LOGIN「にしても遅いな…」すでに5分以上経過していた。「ちょっと見てくる」黎慈は景佑の方へ歩いて行った。「どうするんだ、景佑」黎慈は景佑の方を軽く叩く。景佑は背を向けたまま、何も言わずに立ち尽くしていた。彼の肩越しに見える景色は、夢の世界特有の赤黒い光で覆われている。彼は少しだけため息をつき、ゆっくりと振り返った。「俺がここに踏み入るのは、もしかしたら早かったのかもな」「黎慈、お前は本当にそれでいいのか?」光がない目の景佑がこちらを見てくる。黎慈は景佑の問いかけに一瞬戸惑ったが、すぐに答える。「俺は覚悟を決めた。確かに、あの人は癪に触る人だ」「それでも、彼女を見捨てるわけにはいかない」「何が起こっているのか、この世界で何をしなければならないのか、全部を知りたいんだ」「景佑もそう言ってたじゃないか、原因を突き止めたいって」「そもそも夢について教えてくれたのはお前だったじゃないか」数秒、間が空く。「結局、我が身可愛さだったんだよ」「こうやって危機になったら、足が竦んで動けないんだ」下を見ると、確かに足が震えている。二人はその景佑の発言に黙り込む。少し間をあけて、景佑が顔を下に落としながら話し始める。「俺はお前みたいに強くない」黎慈はその発言に苛立ちが湧いてきた。「そんなの言い訳に過ぎないだろ!」黎慈の鋭い声が轟く。景佑はその言葉に反応せず、なおも俯いたままだった。その姿に黎慈の苛立ちはさらに募る。「逃げたままの自分で良いのかよ!」黎慈の声が大きく反響する。途端、景佑が黎慈の胸ぐらを掴み掛かる。「お前に俺の何が分かるんだよ!何も知らないくせに!」二人の顔が至近距離まで近づく。一触即発な雰囲気だ。目線でぶつかり合っている。「何も失ったことがないくせに、全てを見透かしたような目をして!」その景佑の発言に、黎慈は会ったときのことを思い出した。つい最近の事だったが、もうかなり昔のように思える。『その現象で、俺の友人は死んだ』最初にそう言っていた。明らかに景佑の地雷を踏んだことに気づいた。今までの発言が途端に申し訳なくなった。そう思い視線を下に落とす。「すまん…」この一言しか出てこなかった。どう謝ればいいのか分からない。景佑はしばらく黙ったままだったが、徐々にその手を離し、俯きながら一歩下が
「ここから出るには、先天的なブラムの適正が必要です」「言わば、潜在能力というものでしょうか」「潜在能力?」景佑が困惑の表情でその子に聞き返す。「はい。ブラムは、誰でも扱える力というわけではありません」「適性は生まれた時に決まっています」「お二人は、ブラムの適性が人と比べて著しく高いのです」「だからこそ救世主として抜擢されたのだと思います」「あの方の考えていることはよく分かりませんが…」「とにかく、今現在そちらの方がここから出る方法はありません」結論が出たようだ。ただ、まだ心の奥で引っ掛かりがある。「あの方っていうのは、一体?」黎慈が聞き返す。「お二人は会ったことがあるはずです」「夢と現実を繋ぐ、重要なあの方です」「私も詳しい名前は知らないし、詳細もお伝えするなと言われているのですが…」なんだか引っかかる言い方だ。「…分かった。本当に出られる方法はないのか?」「完全に無いという訳ではないです。ただ、かなりのリスクを孕んでいます」「私からは薦められません」嫌な予感がする。「今日一日で出来るものでもないですし、最悪の場合、お三方の現実での意識が戻らない可能性があります」三人は少し考え込んでいた。ただ今の状況を打破するために、できるかできないかは置いておいて聞いてみることにした。「…聞かせてくれないか?」黎慈がそう聞く。「承知致しました。少し長くなりますので、一度夢の核から出ましょう」四人は屋敷の敷地内から出た。「ここまでくれば安全なはずです」かなり離れた路地裏まで来た。道中は化け物に出会うこともなくすんなりとついた。「今から言う説明を聞いた上で、三人でもう一度お考えください」「まずブラムをお持ちの二人は、夢の核の主人に現実で接触してください」「つまり、一度現実に戻る必要があるってことか?」「左様です」「接触する必要性はあるのか?」景佑が質問する。「この世界は現実での認知、個々の意識が関わっています」「その認知を変えることで、夢の世界でも影響が出ます」「具体的な接触方法は今から説明します」そう言うと、建物の壁に向けて何かの力を使った。すぐに異変が出た。プロジェクターのように壁に映像が流れ始める。「この力もブラムなのか?」「少し違いますが、概ね同じ力です」「まず、認知を変えるために個
