INICIAR SESIÓN「とぼけないでよ!」葵は激怒して部屋に押し入ってきた。「来週、大輔さんの婚約パーティーがあるのよ!あの斎藤グループのお嬢様と婚約するなんて、こんな大きな出来事、黒崎家の三男の妻として、知らないわけないでしょ?知っていたなら、どうして教えてくれなかったのよ?今さら状況を変えようとしたって、もう手遅れじゃない!?」葵は怒鳴りながら、スマホを強く握りしめた。画面には、大輔が婚約するというニュースが、はっきりと映し出されていた。それを見た凪は呆気にとられた。こっちにとっても初耳のニュースだったからだ。ただ、自分と空が出会った当日にすぐに入籍したことに比べれば、大輔と春海の噂は以前からあったのだから、これくらいの時期に婚約が発表されても驚くようなことではない。凪はまったく動じず、腕を組んだまま、ドアの枠に身を預けた。「黒崎家のやることは絶対よ。最近嫁いだばかりの私が一言言ったくらいで変わるもの?それに、あなたがちゃんと大輔さんの心をつなぎとめていれば、斎藤さんが出てくる隙なんてなかった。男を射止める魅力がないのは自分のせいだし、婚約のことをニュースで知ってしまうようじゃ、元から好かれていなかったのよ。自分に惹かれていない男なんて、無理やり引き留めても無駄だけどね」そう告げると、凪は時計を気にかけつつ、葵の横をすり抜け、ミツキホールディングスの仕事を片付けようとした。しかし、再び葵に手を掴まれた。「お願い、お姉さん……」葵は声を詰まらせてすがりついてきた。「私たち二人が黒崎家に嫁ぐ方が、二宮家にとってもずっと都合がいいでしょ!私を黒崎家まで連れて行って。そうしてくれたら、絶対に大輔さんの気持ちを引き戻して見せるから……」そこへ、大地も後を追ってやってきた。「凪、葵は君の妹なんだし、大輔さんとうまくいけば、今後の黒崎家で信頼できる人が増えるじゃないか」凪はそこで歩みを止めた。その様子を見た二人が、ようやく凪の心が動いたと喜んだ直後、凪はパシッと葵の手を振りほどき、冷たく言い放った。「葵、本当にどうかしてるわ。大輔さんと斎藤さんは、両家が認めた相手同士。今更あなたの入る余地なんてないわ。割って入れば、ただの泥棒猫になるだけ」凪はそう言い捨てると、二人に背を向け、その場を離れた。葵は、前に春海
「お気になさらず」大地は言葉に詰まった。しかし莉子は必死になって叫んだ。「デタラメ言わないで!私を陥れる気ね!その証拠は全部、捏造したのよ!」言い終えると、莉子は真っ赤になって凪の髪を掴もうとした。凪はすっと頭を引いてそれをかわした。そして莉子をソファへと押し倒し、無様に叫び声を上げる彼女を見下ろして、静かに手を上げた。後ろにいた泉が、整理された書類を凪に手渡した。凪はその書類を莉子に向かって投げつけた。「これに書かれていることは、すべて事実ですよね!」「お父さん、莉子さんはミツキホールディングスで資金を横領して、多大な損失を出していて、毎年数億円の損害を与えている。これだけでも、十分に警察に引き渡すべき案件よ」警察って……大地と莉子は、その言葉に凍り付いた。大地は慌てて言った。「でも、身内なんだし、警察に突き出すなんて、世間に知られたら……」「凪が通報しづらいのでしたら、部外者の俺が代わりに通報しましょうか?」渉が、突然そう口を開いた。凪の瞳が冷たくなった。渉は、なぜいつも余計な口を挟んでくるのだろう?別に本気で警察に引き渡すつもりはなかった。この機会に、横領された金をすべて吐き出させたいだけだったのだ。莉子は目を吊り上げ、渉を睨みつけた。「何様のつもりよ!二宮家の問題に口を出さないで!ひょろひょろした体をして、ろくな教育を受けていないんじゃないの……きゃっ!」莉子が言い終わる前に、大地は、その頬を強く叩いた。身内のトラブルなど、自分たちで静かに解決すればよかったのだ。まして、渉という大切な客を敵に回すなど、絶対にあってはならないことだ。「いい加減にしろ!甘やかされて育ったから、そんな身勝手な態度をとるんだ!凪は身内の問題を穏便に済ませようとしていたのに、お前はこんな風に暴れて……恥を知らないのか!その頭をしっかり冷やしてから出直してきなさい。出て行け!」莉子はまだ何か言いたそうにしていたが、大地は警備員に合図をして、無理やり彼女を引きずり出させた。莉子の泣き叫ぶ声が、次第に遠ざかっていった。社長室はようやく落ち着きを取り戻した。大地は、慌てて渉に笑みを向けた。「取り乱してしまいまして、本当に申し訳ありません。中島社長、どうか今の言葉は気にしないでください。ただ
