/ 恋愛 / 氷龍の檻姫 / 챕터 141 - 챕터 150

氷龍の檻姫의 모든 챕터: 챕터 141 - 챕터 150

230 챕터

3-20 内祝い

「今宮さん」社長室の扉が開き、大迫が大きな白い箱を抱えて入ってきた。「あやめさんから、贈り物へのお礼です」そう言って、テーブルの上へ丁寧に箱を置く。迅は視線を落とし、小さく眉を上げた。箱には一つのブランドロゴが刻まれている。――AURELIUS。その瞬間、迅の口元に薄い笑みが浮かんだ。「JAPANの表記がないな」AURELIUS は日本国内にいくつか支店があるが、本店だけが「AURELIUS JAPAN」という特別仕様のブランドロゴが使用できる。それは誰でも知っていること。(本店でそう簡単に買えるわけがないか)迅は箱を軽く叩きながら、大迫へ視線を向けた。「急な帰国だったのに、よく間に合わせたね」AURELIUS の箱は毎月デザインが変わる。これは今月のデザインで、今日は一日。今の時間を考えれば、つい先ほど購入したものだと分かる。「どこの店舗まで走った?」試すような口調だった。だが大迫は首を傾げる。「店になんて行っていませんよ?」「じゃあ、これは?」「これは、あやめさん宛てに屋敷へ届いていたものです。屋敷に呼ばれて、今宮さんへ渡してこいと言って段ボールごと渡されました」その返答に、迅の笑みが消えた。(屋敷に……届いていた?)AURELIUSにオンラインショップは存在しない。そこで気づいた。AURELIUSの金色の箔押し。他はオーロラに光る銀色の箔押しで、金色の箔押しを使うのはアメリカの本店のみ。迅はゆっくりと箱を開けた。中から現れたのは、一着のジャケット。見覚えのないデザインだった。だが、一目で分かる。特徴のある縫製。生地の使い方。ライン。間違いなくAURELIUSだった。「サイズは合うと思いますけど」大迫が悪びれもなく続ける。「アメリカ暮らしは五キロくらい太るって聞いたので、もし入らなかったら連絡してくださいって言われました」「……失礼だな」苦笑しながら迅は袖を通す。腕が自然に滑り込み、肩へ吸いつくように収まった。鏡を見る必要もない。分かる。(ぴったりだ)既製品ではあり得ない。体へ沿う感覚が違う。迅は静かに息を吐いた。(オーダーか……)だが、それ以上に理解できないことがある。今回の帰国は極秘だった。アンバサダー就任も、最後まで情報は絞っていた。冬弥にすら
last update최신 업데이트 : 2026-04-20
더 보기

3-21 招待状

ぽん、と乾いた手拍子が社長室に響いた。場違いなほど軽い音に、張り詰めていた空気がわずかに緩む。音の主は大迫だった。「あ」思い出したように口を開く。「あやめさんから今宮さんへの伝言を忘れていました」その一言で、迅の視線が鋭くなる。「……伝言?」「はい。帰国が急だったので、メッセージカードの準備が間に合わなかったそうです」迅は肩を竦めた。「こんな物騒なプレゼントを用意しておいて、カードだけ間に合わないのか?」ジャケットの袖をつまんで見せる。だが大迫は真顔で頷いた。「あやめさん、メッセージカードにはうるさいんですよ」「季節ごとに花の意匠を変えるこだわりがあるんです」「花?」「和装では、季節を少し先取りした花を身につけるのが粋なんだそうです。これから来る季節を楽しみに待つ心を表す、日本の美意識ですね」迅が感心したように息を漏らす。「美意識、か」「そのせいで俺、花の辞典を何冊も読まされました」大迫は遠い目をした。「薔薇しか知らないって言った翌日には、辞典が山積みですよ」「……いまどき、紙……」ぼそりと零れた迅の言葉に、冬弥は『気になるポイントはそこか』と言わんばかりの呆れた視線を向ける。だが、大迫は構わず続けた。「検索にすっごく時間がかかって、日本語はもう見たくないって言ったらフランス語の花の辞典を渡されました」「英語じゃないのか」「フランスは花の飼育が盛んらしいっす。国立で園芸科があるそうで」「へえ」完全に話が逸れている。それでも迅はなぜか律儀に応じてしまっている。その様子を見ながら、冬弥は小さく苦笑する。(完全に大迫のペースだな)「……それで?」樹が話を戻した。「あ、そうでした」大迫は咳払いを一つする。「今宮さん。耳の穴かっぽじって、よく聞いてください」迅が吹き出す。「その言い回し、久しぶりに聞いたんだけど」「俺も初めて使いました。これも伝言の一部です」社長室に小さな笑いが広がる。そして大迫は真面目な顔になった。「『アメリカナイズされた盛大なサプライズをありがとうございました』」そこで一度区切る。「『私からも改めてご挨拶したいので、ご都合のよろしい日に神崎邸へお越しくださいませ』――だそうです」静かな口調だった。しかし、その場にいる三人は、その言葉の重さを理解していた。迅はジャ
last update최신 업데이트 : 2026-03-04
더 보기

