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51話

 店から出る途中、成也が足を止めた。「先生、すぐに終わるから買い物していい?」「いいですけど、買い過ぎないでくださいよ。これから塾にも行くんですから」「分かってるって」「では、外で待ってますからね」 千夏は成也を残し、外へ出る。秋特有の哀愁に満ちた風が、千夏の頬を撫でる。「確か……あの辺に……。あった」 上を見回すと、雨よけについてる監視カメラを見つける。栄作が将馬を店内に連れ戻すのをとらえたカメラだ。「んー、場所的にここら辺、かな?」 数歩進んで立ち止まると、再び監視カメラを見上げる。普段は気にも留めないが、こうしてまじまじと見ると、大きな目に見えて少し気味が悪い。それも単なる単眼ではなく、映像を記録する機能まであるのだから尚更だ。こうしてじっと見ている千夏の姿も、淡々と記録されていると思うと居心地の悪さを覚える。(有益な情報くれてるのに、こんなこと思うなんてね) 自分の思考に内心苦笑すると、店先にある銀杏木《いちょうのき》の元へ行き、監視カメラの死角へ行く。あの大きな目の視界から外れたと思うと、少しほっとする。「先生、おまたせ」 茶色の紙袋を小脇に抱えた成也は、千夏を見つけると小走りで駆け寄る。その様は無邪気な子供のようで微笑ましい。「何買ったんですか?」「弁護士助手の教科書だよ」 気になりはしたが、しつこく聞くのも躊躇われる。そうですかと答えると、スマホで地図アプリを起動し、ふたりが通っていた塾へのルートを出した。「次は塾に行きましょうか」「うん。きっと同じ学校に通ってる子もいるだろうから、事故死のことも聞けるかもね」「そう、ですね……」 二十歳にすらならずに亡くなった正孝のことを考えると、心が痛み、自然と俯いてしまう。「先生って優しいね」「え?」「だって、若いのに死んじゃった正孝くんが可哀想とか考えてたんでしょ」 図星を突かれ、千夏は丸くした目を成也に向ける。成也は苦笑しながらその顔を見つめる。「本当に分かりやすいね、先生は。そういうとこ、好きだよ」「からかわないでください!」「はははっ、ごめんって。ほら、行くよ」 千夏が顔を真っ赤にして言うと、成也は先に歩き出す。千夏は隣に並んで歩くと、成也の横腹を突いた。驚いた成也が妙な悲鳴をあげ、千夏は笑う。
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52話

 塾に着くと、塾生達がぞろぞろと建物の中へ入っていく。彼らは自分達を見る千夏達をチラ見してはひそひそ話をする。塾は雑居ビルの2階にあるようだ。(嫌なタイミングで来ちゃったな……) 千夏は好奇心を隠そうともしない彼らの視線に、苦虫を噛み潰したような顔をする。元々視線を向けられるのが苦手な千夏だが、中でも学生達の視線はおぞましいとさえ思う時がある。 相手のことなどまったく配慮せず、自分の好奇心を満たすためだけのものだというのが、嫌というほど伝わってくる。それが怖かった。「顔色悪いよ、先生」「大丈夫ですよ。塾生達も落ち着いてきましたし、私達も入りましょうか」 千夏は平静を装いながら、まばらに入っていく塾生達と共に2階へ行く。どうやら2階全体が塾になっているらしく、教室が3部屋あり、その奥に事務室があった。 事務室のドアをノックするとメガネをかけた中年女性が出てきて、訝しげな顔をしてふたりを交互に見る。「どちら様でしょうか?」「笹塚法律事務所の本条千夏と申します。こちらは助手の末安さんです」 千夏が名刺を渡しながら自己紹介をすると、女性はまじまじと名刺を見た後、ドアを大きく開けた。「どうぞお入りください」 中に入ると4人掛けのソファを勧められた。並んで座ると、女性は緑茶と菓子受けを出して向かいの席に座る。狭い事務室の壁は本棚で隠れ、中央には6つの机が向かい合って並べられている。