今回のオークションはチャリティー目的だから、自分が寄付した作品がこれほど途方もない高額で落札されるのも決して悪いことではなかった。洵は澪の傍らに立ち、その視線を彼女の顔から片時も離さなかった。彼が想像していたのは、すべての競争相手をねじ伏せ、5億ドルという大枚を叩いてこの髪飾りを落札して贈れば、澪が感動のあまり熱い涙を流す姿だった。この世に、5億ドルのジュエリーを拒絶する女など存在しない。そんなプレゼントを贈ってくれた男に、心を動かされない女も存在しない。しかし、澪の反応は、洵の想像とは大きくかけ離れていた。5億ドルの髪飾りを身につけた澪は、大勢の視線が注がれる中、ゆっくりと立ち上がり、洵と正面から向き合った。洵は気づいた。今日の澪はごく薄いメイクでシンプルなドレスを着ているだけだったが、この髪飾りを挿しても、決して浮いて見えたり気圧されたりしていないことに。洵が瞬きもせずに自分を見つめているのに気づき、澪は微かに微笑んだ。「ありがとう」ごく単純な一言が、洵の胸にずっとつかえていた正体不明の重苦しさを消し去ってくれた。しかし次の瞬間、彼の目の前で、澪はその髪飾りを自分の髪から外し、ステージへ歩み寄って、再び司会者の手へと渡したのだ。澪が司会者に小声で何かを告げると、司会者の表情が驚愕から躊躇いへと変わり、気まずそうに洵の方をチラリと見るのが分かった。続いて、司会者は再びステージの中央に立ち、黄金の髪飾りを展示用のケースへと戻した。「夏目様より、この髪飾りを再び当チャリティー財団へご寄付いただけるとのお申し出がございました。従いまして、これより、髪飾りの第二回オークションを開催いたします」司会者のその宣言に、会場は再び爆発的なざわめきに包まれた。千晃は口元を覆って必死に笑いを堪えていたが、その笑い声ははっきりと漏れ聞こえていた。このチャリティー晩餐会に出席しているゲストは世界中から集まっており、全員がA国の人間というわけではない。しかし、中には澪と洵の過去のゴシップを耳にしている外国人客も少なからずいた。「あの夏目という女性は、篠原社長の元奥様らしいぞ」「本当か?ということは、篠原社長は復縁を迫って玉砕したってことか?」「でも、篠原家が今狙っているのは、林家との政略結婚じゃないのか?」
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