All Chapters of こちらギルドの調査員: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話 調査員の胃は休まらない3

 ギルドを出て真っ先に向かったのは道具屋。  扉を開けると、相変わらず渋い声が飛んできた。 「また来たのかい」 「まあな。ちょっと追加でな。で、匂い消しと痺れ草、あるか?」 「あるよ……なんだ、ゴブリンか?」  さすがタマ婆。  伊達に年季は食ってねぇ。 俺の買う道具を見りゃ、相手が何かだいたい察してしまう。  この街でそういう芸当ができるのは、この婆さんくらいだろう。 代金を置くと、タマ婆が小さく鼻を鳴らした。「どうせまた無茶すんだろうが、まあ気ぃつけな」 「わかってるさ。俺の胃袋が先にやられる」 軽口を返して店を出る。 次の寄り道はテッタの食堂だ。  夜には戻りたいが、保証はない。  だったら、今のうちに弁当を調達しとくしかない。「弁当一つ、頼む」 カウンター越しに受け取って、つい口が滑る。「唐揚げ、美味くなってたぞ」 テッタが、にやりと笑った。「でしょ?」 その一言を聞きつけた客から「俺も!」「唐揚げ追加!」と注文が飛ぶ。 ……こりゃ売り切れだな。「じゃあね、アル兄! 毎度あり~!」 厨房の奥から飛んできた声に手を振って返す。 ……さて……行きますか。 ◇ ◆ ◇  昼下がり、西門をくぐる。  門番に軽く手を上げて、そのまま街道を西へ。 川に架かる石橋を渡ると、遠くの地平線にうっすらと緑の塊が見えてきた。 あれが報告のあった西の森。 街道を進むたびに、森の輪郭が少しずつ濃くなる。  西の森
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第12話 クソッタレの趣味1

 先行した冒険者たちは、どうやら誘い込まれてることに気づいてねぇ。 足音の方向からして、まっすぐゴブリンの尻を追ってる。 「……しゃーねぇ、俺は先回りだ」   音を頼りに森を抜けていく。  地面を叩く靴音と甲高い叫びが、木々に反響して方向を教えてくれる。 しばらく進むと──カンッ、ガギンッ!  金属がぶつかる明らかな剣戟の音が届いた。  「……囮に追いついたか」  まあ、ここまでくれば、さすがに冒険者どもも「罠っぽいな」って気づくだろう。  これ以上は、わざわざ誘い込まれに行く必要もねぇ。   だから、俺は冒険者には近寄らない。  その先を見に行くことにした。 草木をかき分けながら、慎重に進む。  鼻をつくあの独特な匂い……ゴブリン特有の獣臭さだ。 ……近い。 身体強化で聴覚をさらに研ぎ澄ます。  聴こえてきたのは、短く荒い息遣い。 ……十体はいるな。 囮を追ってる冒険者どもに対して、十匹。  数が合わない。  少なすぎる。 じゃあ、残りはどこにいるんだ? 待ち伏せてるってことは、やっぱりさっきのは囮だな。  偶然の遭遇戦じゃねぇ。  意図的に仕掛けてやがる。「となると──指揮してる野郎がいるはずだ」 普通のゴブリンにゃ、無理な芸当だ。  群れを動かして罠を張れる奴……せいぜいホブか、最悪ならシャーマンか。 嫌な予感しかしねぇ。  ◇ ◆ ◇  俺はとりあえず、痺れ草をひとつ取り出して火で炙った。 ちりちりと草を
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第13話 クソッタレの趣味2

 目が血走ってやがる。  ぎらぎらと獲物を探す視線。  この前の馬鹿猪と違うのは、指示を出せる頭があるってことか。 ただのゴブリンじゃねぇ。  群れを誘導できる異常個体だ。 ホブでもシャーマンでもない。  ただのゴブリン。  そう考えると安堵するんだが、同時に不気味でもある。 なんでただの一匹が、あんな血走った目で群れを仕切れてるんだか。 世界七不思議にでもノミネートされてんのかよ。 さて、どうすっかな。 あいつをぶっ殺すのは簡単だ。 だが、ここで派手にやっちまえば、周りの連中は蜘蛛の子散らして逃げてくだろう。 散らばったゴブリンを片っ端から回収するのは、俺じゃなくてあの下級パーティーの仕事だが……まぁ、あいつらの実力じゃ、お察しだ。 つまり、俺が今やるべきは静かに首を刈るってやつだ。 痺れ草をもうひと炙りして、煙を流し込む。  ゴブリンのざわめきがちょっと鈍る。 吸った証拠だ。  いい感じに効いてる。 よし、あとは回り込むだけだ。 風魔法で自分の足音を抑えつつ、藪を抜ける。  剣は抜いてあるが、使うのは一瞬。  派手な演出は、お断りだ。 目の前に例のゴブリン。  錆び鉈を肩に担いで、仲間に何やら合図を送ろうとしている。  おいおい、いいタイミングじゃねぇか。 ……行くか。 俺は一歩、静かに踏み出した。 狙いは首筋。  テッタの唐揚げでチャージした胃袋のパワーじゃないが、腕は鈍ってねぇ。 刃を走らせ──首を掻っ切る。 血の匂いがぱっと鼻を突く。 間髪入れずに身体強化を極限まで引き上げ、そいつの腕をがっちり掴み、力を込めて──遠くへ放り投げる。 ゴブリンの身体が空中を舞い、木にぶつかって転がる音がし
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第14話 クソッタレの趣味3

