All Chapters of 君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜: Chapter 91 - Chapter 100

116 Chapters

91話

電話を切った弥一はすぐさまかすみのほうに振り返ると、 「今の通話聞こえてた?」 かすみは申し訳なさそうに眉を下げ、 「すみません、所々聞こえてきていました。」 弥一はかすみにツカツカと歩み寄ると、 「例えばどの辺が?」 「え、あ。えと、電話のお相手が御子柴さんのお父さんだった、とか。あとは、御子柴さんが大事な用事があって帰って来られないのを残念がっていたのとかー」 "セーフ!!!" 一番聞かれたくない部分は聞かれてなかったみたいだと心底安心する弥一に、かすみが唐突に、 「御子柴さん、今日はお会いできて嬉しかったです。それから、罪悪感から御子柴さんを避けるような真似をしてしまっていたことは、本当に申し訳ありませんでした。」 そう言ってまた、彼女は頭を下げる。 弥一はまたしても謝られたことと、なぜか急に別れの前のやり取りみたいになっているこの状況に、 「もう謝らないでってば、お願いだから!それと、あれ?俺たちこれからかすみさんの行きたかった喫茶店に行くんじゃなかったっけ?」 かすみは驚いて頭を上げると、 「あれ?でも先程の電話で、御子柴さんはこれから大事な用事があるって仰ってませんでした?確かに、そう聞こえたと思ったのですが?」 「うん、言ったよ。だから、これから喫茶店に行くんだよね?」 かすみはしばし静止すると、 「あの、まさか御子柴さんのいう大事な用事って、私と喫茶店に行くことですか?」 信じられない、という表情のかすみに、弥一は当然というように、 「そうだよ?え、何で?」 久々に帰ってきたご両親の誘いを断ってまで、自分と一緒になんてことない喫茶店に行くことを大事な用事と捉えている弥一に、かすみは、 「喫茶店ならいつでも行けます。けど、御子柴さんのご両親って、海外に行ってらしててなかなかお会いできないんですよね?それなら、ご両親を優先されたほうがいいんじゃないですか?」 そう言われた弥一は、何も言い返さずにただかすみの顔をじっと見つめる。 そして、その視線にかすみがたじろいだのを見て取ると、 「両親には明日会いに行くつもりだよ。それと、確かに喫茶店にはいつでも行けるかもしれない。けど、かすみさんとは今日を逃したらいつ行けるって言うの?」 たった一週間ほど離れただけだっ
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92話

肩を掴まれたかすみは、自ずと弥一の顔を見つめる。 弥一も一心にその目を見つめ返すと、 「もう知ってると思うけど、俺には当時、結婚を考えるほど好きだった人がいた。なのに、家族全員から反対されるわ、それに加えて会ったことのない人との結婚を強制されるわで、最初はあなたを、あそこでの生活全てを俺は疎んじてた。」 当時を思い出したのだろう。罪悪感からか、はたまた苦い記憶からか、視線を下げようとするかすみに、 「ねえ、聞いて?」と、弥一は再度自分に注意を向けさせる。 眉根を下げ、揺れる瞳で自分を見つめるかすみに、 「けど、初めてあの家に帰った日から、かすみさんの作るご飯に、あなたの俺に対しての配慮に、徐々に俺の気持ちは変わっていった。あなたと生活を共にすればするほど、あなたという人物を知りたくなった。ただ、出会いが出会いだっただけに、変なプライドもあって、今さら態度を180度変えることなんてできなくて、その結果かすみさんとの距離は一向に縮まらないまま、あなたは突然姿を消した。」 弥一は唇を噛むと、 「正直言ってかなりショックだったよ。自分のことを棚上げして、俺に何の一言もなく出て行ったあなただけを悪者扱いして責めたりもした。けど、日が経てば経つほど、怒りとか悲しみとかそんなことよりただただー」 弥一はそこで一旦言葉を切ってから、 「あなたに会いたくて仕方がなかった。」 そう言われたかすみは、何と返したら良いのかわからず、瞳を揺らし、二度三度とまばたきをした。 「そんな俺が今日、あなたの姿を見つけた時どんな気持ちだったかわかる?」 弥一は今にも泣きそうになりながら、 「めちゃくちゃ嬉しかったんだよ?」 その弥一の顔に、かすみの胸が締め付けられる。 「歩道を渡るかすみさんの後ろ姿を見つけた時、それがあなただと確信した瞬間、たまらない気持ちになった。それなのに、あなたときたら俺の姿を見るなり逃げるんだもん。さすがにイラっときた。」 そう弥一は唇を尖らせたが、 「まあ、すぐに捕まえたけどね?」 そう言って少し笑った。 胸がいっぱいいっぱいなかすみは、「すみ、ません。」とだけ謝る。 「何度謝らないでって頼んでもダメみたいだね。」 「すみません。」弥一は少し間を置くと、 「会いに来ない方がよかった?」
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93話

