プルチックの瞳

プルチックの瞳

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-03
Oleh:  彩珠那由正Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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神崎怜菜。 彼女の瞳は、美しかった。 ――だからこそ、目を逸らしたくなった。 高校入学後、神崎怜菜に誘われた岩倉優雨は『万物研究会』へ足を踏み入れる。 究極の問い。 幽体離脱。 共感覚。 観測と次元。 それぞれが興味を持つテーマを自由に研究する、少し変わった場所。 穏やかで楽しい日々を過ごしながらも、神崎怜菜という存在には説明のできない違和感があった。 やがて優雨は、彼女の研究を通して世界の境界へと触れていく。 これは世界の境界に触れてしまった少年少女たちの、少しだけ異常な青春の記録。 そして、一人の少女を巡る切ない物語。

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Bab 1

プロローグ

 神崎怜菜《かんざきれいな》の瞳は、美しかった。

 だからこそ、気味が悪かった。

 眼球の外部構造の一つに、虹彩と呼ばれるものがある。

 角膜の奥にあり、瞳孔を囲む、色を宿した輪状の筋肉。

 人はそこに感情を読み取る。

 怒り、喜び、悲しみ、驚き。あるいは恋慕。

 目は口ほどに物を言う、なんて言葉があるくらいだ。

 人間は他人の目から、相手の心を想像する。

 けれど、神崎怜菜の目は違った。

 あれは、誰かを見る目ではない。

 誰かに見られていることを、知っている目だった。

 彼女のことは前から知っていた。

 同じ中学に通っていたのだから当然だ。

 別のクラスだった俺でさえ、神崎怜菜という名前くらいは知っていた。

 学校の中で、彼女を知らない人間はいなかったと思う。

 それほどまでに、神崎怜菜は人目を惹く存在だった。

 首元で切り揃えられた黒髪。

 整った顔立ち。

 透き通るような白い肌。

 そして、光を閉じ込めたような虹彩。

 遠目に見ているだけなら、ただ綺麗な女子生徒だった。

 同じ学校にこんな人間がいるのかと、少し現実感が薄れるくらいの美しさ。

 けれどそれは、あくまで遠くから眺めていた時の話だ。

 中学一年の秋。

 夕暮れ時、駅前にある本屋の前で、俺は初めて神崎怜菜と目を合わせた。

 偶然、通りすがっただけだった。

 何かに呼び止められたわけでもない。

 それなのに突然、背筋に冷たいものが走った。

 視線。

 誰かが見ている。

 そう感じて振り返った先に、彼女がいた。

 神崎怜菜は、本屋の軒先に立ったまま、こちらを見ていた。

 夕日に照らされたその姿は、現実よりも少しだけ輪郭が薄く見えた。

 まるで夢の中の人物が、こちら側へ迷い込んできたようだった。

 だが、俺を射竦めたのは彼女の美しさではない。

 その瞳だった。

 神崎の色鮮やかな虹彩は、確かに俺を向いていた。

 けれど、彼女は俺だけを見ていなかった。

 俺の向こう側。

 背後。

 あるいは、もっと遠い場所。

 この世界の外側にいる何かを、同時に見ているような目だった。

「君……」

 透き通った声だった。

 声量は大きくない。

 それなのに、雑踏の中でその声だけが妙にはっきりと耳に届いた。

「えっと……神崎さんだよね。一年三組の。何か用?」

 何か言わなければならないと思って、口から出たのはそんな言葉だった。

「私のこと、知ってくれているんだ」

「まあ、有名だし」

「そう」

 神崎は小さく頷いた。

 それから、こちらへ一歩近づく。

「君の名前は?」

「岩倉優雨《いわくらゆう》だけど」

「岩倉優雨……」

 彼女は俺の名前を、音の響きを確かめるように繰り返した。

 その間も、一度も視線を逸らさない。

 居心地の悪さに、俺は思わず半歩だけ後ろへ下がった。

「岩倉君……岩倉君って……」

 唐突に、神崎の顔が近づいた。