「大丈夫か!」すぐに合流し、駆け寄った。体を揺らし、起きるように促した。「おい!起きろ!」声でも起こしてみようとする。だが、いくら揺らしても起きる気配がない。口元に指を当てる。幸い息はしているようだった。彼女の方を見ると、その子のことを凝視していた。「この子、知ってる…」「実際に会ったわけじゃない、でもどこかで…」その瞬間、黎慈は彼女の肩を掴んでいた。「本当か?どこで?」「ちょっと、がっつきすぎ」彼女は黎慈をかなり強い力で肩から剥がしていた。「…悪い」「でも、本当にどこで会ったんだ?」気まずそうな黎慈の代わりに景佑が聞いた。「少し長くなるから、まずはその子を安全な場所に移動させよう」黎慈がその子を抱き抱え、噴水がある場所まで移動することにした。「よいしょっと」黎慈がその子を地面に置いたが、まだまだ起きる気配はなかった。「さっきの話、聞かせてくれ」彼女が地面に座った。「二人も座って」黎慈と景佑が座った。「あんまり覚えてないし、名前もわからないんだけど、覚えてるところまで話すね」女子生徒は話し始めた。「最初に記憶にあるのは夢の中でかな」黎慈がそのことについて疑問を持った。「夢ってどっちの意味?」「この世界じゃないよ。寝てる時に見る方」「ちょうど十日前かな」「内容は覚えてないんだけど、何かを言われたんだよね」覚えてないのか。まあ夢で見た内容を忘れることは良くあることだろう。そのまま話を聞くことにした。「そして昨日。またこの子が夢に出てきたんだよね」「その内容はしっかりと覚えてる」二人は固唾を飲んだ。「早くこの街から逃げろって」二人は妙に感じた。なんせ前に会った時は普通の女の子。同じ学校に通う一般女生徒だったはず。確かに少しおかしいと思う点はあった。だが、それを差し引いても一般女生徒のはずだ。「なんかおかしくね?」景佑が先に口にした。黎慈も薄々感じていた。「ああ、“何か“がおかしい」明らかに異変が起きている。そうこうしていると、横たわっていた子がモゾモゾと動き出した。起きたようで、黎慈と目があった。「ここは?」「夢の世界だ」そう黎慈が答える。「左様…ですか…」何だか前より雰囲気が違って見えた。「どうやら間違えたようですね」三人は困惑していた。「間違えたっ
梯子を登り、先程まで居た通路まで出た。相変わらず静寂に包まれていた。「…っで…君たちは…何なわけ?」息切れしているようだったが、声は明らかに苛立っている。「難しい質問だな」黎慈は口を窄めた。どうせ自分たちが言っていることは信じてもらえない。言っても無駄だと黎慈は考えた。そのまま黙って進むことにした。「ちょ、答えてよ」先を急ぐ黎慈の服の裾を乱暴に掴んだ。「はあ…」うるさい口を閉じるために、話すことにした。「ここが夢の世界って言ったら信じるか?」「は?何言ってんの?頭おかしいんじゃないの?」そりゃあそうだよな。まぁ、当然と言えば当然の反応だ。しかし、すごく癪にさわる。「やっぱいいや」先を急ぐことにした。「ちょっと!信じるからって言ったじゃん!無視すんの?」また黎慈の服の袖を強く引っ張ってきた。仕方なく自分たちの目的と、何者なのかを話し始めた。「とにかくそう言うことだから、絶対に離れるなよ」黎慈と景佑は出口に向かって歩き始めた。少女は黎慈の裾を掴んだまま、後ろをガッチリとついてくる。時々、後ろから大きめのため息が聞こえる。明らかに聞こえるように言っているだろう。数分歩き、やっと出口の扉が見えた。慎重に扉を開け、登ってきた階段を上がった。外に出る扉まで着き、扉を開けた。