小さな職員室のようだと千夏は思った。「私は事務員兼掃除係の伊藤理恵です。弁護士さんはどうしてここへ?」 眼鏡の奥の瞳は、好奇心で輝いている。(こういう人って、自分の憶測を事実のように話すことがあるから気をつけないと) 千夏は気を引き締めると、警戒されないように笑顔を作る。「ここに通っている常陰将馬くんと正孝くんについて聞かせてもらいたいのですが……」「あぁ、あのふたりね。講師達は将馬くんのことよく思ってるみたいだけど、私はそうは思わないね。塾が終わっても、ふたりで一緒に勉強してるのよく見るんだけど、正孝くんのことバカにしてたもの。それに、私が空いた教室を掃除してたら「事務員の仕事だけじゃなく、清掃員の真似事までしないと食べていけないなんて大変ですね」なんて言っちゃってさ。本当に感じ悪い子!」 理恵は千夏の言葉を遮ると、一気に話して煎餅をかじった。彼女の勢いに、ふ
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53話

「そ、そうなんですね……。ふたりはよく居残りしてたんですか?」「そうよ。あのふたり、いっつも居残ってたからなかなか掃除できなくて困ってたの。でもね、正孝くんははやく帰りたかったんじゃない? 本人の前ではあんまり顔に出さないようにしてたけど、将馬くんが先に帰ると疲れきった顔してたもの。そうそう、正孝くん亡くなったのよね? あ、もしかしてあなた達その件で来たんでしょ? やっぱり将馬くんが殺しちゃったの? そうなのね!? いつかやるとは思ってたけど……」「待ってください。確かに常陰くんの件で来ましたが、少し違います。ちょっとしたトラブルがあったので、常陰くんがどんな人間なのかこうして聞いて回ってるんです」 理恵の妄想とマシンガントークに困惑しながら止めると、理恵は心底つまらなそうな顔をした。「あっそう。言っとくけど他の講師や塾生に聞いたところでいい話は聞けないわよ? 将馬くんは皆の前では優等生でいるから。どうせ勉強ができるとか、優しくてイケメンとかしか言わないわよ。ところでちょっとしたトラブルってなにかしら? 受験勉強のストレスで万引きでもしたの? そんな気がしてたのよ。だってああいう子って……」「いいえ、違います。ご協力ありがとうございました。とても貴重なお話でした。先生、時間が押してるのでそろそろ次に行きましょう」 成也は営業スマイルを理恵に向けながら立ち上がる。千夏は成也の助け舟に感謝しながら理恵に礼を述べると、不貞腐れた理恵を置いて塾を後にした。「さっきは助かりましたよ、ありがとうございます」 雑居ビルから出ると、千夏は少し疲れた顔で言う。「いいって。俺があの場から立ち去りたかったってのが強かったし。次は学校だよね? このまま正孝くんの調査続けるの? だいぶ依頼から逸れてるけど」 成也は歩き出しながら質問をする。千夏は隣を歩きながら、力強く頷いた。「えぇ、もちろんです。どうも違和感だらけですからね。そもそも今回の万引きで弁護士が呼ばれること自体おかしいんです。資料によれば倉田さんはあんな態度でしたが、訴訟をするつもりがなかったんですよ。この場合、書類送検で終わるので弁護士は必要ありません」「確か、店が訴訟したり、子供が逮捕されたり、子供が何度も繰り返したりする時なら弁護士が必要なんだよね?」 手帳を開きながら言う成也に、千夏は満足げに頷
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54話

