Todos los capítulos de 捨てられ料理人は諦めない: Capítulo 11 - Capítulo 13

13 Capítulos

11

 華やかなフレンチの世界とは全く違う。 けれど、ここには料理の基礎がある。(この店の料理人は、料理への情熱を持っている) 情熱と技術は、今の春菜にとって何よりも大切なものだ。 婚約者だった翔太が投げ捨てたそれらを大事にして、自分自身を立て直す。 最初の仕事場として、この古びた食堂はふさわしく思えた。 春菜は深く息を吸い込んだ。 ここから自分の足で立ち上がるのだ。誰の影にも隠れない、自分自身の人生を始めるために。 春菜は錆びついたアルミの引き戸に手をかけ、少しの力を込めて横に引いた。 ガラガラッ、と重たい音が、静かな下町の通りに響いた。 店内に足を踏み入れると、昭和の時代から時が止まったような空間が広がっていた。 床は油と長年の歩行ですり減っっている。 壁には日焼けして黄ばんだ短冊メニューがずらりと貼られている。実に多種多様なメニューだった。「肉野菜炒め定食」「サバの味噌煮定食」「カツ丼」。値段はどれも都心の相場より2、3割は安い。「いらっしゃい……」 厨房の奥から、くぐもった声が聞こえた。 声の主は、白い割烹着を着た年配の男性だった。 背中を丸め、大きな寸胴鍋の前に立っている。 顔には深いシワが刻まれ、どこか疲労の色が濃くにじんでいた。「あの、表の求人の貼り紙を見て来たんですが」 春菜が声を張ると、男性はゆっくりと振り返った。 その手には長年使い込まれて、柄が黒ずんだお玉が握られている。「求人……ああ、あれか。もう何ヶ月も貼りっぱなしで、すっかり忘れてたよ」 男性は自嘲するように笑い、コンロの火を止めた。「見ての通り、客も来ないし、もうすぐ店を畳もうかと思ってたところなんだ。だから、あんたみたいな若い人が来ても、払える給料なんて……」「お給料は、お店の売り上げを伸ばしてからで構いません」 春菜は男
last updateÚltima actualización : 2026-06-14
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12:交差する視点

 大手IT企業・御堂ホールディングス本社ビル、最上階の社長室にて。 社長室の床は毛足の短いグレーのカーペットが敷き詰められ、壁の一面は床から天井までの全面ガラス張りになっている。 眼下には東京のビル群がミニチュアのように広がり、空には雲一つない青空が広がっていた。 徹底的に効率化された最新の設備が並ぶ室内は、機能的だが人の温かみが一切感じられない空間である。 そんな中、社長である御堂礼司(みどう・れいじ)は、手元のタブレット端末を指先でなぞった。 深く腰掛けた黒い革張りのチェアがわずかに軋む。 彼の顔立ちは彫りが深く、誰もが目を奪われるほど端正に整っている。 冷徹な知性を感じさせる切れ長の瞳が、画面のデータを無機質に追っていた。 日々のトレーニングによって鍛え上げられ、均整の取れた体には、上質な生地で仕立てられたネイビーのスーツが完璧に馴染んでいる。 頭の先から指先まで全く隙のない佇まいは、周囲を圧するような威圧感を放っていた。「社長。今月のレストランポータルサイトのレポートです。新規登録店舗数は前月比で微増。ただし、アクティブユーザーの伸びが鈍化しています」 秘書が、手元の資料をめくりながら報告する。 レストランポータルサイトは、御堂ホールディングスの事業の1つだ。 口コミを取りまとめるだけではなく、有望な店舗を見出すのも会社の仕事である。 いずれは自社開発のAI統合システム(予約、決済、仕入れの自動化)を、ポータルサイト掲載の飲食店に導入する計画もあった。 そうすれば自社で巨大なシェアを独占できる。 そのためのプロトタイプとして協業できる店舗を、礼司は探していた。(キャンペーンの打ち出し方にテコ入れが必要か) 礼司は画面をスクロールした。 膨大なデータがグラフや数値となって次々と表示される。「エリア別のワーストランキングを出してくれ」「はい。こちらになります」 秘書が手元の端末を操作すると、礼司のタブレットの画面が切り替わった。 
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13

 油の酸化した匂いと、年季の入ったステンレスの冷たい輝きが店舗の中に満ちていた。 みやこ食堂の厨房に入った佐伯春菜は、周囲をぐるりと見渡した。 換気扇は低い音を立てて回っているものの、長年の油汚れがこびりついているせいで、吸い込みがひどく甘い。 春菜はみやこ食堂の店主と交渉し、働くことになった。 とはいえ、店は閑古鳥が鳴いている。 このままでは遠からず店は潰れて、春菜は職を失ってしまうだろう。 そうならないように、まずはこの店の問題点を洗い出す必要があった。「さて、と」 春菜は腕を組んで、壁一面に貼られた黄色く変色したメニューの短冊を見上げた。 カツ丼、オムライス、ラーメン、チャーハン、アジフライ定食、ハンバーグ定食、肉野菜炒め、カツカレー、サンマ定食、冷やし中華……。 ざっと数えただけでも40種類以上ある。 春菜は思った。(いやいや、ファミレスじゃないんだから。高齢の店主1人でこのメニュー数を回せるわけがないわ)「宮本さん」 春菜が声をかけると、奥のシンクで洗い物をしていた店主の宮本泰造が顔を上げた。 年配の人物で、白い割烹着はところどころシミがあり、腰は少し曲がっている。「これ、全部の注文に対応しているんですか?」 春菜の問いに、宮本は布巾で手を拭きながら頷いた。「まあ、いつ常連さんが何を頼むか分からないからね。食材は一通り揃えてあるよ。昔は近くの工場から人がたくさん来て、毎日大繁盛だったんだ」(その常連さん、今は1人もいないじゃないですか) つい心の中でツッコミを入れてしまったが、もちろん口には出せない。 昼時だというのに、客席には誰も座っていない。 パイプ椅子の赤い座面がむなしく並んでいるだけだ。 春菜はため息を飲み込んで、厨房の奥にある業務用冷蔵庫の扉を開けた。 冷気とともに、複雑な匂いが漏れ出す。 庫内には用途の分からないタッパーがいくつも重なり、端が
last updateÚltima actualización : 2026-06-15
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