「いつでも相手になります」凪は凛とした態度で答えた。その態度に、莉子はさらに怒りを燃え立たせた。「いいわ、大地さんが怖くないっていうなら、一緒に二宮グループのところに行きましょう!」大地が、凪のことをよく思っていないのを知っていたのだ。二宮グループへ行けば、いとこである大地が自分の味方をしてくれるに違いない。自分のほうが圧倒的に有利だと感じた莉子は、凪に向かって得意げに顔を上げて、挑発的な視線を向けた。しかし凪は動じることなく、静かに頷いた。「莉子さん、後で泣き言は言わないでくださいね」「ふん!大地さんがいとこの私を可愛がるか、男を追って家出を繰り返していた娘を信じるか。見ものだわ!」二人は睨み合い、空気は張り詰めていた。莉子は話をつけようと、凪を連れて二宮グループへ急いだ。……二宮グループの社長室で、大地は、渉と新しいプロジェクトについての打ち合わせをしていた。そこへ、秘書が慌てて飛び込んできた。「社長、ミツキホールディングスの責任者である丸山様が、どうしてもお会いしたいとおっしゃっております。止めることができず……」「ミツキホールディングスは凪に任せたはずだろう?なぜ急に……」大地は眉をひそめ、そっと渉の方へ目を向けた。親戚同士の醜い争いは、さすがに部外者には見せたくない。だが、大地が言い終わるよりも先に扉が開かれた。莉子は警備員を振り払い、涙を流しながら無理やり押し入ってきた。彼女は渉の姿に気づくこともなく、いきなり大地へ向けてバッグを投げつけた。「大地さん!凪にひどいいじめを受けたの!あの子、私が育てた社員を勝手に全員クビにして、私まで追い出そうとしているの。他の人には退職金を払うくせに、私には一円も払ってくれない……大地さん、私はこれからどうすればいいのよ!」ひとしきり愚痴をこぼすと、莉子は泣きながら大地の横へ駆け寄り、その肩を叩こうとした。大地は眉をひそめて彼女の腕を避けて言った。「莉子、話なら後で聞く。いまは中島社長が……」「どうして今じゃだめなの!今日解決してもらわないと、私は帰る場所までなくなるかもしれないわ。うぅっ!」「……」大地はため息をついた。その時、部屋にやってきた凪は、中に座っている渉の姿を目に留めた。渉は凪を見るなり、
ロビーにいた役員たちは全員、静まり返った。莉子の顔から笑みが消えた。彼女がまだ何か言おうとする前に、凪はすでに隣の陽菜へと目を向けていた。「私と一緒に人事へ行って、ミツキホールディングスの社員のデータを集めてちょうだい。それから、経理の全データをロックして。30分後には、私の秘書もチームを連れて来るから、帳簿の照合と人員の整理をするのよ」「はい」陽菜はうなずき、受付で預かったカードキーを手に、凪を追ってそのまま上のフロアへと上がっていった。陽菜にとって、これが初めての仕事だった。しかし彼女は恐ろしいほどの手際の良さで動いた。経理部も総務部も何が起きているか理解できないうちに、出入りを禁じられ、事態が収束するのを待つことしかできなかった。しばらくすると、泉が新しい人事や経理の担当者たちを連れて現れ、作業に加わった。その間、莉子は何度も凪との話し合いを求めた。だが、凪はそれを一切受け付けなかった。役員たちの持ち物を次々と押さえ、陽菜と泉と共に重要書類を集めると、すぐに信頼できるチームに調査を依頼した。こうした状況が丸二日間続いた。ミツキホールディングスでは、清掃員と警備員以外の人間が一人残らず一掃された。そして、莉子が再び凪と顔を合わせた時のことだ。入り口の通路には多くの人が押し寄せ、オフィスの扉をドンドンと叩いて大声を上げていた。