大輔は軽い調子で冗談めかして言った。「社長の身の回りが落ち着いて、将来ご自身で会社を興されることがあって、アシスタントが必要になったら、ぜひ僕に声をかけてくださいね。なんだかんだ言って、僕も長年お仕えしてきましたから。使い勝手はいいはずですよ」蓮司の返事は短かった。「ああ」大輔は勝のことについてもう少し話したかった。だが、蓮司をつらい気持ちにさせるのではないかと思い、口をつぐんだ。信頼していた部下に後ろから刺されたのだ、誰もが簡単に水に流せるわけではない。大輔は言った。「どうかお体に気をつけてください。今日は家に帰って荷物を片づけて、明日、病院へお爺様のお見舞いに伺います」二人はさらに二言三言交わし、それから電話を切った。大輔はため息をついた。自分は不本意な形で辞めることになったが、それよりも蓮司のほうがずっと苦しいはずだった。勝のあの顔つきを思い出す。かつての上司を踏み台にしてのし上がるような真似をしておきながら、いかにも大義を背負い、公正無私であるかのように振る舞っていた。体面を繕うだけでなく、大輔の目には、勝が本当に取り繕うのがうまい男に見えた。まるで自分は完全に「潔白」であり、卑劣な小物などではないとでも言いたげだった。内心でそう毒づき、呆れ返っていると、大輔のスマホが震えた。通知音だった。画面を見た途端、大輔は目を見開いた。なんと、蓮司からの送金通知だったのだ!金額は、なんと160万円。備考には【旅行で気晴らしでもしてこい】と記されていた。だが大輔には分かっていた。これは蓮司が個人的に出してくれた「退職金」代わりだった。大輔はそれだけで十分に満たされた気持ちになった。たしかに普段、蓮司の下では死ぬほど忙しく、馬車馬のように働かされてきた。けれど金銭面では、蓮司が大輔を冷遇したことは一度もない。業務外の頼み事には、その都度きちんと特別手当を出してくれていた。大輔は蓮司へ感謝のメッセージを送った。返信はなかったが、大輔には、蓮司が目を通したことは分かっていた。もしかすると、蓮司は今、勝からの電話に出ているところなのだろうか。何しろ最上階の社長室へ入るには、蓮司にアクセス権限を付与してもらう必要があるからだ。だが、社長室の内装はすべて蓮司が私費を投じて整えたもので、会社の経費で賄ったものではなかった
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