高槻亜希は、店によって名前を変えていた。 それに気づいた瞬間、私の中で一本の線が動いた。 私は亜希に関する記録を、一枚の紙の上に並べていた。贈答の送り先。送迎が向かうエリア。来店に同伴した日。そして、名乗り方。 並べてみて、おかしなことに気づいた。亜希は、いつも「高槻亜希」を名乗るわけではない。場によって違う。 三崎の連れとして来る時は、ただの女性として扱われる。けれど、別の席では、名刺を持っていた。肩書のついた名刺を。 完全な偽名ではない。けれど、同じ女が、立場を着替えている。 「この人ね」 沙耶が、私の手元を覗き込んで言った。 「前は、取引先の人って紹介されてたわよ。広報がどうとか。あたし、てっきり仕事相手かと思ってた」 私はその一言に食いついた。 「仕事相手、ですか」「そう。だから最初は、社長と何かあるなんて思わなかった。途中で、あれ、これただの愛人じゃんって気づいたけど」 愛人。けれど、仕事の顔を与えられた愛人。 その差は大きい。 ただの愛人なら、三崎は自腹で囲うしかない。 けれど「取引先」や「広報協力」という顔があれば、囲う金に理由がつく。 会食に同席させても説明できる。 贈り物をしても説明できる。 住まわせても説明できる。 すべて「仕事上の関係」という顔で処理できる。 会社の経理
Baca selengkapnya