弥一とかすみが、悪い人ではないものの扱いに困る酔っ払い男への対応に手を焼いていると、 「何してるんですか、社長!」と、金髪ショートの若い女性が少し離れたところから慌てて走ってくる。 「先に車に行っててくださいと言ったじゃないですか!余計なことはせずに、言われたことを守ってくださいよ!」 そう言って、酔っ払い男をがっしりと捕まえると、 「うちの猿渡(さるわたり)がご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした。」そう言って素早く頭を下げる。 弥一と かすみはお互いに目を合わせた後、 「いえ、特に迷惑というほどのことは何もありません。むしろ、公共の場であることを忘れて、言い合いをしていた僕らの方こそ悪かったと思ってます。なので、どうか頭をお上げください。」 そう話す弥一の後ろで、かすみも頷いて同じ意であることを示す。 「それが若さってもんだ!君らは何も気にすることはない!」 そう弥一たちを弁護する猿渡に、金髪女は、 「社長は黙っててください。」と猿渡を叱責してから、その顔を遠慮がちに上げる。 と、その目が弥一を捉えた瞬間、 「なっ。ミコ様⁉︎」 と、素っ頓狂な声を出す。 それから金髪女は再度深々と頭を下げると、 「この度は誠に申し訳ありませんでしたっ!えと、実は我々こういったものでしてー」 そう言ってカバンから名刺入れを取り出すと、そこから一枚名刺を取り出し、弥一の前に差し出した。 それを見た弥一が自身も名刺を出そうとするのを、金髪女は、「もう十二分に存じ上げておりますので!」と言って制したので、弥一は途中でその動きを止めると、代わりに女が差し出した名刺を受け取る。 弥一が名刺を受け取ると、金髪女はかすみにも名刺を差し出し、 かすみはお辞儀をしながらそれを受け取った。 弥一は受け取った名刺を見ながら、 「週刊誌モンキークロス?」 「はい!改めまして、週刊誌モンキークロスの七瀬と申します!我々は吹けば飛ぶような子会社も子会社で、他の報道陣が見向きもしないような小さな事件から、世間から忘れ去られた未解決事件なんかを独自に追って記事にしてます。」 「大事件なんかはウチで追わなくても、金儲け目当ての他のメディアがいくらでも追うだろうさ。けど、他人から見て小さかろうが過去だろうが、それを
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94話

