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神崎怜菜の研究③

مؤلف: 彩珠那由正
last update تاريخ النشر: 2026-06-27 17:00:48

 発表が終わり、質疑応答の時間となった。

 皆がそれぞれの飲み物を片手に円卓へと集合した後、俺が発表した時と同様に会長特権を発動した香月先輩から発せられた質問は、このようなものだった。

「岩倉君も妃那美も気になっているだろうからね。君の研究テーマである次元についてではなく、観測者という存在についてもっと詳しく話を聞かせてもらおう」

「……はい。信じられないような話で皆さんを混乱させてしまっていると思うので、何でも質問してください」

 それは、主に俺と朝山先輩へ向けられた言葉だった。

 事実、朝山先輩の目と表情からは、困惑という感情が見て取れる。

 それは、俺も同じなのだろう。

「そうだね。君は観測者の視線を、岩倉君を通して感じ取ったと言っていたね。それは、どのような感覚なんだい?」

「通常、人から感じる視線は一つです。でも、観測者が岩倉君の視点を持っている時、その視線を二重に感じます」

「二重にか……人から視線を感じるというのは、まあ珍しいことではないだろう。しかし、それを一人の人間から二重に感じるというのは、想像し難い感覚だね。その二重の視線というのは、今も感じているんだよね?」

「はい。今日、観測者の視線を感じたのは、私が発表の準備を進めている最中でした。それ以降も、まだ消えていません」

 神崎の言う事を信じるのであれば、今も観測者とやらは俺の視点を借りて、皆に視線を送っているということだ。

 その事実を改めて理解し、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 俺の意思とは関係なく、よく分からない存在が勝手に俺の視点を借りているというのは、何とも気味が悪い。

「あ、そっかー。私の発表の時に幽霊がいるかどうかって聞いてきたのって、それを確認する為だったってことかな?」

 思い出したかのように言った朝山先輩の質問に、神崎は頷いて答える。

「観測者の正体について、それが霊的な何かなのではないかという考えもありました。でも霊感があるといっていた朝山先輩の言葉で、その可能性は捨てました」

 そういえば、そんな事もあったなと思い出す。

 確かに、急なあの質問には不自然さを感じたが、そういう意図があったのか。

「そっかー。何で急にそんな事聞くんだろーって思ってたけど、幽霊かどうか確認してたんだね。自慢じゃないけど、私って結構ハッキリと分かっちゃうタイプだから。そこは結構、自信を持って言えるかな。その観測者っていうのは、幽霊じゃないと思う」

「はい。私もそう思います。観測者が幽霊だったとして、それ以外の霊からの視線というものを、私が感じた事がないというのは矛盾が生じます。そもそも私には、霊感というものはありません。こういった理由から、観測者が幽霊であるという線は除外です」

「なるほど……しかし、観測者の正体については色々と想像が膨らんでしまうね。宇宙人、未来人、異世界人、はたまた怜菜の言うように異次元的な存在か。しかし、そのどれだとしても様々な部分で疑問が残る。その最たるはやはり、なぜ岩倉君なのかという所だろうね」

 香月先輩の言葉が終わると同時に、三人の視線が一斉に俺へと向けられた。

 そう、俺が最も気になっている部分はそこなのだ。

 なぜ、俺なのだ?

 観測者とやらが何かを観測しているのだとして、なぜ俺という存在の視点を通して、それを行う必要がある?

「神崎。その観測者の視線というのは、俺以外から感じたことは一度もないんだよな?」

「うん、一度としてない」

「怜菜はそれが、観測者という存在にある制約なのではないかと言っていたね。それが正しかったとして、なぜその存在にはそのような制約があるのか……謎は深まるばかりだね」