 反射的に仰け反る。

 けれど、目だけは逸らせなかった。

 夕日に照らされた彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ、色を変えた気がした。

 赤でもない。

 紫でもない。

 表現できない、多彩な色。

 その虹彩の奥で、何かが揺れていた。

「ねえ、岩倉君って」

 神崎は囁くように言った。

「ねえ……岩倉君って、何者?」

 意味が分からなかった。

 分からなかったのに、背筋が凍った。

 その時、俺は改めて思った。

 ああ、その目。

 なんだかとても、気味が悪い。

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25 Bab
プロローグ
 神崎怜菜《かんざきれいな》の瞳は、美しかった。 だからこそ、気味が悪かった。 眼球の外部構造の一つに、虹彩と呼ばれるものがある。 角膜の奥にあり、瞳孔を囲む、色を宿した輪状の筋肉。 人はそこに感情を読み取る。 怒り、喜び、悲しみ、驚き。あるいは恋慕。 目は口ほどに物を言う、なんて言葉があるくらいだ。 人間は他人の目から、相手の心を想像する。 けれど、神崎怜菜の目は違った。 あれは、誰かを見る目ではない。 誰かに見られていることを、知っている目だった。 彼女のことは前から知っていた。 同じ中学に通っていたのだから当然だ。 別のクラスだった俺でさえ、神崎怜菜という名前くらいは知っていた。 学校の中で、彼女を知らない人間はいなかったと思う。 それほどまでに、神崎怜菜は人目を惹く存在だった。 首元で切り揃えられた黒髪。 整った顔立ち。 透き通るような白い肌。 そして、光を閉じ込めたような虹彩。 遠目に見ているだけなら、ただ綺麗な女子生徒だった。 同じ学校にこんな人間がいるのかと、少し現実感が薄れるくらいの美しさ。 けれどそれは、あくまで遠くから眺めていた時の話だ。 中学一年の秋。 夕暮れ時、駅前にある本屋の前で、俺は初めて神崎怜菜と目を合わせた。 偶然、通りすがっただけだった。 何かに呼び止められたわけでもない。 それなのに突然、背筋に冷たいものが走った。 視線。 誰かが見ている。 そう感じて振り返った先に、彼女がいた。 神崎怜菜は、本屋の軒先に立ったまま、こちらを見ていた。 夕日に照らされたその姿は、現実よりも少しだけ輪郭が薄く見えた。 まるで夢の中の人物が、こちら側へ迷い込んできたようだった。 だが、俺を射竦めたのは彼女の美しさではない。 その瞳だった。 神崎の色鮮やかな虹彩は、確かに俺を向いていた。 けれど、彼女は俺だけを見ていなかった。 俺の向こう側。 背後。 あるいは、もっと遠い場所。 この世界の外側にいる何かを、同時に見ているような目だった。「君……」 透き通った声だった。 声量は大きくない。 それなのに、雑踏の中でその声だけが妙にはっきりと耳に届いた。「えっと……神崎さんだよね。一年三組の。何か用?」 何か言わなければならないと思って、口から出たのはそんな言葉だっ
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万物研究会①
 入学式の日。 体育館の壇上に立つ神崎怜菜を見ながら、俺は彼女と初めて出会った日のことを思い出していた。 彼女の瞳。 俺を見ているようで、俺ではない何かを見ていた、あの気味の悪い虹彩。  俺が神崎怜菜との過去を回想している間、件の人物は壇上で優等生であることを証明するかのような落ち着いた佇まいで、新入生代表挨拶の文章を読み上げていた。 今日は俺が入学する事になった、家から徒歩十分もかからない場所にある県立高校の入学式だった。 新入生たちが詰めかけた体育館は、春の陽光が差し込むにも関わらず少しだけ薄暗い。  高い天井からぶら下がる白い照明が、その場を照らしている。 体育館特有の床の匂いと、微かに混じるワックスの香りが鼻をくすぐる。  そんな場所に集められた百人以上の生徒や先生がいる中で、緊張したような素振りも見せずに新入生代表の務めをこなす神崎の姿は、立派だと言わざるを得ないだろう。 こうやってただ見ている分には、神崎は普通の女子生徒に見える。  