景苑別荘には別棟があり、千尋はそこで療養していた。食事については森山が両方をまとめて担当するよう指示されており、素羽は日々、その食事を通して司野が千尋にどれほど心を砕いているのかを嫌というほど思い知らされていた。森山が毎日、献立を何度も練り直しながら工夫を重ねていることも、素羽は知っていた。そして、その丹精込めて作られた滋養たっぷりの料理は、例外なくすべて別棟へと運ばれていくのだった。一方で森山は、素羽に対して後ろめたさでも感じているかのように、千尋の食事を届け終えると、決まって素羽が以前好んでいた料理を別に作り、食卓へ並べていた。そんなふうに毎日、腫れ物に触るように顔色を窺ってくる森山へ、素羽は淡々と声をかけた。「森山さん、そんなに気を遣わなくていいわ」森山が怯えるように振る舞い、司野の非道を少しでも埋め合わせようとしていることくらい、素羽には分かっていた。けれど、自分と司野の関係は、もう終わっている。彼が今さら誰を大切にしようと、自分には関係ない。興味すらなかった。今の素羽の頭にあるのは、いつになればここから出られるのか――その一点だけだった。森山は何か言おうとしては口を閉ざし、複雑な思いをそのまま表情に滲ませていた。司野が素羽を無理やり連れ戻したと聞いた時は、過去を清算し、やり直すつもりなのだと思っていた。だが現実は、彼女の想像とはあまりにもかけ離れていた。別棟へ食事を運ぶたびに目にする司野と千尋の様子は、どう見ても普通の関係ではない。まるで恋人同士そのものだった。しかしその一方で、司野の素羽への執着や気遣いも決して偽りには見えなかった。仕事から帰るたび、司野は必ず森山を呼び止め、「素羽は今日は何をしていた」「ちゃんと食事はしたのか」と細かく尋ねてくる。結婚していた頃よりも、むしろ今のほうが彼女の存在を重く受け止めていることは明らかだった。だが、その執着は素羽だけに向けられたものではない。この業界で長年働いてきた森山は、一人の男が複数の女性を囲いながら、表面上だけは平穏を装う歪な家庭を何度も見てきた。だが、目の前の素羽がそんな屈辱的な関係を受け入れるはずがないことくらい、火を見るより明らかだった。何より、素羽の司野への情は、もう完全に消え失せている。その時だった。素羽は、しばらく顔を合
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