幸い、外には何もいなかった。「ふう~、やっと外か」「狭くて息苦しかったわ」その子は地面にドカッと座った。相当疲れていたのだろうが、座り方も投げやりだ。黎慈と景佑も数十分ぶりの外の風を感じながら、軽く息をついた。少しの間、誰も口を開かなかったが、その静けさが逆に不安を増幅させていた。「これで大丈夫なのか…?」景佑がぽつりと呟いた。「外には何もいない、今のところはな」黎慈はそう言いながらも、油断することなく周囲を見渡す。「ねえ本当に夢なの?信じらんないんだけど」「さっき信じるって言っただろ」「実感がまだないって言うか…」「ていうかあんたら本当に信じてるの?頭大丈夫?」一挙手一投足全てが黎慈をイライラさせる。『置いてってやろうか、こいつ』そう思うほどに。少女はもぞもぞと地面に座ったままの体勢を変える。「実際に四肢は現実と同じように動かせる訳だし…」女子生徒は手を擦り合わせるなどして、感覚を確かめていた。「この世
さらに奥まで進んだが、周りの景色は一向に変わらない。無機質な鉄格子と丸石の壁だけがまだまだ続いている。「なあ、これ同じところ行ったり来たりしてないか?」歩いていると、景佑が話し出した。「まあ、こんなに同じ場所ばっかりだとそう思うよな」「いや、これ見てくれよ」景佑は壁に書かれている名前を指さした。『3ーA 竹中夏美』入り口で見た名前と同じで、番号もまるっきり同じだ。「同じ名前…」「一体どう言うことだ?」黎慈は周りを見渡し、難しい表情をした。だが、解決になりそうなものは何もない。奥の道もまだまだ続いている。「大抵、ゲームとかだとギミックがあってそれをこなすと解ける、ってのがテンプレなんだが…」「…」二人は考え始めた。だが、黎慈は何も思いつかない。ループしていると仮定して、何がきっかけでなっているのかすらも検討がつかない。そもそもここから抜け出せるのかすらわからない。そう考えていると、景佑が徐に壁を触り始めた。「何してんだ?」「もしかしたら、壁はあるようで無いのかもしれない」訳のわからないことを言い始めた。遂に頭がおかしくなったかと思った。だが、壁を触っている景佑は何かに気づいたらしい。「黎慈、ここの壁…」景佑に変わり、黎慈が壁を触る。他の壁とは違い、少しだけ奥に押せるような感覚があった。「もしかして…?」黎慈はその部分を力強く押した。「ガシャン…」装置が動くような轟音が空間へと響く。すると、後ろにあった鉄格子の部屋が開いた。それと同時に、それまで無限のように続いていた奥の道が、消えるようにして壁になった。二人は息をのみ、その鉄格子の部屋の中に入って行った。とは言っても、特に何の変哲もない刑務所のような空間だった。だが、この部屋に何かがあるのは間違いない。二人は隅々まで探すことにした。黎慈が今にも壊れそうなベッドの上に登り、上の方を見ていた。ベッドの上には木製の棚しか無かった。ベッドから降りようとした時、体勢を崩してそのまま背中から地面に落ちてしまった。「いてて…」「何してんだよ…」ベッドは大破していた。ただ、ベッドの下に何かがあるようだ。毛布や鉄筋を除ける。すると、そこに現れたのは開きそうなドアだった。黎慈はドアを開けた。下には梯子が続いており、さらに地下へと続いているよ
気がつくと、すでに夢の世界にいた。景佑とも合流し、夢の核へと向かった。「今日は外を探索してみないか?」屋敷に着くと、景佑が提案をしてきた。「前回みたいに正面から入ると、待たれている可能性もある」「今のうちに裏口的なのを探しておいたほうがいいんじゃねえか?」合理的だ。「確かに、それもそうだな」二人は別れて、屋敷の周りを探索することにした。黎慈は右周りに見ていくことにした。改めて屋敷をまじまじと見ると、年代的な劣化のような錆などが見当たらない。中から外の様子などは見れたはずだが、窓などはどこにも見当たらない。幸い、外には特に誰もおらず、隅々まで探すことにした。だが、数十分探索したが他にも目立ったものは見つからなかった。ついに屋敷の反対側まで着いてしまった。