その言葉が飛び出した瞬間、直哉は思わず一雄の方に視線を走らせた。心の中で「なんて命知らずなことを……」と、聖奈のために冷や汗をかいたのは言うまでもない。案の定、一雄の顔は一瞬にして凍りついた。「真帆は愛人などではない」その声は極めて大真面目で、眉間のあたりからは威圧感すら漂っていた。「聖奈、二度とそのようなふざけた口を叩くな」「あ、はーい……」聖奈も兄が本気で怒っていることを察し、バツが悪そうに苦笑いした。「分かったわよ。お兄ちゃん、もう絶対言わないから」そう言って、自分の口元にチャックを閉めるジェスチャーをしてみせた。彼女だって、一雄が自分の領域に他人が土足で踏み込むのを嫌うことくらい知っている。わざわざ兄の逆鱗に触れるような真似はしなかった。訴訟が受理されてから実際に裁判が始まるまでには、まだしばらく時間がかかる。そのため真帆は、まず知恵に付き添って一度星ヶ丘へ戻り、事務所の移転手続きを進めることにした。そして、いよいよ開廷を控えた数日前、再び星嶺市へと戻ってきた。知恵は星ヶ丘での事務所統合の件で手が離せず、今回は真帆一人での帰還だった。真帆が飛行機を降りて歩いていると、前方から空港の制服を着たスタッフが真っ直ぐ近づいてきた。彼女が足を止め、視線で用件を尋ねると、スタッフは恭しく一礼した。「真帆様ですね。お客様のマイナンバーカードが出口の通路に落ちていたようで、当清掃員が拾い、落とし物センターに届けております。お手数ですが、確認のために一度センターまでご同行いただけますでしょうか」「マイナンバーカード?」真帆が慌ててバッグの中を確認した。確かにマイナンバーカードが見当たらない。特に疑うこともなく、彼女はスタッフの後についてセンターへと向かった。落とし物センターに入ると、中にいた係員がすぐに立ち上がって温かいお茶を淹れ、非常に礼儀正しい態度で彼女を席に促した。「真帆様、恐れ入りますが少々お待ちください。拾得物の返還には先に簡単な手続きと登録が必要でして、数分ほどお時間をいただきます。まずはお茶でも飲んで、一息ついてお持ちください」「ありがとうございます」真帆はカップを受け取ったものの、口はつけなかった。しかし、落とし物センターの中は暖房が強く、しばらくすると真帆は胸のあたりが酷く息苦しくなってくるのを感じ
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