Mag-log in冷たい海水から這い上がったとき、デッキからこちらを見下す二人と目が遭う。
「ほらあそこ見ろよ。お前のために用意したボートだぞ」
ボートを見つけた私は必死に泳ぐ。
たどり着いて乗ろうとするも、手が滑ってなかなか上がれない。
「がんばれがんばれ。早くしないとサメに食われちゃうぞ」
「泳がないと餌になっちゃうよぉ香織ちゃん。サメさんも不味くて捨てちゃうかキャハハ」
ようやくたどり着いて這い上がる。
するとデッキでは二人は熱いキスを交わし、
「ねぇ私が言った通りでしょう?」
「あぁ。これで日野内グループは俺の物だ」
「私たち、のでしょ」
手を振ったり、指を差したり――私の命を弄んで笑う。
それにも飽きたのか。純は背を向け、羽海は片手をひらりと振った。
さよならとでも言うように······
大企業の娘とグループ会社の御曹司。
私と純はそんな柵みすら超えた本物の愛だと思っていた。
実直で上昇志向しかなくて、負けず嫌い。
そんな彼の素直さに心を打たれていた。
肩書きだけの部長。そう陰口を叩かれて純が悩んでいたときだって寄り添って、彼を支えて。
でも与えられた物は、全部偽りだった。
愛。たったそれだけのために私は父の権力と、資金と、ノウハウを使って彼を押し上げた。
――全部奪われた。
夜空に輝く月夜ですら私を嘲笑う
絶対に許さない。
青くなった唇が自然と、復讐の誓いをつぶやいていた。
しかしボートの上。今の私には何もないし何もできない。
運が良ければ生きられるって彼らは言ったけれど。
海賊に身体を弄ばれる人生は死ぬことよりも辛い。
ならこのまま野垂れ死んでしまえれば、遙かに幸せかもしれない。
そんな思いを汲み取ったのか。
ボートに近づく一隻の船に気づく。
「・・・・・・助け?」
両手を振って合図を出すが、誰も答えない。
淡々と私に近づき、横について気づく。
木製のボロ船に乗ってきたのは、銃を携えた男達。
誰も助けてくれない。あの船にいた人々も、神様だって私を見捨てた。
「オサが待ってる。早く乗れ」
一人が拙い日本語で話すと、銃から私に手を伸ばす。
困惑していると、促すように手を引き、
「ジカンがない。ハヤクしろ」
そう急かして、私はボロ船に乗せる。
······どういうつもりなんだろう。
風体や雰囲気は明らかに海賊。
けれど服を脱がされるどころか私に手を出す素振りすらない。
むしろコップ1杯の水まで出されて持てなされているような気がした。
喉も渇いていたし一気に飲み干す。
すると私に手を差し出した男が優しく笑って、
「オサ、心配してる。何もなくて良かった」
と言う。
しばらくして見えてきたのは、クルーズ船に負けず劣らずの大きさの白い船。
「ついた。船の上を見ろ」
横を通りかかったとき、男が指を差す。
こちらに手を振る小さな人影。
しかし、海鳴りでも聞き間違えない懐かしい声が聞こえる。
「香織! 迎えに来たよ!」
石橋は凄まじい剣幕で机を叩く。「適当な事を言わないでくれるかしら? 私はそんな指示していない」 冷たく言い放つと、「これは工藤部長の独断で進めたこと。何度も言うけど、貴方に指示した記憶はないわ。それに、そのデータだって、きっとそこの女が金で偽装させたに違いないわよ」 慎ちゃんの言いたいことを察したようだ。「では、うちの社員が買収されたと?」「そう考えるのが自然でしょう。ほんっと、迷惑な方ですよね社長」 嫌みったらしく、しかし嘲笑して言った。「じゃあこれはどういうことかな?」 慎ちゃんの胸から取り出されたのはボイスレコーダー。 再生ボタンを押すと、「日野内の株を十六時に購入なさい」「取引が終わる間際にですか? 当日の朝に言われましても」「先方には話をつけておく。頼むわよ部長」 この場にいる誰もが声の主の正体を理解し、一点に集中する。「な、何よ! こ、これがなんだっていうの!」