「何もないな…」特に収穫がなかった黎慈は、景佑もここにつくだろうと考えた。壁に寄りかかりしばらく待つことにした。数分待っていると、景佑が走ってこちらに向かってきた。目を細めてよく見ると、景佑がこちらに手招きをしていた。黎慈は景佑の方へ向かった。そこは庭のような空間になっており、噴水や芝生などが綺麗に整備されていた。「何かあったのか?」「ああ」黎慈は景佑が歩いていくのを静かに着いて行った。二人は噴水の近くについた。景佑が噴水の横にある芝生を指さす。黎慈には何もないように見えた。「?何もなくないか?」景佑はその芝生がある場所に数回ジャンプをした。何やら板材が軋んでいるような音がする。黎慈は困惑した。「もしかして…」「おそらく、隠し扉だろうな」もう一度よく見てみると、その芝生がある場所が不自然に他の場所よりも浮いている。二人はその場所を芝生ごと持ち上げようとした。かなり硬く癒着しているらしく、少しの力ではびくともしない。「仕方ないな…」景佑はそう言うと、拳を握り始めた。おそらく、ブラムを使うのだろう。黎慈はその場所から少し離れ、見守った。「へっ!」掛け声と共に光が散らばる。黎慈の方に飛んでくる破片などから顔を手で覆った。もう一度見ると、人一人が入れそうな穴が空いていた。近くまで行ってもう一度見ると、下に階段が続いていた。「行くか」景佑の声に首を縦に振り、向かうことにした。景佑を先頭に中に入り、階段を下って行った。幸い、天井に明
時間は7時半、衣百合(いゆり)が食器を洗いながら、ロビーの椅子に座っている黎慈(れいじ)に話しかけてきた。「黎慈(れいじ)くんは、今日の学校はどうだった?」「まあ、楽しそうな雰囲気でしたよ。一年間、楽しみです」「なら良かった。私、こう見えても生徒会の人間だからさ。そう思ってもらえて嬉しいよ」 衣百合(いゆり)は笑顔で黎慈(れいじ)を見ており、また衣百合(いゆり)が話しかけてきた。「黎慈(れいじ)くんはさ、部活動とか入る予定はある?」「今は
学生寮に戻ったのは、午後4時を少し回った頃だった。部屋に入るなりベッドに腰を下ろし、鞄を床へと放り投げる。空き教室での会話が、まだ耳を占領している共通夢。夢の中で落ち合う。にわかには信じがたい話だ。普通だったら、興味も湧かなかっただろう。しかし、夜になるまで何を考えても空回りするだろう。一度深く息を吐き、スマホで夕食前の時間にアラームを設定した。まだ時間はある。余計な考えが脳を占領するよりも、一度寝てリセットした方が良いと考えた。部屋の電気を消し、制服のままベッドの上で目を閉じる。意識はすぐに沈んでいった。また、妙な違和感を感じた。目をゆっくりと開ける。──青白い
「そこまでして知りたいんだな。この町について」男子生徒の声は、静まり返った空き教室の中でやけに重く響いた。放課後の校舎は人気が少なく、窓の外から聞こえてくるのは、遠くのグラウンドで続く部活動の掛け声だけだ。古びた時計の秒針が、やけに大きな音を立てて時を刻んでいる。「当たり前だ」迷いなくそう答えた。「この街に一生住む可能性もあるんだ」「少しでも、自分の中の疑問は晴らしておきたい」できるだけ平静を装ってそう答えた。しかし、自分でも感じるほど強い興味に動かされている。無理もないのだろう。妙なことの連続で、「……そっか。分かった」彼は一度目を伏せ、小さく息を吐いた。その仕草
「今日、隣のクラスのさっちゃん、休みらしいよ」「噂の『夢』のせいで……」「ちょっとやめなよ、転校生くんもいるんだし」「そんな気軽に夢の話題出さないでよね」その話題が聞こえた一瞬、教室の空気が乾いた気がした。その渇きはすぐに元通りになる。窓側の席に座りながら、窓の外を見る。しかし、目前の桜並木には興味が行かない。耳にだけ、意識が持っていかれている。盗み聞きのようであまり良くない気もするが。先の反応といい、どう考えてもただの都市伝説では片付けられない何かがある。ダメ元で、隣に座ってスマホをいじっている男子生徒に声をかけてみた。「なあ、突然悪いんだけど……この町の『夢』って、