いや、普通という表現は間違いかもしれない。  寡黙で冷静沈着。 黙ってその場に立っているだけでも、その存在を際立たせてしまうような美貌の持ち主なのだから。 壇上から聞こえる落ち着いた声音は、まるで遠くから聞こえる鈴の音のように耳心地が良い。 そんな事を考えていた矢先の出来事だった。  もうすぐ終わりを迎えるだろうと思われていた、新入生代表挨拶。 その途中で急に神崎がその目を見開き、言葉を止めたのだ。 不思議に思った俺と、壇上にいる神崎の視線が交差する。 これだけの人数がいる体育館の中が、静寂で満たされた。 まるで時が止まったかのような空間の中で、俺は壇上からの視線を受け止めながらも頭の中は疑問で一杯だった。 それは、こんな大事な時に新入生代表挨拶の言葉を中断してまで、なぜ神崎がこちらを見ているのかという当然の疑問だった。 ふいに、壇上にいる神崎が小さく笑ったような気がした。 その一瞬、神崎の唇がかすかに動いた。 ――見てる。 そう言ったように見えた。「……失礼しました」 一言の後、神崎は終盤に迫っていた新入生代表挨拶を、まるで何事もなかったかのように続けた。 体育館に集まっている生徒達の間に困惑の波が流れていたのを肌で感じていたが、神崎の言葉が再開されると
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万物研究会②
 入学式が終わり、配属された一年三組の教室。 五十音順に割り振られた座席に座り、HRの時間が始まった。  俺の苗字は岩倉なので、不幸な事に廊下側最前列の席となってしまった。 どうやらこのクラスに(あ)から始まる生徒はいないらしい。 そして、どうしても意識してしまう背後からの存在感。  このクラスの名簿は、最初に(い)から始まり、次は(か)が続くようだった。 担任の先生から今後のスケジュールについて記載されたプリントが手渡され、俺はそこから自分用のプリントを一枚だけ引き抜く。 それから背後を向き、手元に残ったプリントを後ろにいる生徒……神崎怜菜へと渡した。  プリントを受け取った神崎と目が合う。 お前はいつまでその異質な虹彩を俺に向けているのかと、つい言いたくなってしまったが、そこは堪えてすぐに俺は前に向き直った。  中学の間、神崎とは一度も同じクラスになったことがなかった。  俺としては同じクラスに神崎がいると気が休まらない気持ちになるので、別のクラスで良かったとさえ思っていたのだ。 それが高校入学を果たし、遂に同じクラスに配属されてしまった。 変なちょっかいを掛けられなければ良いなと願うばかりだった。  そんな俺の心配を他所に、入学式後のHRは滞りなく進んでいった。 自己紹介をしたり、先生の話を聞いたり、配られた提出物や配布物などに目を通している内に、特に大きな問題が起きることもなく本日の学校での活動は終了となった。  俺にとっての問題が起きたとすれば、後はもう家に帰るだけだと当てがわれた机の前で帰宅の準備を進めている最中でのことだった。「岩倉君」 後ろから、名前を呼ばれた。 それが神崎の声であることは、すぐに分かった。  振り返ると既に帰り支度を済ませたらしい、学生鞄を肩に掛けた状態でこちらを見つめる神崎の姿があった。「何か用か?」「このあと、何か予定ある?」 神崎とこうやって、まともに会話すること自体が珍しい出来事だった。 俺は少々面喰いながらも答える。「特に用はないけど」「用がないなら、付いてきてほしいところがある」「付いてきてほしいところ? どこだよ」「向かう途中に説明する」 すぐに目的地を教えて欲しい所だったが、神崎はHRが終わり騒々しさを増した教室内でそれを話すつもりは無いよう
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万物研究会③