「君は買収を指示してないと言ったね。これは、どういうことかな?」「え、えっと・・・・・・あっ! あぁ! 忙しくてつい忘れていたかもしれません! そう、きっと指示したに違いありません」 石橋はさっきまでの態度を一転。 ボイスレコーダーの声まで突きつけられたら、言い逃れはできないと思ったのだろう。「でも・・・・・・どうして当日に?」「何よあんた! 社員でもない癖に言いたいことでもあるの?!」 私が尋ねると、威圧的な声色で返ってくる。 でも、当日の取引終了間近に頼むのは変だ。 大金が動くし、何よりも前情報なしにやるのは証券会社だって注文を受けるのを渋る。 大企業同士の買収ならば尚更。 社長を通さない株の取引。時間指定付き。 そして買収は株価の暴落を的確に狙い、実行された。 私はもう一度、その時の株価のグラフをスマホに出す。「十六時・・・・・・やっぱり」 やってくれたわね。このおばさん。 つまりこれは、「インサイダー取引・・・・・・」「香織の言うとおり。買収の判断は見事だった。しかし、法を犯してしまっては元も子もない。あぁ石橋君、君に聞きたいことはもうないよ」 慎ちゃんの顔は笑っていた。でも―― 手にしたボイスレコーダーは嘘をつかない。 右手でゆっくりと操作し、会話の内容が変わる。「買収情報をありがとう。これでまた一つ私の評価が
「ちょっと来なさい」 仕切り直しとなった会議の後、『石橋 文香』の声で足が止まった。「なんでしょう?」「貴方に興味があるの。専務室でちょっと話さない?」 一見すれば仲の良い場面かもしれない。 けれど薄ら笑う顔には、何か裏があると直感する。 上に階を跨ぐと、社長室と同じ階に専務室が並ぶ。 通されたデスクは質素で飾り気がない、モノクロの家具や雑貨が置かれている。「早速だけど、社長にどうやって取り入ったの?」「取り入った?」「えぇ。日野内と言えば、今や世間を大騒ぎさせている会社じゃない。その社長様が、清き綱島グループに入れるなんておかしな話よ」 会議の時から薄らと気づいてはいた。 私はその意味を考える素振りをした。「分からない? なら単刀直入に言うわ。社長の隣にいるなんて生意気よ」 笑みが一瞬で凍りつき、軽蔑の目へと変わる。(やっぱりね。不正の話が嘘だと知ったら、改めるかもしれない。でも) 弁明をしたところで、現状じゃ証拠が出せない。 それではただの推測や憶測、下手な言い分に過ぎないことは分かっていた。 世間様と同じで。「弁明の一つもできないのね。情けない。恥を知りなさい」(辱めるためだけに呼んだのね) 石橋 文香は言いたい放題言うと、半ば追い出すように私を専務室から退場させた。「恥を知れ・・・・・・ね」「慎ちゃん?!」 扉一枚挟んで、廊下の壁に寄りかかっていたのは慎ちゃんだった。「ここで待っていたの?」「石橋君と歩いて行くのが見えてね。どんな話をしてたの?」「ちょっとした世間話よ。何でも無い」 私は誤魔化して会議室に戻ろうとするが、「ちゃんと話さなきゃダメ。じゃないとここは通れない」 抱擁で通せんぼされてしまう。「恥を知れっていうのが、日野内での世間話だったの?」「そんなわけないじゃない。でも、ここだとちょっと話づらいから後でも良い?」「うん。でも」 慎ちゃんがコクリと頷いて、「後があればだけど、ね?」 ボソリと呟いた。 再び会議は幕を開ける。 しかし会議室の椅子と人の数が休憩前よりも増えていた。「早速だが、我が社に潜り込んだスパイの件で進展があった」 どよめきの中、慎ちゃんは話を続けた。「これは先日の日野内グループの株価暴落とも関係している。株式部『工藤』部長、うちが買った日野内の株は