「辞めさせるなら退職金を出せ!」「俺たちはミツキホールディングスで何年もやってきた古参なんだ!言葉だけで退職させようなんて都合のいいことは通用しない!」「不当解雇として訴えてやる!」目の前に広がる怒りの渦の中、凪は椅子に座り、穏やかな表情で言った。「陽菜、賠償を求める人間をリスト化して。規定に基づき、適正な額を支払いなさい」あまりの対応の早さに、社員たちは呆気にとられた。納得できた者もいれば、できなかった者もいた。紆余曲折あったものの、最終的には大半の者が合理的な金額を受け取り、立ち去った。これにより、ミツキホールディングスの人員入れ替え作戦は完全に成功した。そんな様子を見ていた莉子は、怒りに駆られながら群衆をかき分け、凪の机を力いっぱい叩いた。「全員追い出して会社を潰す気なの?!ミツキホールディングスは私が必死で育ててきた会社よ!」莉子の手駒だっ
「ここが本当にヤクザの本拠地だったら、お二人をただで帰すわけがないだろ?」警備員は鼻で笑った。陽菜が、世間知らずの田舎者に見えたからだ。今時、ヤクザだなんて大げさなことを言う奴がいるとは。言い終えると、警備員はそのまま二人を外へ押し出そうとした。陽菜は反射的に体を縮こまらせた。すると、凪は毅然とした態度で一歩前に出ると、陽菜をかばった。「私は本社から派遣された君たちの新しい上司よ。話は聞いてないの?」「お前が?」警備員は吹き出した。「ミツキホールディングスの上層部といえば、みんな毎日仕立ての良い高価なスーツを着てるような人たちだよ!」凪は、怒りを我慢した。母が生前、一生懸命に作り上げたミツキホールディングスが、どうしてこんな風になってしまったのだろう?腹の底から怒りが湧き上がり、凪は目の前の警備員を突き飛ばした。そして受付に戻り、指先でカウンターをコンコンと叩いた。「だったら、その仕立ての良い高価なスーツを着たお偉いさんを、今すぐここへ呼んできなさい」「何様のつもりですか……」受付の女性は呆れたように言いかけ、文句を言おうとしたその時、凪は鼻で笑い、二宮グループの社員証を彼女の前に投げつけた。「私は、二宮グループの副社長であり、本社の社長の娘だわ。いい服を着ていようがいまいが、あなたたち、これからは私に雇われる身になるの。理解できるかしら」そう言い放つと、凪は優雅に背を向け、陽菜を連れて待合室へと歩いた。「10分以内に上の人間が来なければ、全員クビよ」「そんな!」受付の女性は顔色を変えて凪の社員証を確認し、慌てて上司に電話をかけた。警備員は腰が抜けそうになり、焦りながらも二人に温かいお茶を差し出し、謝り続けた。「自分がバカでした。どうか、お許しください!クビには……」「これ以上喋ったら、今すぐクビにするわよ」凪は顔も上げずに言い放った。警備員はすぐに口を閉じた。隣で陽菜は、すっかり凪に圧倒された。凪は口が達者なだけかと思っていたが、これほどの迫力があるとは。怒った顔が怖すぎる。それから間もなくして、ミツキホールディングスの責任者である丸山莉子(まるやま りこ)が、役員たちを引き連れて慌てて駆けつけてきた。少し小太りの莉子は、首にしっかりと毛皮のマフラーを巻
振り返ると、なんと渉はまだ凪の後ろ姿を目で追いかけていた。直美は激しい焦りと苛立ちに襲われ、目に涙をためて渉に歩み寄った。「全部、私の体が弱いせいだわ。凪さんのように、渉さんの代わりに外で働いて支えてあげることができなくて……それにしても、凪さんが黒崎さんと一緒にいた時は、あんなお金の使い方はしていなかったじゃない。黒崎さんだって、浮気相手にもらった服を着て外を歩くような人じゃないし。ねえ、渉さん。これって……凪さん、もしかして新しい恋人ができたんじゃない?」直美は「新しい」という部分を特に強調した。その言葉を聞くと、渉の脳裏に、先日見かけた車内の男の顔が浮かび、表情を曇らせた。自分のライバルは、空の他にもいるというのか?渉は冷たい表情のまま、すぐさま秘書に詳細を調査するよう命じた。彼の背後で、直美は満足げに口元を歪ませた。渉はいずれ、あの女の汚い本性を見抜くはず。