「……ああ、見つけたぞ、クソッタレ」 吐き捨てる声が、自分でも低くなるのがわかる。「どっちだ……」 息を押し殺して魔力感知を発動する。 ……あっちの弱い反応は、群れてるゴブリンたち。なら、本命は逆か。 森の奥を睨む。  嫌な気配にぞわりと寒気が走る。「……あっちか」 一気に駆け出す。  枝を避け、土を蹴る。  その瞬間、頭の奥にガンッと鈍い衝撃。 強烈な頭痛で視界が一瞬、揺れる。「……こりゃ、相当つえぇな」 木々の間から差し込む光の中──地面に突き刺さった金属片。  見慣れた嫌な気配、魔道具だ。 剣を構え、一気に踏み込む。  剣先で魔石を突き砕くと、甲高い音とともに光が弾けた。 体にかかっていた圧は消え、頭痛がすっと引いて重苦しい空気もどこへやら。「……ふぅ」 足元に転がるのは、原型をまだ残した魔道具だった。  金属の軸に魔石がはめ込まれて、焼け焦げはしているが、形はわかる。「……なるほどな」 今まで見つかったのが、残骸ばっかりだった理由が腑に落ちた。 暴走させて、ぶっ壊れるまで放置したから、いつも残骸になってたってわけか。 つまり、意図的に壊れるまで使ってたってことだ。  誰が仕込んでるかは知らんが、相当手慣れてやがる。「クソッタレの趣味が悪すぎんだろ」 剣の先で魔道具をつつきながら、俺は低く吐き捨てた。 魔物を暴走させてるのはわかった。  だが、その意図はなんだ? 考えるまでもねぇ。  だいたい、こんな事やらかすのはいつもあいつらだ。 悪
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第15話 めんどくせぇ夜1

 西の森で発生したゴブリンの残党は、冒険者に任せた。  元々、あいつらの仕事だったしな。  これ以上、手を出すべきじゃない。 俺の任務も無事完了。  トラブルもなく帰還。 ……いいねぇ、トラブルがないって。    報告を終えるべく、俺は街へ戻り西門をくぐる。「……臭いであります」 妙なことを言い出したのは、ペテル詰所の犬のお巡りさん、獣人のマルマル。 コーギーみたいな顔して真剣そのものだ。  っていうか、こっちは帰って来たばかりなんだが? 隣に立つのは警備隊長のロットン・ガー。  通称ガーの親分。  二メートル級の狼面獣人で、街じゃ知らぬ者はいない。  大型のシベリアンハスキーが、二足歩行してる感じだ。 威圧感たっぷりだが、子供にはなぜか人気らしい。「アルが臭えのか?」 「はい。臭うであります」 「こいつ、何言ってんだ親分」 俺がわざと眉をひそめると、親分は低い声で言った。「アル、魔道具持ってねぇか?」 ……もしかして。 懐を探り、布にくるんだ金属片を取り出す。「これか?」 「それであります!」 マルマルが胸を張ってドヤ顔。  いや、お前の手柄じゃねぇからな。「アル、それどこで見つけた?」 「西の森だけど? 今、流行の魔物暴走。その原因かもよ?」 「そうか……マルセルに報告しに行くんだろ?」 「もちろん」 ガーの親分が腕を組んで続けた。「なら、北区の倉庫街でも見つかったって、追加で言っとけ」 「……マジかよ」
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第16話 めんどくせぇ夜2