 それは、何とも仰々しい名前の研究会だった。 神崎の話では自由に研究する会ということだったが、自由を万物と言い換えているところに何か少し胡散臭さを感じてしまうのは俺だけだろうか。 神崎が更に扉へと一歩近づき、ノックの体勢に入る。 その瞬間、大きな音を立てて扉が向こう側から開かれた。「……あれ?」 扉を開いたその人物は、まさか外に人がいると思わなかったのだろう。  扉に手をかけた状態のままで固まっていた。 ノックをしようとしていた神崎も、その体勢を維持したまま、急に現れた人物のことをジッと見ている。 突然目の前に現れたその人物を一言で表現するのであれば、ギャルだろうか。    緩くウェーブの掛かった茶色い髪、少したれ目がかった大きな目、左の目尻にはホクロが一つある。学校指定であるベージュのカーディガンを羽織っており、その下に着たワイシャツは第二ボタンまで開けられている。少し目のやり場に困る制服の着こなしだった。「あれー、君ってあれだ。新入生代表挨拶してた子だ。めっちゃ綺麗な子だなーって思ってから覚えてるよー」 今にも抱きつくのではないかと思うくらいのテンションで、その女子生徒は神崎に柔和な笑顔を向けながら言った。「んー? 君は……可愛い顔してるけど、ごめん、知らないや。誰かなー?」    神崎の次は、俺だった。 男に対して可愛い顔というのは、あまり言われて嬉しいものではない。 初対面の異性だというのに、その女子生徒は構わず距離を近づけてくる。 反射的に俺は、一歩後ろに後退ってしまった。「妃那美、バイトに遅刻するんじゃなかったのかい?」 その言葉と共に、扉の奥から新たな人物が顔を覗かせた。 その人物は、妃那美と呼ばれた女子生徒の肩に手を置いて、苦笑を浮かべている。 騒がしくてすまないねと、言葉にせず表情でこちらに伝えているような気がした。 神崎に負けずとも劣らないほどに、美人な女子生徒だった。 少しの
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万物研究会④
 万物研究会の室内は、シンプルな作りをしていた。部屋の広さは十四帖ほどで、中央には決して大きくはない、楕円形のテーブルが設置してある。その傍には、今まで使われていたと思われるパイプ椅子が二脚置いてあった。 扉から見た部屋の右側にはプロジェクターや何冊かの本、紙コップが入った袋、給湯器、電動のコーヒーミル、その他にも色々なものが乱雑に置かれた備品棚がある。    左側には教室でも使われている机と椅子が二つずつ並べられており、その上にはノートパソコンが一台ずつ置かれていた。「珈琲を淹れよう。私はブラックなのだが、君たちはどうする?」 白衣の女性からの質問に、俺は室内に巡らせていた視線を彼女へと向けてから答える。「俺もブラックで良いです」 「私は砂糖ミルクいっぱい」 「いっぱいって、いくつだよ」 「いっぱいは、いっぱい。沢山」 俺と神崎のやり取りを聞き、クスクスと笑みを零しながら白衣の女性は「砂糖とミルクはあるだけ出そう」と言って、右側の棚にあった用具類を用いて珈琲を淹れはじめた。「そこのパイプ椅子に掛けて待っていてくれ」 言われた通り、俺と神崎は中央に設置してあった椅子に腰かける。 珈琲の良い香りが室内に漂い始めてからしばらくして、紙コップに入った珈琲が三つ白衣の女性によってテーブルの上に並べられた。 神崎の前には、スティックタイプの砂糖とポーションミルクがいくつか盛ってある小さなバスケットも置かれた。「珈琲の飲み方で判断するのは間違っているのかもしれないが、ブラックを楽しめる君とは気が合いそうだ」 椅子を更にもう一脚用意した白衣の女性が、そこに腰かけると同時にそんなことを言ってきた。「妃那美ともたまに話すのだが……ああ、妃那美というのは先ほど騒がしくバタバタと去っていた彼女のことなのだが、珈琲というのは香りを楽しむための嗜好品だろう? 砂糖やミルクの投入によって、その香りをぼやけさせてしまうというのが、私には理解が……」 「甘くて美味い」 白衣の女性が話していた言葉の途中にも、珈琲にミルクや砂糖をド
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万物研究会⑤
