Semua Bab 捨てられ料理人は諦めない: Bab 11 - Bab 20

90 Bab

11

 華やかなフレンチの世界とは全く違う。 けれど、ここには料理の基礎がある。(この店の料理人は、料理への情熱を持っている) 情熱と技術は、今の春菜にとって何よりも大切なものだ。 婚約者だった翔太が投げ捨てたそれらを大事にして、自分自身を立て直す。 最初の仕事場として、この古びた食堂はふさわしく思えた。 春菜は深く息を吸い込んだ。 ここから自分の足で立ち上がるのだ。誰の影にも隠れない、自分自身の人生を始めるために。 春菜は錆びついたアルミの引き戸に手をかけ、少しの力を込めて横に引いた。 ガラガラッ、と重たい音が、静かな下町の通りに響いた。 店内に足を踏み入れると、昭和の時代から時が止まったような空間が広がっていた。 床は油と長年の歩行ですり減っっている。 壁には日焼けして黄ばんだ短冊メニューがずらりと貼られている。実に多種多様なメニューだった。「肉野菜炒め定食」「サバの味噌煮定食」「カツ丼」。値段はどれも都心の相場より2、3割は安い。「いらっしゃい……」 厨房の奥から、くぐもった声が聞こえた。 声の主は、白い割烹着を着た年配の男性だった。 背中を丸め、大きな寸胴鍋の前に立っている。 顔には深いシワが刻まれ、どこか疲労の色が濃くにじんでいた。「あの、表の求人の貼り紙を見て来たんですが」 春菜が声を張ると、男性はゆっくりと振り返った。 その手には長年使い込まれて、柄が黒ずんだお玉が握られている。「求人……ああ、あれか。もう何ヶ月も貼りっぱなしで、すっかり忘れてたよ」 男性は自嘲するように笑い、コンロの火を止めた。「見ての通り、客も来ないし、もうすぐ店を畳もうかと思ってたところなんだ。だから、あんたみたいな若い人が来ても、払える給料なんて……」「お給料は、お店の売り上げを伸ばしてからで構いません」 春菜は男
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12:交差する視点

 大手IT企業・御堂ホールディングス本社ビル、最上階の社長室にて。 社長室の床は毛足の短いグレーのカーペットが敷き詰められ、壁の一面は床から天井までの全面ガラス張りになっている。 眼下には東京のビル群がミニチュアのように広がり、空には雲一つない青空が広がっていた。 徹底的に効率化された最新の設備が並ぶ室内は、機能的だが人の温かみが一切感じられない空間である。 そんな中、社長である御堂礼司(みどう・れいじ)は、手元のタブレット端末を指先でなぞった。 深く腰掛けた黒い革張りのチェアがわずかに軋む。 彼の顔立ちは彫りが深く、誰もが目を奪われるほど端正に整っている。 冷徹な知性を感じさせる切れ長の瞳が、画面のデータを無機質に追っていた。 日々のトレーニングによって鍛え上げられ、均整の取れた体には、上質な生地で仕立てられたネイビーのスーツが完璧に馴染んでいる。 頭の先から指先まで全く隙のない佇まいは、周囲を圧するような威圧感を放っていた。「社長。今月のレストランポータルサイトのレポートです。新規登録店舗数は前月比で微増。ただし、アクティブユーザーの伸びが鈍化しています」 秘書が、手元の資料をめくりながら報告する。 レストランポータルサイトは、御堂ホールディングスの事業の1つだ。 口コミを取りまとめるだけではなく、有望な店舗を見出すのも会社の仕事である。 いずれは自社開発のAI統合システム(予約、決済、仕入れの自動化)を、ポータルサイト掲載の飲食店に導入する計画もあった。 そうすれば自社で巨大なシェアを独占できる。 そのためのプロトタイプとして協業できる店舗を、礼司は探していた。(キャンペーンの打ち出し方にテコ入れが必要か) 礼司は画面をスクロールした。 膨大なデータがグラフや数値となって次々と表示される。「エリア別のワーストランキングを出してくれ」「はい。こちらになります」 秘書が手元の端末を操作すると、礼司のタブレットの画面が切り替わった。 