綱島グループの本社に着くと、ビルのガードマンが車の扉を開けてくれた。 エントランスの案内図にはズラリと綱島グループの関連会社が並び、テナントは一切入っていない。(これを慎ちゃんが?) 驚かされてばかりだった。「細道。すぐにうちの製品とこのメモ通りに作ったツナを用意しろ」「かしこまりました」 走り書きしたメモが細道に渡り、彼が忍びのように消えていく。 ・・・・・・これで本当に合ってるかは分からない。 薄れていく記憶を必死に引っ張り出して出した答えは、食べてみないと分からない。 一抹の不安は残る。それを察してか、慎ちゃんは手をぎゅっと握って、「少し散歩しよっか」「散歩?」 尋ねる間もなく、慎ちゃんは興奮した足取りで引かれ、エレベーターに乗せられた。(みんな目も暮れずに働いてる) 慎ちゃんに気づかないままの社員さんもいれば、「お疲れ様です社長」 と、声を掛けられたりもする。「先日の案件、上手くまとまりました。頂いた助言が大変助かりました」 そう言って、飴ちゃんを渡してくる社員もいる。 けど偉ぶる素振りも見せず、「みんなの頑張りのおかげだよ。ありがとう」 仏のような笑みと優しい言葉で労っている。 だけど、私に見せるような甘さはない。(敏腕社長って感じ。ちょっと寂しいかな) 格好いいと思う反面、寂しさも感じる。 フロアを一通り回った後に、社長室へ到着する。「緊張、解れたかな?」「うん。気を遣わせちゃったかな」「全然! お仕事するにも、緊張は取った方がいいから。それに」 一拍置いて、彼は耳元で囁く。「怖い顔より笑っていた方が素敵だから」 ポッと耳が赤くなる気がした。 ・・・・・・やっぱり、この子が慎ちゃんっていうのが信じられない。「香織のデスクを用意しないとね。秘書だから、ここで仕事して貰った方が都合良いな。あっパソコンも新しくしないと。今度のパーティーで会うからそのときに」 固まっている思考が舞い戻ってくる。 そして慎ちゃんに微笑んでいた。(格好いいお兄さんになったんだね) 甘えん坊を見る瞳が、急に一人の男を見る瞳に変わった。 社内の電話でデスクや椅子を頼むと、すぐに用意が始まった。 まるで用意していたかのように、私の仕事場が整っていく。「魔法みたい」「香織のためならどんな魔法でも起こしてあ
日本の景色をまたこの目で見れるとは思わなかった。 それも慎ちゃんが手配したプレイベートジェットでだ。 広大な大海原を彷徨っていた私が、今度は空飛ぶ妖精になって舞い戻ってきた。「長旅お疲れ様です」 コクピットから出てきたのは細道。 飛行機を操縦できるコンシェルジュなんて聞いたことはなかったけど、「素敵な部下をお持ちで」「香織には敵わないさ」「左様でございますか」「いいや比べるのはナンセンスか。細道はうちの優秀な部下だよ」 クスっと笑った。 ここでも慎ちゃんは特別なオーラを放っていて、「あの人ヤバくない?」「超イケメン・・・・・・しかも連れてる人も綺麗」「どこかの富豪さんかな?」 と道行く女性陣からは黄色い声が聞こえてくる。「人気ね」「まぁね」 小さい頃だったら、人見知りで私の後ろに隠れていたと思う。 そんな幼い男の子が私、今はの手をぎゅっと握って堂々と歩いているのだ。 その成長がどことなく嬉しい。「お車を手配しております」「助かる。すぐに取締役会を開きたい」 空港の出口で黒塗りのリムジンが待っていた。 豪奢な内装で一際目立っている。「乗って乗ってー」 るんるんな慎ちゃんだけど、私の驚きはそれを差し置いていた。 日野内グループでも社用車はあったし運転手もいた。 けれどリムジンのような豪華さはなく、移動のための質素な車だった。 私が知らない間に、慎ちゃんは桁外れのお金持ちになってしまったのかもしれない。「あぁそれと、例の物は?」「ご用意しております」 乗り込む直前に慎ちゃんが聞いていた。 例の物って? 私は疑問を抱いたまま、中へ乗り込むと、「・・・・・・ツナ?」 シャンパンの横に置かれていたのはツナの缶詰。 しかもフォークまで用意されていた。 私は唖然とした。「これは綱島グループが売ってるツナ缶。品質、価格、全て申し分ない」 車のシートに身を預けながら、慎ちゃんはビジネスモードの口調で教えてくれる。「中身のマグロはサマリア産。香織を迎えに行った船で加工して日本へ輸出してるんだけど」 彼はツナ缶を開け、一欠片を口に運ぶ。「問題は味だ。役員やお客様には美味しいと評判なんだけど、何かが足りない」「何かって?」「それが分からないんだ」 なんとも不思議な話ではある。 今までの慎ちゃんか