 万物研究会についての説明は、概ね神崎から聞いていた通りのものだった。 研究内容に、指定はない。  各々が自由に興味のある事を調べ、考察、実験、観察、調査した結果を発表したり、それについて議論をしたりするというのが主な活動内容ということだ。 意外だったのが、研究会のメンバーは現状、香月先輩と朝山先輩の二名だけというものだった。 というのも、去年同じクラスになった二人が各々興味のある分野での話で大いに盛り上がり、話のノリとその場の勢いで立ち上げた研究会で、神崎を除いては特に誰かを誘うという事もなかったらしい。 そもそも正式な部活動という訳でもなく、様々なツテを当たっては機材や場所を確保して作り上げた非公認の研究会というのが実態だった。 それが許されているのは生徒の自主性を重んじるという、悪く言ってしまえば放任主義の校風があってこそなのだろう。 二人だけの研究会とはいえ、活動自体はちゃんとしていたらしい。 近々、香月先輩は自身が行っている研究の成果発表をするとのことだった。「君たち二人に、今すぐ入会してほしいとまでは言わないさ。正式な部活動という訳でもないしね。気が向いたからとか、私に会いたかったとか、そんな理由でいつでも顔を出してくれて構わない。歓迎するよ」 その言葉の後、空になったカップがテーブルに三つ並んだ。 それを合図として、その場は解散ということになった。 香月先輩を残して研究会を後にした俺と神崎が次に向かったのが、誰もがその名を知るハンバーガーで有名なファーストフード店だった。 お腹が空いたという神崎の言葉には、同調せざるを得なかった。 その理由は簡単だ。  午前中で終わる筈だった本日の校内活動が、神崎の急な誘いよって午後まで延長された挙句、腹に入ったものが珈琲だけだったのだから。 各々が注文したセットの品を手に持ち、神崎がお気に入りの席だという二階窓際のカウンター席に並んで腰掛けた時には、時刻は既に十四時を回っていた。 随分と遅い昼食になったものだった。 ポテ
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香月小夜子の研究①
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 強引に連れてこられた万物研究会の部室には、予想していた通り既に神崎と朝山先輩の姿があった。 二人は中央にある楕円形のテーブルを挟んで、向かい合う形で座っていた。 両手に自前のものだろうか、黒猫のプリントが施されたカップを持ったまま、俺の姿を見た神崎が瞳の色を変える。 朝山先輩は「やほー」と軽い口調で俺と香月先輩を出迎えた後、ササっと俺が座るための椅子を用意してくれた。「あ、なんか、すいません。ありがとうございます」 用意してくれた椅子に腰かけると、朝山先輩は柔和な笑みを俺に向けた。 初めて会った時は、慌てていたからだろうか。 なんだか騒がしい人という印象が強かったのだが、今はそれとは真逆で、のんびりとした柔らかい雰囲気を彼女から感じた。「どういたしましてー。話すのは二度目だと思うけど、岩倉君の話は聞いていたから、なんかそんな感じが全然しなくて不思議」 所謂、萌え袖となっているカーディガンを口元に当てながら、クスクスと笑う朝山先輩。 その話し方や雰囲気、仕草になんだかとても癒される。 なるほど、クラスメイトの男子が彼女の事を話題に出す理由がよく分かった気がする。 この柔らかな雰囲気から醸し出される母性と、少しガードの緩そうな出で立ち。 優しそうなたれ目と愛嬌のある笑顔。 そういった彼女を構成する要素は全て、男性を魅了させる為の武器のようにさえ思えた。「小夜子も神崎さんもね、毎日のように岩倉君今日も来ないなーって言うもんだから、私まで感化されちゃって。なんだか、ようやく会えたーって感じで嬉しい」 会えて嬉しいなどとストレートに言われて恥ずかしくなり、なんと返していいか分からず無言になってしまった。「岩倉君、気を付けたまえ。その女は出会って十秒と経たずに男を落とす事ができる、魔性の女だ。うっかり踏み込んでしまうと、沼から抜け出せなくなるよ」「もうー、小夜子はまたそういう事言う。私は別に男の人を落とそうとか考えてないもん」 手に持ったノートパソコンを片手で操作しながら言った香
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香月小夜子の研究③
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