猿渡と七瀬が去った後、その場に残った弥一とかすみはゆっくりとお互いに顔を合わせると、 「何の話しをしてたのかわからなくなっちゃったね?」 そう話しかける弥一に、かすみも「ハハっ」と小さく笑う。 ただ、雰囲気を替えてくれたあの二人に、内心彼らも感謝していた。 弥一は軽く咳払いしてから、 「喫茶店行ってみたいな。今からでも連れてってくれる?」 かすみはすぐさま、「はい!」と答えてから、「少し、歩くんですけど。」 「全然いいよ!行こう?」 かすみは微笑むと、「こちらです。」 そう言って、弥一を思い出の喫茶店に案内しようと先を歩いて行ったわけだったがー 「やってないみたいだね。」 10分ほど歩いて例の喫茶店に辿り着いた二人だったが、喫茶店の扉には"CLOSED"と書かれた札が下げられていた。 「営業日とか全然考えていませんでした。すみません。」 そう謝るかすみに、 弥一は何てことないといったように、 「仕方なくない?それより、これからどうしようか。正直、店を替えようにもここら辺のお店は詳しくないんだよね。」 その問いに、何か良い案はないかとかすみが思い悩む。 弥一はそんなかすみにチラリと視線をやってから、 「あー。かすみさんさえ良ければさ、これから一緒に本家に行かない?」 「え⁉︎」と、間髪入れずにかすみは反応し、 「いや、あの、それはちょっと…ご家族様との時間に私がお邪魔するわけにはー」 「かすみさんが嫌ならもちろん止めるよ?けど、実は早苗さんもいま本家にいるみたいでさ。」 「早苗さんが?」 「うん、あと咲希も。おばあさまは海外に行ってていないけど、かすみさんが顔を出してくれたら二人も喜ぶと思うんだ。もちろん、うちの両親もね。」 海老原市の家を出てからもちょくちょく二人とはやり取りはしているが、二人の顔を見られると聞いてかすみの心が揺れる。 弥一はそこを逃さず、 「早苗さんが料理を作ってくれてるみたいでさ、俺も帰ってくると思ってたみたいだから、二人増えたくらいで困るってことはないと思うんだ。だから、どうかな。これから一緒に行ってみない?」 先程の父親との電話のやり取りから、これからかすみを連れて帰ろうものなら父親がはしゃぎ倒すであろうことは目に見えていた。しかし、今日
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95話

弥一はそう言って電話を切ると、次にアプリを使ってタクシーを呼び出した。 5分ほどでタクシーが着くと、弥一は後部座席にかすみを先頭に乗り込む。 弥一はシートベルトを締めながら、 「かすみさんってうちの本家には行ったことあるの?」 かすみもシートベルトを締めようとするがなぜかうまくハマらず、もともたとさせながら、 「あ、いえ。そちらには顔を出したことはありません。ですので、お邪魔するのは今回が初めてです。」 弥一は「ふーん、そっか。」と言いながら、一度自分のシートベルトを外すと、かすみのそばに寄って彼女のシートベルトを締めてあげる。 「あ、すみません。ありがとうございます。」と言うかすみに、「これくらいで大げさだよ。」と弥一は笑いながら自身のシートベルトを締め直した。 アプリから事前に目的地を告げられていたタクシーの運転手は、「では、出発いたします。」と言って車を発進させる。 車内には少しばかり緊張したような空気が流れていた。 そんな空気を弥一が静かに壊す。 「うちの両親さ、父親の方がA国出身なんだけど、ラテンの血も入ってるんだ。だから、明るい上に情熱的っていう少々やかましい人なんだけど、それとは反対に母さんの方ははかなり冷静な人で。ホント、オセロみたいに真逆な性格の人たちなんだよ。だからこそうまくいってるのかなとも思うけど。」 そう両親のことを話す弥一の横顔をかすみは静かに見つめる。 「あー、つまり何が言いたいかって言うと、いい人たちだからさ。その点は心配しないでね?」 かすみは微笑むと、 「全然心配していません。御子柴さんのご家族の方は皆さん良い方々ばかりですから。きっと、ご両親も素敵な方々なんでしょうね」 そう話すかすみに、弥一は微笑むと、 「そういえば、かすみさんのご家族ってどんな方たちなの?今さらだけど、聞いたことがなかったなあ、って。」 弥一にしてみれば、いや弥一だけでなくほとんどの人にとって何てことのない質問だと思うが、かすみはその質問に一瞬フリーズすると、 「うちは、両親共にもう亡くなってましてー」 実際には父親の方は生きていたが、16年前、とあることから自分はもう死んだものとして今後一切、連絡を取ろうとなんて思うなと言われた。また、父自身も、かすみのことは死んだものとすると
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96話