「そのとおりです。特に常陰くんみたいに反省しているように見えるなら、尚更書類送検のみなんです。いくらあの母親がヒステリックでも、常陰くんが弁護士を呼ぶのを止めてもおかしくない、というか、それが自然に思えてしまうんですよね」 千夏は生活安全課で母親をなだめていた将馬のことを思い出しながら言う。普通なら警察署に連れて行かれた子供がパニックになり、親がなだめたり叱咤したりする。あの母親の場合、一緒にパニックになっていても不思議ではない。素人達は警察署に連れて行かれたら逮捕されると思うのだから、それが当然だ。 だが将馬は罪悪感に苛まれているように見えたものの、至って冷静で、ヒステリックな母親をなだめるほど余裕があった。まるで自分がその日に帰れると知っているように見えてならなかった。「その言い方だと、先生もあの常陰将馬のこと疑ってる?」「えぇ、もちろん。最初は母親思いの優等生だと思ってましたが、それにしたって落ち着きすぎるんですよね。それと、倉田書店で見せてもらった映像に違和感を覚えたんです」「違和感って、どんな?」「うまく言えないんですけど、舞台のようだったというか……、カメラの位置を計算した動きに思えてならないんです」「よかった、先生もそう思ってて」 成也は気の合う友達でも見つけたような、無邪気な笑顔を作りながら言った。千夏はその笑顔を見ながら、よく笑顔ひとつでそんなにレパートリーがあるものだと感心する。「末安さんも、やっぱりあの映像おかしいって思ってたんですね」「いや、一目見た時から俺はあの子を疑ってたね。最初は同族嫌悪でそういうふうに見えちゃってるのかと思って自信なかったんだけど、先生のおかげで自信持てたよ、ありがとう」 憑き物が落ちたような顔で言う成也に、千夏は困惑した。確かにふたりは同じ系統の美形ではあるが、彼の言う”同族”とは、そういう意味ではないだろう。成也の言葉の真意がまるで見えない。
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55話

「何がなんだか分からないって顔だね」「末安さんと常陰さんのどこが同族なんですか?」「それぞれの人に合った媚び方を知ってるところ」「はい?」 あまりにも予想外な言葉に、千夏は思わず素っ頓狂な声を上げる。成也はそんな彼女を見て、小さく笑った。「食べ物の好き嫌いが人それぞれ違うように、好きな媚び方、嫌いな媚び方も人それぞれってこと。例えばさ、成金社長ならへこへこと頭下げられるのが好きで、平社員ならへこへこされるより、ちょっとした一言と一緒に珈琲でももらう方がいいとかさ」「平社員の例えは、媚売りというより気遣いに思えますが……」「下心があれば媚売りだよ」 分かってないなぁとため息をつく成也に、千夏は少しむっとする。「シンプルに言うと、俺もあの子も、一目で相手がどんな態度を取って欲しいのか分かるってこと。ついでに、客観的に見たら今の自分がどう見えるかもね。倉田書店で万引きしたり捕まったりしたのも、絶対わざと」「もしわざとだとしたら……」 成也がいきなり立ち止まり、難しい顔をして前を見るので、千夏は言葉を切って同じ方向を見た。気づけばもう学校に着いている。ふたりの少し先には黒いジャンパーを着た小太りの男が、何かを抱えて学校の敷地内を覗き込もうとしている。男の目線の先にはプールがあり、プールには警察が何人もいる。「どう思う?」「ものすごく怪しいですね。それにしてもプールに警察がいるということは、正孝くんはプールで亡くなったってことですかね? ……この季節に」「だろうね。とりあえずあの男を問い詰めてみよっか」 言い終わるや否や、成也は大股で男に近づき、男の肩を掴んだ。「あぁ、もう!」 成也の自由奔放ぶりに辟易としながらも、隣に並ぶ。「こんなところで何してんの?」「ひ、ひぃっ!? あ、いや、えっと……」 ドスの効いた成也の声に、男はビクビクしながら視線を宙に彷徨わせる。「末安さん、そんな声のかけ方しちゃいけません」「はーい」 成也は反省する素振りなど見せず、つまらなそうに返事をすると手を放した。
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56話