3-22 兵糧攻めの始まり

「組長さん未来の話みたいに言っていましたけど」大迫が苦笑しながら口を開く。「今ごろ、今宮さんのクレジットカードはもう止まっていると思いますよ」「そうだろうな」冬弥はあっさり頷いた。その反応に、迅は思わず眉をひそめる。「待て。そんなこと、簡単にできるわけないだろ?」「そうなんですけど」「できるんだ、あやめなら」「……二人とも経験者みたいな口ぶりだな」冬弥は首を横に振る。「俺は経験していない。ただ、あやめならやれる」断言だった。迷いも躊躇もない。その確信が、かえって迅の不安を煽る。「俺は経験者です」なぜか誇らしげに胸を張ったのは大迫だった。「銀行口座まで凍結されました」「見事なフルコースだな」冬弥が呆れたように言うと、樹がため息をついた。「感心している場合じゃありません」「迅、お前のメインバンクは?」銀行名を聞き出すと、樹はすぐに最寄り支店の情報をスマートフォンへ送る。「今すぐ現金を下ろしてこい」その口調は真剣だった。「走ったほうがいいですよ」大迫も真面目な顔で続ける。「あやめさんの兵糧攻め、しゃれになりません。現金生活も不便ですけど、現金すらない生活は地獄です」「体験談か?」冬弥が尋ねる。「もちろんです」大迫は勢いよく頷いた。「あやめさんからの電話は、朝なら十コール以内、昼間は三コール以内に出る決まりなんです」「何だ、そのルール」迅が首を傾げる。「柊大臣の秘書時代のルールだそうです」「……秘書は大変だな」冬弥は樹をチラッと見て、目を逸らした。「ある日、うっかり電話に出遅れまして」「それで?」「躾は大事です、って言われて切られました。そのあとカードが止まりました」「それだけか?」「それだけです。なんの予告もなく、三日間の現金生活になりました」迅が目を瞬かせる。「財布の中身は?」「三千円。一日千円生活です」樹が吹き出す。「学生か」「肉は諦めました。五百円しか援助してもらえませんでしたし」「誰に?」「一番恵んでくれたのは花沢綾乃ですね」「冬弥の愛人じゃないか」「そうですね」「そうですね、って」呆れる迅を無視し、当時を思い出したのか大迫が深いため息を吐く。「どんなにご奉仕しても一日五百円なんですよ」「厳しいな」冬弥が苦笑する。「あやめさんからの指示があったそうで
last update최신 업데이트 : 2026-03-05
더 보기

