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第6話 仮面の裏と表

Author: 宵更カシ
last update publish date: 2026-06-22 13:29:11

 二十年分の思い出話。

 ディナーの時間も忘れ、僕たちは語り合って、

「それでね。保健室に運ばれたって聞いた香織のお父さんが教室に飛んできて」

 そんな話の折り、彼女がコクリ・・・・・・コクリと頭を揺らしていた。

 その隣に行くと、ビクリと肩が上がる。

「ごめんなさい。ちゃんと聞いてるから、大丈夫」

「ううん。長旅で疲れたよね」

 彼女の頭を肩へ寄せると、数分としないうちに寝てしまった。

 髪がふわりと揺れ、毛先がうなじに触れる。

「優しいよね。いじめられたときも転んだときも、ずっと優しくしてくれて」

 昔からずっとお姉さんみたいだったけれど、

「大きくなって、綺麗になったね」

 耳元で呟くが、もう夢の中の虜になっていたみたいだ。

 香織を独り占めなんて、ちょっと妬いてしまう。

「慎太郎様」

 コンシェルジュの『細道 大我』も起こさぬように虫の声で呼んでくる。

「例の船を追い返しました。サマリアの方へ向かっているとのことで」

「ご苦労。美濃部にそう伝えておいてくれ」

「御意。それと」

 彼は香織を一瞥すると、

「寝室へお連れしましょうか?」

 そう気を回してくれる。

 だが、首を振った。

「少し鈍くなったんじゃないかい?」

 細道もハタと気づいて、

「申し訳ありません。ではこれで」

 気さくな僕に深々と頭を下げた。

「あぁ待ってくれ。一つ頼みたいことがある」

「なんなりと」

「日野内グループの株価暴落について、何か聞いているか?」

「販売している産業機器のデータ改ざんが明るみになったとのことですが」

「詳しく調べてくれ。手段は問わない。何か怪しい」

「かしこまりました」

 細道に命じ、

「独り身が長かったからさ。二人きりが察せないのも無理ない」

「恐縮です」

 慰めるように彼の肩を叩くと、そそくさと部屋を出て行った。

「さ、ここからは二人の時間だね香織」

 香織を軽々と持ち上げて、僕たちはベッドへと向かった。

 目が覚めると、慎ちゃんの無防備な寝顔が目に留まる。

 前の私なら、他の男の人と寝てるなんて考えもしなかったし、飛び起きてただろう。

 けれど今は、不思議と受け入れられてしまう。

 恋人に海へ投げ捨てられて、すぐに慎ちゃんに助けられて。

 リゾートに連れてこられ、今はこうして寝顔を眺めている。

 起きた事を思い返しても、まるで信じられないことばかり。

 けど、

「慎ちゃんは、こんな私で良いの?」

 ぽつりと呟き、背を向けた。

 スマホを取ると、物凄い数の不在着信とメールが届いていた。

 その殆どが私の会社の話だ。

 一条の傘下に入るのか、それともこのまま損失の借金を背負って身を引くか。

 一条家は私の父に見出されて成り上がった一族。

 数字やデータに鋭敏。小さな違和感も見逃さない。

 会社の切れ者だったと、父は言っていた。

 息子の純はそれほどの活躍をしてないけれど・・・・・・。

 すでに株の過半数は純の手にある。

 会社は乗っ取られたも同然で、私に出来ることなんてない。

 まして取り戻すなんて無茶な話だ。

 父や私が血反吐を吐いて築いた資産や功績を一瞬で。

 掴んだ腕に爪が食い込む。

「怖い夢でも見た?」

 背中から彼の腕が優しく巻かれる。

「ごめんなさい。何でもないの」

 私ははぐらかした。

 けれど、

「ダーメ」

「会社の事。一条に乗っ取られて、私は職も立場も失ったの。没落した女。慎ちゃんに相応しくない」

「人は立場じゃないよ香織」

 慎ちゃんはそう言ってくれるけど、

 何も気づかず、会社を奪われた私がそばにいたら、きっと慎ちゃんを傷つけてしまう。

 そう思うと、彼の優しさを受け入れることができない。

「私、もう何でもないのよ」

「僕にとって香織は唯一無二だよ」

 慎ちゃんは率直すぎるよ。

 優しさが心に染み渡ってくる。

 私は純を支えてばかりで、優しくされたことはあまりない。

 愛の言葉だけあれば良いと思っていたから。

 でも違うんだと、慎ちゃんに気づかされてしまった。

「もう哀しい顔はさせない。今度は、僕が香織を守る番だから」

 ちょっとだけ腕の力が強くなる。

 甘い顔とは裏腹に、硬く鍛えられた筋肉に抱かれる。

 とても気弱だった隣の男の子とは考えられない。

 可愛くて、時折見せる貫禄が格好いい。

 私はふとした横顔に照れてしまう。

「あ、朝ご飯にしましょう。お腹空いてしまって」

「そうだね。食べたい物はある? 細道が何でも用意してくれるよ。それに、香織にちょっとした提案があるんだ」

 慎ちゃんはそう言うと、私に手を差し伸べた。

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