御子柴家の庭園は実に見事だった。 建物へ向かって伸びる石畳には、所々に和モダンな石灯籠が置かれ、そこで煌々と灯る灯篭のオレンジの灯りが何とも趣深い。 さらに、石畳の両サイドには白砂利と苔や石の配置の仕方で川や山を表現した枯山水が広がる庭園は、庭の四隅に置かれたライトに照らされ、その美しく風情ある姿が存分に映し出されていた。 だが、そんな素晴らしい風景を楽しむような心の余裕は、残念ながらこの時のかすみにはなかったのであった。 今までが嘘だったかのように、弥一と親しく接することができていることが嬉しかった。 まるでシャーシャー猫が懐いてくれたみたいだった。今まで手を焼いた分、余計に愛着が湧くように、かすみの喜びもひとしおであった。 だが、今のこの状況は、親しいとかそんな域を遥かに超えているように思える。 こういったことには縁がなく、とんと鈍いかすみであっても、弥一の自身に対するこれらの態度が、異性としての好意であることくらい、容易に自覚できた。 しかし、なぜ。一体全体、何があってこうなった? 彼には、例え別れてしまったとはいえ、その後も一途に想いを寄せる女性がいたではないか。いらっしゃいましたよね? なのに、そんな彼がなぜ自分とこんな風に手を繋いでいるのだろう、とかすみは少し前を歩く弥一に目をやった。 こんな、若くて魅力に溢れた美青年が、まさか自分のことを? いやいや、ありえないでしょ。 ただ、一時の気の迷いに過ぎないとはいえ、何があってこうなっているのかが、彼女にはさっぱりわからないでいた。 そんなことをぐるぐる考えている内に、いつの間にか御子柴家の邸宅の前まで来ていた。 静謐(せいひつ)な美しさを纏う和モダンな大邸宅は、大邸宅とはいえ、成金が建てるような豪華さをひけらかすためだけの品格に欠けるような代物では到底なかった。 ただ、そこに存在するだけで圧倒的な品格を放つ。 正しく日本のトップを誇る御子柴家が住むに値すると言えるべき邸宅であったのだった。 弥一は格子戸でできた玄関の前に来ると、かすみの方に振り返って、 「我が家へようこそ。」そう言って笑いかけると、 「ただいま。」と、かすみと手を繋いだまま、格子戸を引いて中へと入る。 と、パンっ、という弾けるような音に弥一が「うわっ」と驚い
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97話

まだ格子戸を跨いでいなかったかすみは、玄関先で起こった先程の出来事は全て弥一の背中に阻まれて見えていなかったために、状況を把握できていなかった。 だが、目の前の弥一がキラキラしたテープを頭や肩から垂らしながら苦しそうに咽せている後ろ姿に、 「御子柴さん、大丈夫ですか?」そう、心配そうに声をかける。 弥一の激しく咽せる音にかき消されながらも、聞き覚えのあるその声に、咲希は動きを止めた。 「え、嘘。まさかと思うけど、お兄の言う彼女ってー」 弥一は涙が滲んだ目で咲希を睨みつけると、格子戸を目一杯開けてみせた。 するとそこに、先程まで戸に隠れていたかすみの姿が露わになる。 かすみの姿を目にした咲希は、手にしていたバズーカを放り投げると、 「うっそ⁉︎まさか、かすみさん⁉︎早苗さーん‼︎かすみさんだよー!料理なんて後にして、早く来てー‼︎」 それから、咲希は急いでサンダルに履き替えるとかすみの元へ走ってくるなり抱きついた。 「かすみさん、久しぶり〜。んー、やばい、嬉しすぎる〜(泣)!」 かすみも抱き返そうとするが、片方の手は未だ弥一に握られたままだったので、空いている手だけで抱き返した。 それに気づいた咲希が、自分を抱きしめていないほうのかすみの手を辿った先で、その指がが弥一の指と絡んでいるのを見ると、顔を顰めて、 「ちょっと。女子の感動の再会に水を差さないでくれます?しかもお兄の分際で恋人繋ぎとか生意気!離しなさいよ!」 弥一は咲希を見下ろすと、 「俺の分際でってどう言う意味だよ?てか、先にかすみさんと手を繋いでたのはこっちなんだ、むしろ邪魔なのはお前のほうなんですけど?てか、香水臭いんだよ。かすみさんに変な匂いをつけないでもらえます?離れろ!」 美男美女に挟まれたかすみは、喜んでいいのやら止めに入ったほうがいいのやらがわからず、二人の間でされるがままになっていた。 と、そんな三人を傍で見ていたジョンが、 「No,way...(ありえない...)」 と、呟くと、 「Tomoe!Hurry!Come here,now!!(巴!早く!今すぐこっちに来てくれ‼︎)」 と、家の奥に向かって大声で呼びかけた。 父であるジョンが英語で話す時は、ものすごく興奮した時か、あるいは緊急事態のときであった
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98話

