アイラとサイラスが地階で死闘を繰り広げていた頃、中二階に降り立ったエンバーは道化師と対峙していた。 棺に弾き飛ばされ、砕けた壁にめり込んだ道化師は、くふくふと笑い声をあげて瓦礫に中に立ち上がった。手にしていたリュートは砕け、縦笛は喉奥に刺さって血を垂らし、背負っていた打楽器は原型を失い足元に散乱している。「これはこれは……ひゅっ……驚きのゲひゅトでございまひゅっ……ああ、鬱陶ひゅい」 道化師は縦笛を引き抜いて捨てる。そして血の塊を吐き捨てて、右腕を抱え込むんで膝を折り曲げ、深いお辞儀をした。「改めましてようこそ、望外のゲスト様。まさかまさか<骸の王>に連なる者がこんな場末に足をお運びなさってくださるとは。紅茶でもお淹れしましょう。お好みの茶葉はございますか?」「<骸の王>を知っているのか?」 棺を縛っていた鎖が蛇のように蠢き、道化師を捉えようと暴れまわる。しかし、道化師はくるくるととんぼ返りをしてそれを躱す。「存じております。存じております。偉大なる我らが主、<骸の王>のことであればよーく存じております。何しろわたくしめは王に仕える最遠にして最近の道化師でございますからな。表に見せる偉大にきらめく御姿も、裏に抱える卑屈でさもしい心根も、どちらもよーっく存じております」「<骸の王>はどこにいる?」 棺が引き戻され、エンバーの細い手を中心にぐるりと廻る。風切り音を立てながら天井を砕き、シャンデリアを落とし、廊下の手すりを砕いて道化の眼前の床を砕いた。「ほう、あなたも<骸の王>の行方をご存知でない?」「知らないから聞いている」 エンバーの姿が消える。否、速すぎて見えなかっただけだ。床に突き刺さった棺の鎖を手繰り寄せて勢いをつけたエンバーの身体は矢のごとく加速し、道化の喉を掴んで壁に押し付けていた。「お゛お゛お゛……これはすさまじい゛……。しかしお嬢さん゛、ごれではまともに゛お話じも……」 エンバーの手が離れ、道化の身体が床に崩れ落ちる。「はぁー……はぁー……はぁ。助かりました。これでゆっくりお話もできようと言うもの。まずはお近づきにちょっとした手妻でも」 道化師の両腕が振られる。袖口から赤い花びらが撒かれた。それはふわりふわりと宙を舞い、エンバーの身体を覆って――紅蓮の炎とともに爆発する。「お祝いごとには
Última actualización : 2026-07-13 Leer más