 街の夕暮れに溶け込むように、俺はギルドを後にした。  ナックの話も気になるが……まあ明日でいい。  課長から、嫌でも聞かされるだろうしな。 それより頭に残るのは、北区の倉庫街だ。  気になるなら寄り道するしかない。  行き先は決まってる。 ジョナスの酒場だ。 扉を開けると、いつものざわめき。  安酒の匂いに笑い声と怒鳴り声。  ま、これが街の鼓動ってやつだ。 ただ、カウンターの内側だけは別世界だ。  蝶ネクタイに白髪交じりの口髭。  ダンディの見本市みたいなマスターが、黙々とグラスを磨いている。 「……アルか」 低い声が落ちてきた。  顔は上げてない。  ほんと、どっかに名前でも書いてあんのか、俺。「おう。ちょっと聞きたいことがあってね」 ジョナスは無言。  手を止めない。  はいはい、話せってことだろ。「北区の倉庫街で、妙なモンが見つかったらしいんだけど。最近、何か耳に入ってない?」 ようやくグラスを置く。  短い間のあと、ぼそりとジョナスが呟く。「……青白い光を見た、という噂だ」 「青白い光ねぇ。花火大会じゃねぇんだぞ」 軽口を叩いても、返ってくるのは沈黙だけだ。  ま、知ってたけどな。「ほかには? 誰が言ってたとか、どの辺りとか」 「……夜。倉庫街の奥。複数の証言だ」 「複数ねぇ。じゃあ、ただの酔っ払いの見間違いじゃなさそうだな」 俺が呟くと、ジョナスはようやくこちらを見た。  鋭い目が、酒場の喧騒ごと俺を射抜く。「……行くなら、気をつけろ」 それっきりだ。「おいお
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第17話 めんどくせぇ夜3

 丸っこい体格に、律儀に胸を張った歩き方。  しかも短足。  間違いない。 こんな夜中に倉庫街をうろつくのは物好きか、巡回中の変人か、だいたいそのどっちかだ。 で、こいつは当然後者。「お巡りさんも大変だな。夜勤ご苦労さまってやつだ」 呟いても、もちろん聞こえるはずもない。 まあ、聞こえたら聞こえたで、余計な報告を受ける羽目になるから御免こうむりたいが。 ……あれ? ガーの親分はいねぇな。 マルマル一人で倉庫街をうろついてやがる。 しかも、キョロキョロして挙動不審。  マルマルよ、さてはお前が犯人か? ……んなわけねぇか。 あの真面目バカが黒幕だったら、この世の誰を信じりゃいいんだって話になる。 にしても、ほんとに何やってんだ?  夜中に一人で倉庫街をうろつくマルマル。  見てるだけで、職務質問したくなる。 ……おいおい。 マルマル、倉庫の前で犬みたいに匂い嗅いでるぞ。  そこが怪しいってか?  まさか強行突入とかやめろよ。  お前、そういう役柄じゃねぇだろ。 ――って、おい。ほんとに扉開けやがった。  大丈夫か?  不審者と間違われても知らねぇぞ。 しばらくして、ヤツは出てきた。  手に持ってんのは乾燥肉。  「お前、それは駄目だろ」 腹減ってただけかよ。  怪しい挙動からのオチがそれって、さすがに誰も想像してねぇよ。「……くそ、魔力の無駄だったぜ」  身体強化までして見張ってたのに、結果が乾燥肉じゃ割に合わねぇ。  ――と、その時。  視界の端でチカッと光が走った。 今のは……なんだ?
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第18話 俺、いらなくね?1

 倉庫街の夜は、昼間と別物だ。  荷馬車のきしみも、人足の怒鳴り声もない。  並んだ石造りの倉庫が、ただ黙り込んで俺を見下ろしている。 足音がやけに響く。  砂利を踏むたびに「お前、場違いだぞ」と、言われてる気がする。 まあ実際そうだ。  夜中に倉庫街をうろつくまともな市民なんざいない。 風が吹けば板壁がぎしりと鳴り、錆びた鎖がどこかでカランと揺れる。  衛兵の松明が遠くを照らしては消え、影ばかりが長く伸びる。「やっぱ来るんじゃなかったな」 ぼそっと漏らしても、答えるやつはいない。  答えられたら、それはそれで怖い。 鼻をかすめるのは、木箱と古い油のにおい。  人の気配は……ない。 あるのは静寂だけだ。  その静寂が、逆に胸の奥をざわつかせる。 青白い光を見たって噂が立つのも、まぁ頷ける。  こんな雰囲気じゃ、幻覚の一つや二つ、見えたっておかしくねぇ。 ……俺も鐘楼から見たわけで。 ――と、その時だ。  倉庫街の奥で、ちらりと青白いものが揺れた。「……ほんとに青白いな」 炎じゃない。  松明の橙色とも違う。 目を凝らすほどに、淡い光が壁の隙間をかすめては消える。  まるで誰かが「ここにいるぞ」と、合図しているみたいに。 ……幻覚か? いや、俺の疲れ目にしては都合がよすぎる。  ジョナスが言ってた「青白い光の噂」……まさかほんとに?  こういう時、人は二種類に分かれる。 「気のせいだ」と帰るか、「確かめるか」と首を突っ込む馬鹿。  ……俺はだいたい後者だ。 「はぁ……胃が痛ぇ」
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第19話 俺、いらなくね?2

