「バカ、何言ってんだ。料理は愛情だよ! 食ってくれる人が喜ぶ顔を想像して作るのが、一番だろうが!」 実加も譲らない。「またやってる。いつものことだね」「喧嘩するほど仲がいいってか?」 言い合いをする彼らを、仲間たちはニコニコと笑って見守っていた。 宴もたけなわとなり、食堂のあちこちで楽しげな笑い声が弾けている。 翔吾は少し喧騒から離れた壁際のテーブルで、グラスのウーロン茶を飲んでいた。 そこに2杯目のパエリアを平らげた実加がやってきて、隣の椅子にどさりと座った。「あー、食った食った。やっぱ自分で作った飯は美味いね」「僕のローストビーフもたくさん食べていたの、見逃していませんが」「美味かったからいいじゃんか。ケチケチすんなよ」 実加は笑い飛ばし、テーブルの上に腕を組んだ。「あんたさ、来月から大学に戻るんだよね」「ええ。籍は残してありましたから。これからは学業が本分になります」「そっか」 実加はグラスの水滴を指先でなぞりながら、ふと声のトーンを落とした。「大学に戻ったら、ホテルに来る回数、減るんだろ」「システムの保守があるので週に何度かは顔を出しますが、今までのように毎日いるわけではありませんね。フルタイム勤務でない以上は、社員寮も出ざるを得ませんし」「ふーん……」 実加は顔を伏せて、ぽつりと言った。「なんか、いなくなると寂しいな」 普段は憎まれ口ばかり叩いている実加の、予想外に素直な言葉だった。 翔吾は手に持っていたウーロン茶のグラスを口に運ぼうとして、ピタリと動きを止めた。 眼鏡の奥の瞳が、少しだけ見開かれている。「な、何を言っているんですか。僕はただのアルバイトに戻るだけで、完全にいなくなるわけでは……」「わかってるよ。でも、毎日顔合わせて文句言い合ってたのがなくなるのかと思うとさ。ちょっとだけ、ね」 実加が顔を上げてニッと笑う。 翔吾は実加のまっすぐな視線を受け止めきれず、顔を赤くして視線を泳がせた。「……業務に支障が出ないよう、マニュアルは完璧に整備しておきます。あなたのような大雑把な人間でもミスをしないように」「なんだと、一言多いんだよ!」 実加が翔吾の肩を軽く小突く。「仕事に来る時は会いに来いよ。理玖も会いたがるだろうから」「ええ、もちろんです」 食堂の賑やかな笑い声に包まれながら、2
Last Updated : 2026-07-05 Read more