総務課長の柳川圭介は、朝の執務室から細木貴子の後ろ姿を見るたび、感心していた。 五十歳になるというのに、背筋はまっすぐ伸び、余計な肉の付かないすらりとした体つき。支給された事務服はやや細身の仕立てだったが、細木が着ると不思議と上品に見える。腰の位置が高く、歩く姿にもだらしなさがない。髪はいつも後ろでひとつに結ばれ、白いシャツにはきちんとアイロンがかかっていた。 派手さはない。むしろ地味なくらいだ。 だが、その清潔感と整い方には、目を引くものがあった。 顔立ちは整っているのに、どこか眠たげで、少し疲れたようにも見える。伏し目がちな目元のせいか、ふとした瞬間に幸の薄そうな影が差すことがあった。だが、それがかえって落ち着いた色気のようにも見え、柳川には印象深かった。 柳川は、そういう“きちんとした人”に弱かった。 五十を過ぎてから、人を見る目が変わったのである。若い頃は結果だけを見ていた。数字を出す者、仕事の早い者、要領のいい者。だが今は違う。 書類の端を揃える指先。電話を切る声のやわらかさ。椅子を戻す音の静けさ。そういう些細なところに、その人の人柄は表れる。 そして総務課の事務員、細木貴子ほど、感じの良い人を柳川は知らなかった。 書類を受け取ると、ほのかに桃の香りがした。 「……良い匂いが…。」 思わず言うと、細木は白い手を少し引っ込めた。 「乾燥肌で……ハンドクリームなんです。すみません」 その手もまた、年齢を感じさせぬほどきれいだった。だが本人は見せびらかすでもなく、隠すように引く。控えめで、必要以上に飾らない。そういうところが細木らしかった。 社員旅行の土産も気が利いていた。若い女性には洒落た菓子、部長には地酒、柳川には温泉まんじゅうと旅先の地名入りキーホルダー。 「柳川さん、よく鍵を探していらっしゃるので」 よく見ているものだと柳川は感心した。人を観察し、さりげなく役に立つ物を選べる人なのだ。 細木は後輩たちにも慕われていた。 ある朝、珍しくいつも以上に眠そうな顔で出勤してきた。目の下にはうっすらと影があり、ただでさえ薄幸そうな雰囲気が二割増しになっていたので、柳川は少し心配になった。 給湯場で理由を知った。昨夜、若い事務員の恋愛相談に付き合っていたらしい。 「で、細木さん、なんて
Last Updated : 2026-07-20 Read more