「ううん、パパが新浜まで行って、僕たちと曾おじいちゃんを迎えに来てくれたんだよ!曾おじいちゃんは別の病院に転院したんだ!」悠真は弾むような声でそう言った。ここ数日、海原へ戻れなくて寂しいと紬にこぼしていたばかりだった悠真。まるで子供たちの気持ちを見透かしていたかのように、成哉は動いたのだ。悠真と芽依がまだ夢の中にいるうちに、気づけば飛行機に乗せられていた。目を覚ました時には、成哉の指示で行き先が変更され、そのまま紬のマンションへ送り届けられていたのである。話を聞いた紬は、成哉がこれほど突然動いた以上、天野家で何かが起きたに違いないと直感した。紬は二人の手を引いて部屋へ招き入れ、ソファに座らせる。「曾おじいちゃんが病気になってから、何か変わったことはなかった?見慣れない人を見かけたりとか」二人はそろって首を横に振った。基本的に病院と家を行き来するだけの日々だった。顔を合わせる相手も、ほとんどが見知った人ばかりだったのだ。だがその時、悠真がふと表情を曇らせた。「ママ、一つだけ思い出したことがあるんだ。変なことかどうかは分からないんだけど……」「何?話してごらん」紬は優しく彼の頭を撫でた。悠真は記憶をたどるように口を開く。「拓海おじいちゃんのところにいる、あの人なんだけど……すごく変なんだ。僕と芽依ちゃんのことを、ときどきすごく怖い目で見てくるんだよ」治の生気のない顔を思い出したのか、悠真は思わず身震いした。一方の芽依は、そこまで気にしていなかったらしい。「そうなの?前に会った時、おじさん、私にキャンディをくれようとしたよ」「芽依ちゃん、それをもらったの?」紬の表情に、にわかに緊張が走った。芽依は首を横に振る。「ううん、もらってない。知らない人から簡単に物をもらっちゃダメだって、ママが言ってたもん。だからいらないって断ったの」紬は娘の小さな手をぎゅっと握り、言い聞かせるように言った。「そう、それでいい。偉いよ芽依ちゃん、ママの言うことをちゃんと覚えていてね。もしまたあの人が変な物を持って近づいてきたら、すぐママに教えるのよ」天野家では、治が過去に起こした不祥事の数々は、すべて表沙汰にならないよう揉み消されてきた。だが、彼が重ねてきた悪事は枚挙にいとまがない。
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