「すいません、私の助手が……」「い、いえ……。あ、そのバッジ! 弁護士さんなんですか!?」 千夏の弁護士バッジを見るなり、男は目を輝かせる。「え? えぇ、そうですが……」「あぁ、よかった。警察に話したら疑われるんじゃないかって迷ってたんですよ。弁護士さんなら大丈夫ですよね」 男はひとりで納得し、何度も頷く。彼が首を振るたびに、二重顎がたぷたぷと揺れる。「何? 季節外れのプール覗きでもしてたらヤバいもの撮れちゃったとか?」「ぼぼ、ぼ、僕はそんなんじゃない! 健全なオカルトマニアだ!」 成也が憫笑《びんしょう》すると、男は慌てて否定し、持っているビデオカメラを操作しだした。「昔この学校のプールで、この時期に人が死んだらしいんだ。いじめられっ子がいじめっ子に落とされたとか、暑いからってこっそり泳ぎに来たらそのまま溺れ死んだとかいろんな説があるけど、僕はいじめられっ子の霊だと思うね。この時期のプールは、もう水が汚れてるだろうから」「それで幽霊を撮りに来たんですか?」「そう! そしたらとんでもないものが撮れちゃったんだ。撮影したのは、ちょうど今立ってる辺りなんだけど」 男は千夏の言葉に頷くと、ふたりにビデオカメラで撮った映像を見せてきた。フェンスが見えないことと映像から、フェンスによじ登って撮ったことが分かる。暗くて顔は見えないが、人がひとり、プールサイドに立っている。人影は両手をバタつかせながら倒れ、水飛沫を上げた。「最初はいじめられっ子の幽霊だと思ったけど、家で見たら水飛沫があるのはおかしいと思って……。それで気になって来てみたら、警察がいたから事件なんだなって」 男はプールに目線をやりながら言う。つられてふたりもプールを見た。相変わらず数人の警察官や刑事が、難しい顔をしながらウロウロしている。「そんな重要な証拠持ってるなら、警察に渡せばいいじゃん」「無理だよそんなの! き、君だって、ぼぼ、僕のこと、季節外れの覗き魔だと思ってたじゃないか! けけ、け、警察に言ったら、きき、きっと、同じ勘違いされて、た、逮捕されちゃうじゃないか!」 男の怯え方からして、過去にその手の冤罪をかけられたのだろうと悟った千夏は、男に優しく微笑みかけた。
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57話

「その映像、私から警察に届けますよ。あなたのことは伏せますから」「よかった……! じゃあ今から帰ってこのデータだけ移してきちゃうから待っててください。家は、ここから歩いて5分のところにあるんで」「んー、大事な証拠だし、ついていこっかな。いい? 先生」「え? 私はいいですが……」「あ、う、うん……。家の外で待っててくれるなら……」 男を見ると、顔を引きつらせながら頷いた。覗き魔呼ばわりした成也を警戒しているのだろう。男が可哀想だと思った千夏だが、成也は男の肩を叩き、歩きだしてしまった。「よし、じゃあ行こう」「う、うん……。本当に、家の前で待っててよ……?」 怯えながら頷く男と、胡散臭い笑顔で男の肩をポンポン叩きながら歩く成也。千夏には気の弱いオタクを恐喝するチンピラに見えてしまう。「うーん、末安さんだけに任せて大丈夫かな?」 ついていこうか悩んでいると、千夏のスマホが震えた。画面を見ると、知らないケータイ番号から電話がかかってきている。不審に思いながら電話に出て、スマホを耳にあてる。「もしもし、どちら様ですか?」『弘泰だけど。調査は進んでるか?』「弘泰くん!? なんであなたが私の番号知ってるの?」 あまりにも意外な人物に驚愕し、大声を出してしまう。『うおっ!? 声デカい。鼓膜破るつもりか……』「あ、ごめん。びっくりしちゃって……」 呆れ返るような弘泰の声に恥ずかしくなり、千夏は指先で頬をかきながら言う。『まあいいけど。先輩にお前の名刺借りて電話したんだよ。ところで、あいつが親友とか言ってた本田正孝については調べてるか?』「えぇ、今調べてる途中なんだけど、彼、学校のプールで亡くなったの? 学校に来たらプールに警察がいるんだけど……」『あぁ、らしいな。最初は事故死だと思われてたんだが、不審な点があったから殺人に切り替えて捜査するらしい』「なんで生活安全課の弘泰くんが、そんなこと知ってるの?」 警察の内情などはあまり詳しくないが、事故死にしろ他殺にしろ、生活安全課は畑違いであることくらいは千夏でも分かる。
