来ない春は、もう待たない
前撮り当日、カメラマンにふと言われた。「笑うと、お姉さんによく似てますね」
そのひと言を聞いた近藤拓也(こんどう たくや)は、すぐに私の姉、芳賀可奈(はが かな)にもウェディングドレスを勧めた。
せっかくだから、記念に何枚か撮ってもらおう、と。
写真を選ぶ段になると、家族そろって可奈の写った一枚に見入り、口々に褒めちぎった。
「可奈は生まれつき、ドレスが映えるプロポーションなのよね」と母が言った。
「花嫁のお前より、よほど華があるじゃないか」と父も言った。
拓也は画面から目を離さず、いつまでも眺めていた。指先が止まったのは、可奈が振り返った瞬間を捉えた一枚だった。
「これ、披露宴の受付に飾ろう。よく撮れてる」
私は尋ねた。じゃあ、私の写真はどこに飾るの、と。
そこで初めて、彼は私の存在を思い出したような顔をした。
「お前と可奈は顔立ちが似てるから、招待客だって見分けはつかないさ。それに、可奈は結婚する予定もないんだ。一度くらいドレスを着る機会を作ってやるのも悪くないだろう」
思わず、笑いがこぼれた。
物心ついたときから、いつだってそうだった。可奈は苦労してきたのだから、私が譲る。可奈が欲しがれば、私が差し出す。可奈の持たないものを、私が持ってはいけない。
自分の結婚式さえ、可奈の夢を叶えるための舞台になってしまうのか。
アルバムの中から、拓也とふたりだけで写った、たった1枚の写真を、そっと抜き取った。
写っている私は、彼の隣で、精一杯の笑みを浮かべている。
けれど今こうして見返すと、まるで見知らぬ誰かのように見えた。
春が私のもとへ来なかったわけではない。ただ私はずっと、誰かの影の中に立ち、そこで春を待ち続けていただけだったのだ。
今度こそ、もう待つのはやめよう。