竜斗は向き直り、哲也の前に一歩一歩近づくと、見下ろすように笑いかけた。その瞳には嘲りの色が浮かんでいる。「ああ、確かに長年夢見てきたよ。そしてようやく手に入れたんだ。大切なものを大事にしない奴には罰が下る。お前の罰は、凛を永遠に失ったことだ。ああ、そうだ。今の凛はお前の妻なんかじゃない。彼女はテレビ局の優秀な記者で、自分らしく生きているんだよ」哲也の目は血走り、蒼白だった顔が怒りで赤黒く染まった。目の前の男を今すぐ八つ裂きにしてやりたかったが、四肢には力が入らず、ただ憎悪を込めて睨みつけることしかできなかった。「凛に近づけば、ただじゃ済まない!彼女から離れろ!」この怒り狂いながらも何もできない無様な姿を見て、竜斗の心に奇妙な快感が湧き上がり、すっかり機嫌が良くなった。竜斗はかつて、哲也と凛が手を取り合って教会で結婚式を挙げる姿を、街中に二人の仲睦まじい写真が溢れるのを、ただ指をくわえて見ているしかなかった。凛の幸せを心から祝福してはいたが、ただの一瞬たりとも納得できた日はなかった。本来なら、凛は自分の妻になるはずだった。自分は婚約していたのだ。好奇心から学校の音楽室に凛をこっそり見に行ったことを、竜斗は何度も後悔した。スポットライトを浴びて静かに歌う凛の姿が心に深く焼き付き、それ以来、歯止めが効かずに毎日彼女の後を付け回すようになってしまったのだから。あの時の一目惚れが、一生の執着を植え付けた。だが今、もう一度選び直せるとしても、間違いなく音楽室へ行き、再び凛を愛してしまうだろう。「せいぜい足掻くことだな」そう言い残し、竜斗は踵を返して洞窟を出た。哲也の体力が回復しないうちに彼を撒き、凛の元へ戻るために。竜斗には分かっていた。凛はもう、哲也の顔など見たくもないのだと。そう思うと、自然と足早になった。「待て!凛はどこにいる!」哲也の地を這うような咆哮が洞窟に響く。彼は手足を使って這い上がろうとしたが、再び地面に崩れ落ちた。全身の傷がズキズキと痛み、心臓は息が止まるほど激しく脈打った。本当に、凛を失ってしまうというのか?20年も愛し合ってきたんだ。そんな簡単に断ち切れるはずがない。そんなの、絶対に信じない。これまでずっと、凛を大切にしてきた。何よりも優先し、できる限りのものを与えてきた。
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