それから巴は、かすみのその白い頬に自身の手をそっと添えた。 かすみを見つめる巴の目からは今にも涙が溢れそうなほどに潤んでいる。 母の涙など初めて目にした弥一と咲希は、互いに驚いたような、それでいて少し困惑したような表情を浮かべていた。 後から巴について来ていた早苗も、その光景に目を丸くした。 そしてもちろん、かすみもひどく驚いていた。かすみが弥一たちの両親に会ったことはなかったはずである。それなのに、目の前の巴の自分を見つめる目はどう見ても初対面の者に向けるようなものではなかった。 そんなかすみの動揺した表情に、巴はハッとして、かすみの頬に添えていた手を慌てて離し、目元を手でサッと拭うと、 「ごめん、なさいね。知り合いに、あまりにそっくりっだたものだから、つい過去に戻ったような気がしてしまって。」 そう声を詰まらせながら説明すると、 「私は弥一と咲希の母で、御子柴巴といいます。彼は私の夫で二人の父でー」 「御子柴ジョナサン・エドワードです。気軽にジョンって呼んでね。どうぞ、よろしく。」 咲希はかすみをその腕の中から解放し、彼女が両親に挨拶をしやすいようにした。が、弥一がその手を繋いだままであることに冷めた視線を向ける。 弥一はそんな咲希の視線には気づいていたがお構いなしだった。 たった一週間と思われるだろうが、自分とかすみはたまたま運良く今日会えたに過ぎなかった。今日を逃してしまったら、次に会えていたのはいつのことになっていたのやら。 さらには強力なライバルの存在もあって、今の弥一にとってはもはや周りの目などどうでも良かった。かすみが嫌がらない範囲で自分のしたいようにする。そう決めた。 だから絡めた指だって離さない。 弥一はその状態のまま、 「父さん、母さん、こちらは白石かすみさん。おばあさまの紹介で知り合ったんだ。父さんと母さん以外は、早苗さんをはじめ、皆彼女のことを知ってる。」 そう、両親にかすみを紹介した。 紹介されたかすみは、 「はじめまして、白石かすみと申します。訳あって、御子柴家の皆さまには大変お世話になっておりました。本来であれば、こんな風に顔を出せる立場ではないのですがー」 そう言うかすみに、弥一と咲希は揃って「そんなことない!!」と言い、早苗も首を縦に振って二人に同意
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99話

