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第10話

Author: 桜夏
病院に着いた頃には、透子の足は真っ赤に腫れあがり、あちこちに傷が残っていた。

医者は彼女の足を診ながら、思わずため息をついた。

「こんなになるまで放っておくなんて……あなた、自分の体を大事にしなさい。水ぶくれが全部潰れてたら、感染したら大事になるよ?」

透子は俯いたまま、黙って医者の言葉を聞いていた。ただ、自分の傷だらけの足をじっと見つめるだけ。

――別に、大事にしたくないわけじゃない。

ただ……

あの人たちが、私を壊す気でかかってるだけ。

診察を続けていた医者が、ふと尾てい骨や腰を見て青あざを発見、さらには腕にも打撲痕、目は泣き腫らして赤く腫れ、何も喋らず、一人ぼっちで来院している――

その姿に、思わず表情が曇った。

「腰のレントゲンも撮ろう。あと、今日は帰らないで入院しなさい。こりゃしっかり治さないとダメだ」

「……ありがとうございます」

透子の声はかすれていて、聞き取りにくいほどだった。

その後、入院の手続きを手伝ってくれたのは看護師さんだった。

透子は仰向けになれず、うつ伏せで病床に伏せるしかなかった。足は枕で高く持ち上げられ、焼けた傷口に当たらないように工夫されていた。

看護師が薬を塗り終えると、ヒンヤリとした感覚がじんわり広がっていく。熱を奪ってくれるその感触が、ほんの少しだけ、彼女の苦しみを和らげた。

時計を見た。

――午後7時半。

透子はスマホの電源を切り、目を閉じた。身体も、心も、限界だった。

あの二人が今どこで何をしてるかなんて、考えたくもない。

幸せにデートしてる?笑い合ってる?愛し合ってる?

――もう、どうでもいい。

ここには、あの人たちは来ない。ようやく、ちゃんと眠れる気がした。

――その頃。

午後8時。蓮司は美月を連れて焼肉を食べていた。

午後9時。二人は高級ブランドショップを巡って、蓮司は山のようにプレゼントを買い込んだ。

午後10時。蓮司は江辺の観覧車を貸し切り、二人が頂上に到達したその瞬間、夜空に花火が打ち上がる。

鮮やかな光が空を染め、その中で二人は唇を重ねた。

その夜、川辺にいた観光客たちはその光景に目を奪われ、「どこの御曹司が彼女にプロポーズしてるんだろう?」と、羨望の声を漏らしていた。

「ねぇ蓮司〜、帰りにごはん持って帰ろ?透子、家に置いてきちゃったでしょ。彼女、きっとすごく傷ついてるよ。絶食してたらどうしよう……」

助手席で、美月がしおらしく心配そうに言った。

……もちろん、本当の目的は、蓮司と一緒に家に戻って、さっき未遂に終わった「あれ」を続けること。

「は?あいつ料理作ってたろ?生きてる限り飯食うだろ」

透子の名前が出た途端、蓮司の表情が暗くなった。

「そもそも、あんな性悪女、心配する価値もねぇよ。昨日はお前を火傷させて、今日は包丁で殺しかけてきたんだぞ?俺が間に合ってなきゃ、今ごろお前どうなってたか……!」

怒気をはらんだ声で、蓮司が吐き捨てる。

美月はしばらく黙っていた。

やがて、少し声を震わせて、そっと言った。

「でも……私たち、小さいころから孤児院で一緒だったんだ。あの子がどうしようもないってわかってても、やっぱり――私の、たったひとりの家族だから」

その言葉に、蓮司の胸がきゅっと痛んだ。

こんなにも優しい美月が、透子に傷つけられながら、それでもまだ「家族」として想っている――

……それなのに、透子は。

「……あんな女に、その資格はない。これからは、俺が――お前の家族だ」

蓮司が無意識に口走ったその言葉に、美月はびっくりして顔を向けた。

目に浮かんだのは、抑えきれない嬉しさと期待。

けれど、すぐに表情を落として、涙ぐんだ声で囁いた。

「でも……ダメだよ。透子は、今、蓮司の奥さんでしょ……私、奪えないよ……」

「奪ったのはあいつだろ!お前から全部を!」

蓮司の声がひときわ大きく響く。

「本来、『新井夫人』の座は、お前のものだったんだ!」

その叫びに、美月はしおらしくうつむきながらも、心の中ではニヤリと笑っていた。

――離婚話は透子のほうから出ている。蓮司が応じていないのは「復讐」のためだと知っているけど……

それでも、透子に「奥さん」の肩書きを残しておくなんて、絶対に許せない。

なら、蓮司自身に言わせるように仕向けなきゃ。

「私は……蓮司が想ってくれてるだけで十分。透子は、ちゃんと結婚してるんだから」

美月は健気そうに、優しく、悲しげに言った。

蓮司は何かを言いかけて、ぐっと飲み込み、ハンドルを握る手に力を込めた。

……数秒、沈黙が続く。

でも、蓮司はそれ以上の言葉を出せなかった。

美月は、唇を噛んだ。その目には、じわっと滲む悔しさと怒り。

「ねぇ、ちょっとここで停めてくれる?透子、前にここの料理すごく好きだったから……一緒に食べるのもいいかなって」

わざとらしく、話題を変えた。

蓮司の思考が切り替わる。美月の思いやりのある態度に感心しつつ、ふと頭をよぎったのは――

キッチンで透子を突き飛ばした、あの瞬間。

自分がやった仕打ち。そしてそのあと見た、透子の背中。

どこかモヤモヤを抱えながらも、蓮司は車を停めて店へ向かった。

……でも。

美月の思惑は外れた。

食事を買った蓮司は、そのまま美月をホテルまで送り届けただけだった。

「今日はゆっくり休めよ。じゃ、また明日」

優しく前髪を整えてあげながら、蓮司はそう告げた。

笑顔で見送る美月――だがその内心では、悔しさで奥歯を噛みしめていた。

高級ヒールのかかとが、ギシギシと音を立てるほど。

――そして、蓮司の車は家の駐車場へ。

エレベーターに乗り、食事の入った袋を見下ろす。

あの「狂った女」のために、こんなもん持って帰ってくるなんて……美月が言わなかったら、絶対やらなかった。

――放っておいて、餓死すりゃいいのに。

玄関を開けると、部屋の中は真っ暗だった。

「透子!何だよ、電気もつけずに……死んでんのか!?」

怒鳴り声を上げても、返事はない。

一気に苛立ちが募る。

電気をつけ、食事をキッチンに置いた時、床が綺麗に拭かれているのが目に入る。

――じゃあ、家にはいたんだな。

ますます怒りが沸騰した蓮司は、足早に客室の前へ。

ガンガンとドアを叩きながら、声を張り上げる。

「開けろ!おい、透子!聞こえてんだろ!!」

……だが、返事はない。

ついにブチギレた蓮司は、ポケットから鍵を取り出し、ドアを開ける。

「てめぇ、なに中で――」

言いかけた言葉が、空気の中に溶けた。

――部屋は、空っぽだった。

「……はは、いい度胸してんな」

拳を握りしめ、蓮司の顔に怒りが滲む。

「勝手に家出とか……いいだろ。好き勝手やってくれよ」

彼の怒気は、この瞬間、最高潮に達していた。

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Mga Comments (17)
goodnovel comment avatar
恵美
…………………( º言º)
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良香
後何話で離婚出来るの??? 早くしないと透子ちゃん死んじゃうよ!!
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mi
うざーーーーーーー!
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