低い茅葺き屋根から、青白い月明かりがまばらに漏れ落ちてくる。鈴木維人(すずき いと)は、干し草を敷いただけの粗末な寝台に横たわり、ぼんやりと暗い天井を見つめていた。ついさっきまで、彼は現代で暮らすごく普通の青年だった。少し前に彼女と別れ、SNSで晒し上げられた挙げ句、退勤途中に元カノに尻尾を振る男に絡まれて歩道橋から足を踏み外したのだ。目を覚ますと、重い病からようやく回復しかけたばかりの、異世界の少年になっていた。この身体の元の持ち主は、辺境の村に住む平凡な農夫の息子、エルヴィンという。村は広大な大陸の片隅にあり、周囲には起伏の連なる丘陵と鬱蒼とした原生林が広がり、獣や魔物がたびたび出没していた。ここの生産力は低く、人々は日の出とともに働き始め、日没とともに眠りにつく農耕生活を送っている。この世界が何と呼ばれているのか、どこの国なのかも一切分からない。生まれてから一度も村を出たことがない農夫の息子に、そんな知識を期待するほうが無理だった。一桁の四則演算ができるだけで、この村では珍しい知識人扱いされるほどだ。元の持ち主であるエルヴィンにその計算を教えたのは、同じ村に住むアンナという少女だった。アンナは清楚な顔立ちをしており、生まれつき聡明だった。先日、各地を旅する魔法使いが偶然村を通りかかり、一目でアンナの資質を見抜き、弟子に迎え入れることを決めた。村の平凡な娘が、一躍して手の届かない存在となった瞬間である。村を旅立つ前、アンナはいつも黙々と農作業を手伝ってくれていた少年に、たった一言だけ残した。「エルヴィン、あなたはいい人ね」その言葉を真に受けた純朴な少年は、すっかり舞い上がってしまった。村の入り口に立ち、アンナと魔術師が去っていった方向をいつまでも見つめ続け――山間の冷たい夜風と小雨に打たれるまま、一晩中呆然と立ち尽くしたのだ。その結果、案の定重い風邪を引いた。医者も薬も不足しているこの辺境では、ただの風邪があっという間に手の施しようのない肺炎へと悪化し、最後はこの茅葺き小屋の中で苦しみながら息を引き取ってしまった。「――くそっ、どこにでも女に尻尾を振るバカが湧いてきやがる!」死の瞬間の恐怖がよみがえり、維人は弾かれたようにベッドから飛び起きた。自分は女に尻尾を振るバカに異世界送りにされたというのに、
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