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13

 油の酸化した匂いと、年季の入ったステンレスの冷たい輝きが店舗の中に満ちていた。 みやこ食堂の厨房に入った佐伯春菜は、周囲をぐるりと見渡した。 換気扇は低い音を立てて回っているものの、長年の油汚れがこびりついているせいで、吸い込みがひどく甘い。 春菜はみやこ食堂の店主と交渉し、働くことになった。 とはいえ、店は閑古鳥が鳴いている。 このままでは遠からず店は潰れて、春菜は職を失ってしまうだろう。 そうならないように、まずはこの店の問題点を洗い出す必要があった。「さて、と」 春菜は腕を組んで、壁一面に貼られた黄色く変色したメニューの短冊を見上げた。 カツ丼、オムライス、ラーメン、チャーハン、アジフライ定食、ハンバーグ定食、肉野菜炒め、カツカレー、サンマ定食、冷やし中華……。 ざっと数えただけでも40種類以上ある。 春菜は思った。(いやいや、ファミレスじゃないんだから。高齢の店主1人でこのメニュー数を回せるわけがないわ)「宮本さん」 春菜が声をかけると、奥のシンクで洗い物をしていた店主の宮本泰造が顔を上げた。 年配の人物で、白い割烹着はところどころシミがあり、腰は少し曲がっている。「これ、全部の注文に対応しているんですか?」 春菜の問いに、宮本は布巾で手を拭きながら頷いた。「まあ、いつ常連さんが何を頼むか分からないからね。食材は一通り揃えてあるよ。昔は近くの工場から人がたくさん来て、毎日大繁盛だったんだ」(その常連さん、今は1人もいないじゃないですか) つい心の中でツッコミを入れてしまったが、もちろん口には出せない。 昼時だというのに、客席には誰も座っていない。 パイプ椅子の赤い座面がむなしく並んでいるだけだ。 春菜はため息を飲み込んで、厨房の奥にある業務用冷蔵庫の扉を開けた。 冷気とともに、複雑な匂いが漏れ出す。 庫内には用途の分からないタッパーがいくつも重なり、端が
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「ちょっと出汁の味を見せてもらっていいですか?」「どうぞ」 春菜は、コンロの上でとろ火にかけられている寸胴鍋に近づいた。 お玉で少量をすくい、小皿に移して口に含む。 昆布と鰹節の香りがしっかりと鼻に抜けていった。(うん、やっぱり。出汁の引き方は素晴らしいわ。昆布は利尻かしら。鰹節の処理もきちんとしている。基本の技術は確かね)「出汁はとても美味しいです。でも、メニューが多すぎて仕込みに手が回らず、肝心の温度管理や火入れが雑になっています」 春菜はきっぱりと言い切った。 あまりきつい言い方はしたくなかったが、こと料理で妥協はできない。「結果として料理の質が落ちて、お客さんが離れていっているんです」 宮本は視線をさまよわせ、言い訳をするように口を尖らせた。「それは……まあ、そうかもしれないが。1人でやってるんだから仕方ないじゃないか」 春菜と宮本は客席に移動して、向かい合って座った。 赤いパイプ椅子は冷たく、座り心地は決して良くない。 テーブルの表面は少しべたついている。 春菜はスマホを取り出し、テーブルの上に置いた。「宮本さん、このままでは半年以内に店は潰れます」 春菜はスマホのメモ帳に数字を書き出しながら告げた。「利益率と回転率を改善するために、打てる手は多くありません。――メニューを大幅に減らしましょう」「減らすって、どれくらいだい?」 春菜は指を3本立ててみせた。「3種類です。『サバの味噌煮』『豚の生姜焼き』『鶏の唐揚げ』。これだけで十分です」 宮本は目を見開いて、身を乗り出した。「馬鹿な。そんなに減らしたら、もっと客が来なくなる。ラーメンを楽しみにしている客だっているんだ」「そのラーメンを頼むお客さんは、月に何人来ますか?」 春菜の問いに、宮本は口ごもった。「それは……月に4、5人くらいだが」