 わかる範囲では──二匹、か。  影が箱の間をうろついてるのが、なんとなく数えられる。  まあ、三匹以上いたらもっとザワザワうるさいはずだし。 とはいえ、ここ倉庫だぞ? 中で火を焚いて対処、なんてやったらどうなるか。  木箱に引火、油樽に延焼、最後はドカーン。  見事に吹き飛んだ跡地で「調査員アルディン殉職(借金付き)」なんてギルドの壁に貼られるオチしか見えない。「一生、借金地獄か。笑えねぇな」 じゃあどうする。  火が駄目なら、強い光。  あいつらの弱点はそれだ。 と、いってもだな、手持ちで派手に光るもんなんて、そう都合よく──  腰袋を探ると、案の定いつものラインナップが指に触れる。  粘着玉、痺れ草、消臭粉――そして緊急用の照明玉がひとつ。「……あ~、あったよ。ギルド支給品」 小さなビー玉大のガラス玉、中身がかすかに光ってる。  たしかに役には立つ。  立つんだが、これ本来は「味方に自分の居場所を知らせるための道具」だ。 ってことは、投げた瞬間に「ここにアルがいます!」って、でっかい矢印を出すようなもんだ。 闇シラベの目くらましには効くだろうが、その代わり、俺が真っ先に的になる。 ギルドの会議で「調査員アルディン、倉庫に不法侵入」なんて報告が回ったら、減給どころの話じゃない。 仕方ない、これは最後の切り札だ。 だが、さらに運が悪いことに――俺は、剣を持ってきてない。  笑えないジョークだな。  いや、笑ってもいいけど笑うのは俺以外のやつな。 理由?  大したもんじゃない。 ただ夜風に当たろうって軽い気分で鐘楼に登っただけだし、まさかその足で倉庫に潜入する羽目になるなんて、想定外にもほどがある。    結果、腰にあるのは予備の短剣が一本。  以上。 短剣ねぇ……刃渡りも頼り
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第20話 俺、いらなくね?3

 術者はいる。  ほぼ間違いない。 こんな街中の倉庫に、闇シラベが勝手に湧いてくるなんてホラー展開、もう背中がつりそう。 で、その術者とやらがどこにいるかって?  もちろん、答えは一つしかない。 「……いるのは、あっちだよな」 青白い光が、チカッと走った方向に目を向ける。  闇シラベの赤い目とは違う、不自然な青白さ。  あれが鍵だ。 影がざわつく音が耳の奥にまとわりつく。  嫌な汗が、首筋を伝う。  俺は短剣の柄を握り直し、光の方へと視線を固定した。 ほいっと足場を移動し、箱の影から覗き込む――  息が詰まりかけた。 青白い光がそこにあった。  いや、光というよりは――骨の輪郭をなぞるような幽光。  冷気が刺すみたいに肌を撫でて、思わず背筋がぞわっとした。「っ……!」 即座に頭を引っ込める。  冗談抜きで、心臓が止まるかと思った。 なんでムーンフェイドがいる……。  よりにもよって、青白いガイコツ野郎。  六等級のパーティーは必須だぞ! 深い洞窟や、いわくつきの廃屋ならわかる。  だが、街中の倉庫?  意味がわからん。 こいつは、触れた相手を瞬時に凍らせるって化け物だ。  物理攻撃は効きづらく、炎でようやく弱点を突ける。 ……で、俺の手持ちは短剣一本と勇気だけ。 はい、勝負になりません。  ◇ ◆ ◇ 俺は深く息を吐いて、高鳴る心臓を無理やり押さえつけながら、もう一度そっと覗き込む。 ムーンフェイドの青白い光に照らされて、床に紫紺のローブをまとった男が転がっていた。 そして胸元に、あの紋章。  吐き気がするほど見覚えのある、例の印だ。 見た瞬間に不快感が上限
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