3-23 夜の呼び出し

神崎邸へ向かう車内は、珍しく静かだった。窓の外には、夜の庭園がゆっくりと流れていく。間接照明に照らされた木々は穏やかに揺れ、まるで何事も起きていないかのような静けさを保っていた。その景色を眺めながら、迅は深いため息をつく。「……俺、帰っていいかな」弱々しく漏れた本音に、運転席の樹が笑う。「往生際が悪いな」軽い口調だったが、逃がすつもりはないという意思は明白だった。助手席の大迫も追い打ちをかける。「帰ってもどうするんです? 残高、二百円ちょっとなんでしょう?」迅は顔をしかめる。「うるさい。お前よりは多い」「五十歩百歩ですよ」大迫は肩を竦めた。「俺なんて三十円でしたから」「その三十円を誇るな」冬弥が呆れたように口を挟む。迅はなおも抵抗する。「二百円あればコンビニのおにぎりくらい買える。三十円じゃ何も買えない」「天下の今宮迅がコンビニ飯ですか」大迫が笑う。「帰国して最初に食った」「え、そうなんですか?」「値上がりしていて驚いたけどな」「あー……シーチキンマヨも百五十円超えですからね」「そうそう」二人の会話に、樹が苦笑する。「お前たち、本当に気が合うな」そんな他愛もないやり取りの間に、車はゆっくりと神崎邸の正門をくぐった。そして正面玄関へ到着した瞬間、車内の空気が変わる。玄関前には組員たちが整然と並び、一言も発することなく主の帰宅を待っていた。異様なほど静かな出迎えだった。冬弥が小さく息を吐く。「完全に怒っているな」「やりすぎましたね」樹が苦笑する。迅も窓の外を見ながら肩を落とした。「……笑えない」世界中の舞台に立ち、何万人もの観客の前でも平然としていられる自分が、たった一人の女性に呼び出されて緊張している。その事実が、どうにも情けなかった。車が静かに停止する。ドアが開き、冬弥が先に降りる。玉砂利を踏む音だけが夜に響いた。「冬弥さん、お帰りなさい」静かな声だった。決して大きくはない。それでも迅の背筋を冷たいものが駆け抜ける。甘さも艶もない。ただ静かで穏やかな声。なのに、本能が逆らうなと告げてくる。(……この感覚)胸の奥に、幼い頃の記憶が蘇る。『今宮迅、か』初めて冬弥と出会った日のこと。まだ少年だった冬弥が放っていた、あの圧倒的な存在感。あの日と同じ感覚が、今はあやめ
last update최신 업데이트 : 2026-03-05
더 보기

3-24 もう一人の主

早苗に案内され、迅は神崎邸の廊下を歩いていた。幼い頃から何度も出入りしてきた屋敷。前を歩く早苗は姉のように慕ってきた存在。それなのに、どこか落ち着かない。磨き上げられた床。静かに灯る間接照明。そして廊下の隅に、季節の花が飾られている。足を止めるほど派手ではない。だが、以前の神崎邸には存在しなかったものだった。微かに香が漂う。それも決して強くはない。気づく者だけが気づく程度の、控えめな香り。(……女の気配だ)迅は心の中で呟いた。この屋敷は本来、男だけの世界だった。血と鉄と規律。そんな言葉が似合う場所のはずだった。だが、今は違う。  『お帰りなさい』玄関で聞いたあやめの声が脳裏によみがえる。あの声も、この空気も、この屋敷には本来なかったものだ。(管理する人間が変わった)そう考えれば、すべて納得できた。だが、納得できない点もある。神崎家の妻は龍神会のために迎えられる存在。表に出ることのない存在であり、屋敷の奥にただ置かれる。名ばかりの妻。迅の知る限り、その結末が幸福に至った例は一つもない。(この時代に閉じ込められて正気を保てと言うほうが無茶な話だ)逃げ出そうとして命を落とした者。心だけを殺して生き続けた者。誰一人、幸せそうには見えなかった。本来、夫婦とは互いの熱を探りながら築き上げていくものだ。しかし、その前提が最初から崩れている。外で自由に相手を選べる男は、政略の妻に熱を向ける理由を持たない。一方で、外に出られない妻は帰ってきた夫にしか愛を求められない。(恋愛として考えれば、不公平すぎる)不公平であると分かっている。だからこそ、この関係に恋愛感情は相応しくない。最初から期待させないための制度。愛人がいると分かっている男に心を預ける女はいない。(先代は金で片づけようとした)幼い頃、冬弥の母ではない女性が別の男を屋敷へ招いている姿を見て、迅は嫌悪した。しかし今なら分かる。あれは外の世界を持つための、唯一の方法だったのだ。だから迅は、冬弥には同じ世界を理解できる女を選べと言い続けてきた。壊れない女でなければ、この屋敷では生きられない。(塩沢のじいさんとは、その点だけは意見が合っていたな)廊下の先に、淡い藤色の花が飾られていた。少しだけ季節を先取りした花。(歓迎、か)迅は小さく
last update최신 업데이트 : 2026-03-06
더 보기