「どぉして行っちゃうの?!」「遠くへ引っ越すの。お父さんの仕事の都合で」 そんな理不尽を跳ね返すように僕は叫んだ。 激しく動く機械の音の中で――。 大好きな人が遠くへ行ってしまわないように、必死に手を掴んだ。 その子は困惑しながら、「ごめんなさい。私にはどうすることもできないの」 大人びた口調で宥めるように言い、掴んだ手を両手で包んでくれる。 温かいこの手も、今日でお別れなんて、そんなの嫌だ。「嫌だ嫌だ! 香織が行くなら僕も行く!」「わがまま言っちゃダメよ? ご両親が困るわ」「お別れなんて嫌だよ!」 もう、と彼女――『香織』はため息をつく。「ねぇ慎ちゃん。遠くへ離れても遊びに来るし、ずっとってわけじゃないの。分かる?」「うん」「それに私たちは見えなくても繋がってるの。だから、泣かないで」 ぎゅっと抱きしめられて、僕はいっぱい泣いた。 初めて顔を見たときから、落ち着いたお姉さんって感じだった。 美人で綺麗だし、見つめられると不思議と照れてしまう。人見知りなところもあって、最初はちょっぴり怖かった。 一緒に過ごしていくうちに、香織は強くて優しくて、僕の事をずっと見てくれている。そんな一面がたまらなく好きで嬉しかった。 でも、それが今日で終わってしまう。 擦り傷に絆創膏を貼ってくれたり、いじめっ子から守ってくれる人がいなくなってしまう。 辛くて、哀しくて、そして怖い。「いじめられたら、僕どうしたら良いかわかんないよ」 服に埋もれた口はそんな不安を漏らしていた。 すると香織は僕の目を真っ直ぐと見て。「立ち向かいなさい。慎ちゃんは強い男の子でしょ。遠くからでも、ずっと見てるから」 立ち向かう。 そんな勇気が僕に持てるんだろうか。 意気地無しで弱腰の僕に。「じゃあさ・・・・・・」「なーに?」「立ち向かって大人になったら、香織と結婚する。約束だから!」 一瞬、香織の頬が赤くなったように思う。 でもすぐに居直って、「頑張ってね」 肩を叩いて、長い髪を振り回した。 ゆっくりと離れていく背中を、あのときの僕は見ていることしか出来なかった。 それが二十年前の記憶。 暑かった夏の港街で交わした小さな約束だった。「慎太郎様。一条グループの工場で動きが」 エルアリナイトのオフィスで、僕はタブレットに目を向ける。
なんで島に入れなかったんだ! 俺は船のスイートルームで地団駄を踏んでいた。 『エルアリナイト』は一流企業の社長や財界の重鎮、ハリウッドスターなんかのセレブが訪れる高級リゾートで、一条の名では入ることも許されない。 しかし日野内は違う。 国内でも利用権を持っているリストに名前を連ねている。 だからそれを利用して、こうやって客も集めた。 日野内を乗っ取って、俺達一条がエルアリナイトに正体した。その名声を得られるはずだった。 なのに・・・・・・!「ねぇ純。こんな汚いところぉ、嫌なんだけどぉ」 羽海は機嫌を損ね、事あるごとに文句をつけてくる。 苛立って仕方がない。「うるせぇ! 文句言う暇があったら、何か考えろ!」「いやぁ怖ぁい。でもぉ」 羽海が耳を近づけ、「あんまり私を怒らせないでね? 株価操作が犯罪だってこと、分かってるよね?」 その言葉に俺は慌てて、「あ、あぁすまねぇ。ちょっと焦ってた」「分かってくれたなら嬉し。純大好き」「俺もだよ羽海」 間一髪というところだった。 俺は内心ヒヤつきながら、言葉を継ぐ。(だんだんと烏滸がましくなってきやがった) そんなぼやきすら、言葉には出せない。