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 春菜はメモ帳に書き込んだ数値を宮本の方へ向けた。「メニューを絞ることで、食材ロスを極限まで減らせます。仕入れの効率が上がり、原価率が下がる。その分、1つの料理にかける手間と時間を増やすことができるんです」 春菜は宮本の目を見据えた。「美味しい料理を出せば、お客さんは必ず来ます」 合理的な数値と論理的な提案だ。数字は嘘をつかない。 春菜は料理人だが、レストラン『一ノ瀬』で経営の補助もしていた。 何もかも投げっぱなしにする翔太を助けて、最近は補助どころか経営も春菜がメインだったかもしれない。 春菜だって本当は、思う存分色々な料理を作ってみたい。 原価率など考えず、高級食材で腕を振るってみたい。 けれど店を経営するためには、料理人の理想だけではやっていけないと学んだのだ。「常連さんのためにも、質を高めた料理を用意した方がいい。美味しい料理を提供するのが、食堂の存在意義です。そうではありませんか?」 宮本はメモ帳の数字と春菜の顔を交互に見た。 彼の顔には諦めと戸惑いが浮かんでいた。「理屈は分かる。でも、客が来る保証なんてどこにもない」(このままでは客が来る来ないの前に、倒産の危機だというのに。頑固な人ね。それだけこの店に思い入れがあるということだろうけど) 春菜はどう説得しようかと考えて、1つ思いついた。 彼女は料理人だ。 であれば、料理で分かってもらう以外にない。「なら、食べて判断してください」 春菜は席を立つ。 厨房の入り口にかけられていた、真新しい白いエプロンを手に取った。 腰の後ろで紐をきゅっと結ぶ。「私が今から、その生姜焼きを作ります。みやこ食堂の調味料を使って、最高の一皿に仕上げてみせますから」 春菜は再び厨房に戻って、まな板の前に立った。 冷蔵庫から豚のロース肉を取り出し、包丁で筋を丁寧に切っていく。 宮本は腕を組み、厨房の隅から春菜の動きを観察している。「肉は常温に戻しておきま
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「ほう……見事なもんだ」 宮本が呟く。「ここでタレを一気に加えます」 ボウルのタレをフライパンに流し込む。 ジュワッ! 香ばしい醤油と生姜の香りが爆発的に広がった。 フライパンを小刻みに揺すり、タレの水分を飛ばしながら肉に絡めていく。 タレをトロッとなめらかに仕上げて、深いコクを引き出す技術。 フライパンの中の泡が大きくなり、次第に艶やかなタレへと変化していく。 これこそが、平凡な定食を一段上の料理に昇華させる技だった。(うん、やっぱり。みやこ食堂の味は、工夫さえすれば化けるわ。すごいよ、宮本さん) 照りが出た豚肉を皿に盛り、千切りキャベツを添える。「お待たせしました。豚の生姜焼きです」 春菜は宮本の前に皿を置いた。 あらかじめよそっておいた白いご飯の茶碗と、店にあった味噌汁を横に置く。 宮本は割り箸を割り、豚肉を1枚持ち上げた。 タレがトロリと絡みつき、食欲をそそる香りが立ち上る。 宮本は肉をご飯に乗せて、口に運んだ。「……っ」 宮本の手が止まった。 肉は驚くほど柔らかく、噛むたびに豚の脂の甘みと生姜の爽やかな辛味が広がる。 なめらかに仕上がったタレは深いコクがあり、白いご飯を猛烈に欲する味だった。 宮本は無言のまま、2枚目、3枚目と肉を口に運び、ご飯をかき込む。 あっという間に皿は空になった。 箸を置き、彼は深く息を吐いた。「……負けたよ」 宮本は天井を仰ぎ見た。「こんなに柔らかくて美味い生姜焼き、食ったことがない。うちの店の調味料を使っているはずなのに。信じられんよ」「温度管理とタレの仕上げ方です。元はこの、みやこ食堂の味で間違いありませんから」 春菜は答えた。 彼女の言葉には、長いこと1人で味を守ってきた宮本への敬意がにじんでいた。 宮本
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17:リニューアルオープンの日