3-25 並び立つ覚悟

「こんばんは、今宮さん」あやめは穏やかに微笑んだ。怒っているようには見えない。責めるような口調でもない。それでも迅は、すぐには口を開かなかった。数秒の沈黙。言葉を選び、相手との距離を測る。「……サプライズは、嫌いだったのでは?」探るような問いだった。あやめは首をかしげる。「サプライズを仕掛けられるのが嫌いなだけですよ」柔らかい笑顔。だが、その笑みは一歩も譲る気がないことを静かに物語っていた。「これから、どうするつもりだ?」「どうしましょうか」困ったように笑う。だが、本当に困っている様子はない。「カードが審査中なのは困る」迅は眉をひそめる。「不便だ」あやめは湯飲みに視線を落としたまま答える。「そうでしょうね」「朝は普通に使えたんだぞ」「朝まで使えたのでしたら、朝までだったということなのでしょう」あまりにも自然な返答だった。「どういう意味だ?迅は思わず苦笑する。「私にはカード会社の事情は分かりませんが」あやめは静かに続ける。「一般論として申し上げるなら、今宮さんの信用が朝までだったということなのでしょう」「随分とはっきり言うな」「一般論ですから」ころころと笑う声とは裏腹に、その言葉は容赦がない。「どうして止められなかったと思う?」「私に聞いているのですか?」「ああ」「そうですね。再度使えるようにする手続きが面倒なのだと思います。信用情報はとても繊細ですから」「十分、角は立っていると思うが」「それは今宮さんがそう感じているだけです。あくまでも一般論です、審査中なのでしょう?」「つまり?」「今はまだ、信用していないということです」迅は視線を冬弥へ向けた。その意味は明白だった。――俺には後ろ盾がある。だが、あやめは首を横に振る。「私と今宮さんの間に、信頼できるものはありますか?」その問いに、迅は少しだけ言葉を失う。「冬弥が信じている。普通は、それで十分じゃないか?」あやめは静かに微笑んだ。「そして裏切られたら、私は冬弥さんを責めるのですか?」「……」「絶対に嫌です」その一言だけは、迷いがなかった。「もし裏切られたなら、私も冬弥さんも騙されたというだけです」「何にもならないだろう」「二人で笑うくらいはできますわ」迅は目を細める。「笑う?」「笑うしかありませんでしょ
last update최신 업데이트 : 2026-03-07
더 보기

3-26 先に言いなさい

「私、今宮さんには期待していました」あやめはそう言って湯呑みを持ち上げた。ゆっくりと茶を口に含む。喉が静かに上下し、小さく息を吐く。その所作は美しく、どこまでも優雅だった。それなのに迅は、甘さではなく鋭い威圧感を覚えた。「容姿も、性別も、年齢も、生まれも」一拍置く。「そういうものではなく、能力を見て人を評価できる方なのだと思っていました」あやめは穏やかな口調で続ける。「どこかの世界のように、男だから、女だからと騒がず、必要な力を持つ人を受け入れられる方なのだと」一度だけ目を伏せ、小さく息をつく。「ですが、蓋を開けてみれば、大きな獲物を捕まえたと自慢するだけの……」そこで一瞬言葉を止める。「……失礼。頭まで筋肉でできた、威勢のいい方でしたのね」「今、馬鹿と言いかけただろう」迅が呆れたように言う。「言い直したほうが失礼なんじゃないか?」あやめは肩を揺らして笑う。「女だからと話を聞かず、考えもせず、百年前と同じ価値観で女を見ている方々に?」あやめは迅を見る。「言葉を尽くせと?」視線はぶれない。「聞く耳も、理解する頭も、最初から用意されていないのに?」「……方々って……」迅は思わず冬弥と樹を見る。冬弥は静かに視線を逸らした。樹は無言で手を上げる。――巻き込むな。その仕草だった。(何をやったんだ、この二人)迅が考えていると、あやめが楽しそうに笑った。「そちらのお二人」あやめが冬弥たちを見る。「浮気をする夫の代わりに、私を慰める情夫を用意してくださいましたの」皮肉しかない言葉たち。「もちろん、私に一言も相談せずに」迅は思わず冬弥を見る。冬弥は咳払いだけで何も言わない。「愉快でしょう?」あやめは微笑んでいた。だが、その瞳だけは笑っていなかった。「せめて、好みくらい聞くのが礼儀ではありません?」「……それは」迅は曖昧に笑う。「何とも言えないな」「でしょうね」あやめはあっさり頷いた。「あなた方に言っても無駄なのは分かっています」その一言に、迅は引っ掛かりを覚える。(無駄なら、どうして言う)「俺を呼んだ理由は?」あやめは首をかしげた。「クレジットカードを止められた世界的スターが、どんな顔をするのか見たかっただけですよ」「……は?」「ちゃんと、お仕置きになっているか確認しないと意
last update최신 업데이트 : 2026-03-09
더 보기

