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第629話

Author: 雨の若君
素羽があと一晩だけ待っていてくれさえすれば、外の厄介事はすべて自分が片づけ、翌日には彼女を迎えに行けたはずだった。

そうすれば、もう誰にも彼女を傷つけさせることはなかった。

だが、自分は一歩遅かった。

素羽を迎えに行くことはできなかった。

耳元で囁かれる切実な愛の言葉が、千尋の胸を針で刺すように締めつけ、鼻の奥がツンと痛んだ。

司野の袖をつかんでいた彼女の手は、ゆっくりと彼の腰へ回される。

「素羽……会いたい。頼むから帰ってきてくれ。素羽……」

千尋は喉を震わせ、かすれた声で言った。

「つかやん……私は千尋よ……」

自分は、素羽ではない。

耳元で続いていた囁きが、不意に途切れた。

次の瞬間、千尋は激しく突き飛ばされた。

足元がもつれ、そのまま床へ尻もちをつく。

司野は眉をひそめ、冷たく言い放った。

「なんでお前がここにいる。出て行け。素羽はお前を嫌ってる。あいつの前に姿を見せるな。素羽が機嫌を悪くするだろ」

「つかやん……」

千尋の顔は深い悲しみに染まっていた。

どうして私に、こんな仕打ちができるの――そう叫びたかった。

自分が死んだことになっていた
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