 佐伯春菜の料理人としての朝は早い。 みやこ食堂の換気扇のスイッチを入れると、低いモーター音が厨房に響き渡った。 次に春菜はシンクの蛇口をひねる。 冷たい水で手を洗い、真新しい白いエプロンの紐を腰の後ろできつく結んだ。 使い込まれたステンレスの作業台は、長年の摩擦で細かい傷が無数に入っている。 冷たい金属の感触を指先で確かめながら、春菜は本日の仕込みの手順を頭の中で組み立てていた。「おはようございます。随分と早いねえ」 背後から声が掛かる。 振り返ると、白い割烹着姿の宮本泰造が厨房に入ってくるところだった。 少し曲がった腰をさすりながら、宮本は不思議そうに周囲を見回している。「おはようございます。少し厨房の配置を見直していました」 春菜は作業台の上に並べた調味料のボトルや、サイズごとに分けたステンレスのバットを指し示した。「注文が入ってから提供するまでの時間を短縮するために、歩数を減らしたいんです。コンロの前に立ったまま、振り向くだけで必要な道具に手が届くようにしました」 塩、コショウ、醤油、みりん、酒などなど。 使用頻度の高い調味料は、右手を伸ばせばすぐ取れる位置にまとめている。 フライパンや鍋も、コンロの下の棚から取り出しやすいように並べ替えた。(フレンチの厨房に比べれば随分と狭い。でも2オペなら、これくらいコンパクトな方が絶対に回りやすいわ) 宮本は戸惑った顔で、配置が変わった厨房を見ている。「まあ、やりやすいようにやってくれればいいさ。昔からの慣れもあるから、最初は戸惑うかもしれないがね」「宮本さんの長年の経験はとても頼りになります。ただメニューを3種類に絞った分、ピーク時の提供スピードが命になります。仕込みの段階で作業の8割を終わらせておきたいんです」 春菜の言葉に、宮本はこくりと頷いた。 長年店を守ってきた店主に対する敬意を忘れず、しかし料理と経営の合理化については妥協しない。 それが春菜のスタンスだった。 注文が入っ
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「宮本さんの包丁さばきは素晴らしいですね。身の割れが全くありません」 春菜が素直に感心して言うと、宮本は少しだけ照れたように笑った。「魚を捌くのだけは何十年もやってるからね。これくらいはできないと」 切り分けられたサバの切り身をバットに並べ、春菜はお湯を沸かし始めた。  鍋から湯気が立ち上る。  沸騰したお湯に差し水をし、温度を下げる。「宮本さん、サバに霜降りをします。熱湯だと皮が破れてしまうので、80度くらいのお湯にくぐらせます」 春菜はサバの切り身をお湯に入れて、表面の色が白く変わった瞬間に引き上げた。  すぐに冷水を入れたボウルに移し、表面のぬめりや血合いを指の腹で丁寧にこすり落としていく。「定食屋のサバにそこまで手間をかけるのかい? お湯をかけるくらいは俺もやってたが、冷水で洗うなんて料亭みたいだ」 宮本が驚いたように目を見開いた。「定食屋だからこそ、ですよ。この一手間で、青魚特有の臭みが完全に消えます。宮本さんが引いた美味しい出汁を活かすためにも、魚の雑味は邪魔になりますから」 手先の冷たさを感じながらも、春菜は丁寧に血合いを取り除く作業を続けた。  妥協を許さない彼女の姿勢に、宮本も真剣な眼差しで手元を見つめている。 次は唐揚げの仕込みだ。  ボウルに醤油、酒、すりおろしたニンニクと生姜を合わせる。「鶏もも肉は、均等な大きさに切り分けます。火の通りを均一にするためです」「おうよ」 春菜の指示に従い、宮本が鶏肉をカットしていく。  タレの入ったボウルに鶏肉を入れ、しっかりと揉み込んだ。  ニンニクの刺激的な香りが鼻を突く。「衣は片栗粉と小麦粉のブレンドにします。片栗粉だけだと時間が経つと硬くなりますし、小麦粉だけだとサクサク感が足りません。7対3の割合がベストです」 春菜はバットに粉を用意し、タレを吸い込んだ鶏肉にまぶしていく。  余分な粉をはたき落とし、網の上に並べた。「唐揚げは二度揚げします」 春菜は