「それよりもぉ、ちょっと散歩しましょ。ずっと海の上でつまらなかったし」「あぁ? 一人で行けよ。外に出る気分じゃない」「こんな危険な国をか弱い女一人で回らせる気? あーあ、純の意地悪ぅ」 羽海が不満を溢し、「じゃあぁ、私も意地悪しちゃおっかなぁ」 また脅しを掛けてくる。「あぁもう分かった。行くよ」「やったぁ」 俺は完全に手玉に取られていた。 渋々、船から港に下りた。 桟橋にはゴミと血の跡、得も言えぬ生臭さ。(致し方なしとは言え、こんな汚い国に来るとはな) 港の傍の市場は、昼下がりというのに閑散としていて何もない。「ひっでぇ国だな」「やぁね。ここに元恋人がいるんでしょう」 そうだったな。あんまり悪く言うのも良くない。 だってここは、もう香織の母国なんだ。 俺を扱き下ろした男の娘にはお似合いの場所だ。 庶民的で見窄らしい。「エルアリナイトで買えなかった分、ここでたんと買ってやる」「こんなとこにお前を満足させられるだけの店があるかよ」 大声でそんな話をしていると、通りかかる人々の視線が集まる。 その目はまるで
「私が慎ちゃんの秘書に?」 朝食を食べ終えた折りに、慎ちゃんは興奮気味に言う。「秘書になれば、ずっと一緒にいられるし、仕事に精が出る。勿論、タダでってわけじゃないよ? 細道」「こちらが秘書としての働いて頂いた場合の年俸になります」 額面を見て唖然としてしまう。 日野内グループの取締役を優に超えていたからだ。 けれど、私は秘書の経験もないし、むしろお願いしていた側。 慎ちゃんの仕事の足手まといにならないか心配で、表情が険しくなる。「仕事の事は心配しないで香織。細道もサポートしてくれるし、日野内のおじさんの元でやってた仕事と同じようにしてくれれば良いからさ」「そ、そう・・・・・
二十年分の思い出話。 ディナーの時間も忘れ、僕たちは語り合って、「それでね。保健室に運ばれたって聞いた香織のお父さんが教室に飛んできて」 そんな話の折り、彼女がコクリ・・・・・・コクリと頭を揺らしていた。 その隣に行くと、ビクリと肩が上がる。「ごめんなさい。ちゃんと聞いてるから、大丈夫」「ううん。長旅で疲れたよね」 彼女の頭を肩へ寄せると、数分としないうちに寝てしまった。 髪がふわりと揺れ、毛先がうなじに触れる。「優しいよね。いじめられたときも転んだときも、ずっと優しくしてくれて」 昔からずっとお姉さんみたいだったけれど、「大きくなって、綺麗になったね」 耳元で呟く
大きな船の中に船で入って、「香織っ!」 パイプだらけの物々しい廊下を掛けてきたのは、一人の美青年。 どこか可愛げがあるけど、顔はまるで覚えていない。 でもこの声の感じ。昔どこかで聞いたことあるような。「オサ! 連れてきた」 私を連れてきた男が言うと、「ご苦労だったね。仕事詰めで疲れてるだろう。少し長めに休んでいいぞ」 優しく男達に促した。 目の前で起こり続けた事がまだ信じられない私は呆気に取られている。「どこか具合悪いかい?」「う、ううん。でもごめんなさい」 そして俯きがちになった私。 彼の心配そうな顔が下からから覗いてくる。「なんで謝るの? 何か悪いことしたか
終わりという言葉がシャンデリアに照らされ、海原のクルーズ船はざわめきという荒波に揺られる。「私とは終わりって、どうしてなの純?!」「はぁ・・・・・・お前も察しが悪いな。お前よりイイ女が見つかったからに決まってるだろ」 『一条 純』がため息交じりに言う。 なぜなの。真っ先に脳裏を過ったのはそんな問い。「お前の親父の権力には世話になったよ。だが、それも今日までだ。散々、家族をコキ使って金稼ぎしやがって」 今日まで? 初めて見る彼の一面に驚きながらも、その含みのある言葉に引っ掛かる。「あらぁ? この子、何のことか分からないみたいよぉ純」「やっぱお前を捨てて正解だったわ。なぁ|羽