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58話

『この歳でくん付けはなんか嫌だからやめてくれ……。他の課の奴らとも仲がいいからな。どうやら正孝の足は縄跳びで縛られてたらしいぞ。遺体として発見された時には解けてたけど、圧迫痕があったって聞いたぞ』「圧迫痕……。そっか、ありがとう。ところで、くん付けがダメならなんて呼んだらいいの?」『呼び捨てにしてくれ。じゃあな、忙しいから切るぞ』 弘泰は一方的に言うと、電話を切ってしまった。「もう、なんなの……。にしても、圧迫痕か……」 先程の男に見せてもらった動画を思い出しながら、ぽつりと呟く。何故正孝が手をバタつかせていたのか分からなかったが、これで説明がつく。足を縛られて動けない彼は、疲労か風に煽られたかでバランスを崩し、プールに倒れないように腕をバタつかせていたのだろう。 1つの謎は解け、新たな謎が生まれる。「もし常陰くんが犯人だとして、どうしてすぐに突き落とさなかったの? あんな方法なら、正孝くんが縄跳びを解いたり、大声で助けを呼ぶ可能性だってあったのに……」 千夏は拳に顎をのせ、小さく唸る。「あの……」「ん?」 遠慮がちな声に顔を上げると、薄紫のパーカーにジーパンの少女が千夏を見つめている。その目は何かを思い詰めているようで、今にも涙が零れ落ちそうなほど潤んでいる。「弁護士さん、ですよね? 本田くんの事件を担当してるんですか?」「元は別の事件を担当していたんですけど、どうやら本田くんの事件が関係してるみたいで、調べてる最中なんです」「もしかして常陰くんが……。あ、いえ、それよりも、本田くんの事件で、伝えたいことが……。警察にも言おうとしたんですけど、追い払われちゃって……」 そう言って俯く彼女の手には、コンビニのコピー機のそばに置いてある写真用の封筒が握られていた。「それは写真ですか?」「はい。本田くん、常陰くんにいじめられてたんです。先生に言っても、優等生の常陰くんがそんなことするわけないって相手にしてもらえなくて……。だから、証拠を集めようと写真を撮ってたんです」 少女は震える手で、千夏に封筒を手渡した。早速封筒を開けて見てみると、将馬が正孝に牛乳パックを押し付ける写真、本を取り上げてる写真、肩に手を置いてる写真、そして、ふたりでプールへ向かう写真が入っていた。どれも将馬は楽しそうにしていて、正孝は嫌そうな顔をしている。それでも
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59話

「本田くん、プールで見つかったんですよね? この写真、証拠になりませんか?」 少女はプールへ向かう写真を指差しながら、すがるように千夏をじっと見る。「どれもいじめの証拠としては弱いですが、あなたの言うように、この写真は証拠になると思います」「よかったぁ……。常陰くん、学校ではなかなか尻尾を出さないから……。本田くんが生きてる時にいじめの証明はできなかったけど、犯人の証拠を撮れて、本当によかった……。本田くん、泳げないのに突き落とされて、可哀想……。きっと、苦しかったよね……」 とうとう少女はその場でしゃがみこみ、泣きだしてしまった。千夏は隣でしゃがみ、彼女の背中をさすってやる。「辛かったね、頑張ったね。あなたの努力は無駄にしません。ここだと危ないので、少し場所を変えましょうか」 千夏の言葉に何度も頷くと、少女は千夏に支えられながら立ち上がる。どこか落ち着ける場所はないかと見回すと、学校の斜め向かいに公園を見つけた。