そうなれば、たとえ後から空に見捨てられて渉のところへ戻ってこようとしても、きっともう無理だわ。渉の隣にいられる権利は、最初から自分だけのものなのだ。……凪はシャツを持って、車に戻った。すると突然、葵からの通知が立て続けに届き、スマホが小刻みに鳴り響いた。今度は何の用かしら?凪はうんざりとした気持ちで、スマホを開いた。まず目に入ってきたのは、一枚の写真だった。暗がりの中に立つ空と、美しい女性の姿だった。隅の方にいるが、寄り添って互いに向けた優しい笑顔が見て取れる。かなり親密そうだ。続けて、葵のメッセージも目に入った。【これね、空さんが海外で作った愛人よ】【子どもも作れないような男に逃げられるなんて、お姉さんも大変ね。空さんがほかの女との間に子どもも作れなくて、本当によかったじゃない。そうじゃなかったら、とっくに捨てられていたでしょうね】【しっかりしがみついておかないとね。お姉さんと一緒にいた、あのみすぼらしい二人の友達みたいにならないように、気をつけたほうがいいんじゃない?】トゲのあるメッセージが続いていた。昨日の夕方に嫌みを言われた腹いせに、なんとしてでも言い返したかっただけだろう。本当にくだらない。凪は迷うことなく、葵のアカウントをブロックした。自分と空は最初からお互いの利益のために結婚したのだか
名家に生まれた人間であれば、直美に染み付いた育ちの悪さは一目で見抜けるものだ。どんなに取り繕ったところで、無駄なことだった。静香は凪のことすら気に入らないのだから、直美のことなど好きになるはずもなかった。凪が現れると、静香の怒りは一気にそちらへ向かった。「自分の男もろくに繋ぎ止められないなんて、だらしないわね。あんな女を家に上げるなんて」渉は直美を背後にかばい、冷たく威圧するような声で言った。「直美は俺の友達だ。おばさん、言葉には気をつけて!」凪は初めて中島家に来たときのことを思い出した。あの頃は家に入る前から、渉に何度も念を押されたものだった。中島家の人たちと
達也が不意に言った。「二宮さん、松浦グループに来る気はありますか?あなたには……」彼が言い終わる前に、凪はきっぱりと断った。「ありません!」その華奢な後ろ姿を見つめる達也の瞳に、特別な感情が宿った。それは感心であり、少しのときめきでもあった。……メモに書いておいた用事が、また一つ片付いた。凪はホテルで半日休んでから、家に戻った。庭はひどく荒れていた。直美が、彼女の服を着て、高そうなショールを羽織っていた。そして、まるで家の女主人のように、使用人たちに大切に育てられた花を根こそぎ引き抜けと指示していた。凪が車から降りるのを見て、直美は得意げな表情を浮かべた
「水でも飲んで。直美がまだ目を覚まさないから、そばを離れられないんだ。凪ちゃん、いい子だからさ。俺も疲れてる。これ以上、わがまま言って俺を困らせないでくれるか?」電話は、一方的に切られた。ツー、ツー、という無機質な音が耳に突き刺さり、凪は目の奥がツンと熱くなった。昔、胃穿孔で手術を終え目覚めたとき、渉は彼女を抱きしめて長いこと泣いていた。ベッドのそばにひざまずき、大きな体を丸めて、まるで迷子になった大型犬のように彼女の首筋に顔をうずめていた。その声はひどく嗄れていた。「凪ちゃん、俺も辛かった。お前が手術室にいた時、胸が張り裂けるほど苦しかったんだ。分かるか?お前は、俺の命そ
渉の目に一瞬、気まずそうな色が浮かんだ。「凪ちゃん、直美のマンションがリフォーム中で、ペンキの匂いがひどくて、体に良くないから……」凪の心はきつく締め付けられた。もう気にならないと思っていたのに。でも、息が詰まるほどの痛みが、全身に広がっていく。「ホテルに泊まるお金もないっていうの?」直美は目を赤くしながら、バイオリンを片付け始めた。「私のせいで喧嘩しないで。今すぐ出ていくから」彼女は慌てて荷物を取りに行こうとして、テーブルの角に体をぶつけた。「痛っ」と声を漏らし、胸を押さえる。その息遣いは、か弱くて艶めかしい。「大丈夫か?なんて不注意なんだ。どこをぶつけた?薬







