「今日からお世話になります。夏野ミドリです」 そう言って、メイド長の横で、彼女は深々とお辞儀した。歳は、高校を出たてというところかな。「よろしくね、ミドリさん。わたしは葵ハル」 ティーカップを置き、こちらも笑顔で会釈する。「では、お嬢様。新人の教育がありますので、ご挨拶までで失礼を」 メイド長がそう言ってお辞儀すると、ミドリさんもお辞儀する。そして、二人は行ってしまった。 珍しいな。このお屋敷に、あんな若い人が入ってくるの。「お嬢様、ご休憩もそこまでになさいませ」 家庭教師が、ぽんぽんと手を叩く。おっと、いけない。 普通の家の子は、こんな過密スケジュールで暮らしていないのかな。夏休みだから、遊園地とか行ったりしてるんだろうな。 ……行ってみたいな、遊園地。 この頃のミドリさんは、まだ入りたての、ただの新人。それ以上の印象はなかった。 ◆ ◆ ◆ ほどなくして、ある秋の日。私は食が進まず、お昼ごはんを残してしまった。 そこで自室に戻ろうとすると、なんとも香ばしい匂いが厨房から漂ってくる。 なんだろう? と覗いてみると、ミドリさんが一人、何かをコンロで調理していた。「ミードリさんっ! なーにそれ?」「あ、お嬢様。これはお恥ずかしいところを。一人仕事が遅れたため、まかないを用意しておりました」「まかない?」 聞き慣れない言葉に、キョトン。「我々、使用人の食べ物でございます」「あっ、サンマだ」 香ばしさの主は、サンマだった。「はい。これと香の物にお味噌汁で、お昼をいただこうかと」「ね! わたしも食べていい!? なんか、急にお腹空いてきちゃった!」 このときのわたしの瞳は、きっととても、きらきらしていただろう。「いけません! 旦那様や奥様、メイド長に叱られてしまいます!」「そしたら、一緒に謝ってあげるから! 私が一緒なら、きっとそんな怒られないと思う!」 根拠はないけど、そう言った。するとミドリさん、悩んだ末にため息ひとつ吐き、「承知しました。できれば、内緒でお願いします」と、わたしのぶんも用意してくれることになった。「お嬢様、頭と内臓はいかがいたしますか?」「ミドリさんと一緒がいい!」「承知しました」 かくして出てきたのは、頭付きのサンマと白菜のお漬物。それに、わかめのお味噌汁。「美味しそ~
Last Updated : 2026-06-30 Read more