玲は、意味を理解するまで数秒かかった。 玲の手が止まった。 「……カウンセリング?」 「うん。毎週金曜日。残業って嘘だったの……ごめんね」 玲はすぐに首を振った。 「謝らないで」男と会っていたわけじゃない。 渚は、まだ俺じゃなきゃダメなんだ。 胸の奥に張り付いていた冷たいものが、ゆっくりと剥がれていく。 「どうして、カウンセリングに通ってるんだ?」 渚は少しだけ視線を落とした。 「……いいかげん、過去を克服しようと思って」 それから、真っ直ぐ玲を見る。 「玲に、無理させてるから」 「俺?」 玲は反射的に否定しようとした。 そんなことない。 無理なんてしてない。 渚といるのは幸せで、好きで、だから―― 「何も言わないで」 渚は首を横に振った。 玲は口を閉じた。――渚は知っている。 玲が優しいことを。 だから、きっと否定することも。 でも、否定してほしくなかった。 「玲、優しいから……私が怖がるたびに、ずっと我慢してくれてたでしょ」 「……」 「だから、ちゃんと向き合いたいって思ったの」 玲は黙って渚を見ていた。 「玲と、ずっと一緒に居るために」 玲の喉が、小さく鳴った。 「……ずっと?」 思わず、確認するみたいに訊いていた。 「俺と、ずっと一緒にいてくれるの?」 渚は少し照れたように笑って、頷いた。 それだけでよかった。 胸の奥で凍っていたものが、ゆっくり溶けていく。 残業の嘘は、これだった。 自分のために、通っていた。 (……そうか) 他の男じゃなかった。 誰かに会っていたわけでもない。 ただ渚は、渚自身のために動いていた。 それが分かっただけで、ここ数週間の不安が嘘みたいに軽くなる。 「実は」今度は、玲が口を開いた。 「昇格するんだ」 渚の目がぱっと明るくなる。 「すごい! お祝いしなきゃ」 「それで、引っ越そうと思ってて」 「うん?」 「リビングもキッチンも、もっと広い部屋」 「いいね」 「渚の会社から近いところ」 渚は少し笑った。「日曜日に泊まれたら、朝ゆっくりできるね」 「歩いて行けるよ」 そこで、渚が小さく首を傾げる。 「玲の会社から遠いよ? 本当に大丈夫?」 「いや、その……」 玲は視線を逸らした。 こんな言い方をするつもりじゃな
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