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香月小夜子の研究①

Penulis: 彩珠那由正
last update Tanggal publikasi: 2026-06-15 17:00:13

 神崎に誘われて万物研究会へ顔を出してからの数日は、俺が思っていたよりかは平凡な高校生活となった。

 家から近いというのが志望した理由として大きな割合を占めていたこともあり、同級生の中には中学からの顔馴染みも多かった。

 そういった理由で友達作りに困ることもなく、クラスメイト達とどうでも良い話で笑いあったり、ふざけあったりして日々は過ぎていった。

 何も特筆することもない、どこにでも見られるような普通の学校生活。

 そんな生活を送る中でも時折、研究会の事が頭を過ぎることはあった。

 クラスメイトから、一緒にバスケ部に入らないかと誘われた時。

 帰り間際に部室棟の方へと歩いていく、神崎の後ろ姿を見かけた時。

 朝山先輩や香月先輩に対する、男子生徒達の下世話な会話が耳に入ってきた時。

 研究会の存在が思い浮かぶのは、そんな時だった。

 いつでも顔を出してくれて良いと香月先輩には言われたが、結局俺はあれから一度も万物研究会に足を向けてはいなかった。

 神崎の研究というのが、どんなものなのか気になってはいる。

 しかし、研究という言葉自体に無縁だった俺が行った所で、何かできることがあるとも思えない。

 それに、学内でも特に目立ちやすい女子三名が集う場所に男一人が顔を出して、彼女達に変な気を使わせるのも悪いのではと考えてしまう気持ちもあった。

 神崎とは、あのファーストフード店での一件以来、特に会話らしい会話もしていない。

 高校生活が始まってからすぐに行われた席替えによって俺が窓際、神崎が廊下側という離れた場所に席を置く事になったのも原因の一端だろう。

 たまに教室内で、目が合う事はあった。

 それだけ。クラスメイトと一緒にいる俺に神崎が声を掛けてくるようなことは一度もなかった。

 ただ、神崎が俺に何かを言いたそうにしているように感じたのは、俺の気のせいだったのだろうか。

 それは、分からなかった。

 そんな風にして日々が過ぎていき、金曜日の放課後。

 俺は中学の頃から何かと縁のあるクラスメイトからのしつこい誘いを受け、バスケ部の活動を見学するため体育館へと向かっていた。

 女性にモテる為、バスケ部に入らなければならない。

 そんな謎の使命感を持ったクラスメイトに苦笑いを浮かべながら、俺は廊下を歩いていた。

 ふと、柑橘系の良い香りが鼻腔を抜けていった。

 なんか良い香りがするなーと、ぼんやり考えていたら突然、俺は背後から誰かに肩を抱かれていた。

「見つけたよ、岩倉君。どこへ向かっているのかな?」

 突然の事に心臓を跳ねさせながら、顔を横に向ける。

 そこに、香月先輩の顔があった。

 白くきめ細かい肌、長い睫毛、少し濡れた唇。

 近くで見るとより、彼女の綺麗さが際立って見える。

 そんな彼女が俺の肩を抱いているという事実を理解し、俺は慌てふためいた。

「え……ちょっ、香月先輩! 近いですって!」

 慌てて香月先輩の腕から逃れ、俺は彼女から数歩、距離を置いた。

 心臓がドキドキと脈打ち、顔が熱くなっているのが分かった。

「おや、すまないね。待ち焦がれていた後輩の後ろ姿を見つけたのでね、嬉しくなってつい驚かせたくなってしまったんだ。そう、私は待ち焦がれていたのだよ、岩倉君。今日は来てくれるかなーと、それこそ毎日のように、さながら恋する乙女のような気持ちでね。だというのに君は、今日も研究会とは違う場所に向かおうとしているね。その先にあるのは体育館だが、そこには私のこの気持ちを踏みにじってまで向かわなければならない何かがあるのかな?」

 突然現れては一気にまくし立てる香月先輩に、俺は無言で棒立ちするしかなかった。

 近くでは、一緒に居たクラスメイトも驚きと困惑の色を目に浮かべながら唖然としている。

 そんな俺たちの素振りを気にした様子もなく、香月先輩は俺だけに聞こえるようにして囁くようにこんな事を言ってきた。

「このボールが地面を叩く音。バスケ部の見学に向かっているのかな? なるほど、バスケ部か……興味があるのであれば止めはしないのだがね、あそこの部長は……うーん、岩倉君は男性にしては可愛い顔をしているからな……みなまでは言わないが、私が持っている色々な情報から言わせてもらうと、岩倉君にはあまりおすすめはできないと思ってね。いや、君がこの高校三年間バスケで汗を流したいというのであれば良いと思うのだが、うちの研究会は部活動の兼任も認めているし、ただちょっと心配ではあるかな」

 俺の足が一歩、体育館から遠のいた。

 香月先輩は明確に、何かバスケ部に対する事実を告げた訳ではない。

 だが、俺は彼女の言葉で背筋が寒くなるような事を色々と想像してしまった。

「まあ、まだ入部申請の期限までは日にちがあるだろう? バスケ部の見学は、また今度でも良いではないか。今日は私の研究に対する、成果発表を予定している。内容を知っている怜菜や妃那美にだけ話すより、何も知らない君がいてくれた方が私のモチベーションも上がる。そんな訳で、君の目的地はこちらに変更だ」

 そう言って、今度は俺の右腕を胸に抱きかかえるようにして、香月先輩は万物研究会がある部室棟の方へ俺をズルズルと引きずっていく。

 俺の意思を聞くつもりはないらしい。意外と強引な人だった。

「君、横取りするようですまないが、岩倉君を借りていくよ。ここは先輩に譲ってくれ」

 ポカンと口を開けたままの状態でいるクラスメイトの姿が、徐々に遠ざかっていく。

 彼から、この出来事について詰められる事は間違いないだろう。

 さて、どんな風に説明したら良いものか。

 香月先輩の柔らかな胸の感触に少し冷静さを欠きつつも、俺はそんな事を考えていた。

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  • プルチックの瞳   岩倉優雨の研究①

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  • プルチックの瞳   朝山妃那美の研究④

     朝山先輩の発表が終わり、機材の片づけを皆で協力して完了させた後、俺たち万物研究会のメンバー四人は中央のテーブルに集まって一息ついていた。 発表を終えた朝山先輩は何だかんだ緊張していたようで、その糸がほぐれたかのように脱力している。 香月先輩は優雅に珈琲の入ったカップを啜っており、その視線はテーブルに突っ伏している朝山先輩へと向いている。 神崎はというと、前回と同様にスマートフォンで何かを調べているようだった。「妃那美、発表について質疑応答の時間を取りたいんだが、いけるかな?」 香月先輩の言葉に勢いよく体を起

  • プルチックの瞳   朝山妃那美の研究③

     そんなこんなで火曜、水曜、木曜日と日々は過ぎていき、あっという間に朝山先輩が発表する日である金曜日になった。 放課後に研究会へとやってきた俺は、既に三人揃っていた面々への挨拶を済ませた後、いつもの定位置へと腰かける。 今日の主役とも言える朝山先輩は「配線間違えたー」とか「あれー? スライドどこに格納したっけー」等と独り言を言いながら、準備を進めている途中だった。 そこから発表までの流れは、香月先輩の時とほとんど同じだった。 朝山先輩の「準備かんりょー」という言葉を合図に、香月先輩が室内灯のスイッチをオフにする。

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