2人の姿が見えなくなると、システム管理室は再び無機質な機械音だけの空間に戻った。 翔吾はモニターに向き直ったが、画面のコードは全く頭に入ってこなかった。 先程まで実加が座っていたパイプ椅子には、まだ微かな温もりが残っているような気がした。 ◇ 夜遅く。翔吾はシステム保守の業務を終えて、一人暮らしのアパートへと帰宅した。 ドアの鍵を開け、中に入る。 暖房の切れた部屋は、冷え切っていた。生活感のない、整理整頓された空間が目に入ってくる。 洗面所で手洗いとうがいを済ませ、キッチンで再びコーヒーを淹れる。 マグカップから立ち昇る湯気を見つめながら、翔吾は深く息を吐き出した。(……無音すぎる) 社員寮にいた頃は、隣の部屋から物音が聞こえ、廊下に出れば誰かとすれ違うのが当たり前だった。 談話室に行けば実加や他の社員がいて、理玖の声が響いていた。 あの騒々しさを「勉強の邪魔、非効率だ」と疎ましく思っていたはずなのに、いつの間にかすっかり馴染んでしまっていた。今となってはあの喧騒がひどく恋しい。 ソファに腰を下ろし、目を閉じる。 まぶたの裏に浮かぶのは、実加の笑顔だ。『お茶の差し入れに文句言う奴があるかよ。ほら、飲め』 乱暴な言葉遣いだ。けれど、そこには翔吾を気遣う温もりがあった。 理玖を抱き上げる時の、母親としての慈愛に満ちた表情が思い浮かぶ。翔吾の理屈っぽい小言を鼻で笑い飛ばす、あの勝気な瞳も。 翔吾は無意識のうちに、自分の胸元を強く掴んでいた。 心臓の音が、耳の奥でうるさいほどに響いている。(僕は……彼女を) 四角四面の論理的思考で知られる黒崎翔吾の脳内に、1つの明確な結論が導き出された。 それは、いかなる数式でも証明できない、不合理で感情的な事実。 ――自分は、実加に惹かれている。 いや、惹かれているとい
Last Updated : 2026-07-11 Read more