月瀬さんと共に歩く廃病院は、一人で彷徨っていたときとは明らかに違っていた。 ――先輩のことは、私が必ずお守りしますから。 そんなことを年下の女の子に言わせてしまった情けなさは、今も胸に突き刺さっている。 けれど同時に、月瀬さんが本当に霊能力者なのだということを、僕は身をもって感じていた。 彼女のそばにいるだけで、空気が違う。 一人で歩いていたときは、廊下の闇すべてがこちらを窺っているように思えた。どこから何が飛び出してくるか分からず、息をすることさえ怖かった。 けれど今は、月瀬さんの周りだけ空気が澄んでいる。 肌にまとわりついていた冷気も、闇の奥から向けられていた無数の気配も、彼女を避けるように遠ざかっているのだ。 単に、一人ではなくなったから安心しているだけなのかもしれない。 それでも、彼女のそばにいれば何者にも触れられない――そんな見えない何かに守られているような感覚が、確かにあった。 月瀬美琴さん。 彼女は一体、何者なのだろう。「先輩」 屋上へ続く階段を上りきったところで、月瀬さんが足を止めた。 正面には、錆に覆われた重そうな鉄扉がある。「恐らく、誠也くんはこの先にいます」「この先って……屋上?」「はい」 この扉を開けば、屋上へ出る。 僕は院内の案内図に書かれていた、奇妙な表記を思い出した。 ――『屋上:社』 病院の屋上に、社。 見間違いかとも思ったけれど、あの意味もようやく分かるのだろうか。「それでは、開けますよ」「うん。お願い」 僕の返事を聞くと、月瀬さんは小さく頷き、鉄扉へ手を掛けた。 力を込めて押す。 きぃぃ……。 錆びた金属同士を無理やり擦り合わせるような音が響き、扉がゆっくりと開いていく。 隙間から冷たい風が吹き込み、僕の前髪を揺らした。 そして扉の向こうには、病院の屋上とは思えない異様な光景が広がっていた。 ひび割れたコンクリートの中央に、色褪せた小さな鳥居が立っている。 さらにその奥には、古びた社が鎮座していた。 長いあいだ雨風に晒されてきたのだろう。屋根は黒ずみ、注連縄も朽ちかけている。それでも周囲だけは、病院の一部ではないような異質な空気に包まれていた。 下から見上げたときには、鳥居も社もまったく見えなかった。 そして、その鳥居の前に――あの少年がいた。 誠也くんだ
Last Updated : 2026-07-18 Read more