、すでに時計の針は午前一時を回っていた。彼女はまだ夢の中にいる。信行は起こそうとはせず、ただ静かに見つめていた。夕方、渚に「縁がなかった」、「もう連絡してこないでくれ」ときっぱり関係を断ち切ったことで、信行自身もすっかり肩の荷が下りていた。何よりも、それを真琴の目の前ではっきりと告げたことで、自分の立場と覚悟を示せた
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