英治が末っ子の行方不明を知ったのは、貴志が学校を終えてから二時間後のことだった。普段から、貴志の帰宅時間はそれほど正確ではなかったが、遅れても一時間を超えることはない。しかし今回は、その一時間をゆうに超えていた。妻の谷川知子(たにかわともこ)からの連絡で、息子が司野に連れ去られたと知らされた。英治の瞳は途端に暗く沈み、深く考え込むような色が浮かんだ。須藤家と谷川家がかつてどれほど親密であったか、知子もよく知っている。利津の件で両家の間に亀裂が生じたことも、彼女は承知していた。何しろ、綾子が利津のことで最近よく涙を流しており、綾子の世話を焼く彼女がそれに気づかないはずがない。ところが、末っ子に電話をかけた際、電話口に出たのは司野だった。これに知子は驚愕し、激しいパニックに陥った。夫である英治に、人質交換を要求し、従わなければ息子を酷い目に遭わせるという伝言を頼まれた時、彼女はすっかり取り乱していた。交換と言われても、誰を交換するのか彼女には分からない。ただ、自分の息子が危険な目に遭っているということしか耳に入っていなかった。知子は電話口で泣き叫んだ。「英治、利津はあなたの弟かもしれないけれど、貴志はあなたの息子なのよ!あの子に何かあったら絶対許さない!もしものことがあったら、あなたとは離婚するからね」利津は谷川家の末っ子として家族全員から甘やかされて育ったが、貴志だって英治にとって遅くにできた子であり、目の中に入れても痛くない宝物なのだ。英治たちが何を企んでいようと知ったことではないが、自分の貴志を巻き込むことだけは絶対に許せない。貴志はまだほんの十三歳なのだ!もし貴志に万が一のことがあれば、自分も生きてはいられない!英治の顔色はどんよりと沈んでいた。司野がこれほどまでに一線を越え、あろうことか十代の子供にまで手を出すとは予想だにしていなかった。いくら何でも外道すぎる!妻の泣きじゃくる声に苛立ちを覚え、彼は言った。「分かったから、泣くのはやめろ。貴志には指一本触れさせない」そう言い捨てると、彼はそのまま電話を切った。利津は、司野が素羽のために自分の甥を連れ去ったと知るや否や、怒りを爆発させて罵詈雑言を吐き捨てた。その瞳の奥にはどす黒い怒りが渦巻いている。よくもそんな真似ができたものだ!貴志は司野に
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