明日、全部が動く。 そう思った瞬間、指先が冷たくなった。私は手のなかの電卓を置いた。数字を打ち込んでいたわけではない。ただ握っていただけだ。 綾月の事務室は静かだった。営業はとうに終わっている。机の上には、判決を翌日に控えた裁判のファイルが積まれていた。背表紙の数だけ、私は七年分の仕事と、自分の名前を取り返そうとしている。 ファイルの一冊を開く。 差し替え前の請求書のコピーが、付箋だらけで挟まっている。 リベルタ企画。 名義だけの外注先。 八十万円。 あの一枚から、全部が始まった。 あの日、入出金一覧に並んだ数字が、ほんの少しだけ歪んで見えた。 私はそれを見逃さなかった。 だから、切られた。 見逃せばよかったのか。何度も考えた。けれど、見逃す女になっていたら、私は今ここにいない。 ここまでの道のりを、私はもう一度たどった。 リベルタ企画は、私を嵌めるために一度だけ使われた、名義だけの宛名だった。けれど、三崎が継続して金を流していた管は、もっと太い。 高津総合プランニング。あの八十万円も、たどれば、同じ手から垂れた最初の一滴にすぎなかった。 集めた証拠の束は、白石さんが紹介してくれた弁護士の手で、会社の監査部門と、捜査機関へ渡った。 会社は最初、沈黙した。 けれど、差し替え前の請求書――堀内さんが、震えながら社の保管庫から引き出してくれた、あの一枚――
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