夫の南条怜司(なんじょう れいじ)が、ある夢を見た。夢の中で彼は、会員制ラウンジで働く女性スタッフのために藤崎千夏(ふじさき ちなつ)を裏切り、彼女を傷つけるようなことを、次々としてしまうのだという。それを聞いた瞬間、千夏の胸が理由もなく、ちくりと痛んだ。けれど、それは本当に一瞬だけだった。すぐに平静を取り戻した千夏は、笑って怜司をからかった。「それで?」「それで?」怜司は千夏を腕の中に閉じ込め、恨めしげに彼女の耳を軽く噛んだ。「それで君は、俺が気づかないうちに離婚協議書にサインさせて、気づいたときにはもう、どこにもいなくなってたんだ!」怜司は、口では「そんなことが起こるはずのない悪夢だ」と言いながらも、自分の手元に回ってくる書類を一枚残らず細かく確認するようになった。とりわけ、千夏から渡されたものには念入りだった。友人たちと集まるのが何より好きだった、あの会員制ラウンジにも二度と足を運ばなくなった。女性スタッフとは徹底して距離を置いた。真夜中に突然飛び起きることもあった。千夏が何事もなく眠っている顔を見て、ようやく安心し、また眠りにつくのだ。怜司はひどい分離不安に陥り、一時期はカウンセリングを受けなければならないほどだった。千夏は呆れるやらおかしいやらだったが、怜司に少しでも安心してもらうため、自分も以前より彼を好きで、彼を頼っているように振る舞った。やがて、あの夢のことは二人の記憶から薄れていった。怜司が援助している、あの女子学生が現れるまでは。……四度目の結婚記念日。本来なら、二人で盛大に皆から祝福を受けるはずの日だった。だが千夏は記念日のケーキを食べたあと、アナフィラキシーを起こした。原因は、そのケーキが、彼女にとって重度のアレルゲンであるマンゴー味だったからだ。白いワンピースを着た森野茉莉(もりの まり)は、病室の隅に追いやられるように立ち、不安そうに怜司を見つめていた。「申し訳ありません、南条社長。わざとじゃないんです……マンゴーなんて、田舎で育った私たちにとっては、めったに口にできない高級品で。毎年一度だけ、弟が食べ終えた種の周りに残った果肉を少しもらうくらいしかできませんでした。こんなにおいしいものにアレルギーがある人がいるなんて、本当に思いもしなくて……」誰もが
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