 香月先輩の言葉を最後に、その場に沈黙の時が流れた。

 みんな一様に、何かを考えこんでいる。

 その沈黙を破ったのは、意外にも朝山先輩だった。

「ちょっと気になったんだけどさー、もし観測者に岩倉君じゃないとダメっていう制約があったとして、その存在はどうやって岩倉君の視点だって認識してるのかな?」

 その質問には、しばらく誰も答えを返さなかった。

 考えてみると確かに、観測者が俺の視点を借りなければならないのであれば、どうやってその存在は俺を認識しているのだろう。

「うーん……多角的な視点を持っている? いや、それだとおかしいか……」

 独り言のように呟いた香月先輩の言葉に、神崎が反応を示す。

「多角的な視点ですか……しかし、神の視点と呼ばれるようなものを持っているような存在であれば、観測するのにその視点を用いれば良いので、わざわざ岩倉君の視点を通す必要はない筈です」

「うん、その通りだ。しかし、制約があると仮定した場合、岩倉君であるという情報を何かしらの形で掴む必要があると思うのだが……私達の理解の範囲を超えている存在だからね。考えても、分からないな」

 お手上げだと言わんばかりに、香月先輩が両手を上げた。

 しかし、今のやり取りの中で、俺には一つ思いつく事があった。

「神崎。お前には、観測者が俺の中にいるかどうかを判別できるんだよな?」

「うん、できる」

「なら、いなくなったら教えてくれ」

「なぜ?」

「……なんか、気持ち悪いからだよ」

 そう言った俺の言葉に、神崎は納得していないような表情を見せるのだった。

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  • プルチックの瞳   岩倉優雨の研究②

     水曜日の放課後になった。 俺は緊張に弾む心臓の音を少しでも落ち着かせようと、一度だけ深呼吸をしてから、万物研究会への扉を開く。 部屋には既に、香月先輩の姿があった。 今日は俺が研究テーマを発表する日なのだが、彼女は機材の準備だけ既に進めてくれているようだった。「やあ、岩倉君。発表用のデータは持ってきてくれたかな?」「あ、はい。これです」 俺は学生鞄の中から、予め香月先輩から預かっていたSDカードを取り出し、それを彼女に渡す。 SDカードの中には発表用に使うスライドデータのテンプレ

  • プルチックの瞳   岩倉優雨の研究①

     日曜日の午後、俺は学校からタブレットPCを家に持ち帰り、そのキーボードを叩いては、頭を捻るという行動をひたすらに繰り返していた。 香月先輩と朝山先輩、万物研究会の既存メンバーである二人の発表が終わった。 そのため、次は新メンバーである俺と神崎が研究テーマについて発表する運びとなったのがその原因だ。 香月先輩からは、今週どこかのタイミングで、簡単に研究テーマについての発表をしてほしいと頼まれている。 しかし、その研究テーマというものが、中々決まらない。 研究対象は何でも良いとは言われているものの、そこまで自由

  • プルチックの瞳   朝山妃那美の研究④

     朝山先輩の発表が終わり、機材の片づけを皆で協力して完了させた後、俺たち万物研究会のメンバー四人は中央のテーブルに集まって一息ついていた。 発表を終えた朝山先輩は何だかんだ緊張していたようで、その糸がほぐれたかのように脱力している。 香月先輩は優雅に珈琲の入ったカップを啜っており、その視線はテーブルに突っ伏している朝山先輩へと向いている。 神崎はというと、前回と同様にスマートフォンで何かを調べているようだった。「妃那美、発表について質疑応答の時間を取りたいんだが、いけるかな?」 香月先輩の言葉に勢いよく体を起

  • プルチックの瞳   朝山妃那美の研究③

     そんなこんなで火曜、水曜、木曜日と日々は過ぎていき、あっという間に朝山先輩が発表する日である金曜日になった。 放課後に研究会へとやってきた俺は、既に三人揃っていた面々への挨拶を済ませた後、いつもの定位置へと腰かける。 今日の主役とも言える朝山先輩は「配線間違えたー」とか「あれー? スライドどこに格納したっけー」等と独り言を言いながら、準備を進めている途中だった。 そこから発表までの流れは、香月先輩の時とほとんど同じだった。 朝山先輩の「準備かんりょー」という言葉を合図に、香月先輩が室内灯のスイッチをオフにする。

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