木陰にベンチも見える。「向こうのベンチに行きましょうか」 頷く少女の肩を抱きながら公園へ行くと、成也に公園にいるとメールをした。「少し待っててくださいね」 自販機を見つけた千夏は、お茶を3本買うと少女の隣に座り、1本手渡した。「ありがとうございます」 少女はか細い声で言うと、お茶を飲んで呼吸を整える。「私は本条千夏といいます。あなたは?」「宮野マリです」「マリちゃんね。本田くんについて、知ってることを教えてください。答えたくないことは、答えなくていいですから」「はい……。本田くんは、すごく気が弱くて優しい人だから、1年生の時から、他の人達にいじめられてたんです。でも、2年生になってクラス替えをしてから、常陰くんが本田くんを助けてくれて、ホッとしました」「当時は常陰くんと本田くんって、仲が良かったんですか」 千夏の質問に、マリは小さく唸る。「うーん、どうなんでしょう? いじめがなくなった後、時々話してるのは見てたんですけど……。私、どうして常陰くんが本田くんを助けたのか、よく分からないんです。ふたりは中学も別で、1年の時はクラス別でしたし……。一応同じ塾には通ってたみたいですけど……」「いつから同じ塾に通ってたか、分かりますか?」「分からないです。本田くんは、2年生の2学期あたりから通ってたと思うんです」 千夏は
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60話

「では話を戻しましょう。どうして本田くんがその時期に通いだしたって分かったんですか?」「本田くんは読書が好きで、放課後は図書室で本を読んでたんです。私も読書が好きで、一緒に読んでたんですけど、2学期になってから図書室に来なくなったんです。気になって聞いたら、塾に通わされてるって言ってたんです。そうそう、夏休みも、図書館で見かけることがなくて……。今思えば、夏休みから通ってたと思います」 一気に喋って疲れたのか、マリは小さく息を吐くと、お茶を飲んだ。「なるほど、そうでしたか。常陰くんが本田くんをいじめているのに気づいたのは、いつ頃ですか?」「3年生になってすぐです。放課後にスマホ忘れてるのに気づいて、教室に取りに行ったんです。その日、国語の授業で本田くんが音読してたんですけど、漢字の読み方間違えちゃって……。常陰くんは何度もそこを読ませて、定規で本田くんのこと叩いてました……」「酷い……。皆の前では、常陰くんがいじめをしている素振りはなかったんですか?」 千夏の質問に、マリは首を縦に振り、目元を拭った。「はい……。話すのも時々でしたし……。でも、裏では私が見たことよりも酷いことされてたのは間違いないんです。だって、本田くん、喋れなくなったから……」「失声症ですか……」 あまりにもショッキングな話に言葉を詰まらせる千夏の代わりに、成也が口を開く。失声症という言葉が、千夏に重くのしかかる。「それは、いつ頃からですか……?」 質問をする千夏の声は震えており、マリは心配そうに彼女の顔を覗き込む。「先生はとても優しい人だから、そういう人の話を聞くと、自分の事のように悲しくなってしまうんです。大丈夫だから、あなたの無理のない範囲で続けてください」 成也は千夏の手を握りながら、話を促した。「あ、はい……。本田くんが喋れなくなったのは、殺される1ヶ月くらい前からです。いつもホワイトボードを持ち歩いてました」「そうですか。ありがとうございます。また何か思い出すことがあれば、連絡ください。行きましょう、先生」 成也は千夏の代わりに彼女の名刺をマリに渡すと、その場を去るように千夏に促す。「そうですね。ありがとうございました」「いえ。こちらこそありがとうございます。本条さんみたいな優しい弁護士さんとお話できてよかったです」 マリはペコリと一礼すると、軽
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