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 油の表面で泡が細かくなり、衣が濃いキツネ色に変わっていく。 春菜は視覚と聴覚を研ぎ澄まし、最高のタイミングで油から引き上げた。 油を切る金網の上に置かれた唐揚げは、食欲をそそる香ばしい匂いを放っている。「味見してみてください」 春菜は小皿に唐揚げを一つ乗せて、宮本に差し出した。 宮本は火傷しないようにフウフウと息を吹きかけ、唐揚げにかぶりつく。 サクッという軽快な音が響いた。「こりゃあたまげた」 宮本は目を見開いた。 噛んだ断面から、透明な肉汁がじゅわっとあふれ出ている。「外はカリッとしてるのに、中は驚くほどジューシーだ。肉が全くパサついてない。二度揚げってのはこんなに違うもんなのか」「ええ。温度管理さえ間違えなければ、誰でも同じように作れます。これで唐揚げ定食は大丈夫ですね」 春菜は謙虚に微笑みながらも、自分の技術への自身を深めていた。(唐揚げに生姜焼き、サバの味噌煮。和食の食堂でもやることは同じね。フレンチで培った技術は、この店でも役立てられる) 大衆食堂のメニューであっても、調理の基本原理はフレンチと同じだ。 食材のポテンシャルを最大限に引き出すためのアプローチに違いはない。「二度揚げなら、お客に出すまでの時間も短い。腹ペコの客を待たせずに済むねえ」「ええ」 宮本と料理の打ち合わせを終えて、春菜は手応えを感じていた。 ◇  午前11時半になると、みやこ食堂の入り口に、洗濯したばかりの藍色ののれんが掛けられた。 リニューアル初日の営業開始である。 昼時を迎えて、徐々に客が入り始めた。 先日は閑古鳥が鳴いていたが、多少の常連がいるのは本当だったらしい。 色褪せたガラス戸がカラカラと鳴って、近隣の工場で働く作業着姿の3人組が来店する。「いらっしゃいませ!」 春菜は客席に水を運びながら、明るい声で出迎えた。「おや、この店
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「じゃあ、俺は唐揚げ定食で」「俺は生姜焼き」「俺はサバ味噌にするわ」 男たちは次々と注文を口にした。全員、ちょうど3種類のメニューに分かれている。「かしこまりました。唐揚げ1つ、生姜焼き1つ、サバ味噌1つ!」 春菜は厨房に戻りながらオーダーを通した。(よし、ちょうどよく3種類バラバラの注文。動線の整理を試すいいチャンスね) 宮本に目配せすると、彼も理解したようで頷いた。 春菜は即座にフライパンを火にかけて、生姜焼きの豚肉を焼き始める。 同時に、隣のコンロで高温に熱した揚げ油に、一度揚げを済ませていた唐揚げを投入した。 宮本は炊飯器から白いご飯を茶碗によそい、小鉢の冷奴と漬物をトレイにセットしていく。  味噌汁のお椀に熱々の汁を注いだ。 2人の間に無駄な会話はない。  阿吽の呼吸で、互いの作業スペースを邪魔することなく流れるように手を動かしている。「生姜焼き、上がります」 タレの焦げる甘辛い匂いが厨房に充満した。  春菜は千切りキャベツの横に、照りの出た豚肉を盛り付けた。「唐揚げも上がります」 油を切ったきつね色の唐揚げを皿に乗せる。「サバの味噌煮も出来上がりだ」 宮本がサバの味噌煮を小鍋から丁寧に取り出し、器に盛り付けた。「お待たせいたしました!」 注文からわずか5分。3つの定食が作業員たちのテーブルに並べられた。「へえ、早いな。前はけっこう待たされたのに」 湯気を立てる料理を前に、男たちは割り箸を割る。「おお、唐揚げすげえ匂いだな」 唐揚げを注文した男が、大きな一口でかぶりつく。  サクッ、という衣の弾ける音が周囲に聞こえるほどだった。「うまっ! なんだこれ。すげえ肉汁だぞ」 男は目を見開くと、急いで白いご飯を口に放り込んだ。 生姜焼きを頼んだ男も、豚肉をご飯に乗せて勢いよく頬張っている。「タレ
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