「労働環境とかモチベーションとか、難しい言葉はよくわかんないです。ウチら、毎日ホテル中を走り回って、正直すっごく大変です。足はパンパンになるし、シーツの交換だけで腰が痛くなる日もあります。大浴場の掃除なんて、汗だくになりますからね」 実加の言葉に、質問をした投資ファンドの男が怪訝そうに眉をひそめた。 現場の不満を暴露し始めたと勘違いしたようだ。 しかし実加の瞳は眩しいほどにキラキラと輝いていた。「でも、お客さんが『ありがとう』って笑ってくれたり、『ここのベッドは最高だね』って言ってくれたりすると、疲れなんて本当に全部吹き飛ぶんです。この前も、ロビーで迷子になった子を探してホテル中を駆け回ったんですけど、その子のお母さんが泣いて喜んでくれて。そういうの、機械には絶対できないでしょ?」 実加は最前列の役員席に座る翔吾を、遠慮なく指差した。「あそこにいるメガネみたいな頭でっかちもいて、細かいルールばっかり言ってくるからムカつく時もあるけど……でも、みんなホテルのことが大好きなんです。お客さんのために何かしたいって、本気で思ってる奴らばっかりなんです」 会場から、ドッと温かい笑いが起こった。「おいおい、役員を頭でっかちのメガネ呼ばわりかよ」「あれ? あの説明役の人は、別に役員ではないんじゃない?」「でも会社の偉い人でしょ。社長の隣に座っているし」「入社半年の新人が、あんなに堂々と相手をいじれるのか。風通しが良さそうな職場じゃないか」「半年でそこまでホテルのことを好きになれる職場環境ってことだろ。士気が低いなんてとんでもない」「あの子、この前うちの部屋にタオル持ってきてくれた子だ。笑顔がすごく良くてねえ」 個人株主たちの間で、笑い声に混じって好意的な囁きが広がる。 先ほど鋭い質問を投げかけた投資ファンドの男も、実加の飾らない言葉の前に毒気を抜かれたようだ。口元をわずかに綻ばせていた。 実加はマイクを握る手にぐっと力を込めた。「ウチは、今のサンクチュアリが最高だって思ってます。だから、
Last Updated : 2026-06-30 Read more