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第7話

Penulis: 余韻
一方その頃。

唯が松尾家に戻ると、椿はマダム会の準備を全部唯に任せた。そして自分は、毎日陽太のそばにいた。

あっという間に、マダム会の当日になった。

椿は唯を困らせようと、奥の広間での準備を唯に押し付け、自分は明里と共にゲストたちを招き入れ、陽太を連れ回しては、得意げに周囲に紹介していた。

「この子が明里の子供なんです。可愛くて賢いでしょう?」

明里もまるで本物の家族のように、寄り添って嬉しそうに座っている。

その光景を見たセレブ夫人たちは、微妙な表情を浮かべた。

明里が「内密に結婚」して産んだという話は有名で、中には彼女こそが噂の「雅人の妻」ではないかと言う人までいた。

今の椿の態度を見ると、確信を持った人たちもいたようだ。

奥の広間の仕事を終えた唯はその光景を目にし、皮肉な笑みを浮かべた。

今までじっくり見ていなかったが、改めて遠くから見ると、陽太と雅人は似ても似つかない顔立ちだった。

血の繋がりがあるのかどうかさえ怪しいものだが、椿はよくも、これほど堂々と「実の孫」のように振る舞えるものだ。

唯は歩み寄ると、淡々と言った。「そんなに子供がお好きなら、私も病院へ行ってみましょうか。雅人との子供を、がんばって授かりたいんです。雅人の血を引いていない他人の子供と違って、実の子の方が良いはずですから」

誰が他人の子供だって?

椿は内心、悪態をついた。

こんな田舎者の孤児なんて、絶対にいらない!

「何しに来たの?」椿は吐き捨てるように言った。「任せた仕事は終わったの?」

「使用人に任せてありますので、ゲストたちのご案内はご安心を」と唯が答える。

全く面白いね。

自分には使用人のように振る舞わせ、明里にはまるで女主人のような顔をさせて。

自分のことをバカにしているのでしょう。

でも、絶対に彼女たちの思い通りにはさせない。

何年も社内で百戦錬磨の戦いをしてきた唯にとって、たかがマダム会などお手の物だった。

そのうちに、セレブ夫人たちの視線が唯に注がれた。

飾り気のないロングドレスをまとっただけの姿なのに、不思議な清らかさと気品がある。

誰かが好奇しげに尋ねた。「こちらの方は?」

唯が口を開くより先に、明里が腕に抱きついてきた。

「唯さん、この2日間は本当に助かったわ。私、雅人と一緒にプロジェクト投資で忙しくて、陽太のお世話まで手が回らなかったの。唯さんが代わってくれて感謝してるわ」

事情を知らないセレブ夫人たちは、思わず唯を松尾家の使用人だと勘違いするところだった。

しかし唯は眉ひとつ動かさず、セレブ夫人たちに会釈した。「妻として、夫の悩みの種を取り除くのが務めですから。今日の料理、皆様のお口に合いましたでしょうか?」

セレブ夫人たちは一瞬で状況を理解した。

かねてより雅人は内密に結婚していると噂だったが、実は唯こそが本妻だったのだ。

では、松尾家の養女であるはずの明里が子供を連れているということは、相手は……

セレブ夫人たちは目ざといから、すぐに気づいた。この養女は結婚相手のことを話さないうえに、子供をつれて松尾家に戻ってきている。父親は雅人ではない。となると、これはどこかの男とくっついたにちがいない!

ある人がクスクス笑った。「雅人さんの奥さん、こんなにお綺麗で、しかもやり手なんて。雅人さんが外に出したがらなかったのも、うなずけますわ。あなたがお顔を見せてくださらなかったら、明里さんが雅人さんと入籍して子供を産んだ、なんて勘ちがいするところでした」

それは明里が他人の座を狙う卑しい存在であり、子供も父親不明だというあてこすりだった。

明里は顔色を変え、作り笑顔を崩しかけた。

「明里は、私が育てた子です。彼女の子供も、私の孫ですよ」椿は心の中で唯をさんざん罵った。それから、慌てて言いそえた。「唯は、こういう雑用くらいしかできません。明里は、頭がよくて優秀なうえに、子育てだってこんなに上手なんですよ」