3-27 やられたら、やり返す

「龍神会には、神崎冬弥という存在が必要だ」迅は迷いなく言い切った。「組を率いる者は、一人の男である前に龍神会という組織を動かす装置でなければならない。だから俺は警告をした」「唯一を作るなと?」「……そうだ」部屋が静かになる。あやめは少しだけ考えるように視線を伏せ、それから穏やかに頷いた。「その考えには同意するところもあります」迅がわずかに目を見開く。「冬弥さんは龍神会の組長。その判断は、龍神会全体の利益を最優先にすべきです」あまりにもあっさりした肯定だった。もっと感情的な反論が返ってくると思っていた迅は、その反応に拍子抜けする。その様子を見て、あやめは小さく笑った。「私が、『冬弥さんを物扱いするなんて酷い』と泣いて訴えるとでも?」「そういう女は多い」迅は率直に答えた。「そういう女性しか周りにいらっしゃらなかったのですね。お気の毒に」そう言うと、あやめは襖のほうへ顔を向けた。「早苗さん」静かに襖が開く。入ってきた早苗の手には、一つの段ボール箱が抱えられていた。箱の表面には無数の穴が開いている。鋭利なもので何度も突き刺したような痕跡だった。「……呪いの箱か?」迅が思わず呟く。早苗が吹き出しそうになる。「言われてみればそう見えますね」あやめは苦笑しながら箱を受け取った。「新しい箱に替えるのも面倒で、そのまま使っていました」蓋を開ける。中には大量の写真が収められていた。冬弥と女性が並んで写っている写真。腕を組んでいるもの。抱き合っているように見えるもの。ホテルから出てくる姿。どれも週刊誌なら飛びつきそうな写真ばかりだった。「これは……」迅が息を呑む。「私に身を引けという意味で送られてきた写真です」あやめは一枚手に取る。「合成っぽいものもありますし。本物も混ざっているのでしょう」あやめが笑う。「まあ、どうでもいいことですが」(どうでもいいなら、こんな箱にはならない)迅は箱の傷を見る。感情を押し殺すたびに突き刺した。そんな跡に見えた。「男が成長しないから、女も成長しない。誰も考えない。自分のやったことの結果、何が起きるのかも」あやめは写真を一枚めくる。そこに写る女性を見た瞬間、迅は記憶をたぐった。(あれは……)思い出した瞬間、背筋が冷える。「あの女の実家の会社を潰したのは……
last update최신 업데이트 : 2026-03-09
더 보기