少し前を歩いていた早苗が、二人のためにダイニングへと続くリビングのドアを開ける。 それに対して、弥一が「ありがとう。」と言うと、早苗はいつもの鉄面皮のままに軽くお辞儀をして返した。 次にかすみが、「ありがとうございます、早苗さん。それから、少しぶりですね!」 早苗は嬉しそうに笑うと、 「たった一週間でしたのに、私にはかすみさんとの日々がずいぶん前のことのように感じられました。またこうしてお会いできるなんて、こんなに嬉しいことはないですよ!」 そう言って二人は手を取り合うと、きゃっきゃと言って再会を喜んでいる。 早苗の自身への対応の差に弥一は苦笑したが、旧友同士の再会のようにはしゃぐ二人を見つめる目は自ずと温かかった。 後から来た巴も、目の前の三人の関係をちゃんとは把握できていないものの、それでも仲睦まじい彼らの様子に自然と笑みを浮かべた。 それから、「中へ入りましょう!」と言うと、「ほら、ほら!」と言って、せっつくように三人を部屋の中へと押し込んだ。 リビングに入ったかすみは、目の前に広がったおしゃれで快適な空間に息を呑んだ。 檜の香りがほんのりと漂う床板はピカピカに磨き上げられ、それを間接的に照らす天井や壁の照明ライトが実におしゃれだった。 リビングの奥にある小上がりになった畳の和室には、置かれたテーブルの上に白と青のカスミソウが花瓶に飾られ、何とも言えない情緒が漂っている。 さらに、かすみの鼻腔が美味しそうな料理の香りを嗅ぎつけた。 かすみがその香りを頼りに目をやると、ダイニングテーブルの上に並べられた数々のごちそうが目に入る。 かすみはそれらを目にして思わず、「わあ!」と感嘆の声を上げる。 かすみのキラキラ輝いた目を前に、弥一は顔を綻ばせると、 「かすみさんって案外食いしん坊?」 そう聞かれたかすみは、恥ずかしそうに俯いたので、 「何で俯くの?俺も食べるのが好きだから、かすみさんもそうなのかなって思って喜んでたんだけど?」 「卑しく見えたかな、と思いまして。」 「え、なんで?美味しそうな料理があったらテンションが上がるのは普通のことじゃない?俺なんて、かすみさんのご飯食べてた時はしょっちゅうだったよ?」 かすみはパッと顔を上げて弥一の顔に目をやった。 彼は何か変なものでも
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100話

そんなかすみに、弥一は「ハハっ」と笑うと、 「じゃあ、着替えてくるね。」と、かすみに言ってから、他の二人に向かって、 「俺が部屋に行ってる間、かすみさんのことお願いね。」 そう言うと、弥一はリビングから出て行った。 弥一がリビングから出ていくとい同時に、巴が、 「かすみさん、突っ込んだことを聞いてもいいかしら?」 「あ、はいっ。」 「さっきのうちの子の話だと、かすみさんとうちの子は母の紹介で知り合ったと言っていたわよね?あ、私の母というのは御子柴八重子のことなんだけど。」 かすみは、巴が八重子の娘だということにものすごく納得がいった。彼女が纏う美しく、凛とした容姿と雰囲気は八重子を彷彿とさせた。 巴は話を続けると、 「それでね、聞きたいことっていうのは、ずばり!あの子の態度からしても、かすみさんとウチの子は恋人ということでいいのかしら?」 気のせいだろうか。そうかすみに聞く巴の目には、かなりの期待が込められているように見える。 かすみはお得意の眉をハの字にする表情で、 「あ、いいえ。違います。私と御子柴さんはー」 そう言いかけて、ふとかすみは考える。 自分と彼との関係は、言葉にするなら何なのだろう、と。 もちろん恋人などではない。今の彼はきっと、何かの感情と恋愛感情とが混同してしまっているのだろう。ただ、何の感情と混同しているのかまでは定かではないが、勘違いをしていることだけは間違いない。 とはいえ、友達、と呼ぶのも違うと思われる。 同居人だったというのが、事実である上に一番しっくりくるが、そんな言葉で先程の彼の態度を含めて納得してもらえるのだろうか。 そう考えたかすみだったが、一か八かで、「御子柴さんと私は同居ー」 その瞬間、ガチャッとリビングの扉が開いて、 「ママ〜、パパと一緒にちゃんと片付けたよ!ほら、これが証拠!!」 と、咲希の言葉によりかすみのは遮断された。 咲希は携帯電話の画面を巴に向けてかざした。 そこにはきれいになった玄関を撮った画像が写し出されれている。 それを見た巴が“はいはい、わかったから”と言ったように頷くのを見て咲希は、 「ねえ、何の話ししてたの?」 「かすみさんと弥一との関係についてよ。」 咲希は頬を膨らますと、 「おばあさ
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