「お母さん、唯さんは深津市の出身で、小さいころからずっと施設で育ったから。私みたいに、お母さんに育ててもらったわけじゃないもの」

明里はわざと唯の家柄を蒸し返した。

盛沢市のセレブ夫人たちは家柄をとても重視するため、深津市の身寄りのない女の子と聞いて、明らかに嫌そうな顔をした。

さっきまで唯に親しみを感じていたセレブ夫人たちの関心が、急に薄れていくのが分かった。

それを悟った明里は、勝利の笑みを浮かべた。

そのとき、一人の夫人が突然切り出した。「こないだの片岡テクノロジーの投資案件、作成したのは雅人さんの奥さんだったのでしょう?」

それは、片岡テクノロジーの社長夫人・片岡恵美(かたおか えみ)だった。

唯はすぐにその人が誰だか気づいた。

「はい、覚えていてくださって光栄です。片岡社長もお元気ですか?」と笑顔で返す。

恵美は途端に花が咲いたような表情になった。

「まあ、あなたのおかげで、利回りが30%もあって、夫が毎日のようにあなたと食事に行きたいって言ってますよ」

この話題が出たとたん、唯はみんなに引っぱられて、話の輪に入った。

片岡テクノロジーの新規投資の大成功を見て、儲け話に興味のあるセレブ夫人たちは一斉に唯にすり寄ってきたのだった。

唯が冷静にいくつもの要点を解説すると、夫人たちは感心しきりだ。「さすが松尾社長が選ぶ人です。本当に頭が良くて頼もしいですね」

明里は奥歯を噛み締めながらも、体裁を繕うのが精一杯だった。

たかが投資ができるからといって、いつまで得意になっていられるか見ていてやる。

明里は視線を鋭くし、陽太を呼んで何か耳打ちを始めた。

……

唯はセレブ夫人たちと少しおしゃべりをした。まもなく、午後のお茶の時間になった。

椿に指示された通り、唯は奥の広間に行って、セレブ夫人たちのためにケーキや紅茶を用意することになった。

ちょうどそのとき、陽太がいつのまにか入りこんできた。唯のそばに来て、顎をつんとあげ、いばった態度で言った。「あの栗のケーキがほしい。早くとってよ!」

唯はチラリと陽太を見やり、動じない。

子供に罪はないが、この生意気なガキにかまってやる余裕もなかった。

唯が無視して通り過ぎようとすると、陽太がわざと唯を蹴り飛ばそうとして騒ぎ出した。「このあばずれ!さっさと寄越せよ!そうしないとパパに言いつけるぞ!パパがボコボコにしてやる!」

唯は足を止め、嫌悪感を露わにして眉をひそめた。

やっぱり、わがままな子はきらいだ。

「まさか、雅人をパパって呼ぶの?私は彼の妻だから、あなたにはママが一人増えるってことね?」陽太が目を見張ったのを見て、唯はわざと言った。「でも残念。あなたは私をママにしたいみたいだけど、私はあなたを息子だなんて思いたくないの」

陽太はかっとなって言った。「あんたなんかママになる資格がないんだ!ママが松尾家に戻ってきたら、パパ……雅人さんが、あんたを……」

ママに言われたことを思い出し、陽太は言葉の後半を飲み込んだ。そして、にくにくしげに言った。「とにかく、早くケーキをよこせ」

唯が眉をひそめて、何か言おうとした。すると陽太は、彼女のそばの栗のケーキを、いきなりつかみとった。

ケーキを手にすると、彼の目がきらりと光った。そして、あっという間にどこかへ走り去った。

唯は、逃げていく彼のうしろ姿を見て、目を細めた。

まもなく、午後のお茶がはじまろうとしていた。

恵美の言葉のおかげで、唯の周りには何人ものセレブ夫人が集まっていた。

たとえ深津市の孤児という生い立ちであっても、これだけの実力を見せられれば、有能で聡明な人とコネを作りたいと思うのがセレブ夫人たちの常だ。

ましてや、唯はいちおう雅人の妻なのだから。

そのとき、部屋の中で急にさわぎが起きた。

使用人が顔色を変えて駆け込んでくる。「大変です!陽太様が意識を失いました!」

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