3-28 変わる時代

「ああーん」障子の向こうから、小さな泣き声が聞こえた。その一声だけで、部屋を覆っていた緊張がふっとほどける。誰も口にはしなかったが、全員の意識が自然と廊下の向こうへ向いた。「……あの役立たずが」早苗が小さく呟く。その独り言には、ほんの少しだけ呆れが混じっていた。あやめは静かに立ち上がる。「冬弥さん。楓が泣いているようなので、行ってまいりますね」先ほどまでとは別人のような穏やかな声だった。怒りも皮肉もない。いつもの妻であり、母親の声。「あやめ」冬弥が呼び止める。だが、あやめは振り返らなかった。「私はもう気が済みましたので、適当にお見送りをしてください」それだけ言い残し、襖の向こうへ姿を消す。足音は軽い。そこには怒りを引きずる様子も、勝ち誇る様子もなかった。用事を終えた。ただ、それだけだった。部屋に静寂が戻る。先ほどとは違う。どこか拍子抜けしたような静けさだった。「……はあ」迅が深いため息をつく。「怖すぎるだろ」「……まあ、な」「で……俺のカード、どうなる?」「気にするのはそこか」冬弥が呆れる。迅は真顔で頷いた。「止められてみろ、価値観が変わるぞ」「そのときは樹に払わせる」「は?」樹が素っ頓狂な声を上げる。その横で早苗が淡々と言った。「若のカードが止まるなら、樹のカードも同じです。二人は一蓮托生ですから」「……そうか」冬弥はあっさり納得した。「納得するな」樹が思わず突っ込む。「理不尽の巻き添えだぞ」「夫婦喧嘩に秘書は巻き込まれるものだ」「そんな常識は聞いたことがありません」樹が肩を落とす。冬弥は立ち上がった。「樹、車を回せ。会社へ戻る」冬弥は早苗を見た。「塩沢老が来たら社へ来るよう伝えてくれ」「承知しました」早苗は一礼して部屋を出る。襖が閉まると、男三人だけが残った。誰もすぐには口を開かない。それぞれが先ほどの出来事を整理していた。やがて冬弥はスマートフォンを取り出した。発信先は、藤堂結衣。数回のコールのあと、電話が繋がる。『はい、藤堂です。ただいま電話に出る気はありません。あやめちゃん以外の方は、ピーッという発信音のあとに交渉を開始してください』そして。『ピーッ』冬弥は短く言った。「あやめの写真をやる」『はいっ! 何でしょう! 何でも答えます!
last update최신 업데이트 : 2026-03-10
더 보기

3-29 若者たち

午前の柔らかな光が神崎邸の応接室へ差し込んでいた。わずかに開けられた窓から春の風が入り、白いレースのカーテンをゆっくりと揺らしている。あやめはソファに腰掛け、テーブルに広げた資料へ目を通していた。紙をめくる指先に迷いはない。「紅茶はこちらへ置いておきますね」「ありがとうございます、早苗さん」早苗が置いたカップから穏やかな香りが立ち上る。あやめが一口飲んだところで、廊下の向こうから足音が近づいてきた。一定の間隔を保った、落ち着いた歩み。やがて控えめなノックが響く。「どうぞ」「失礼します」自ら扉を開けて入ってきたのは、蛟組組長の水原壮一だった。護衛として早苗はいるものの、鷹見や大迫の先導もなく応接室まで通される者は限られている。それだけ水原は、あやめから信用されているということだった。「お久しぶりです、姐さん」水原は長身をわずかに縮め、丁寧に頭を下げた。「お久しぶりです。お元気でしたか?」「おかげさまで」あやめが向かいのソファを示す。水原はもう一度「失礼します」と断ってから、端へ控えめに腰を下ろした。その姿を見た早苗が、小さくせき込む。水原が鋭い視線を向けた。「早苗。笑いたいなら笑え」「まあ、なんてお心の広いお言葉でしょう」早苗は感激したように胸元へ手を当てる。「数年前の水原組長からは想像もできません。感動で涙が出そうですわ」からかいながらも、紅茶を差し出す手つきは丁寧だった。「ありがとう」「あら、感謝まで」早苗は窓の外へ視線を向ける。「今日は槍でも降るのでしょうか」「……姐さんが丁寧に扱う相手の前で、俺だけ粗野に振る舞えるわけがないだろう」水原は咳払いをし、ソーサーごとカップを持ち上げた。以前の彼なら、そのままカップだけを掴んでいたかもしれない。娘の玲奈を冬弥の相手にしようとしていた頃、水原はあやめへ明確な敵意を向けていた。だが今は自ら距離を測り、礼を尽くしている。あやめはその変化を指摘しなかった。変わろうとする者に、過去を突きつける必要はないと考えているからだ。「今日は、どのようなご用件でしょう?」あやめが尋ねると、水原の表情が引き締まった。「うちで預かっている――いえ、辰組から移ってきた若い連中についてです」あやめは静かに頷く。辰組では若手の大量離脱が続いていた。多くは龍神会を
last update최신 업데이트 : 2026-03-10
더 보기
이전
1
...
1314151617
...
23
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status