All Chapters of 元カレの宿敵の腕で幸せになります!: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話

どうやら、当時森崎家が花江家を助けたのは、決して無償の善意などではなかった。あの頃の花江グループは、多額の資金を急いで必要としていた。森崎家は支援に応じる代わりに、一つ条件を出した。――花江グループの株式を5%譲渡すること。さらに五年間、花江グループの利益を森崎グループと六対四で分配すること。花江グループが六、森崎グループが四。どう考えても、森崎家だけが大きな得をする条件だった。当時の雅紀は救命室へ運ばれ、生死の境を彷徨っていた。咲夜はまだ二十歳で、大学すら卒業していない。家族を支えられるのは、真奈美しかいなかった。花江グループを守るため、真奈美は最終的に森崎家の条件を呑むしかなかったのだ。ようやく雅紀は一命を取り留めた。だが、その代償のように脳卒中を起こし、半身不随となってしまう。真奈美は、自分が森崎家と交わした条件を夫に知られれば、再び彼を刺激してしまうのではないかと恐れていた。悩み抜いた末、彼女は一部を隠すことを選んだ。本当は5%だった株式譲渡を、1%だと偽ったのだ。――五年さえ耐えればいい。彼女はそう自分に言い聞かせていた。そしてそれこそが、真奈美が何としてでも咲夜を森崎家に嫁がせたかった理由でもある。家族になってしまえば、「他人行儀な損得勘定」では済まなくなるからだ。真奈美は俯いたまま、低い声で言った。彼女自身も、当時の決断が花江家にとって不公平だったことは理解していた。だが、あの時の真奈美には他に方法がなかった。金を借りられそうなところにはすべて頭を下げた。融資も必死に頼み込んだ。それでも、誰ひとりとして金を貸してはくれなかった。咲夜は黙って母の話を聞いていた。森崎家のやり方について、あえて多くは口にしない。だが、弱みに付け込むようなそのやり口には、強い嫌悪感を覚えずにはいられなかった。それでも混乱の渦中で、母が歯を食いしばって下した決断だったことも理解はできる。もし自分が会社へ行くと言い出さなければ、真奈美はきっと、この事実を最後まで隠し通すつもりだったのだろう。咲夜は母を見つめ、静かに口を開いた。「お母さん、こんな大事なこと、本当なら私とお父さんにも話すべきだったよ。どうして五年後、森崎家がまた別の条件を出してこないって言い切れるの?」
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第122話

「咲夜……」真奈美は再び、咲夜の名を呼んだ。その眼差しには、まだ諦めきれない焦りが滲んでいる。「……本当に、もう一度晴南さんのことを考え直す気はないの?」結局、話はまたそこに戻ってしまう。咲夜は答えなかった。真奈美がさらに説得を続けようとしたその時、咲夜が静かに口を開く。「お母さんが花江グループを守りたかった気持ちは、ちゃんと分かってる。どうしてそこまで執着してたのか、その理由も分かったよ。間違えたなら、これから正していけばいいだけ。誰もお母さんを責めたりしない。お父さんも責めない。……私だって、責める資格なんてないよ」咲夜はゆっくりと言葉を紡いだ。今日までは、本当に理解できなかった。どうして母が、娘の幸せまで犠牲にして花江グループを守ろうとするのか。あまりにも極端で、一時は「自分は本当に母の娘なのか」とさえ思ったことがある。でなければ、どうして母親が、娘にここまで我慢を強いるのか。――けれど今日、咲夜は父からすべてを聞いた。当時、雅紀が判断を誤ったのは、単なる見通しの失敗などではなかった。真奈美が、最も信頼していた親友に裏切られていたのだ。その女は真奈美からプロジェクト入札の最低価格を聞き出し、競合相手に売り渡した。莫大な報酬を受け取ると、そのまま景浦市を去っていった。しかも彼女は、企画書の内容までも写真に撮って持ち出していた。当初、真奈美は自分が「敵に塩を送るような真似をしていた」ことに気づいていなかった。花江家を襲ったあの混乱が、自分のせいだとも知らなかったのだ。だが真実を知ってから、真奈美はずっと罪悪感に囚われ続けていた。花江グループが破綻寸前まで追い込まれたこと。そして雅紀が倒れ、半身不随になったこと。そのすべてが、真奈美を容赦なく追い詰めた。この三年間で、彼女の性格は次第に極端になっていった。「花江グループを守り抜くことだけが、自分の犯した過ちを償う方法だ」――そう思い込むようになったのだ。彼女は、自責と償いの悪循環に取り憑かれていった。しかも咲夜の知らないところで、何度も自殺を図っていた。そのたびに病院に運ばれ、どうにか助けられていたのだ。雅紀が咲夜にこれらを話したのは、ただ一つ。真奈美に失望しないでほしかったから。真奈美自身、自
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第123話

「……もう、全部過ぎたことだよ」咲夜はそっと真奈美の肩を抱き寄せた。その言葉を聞いた瞬間、真奈美の張り詰めていた感情はついに限界を迎える。彼女は咲夜にしがみつき、声を上げて泣き崩れた。その夜、咲夜はそのまま実家に泊まることにした。真奈美が薬を飲み、ようやく眠りについたのを確認してから、静かに部屋のドアを閉める。自室に戻ったあと、咲夜は真奈美の主治医に電話をかけた。しばらくして、医師から診断記録が送られてきた。そこに記された【重度の双極性障害】と【重度の不眠症】という診断名を目にした瞬間、咲夜の胸に鋭い痛みが走った。この三年間、自分は母が病んでいることにすら気づかなかった。しかも、ここまで深刻な状態だったなんて。思い返せば、父が療養所に入ってから、母はまるで別人のようになっていた。些細なことで怒鳴り、物を投げ、刺々しい言葉を浴びせる。そして何より、咲夜に晴南を頼るよう何度も強要していた。その強引さに反発を覚え、咲夜自身も次第に実家に寄りつかなくなっていた。――全部、理由があったのだ。もしかすると真奈美は、ああ振る舞うことで、苦しみを誰にも見せまいとしていたのかもしれない。スマホを置き、もう一度母の様子を見に行こうとした、その時だった。突然、インターホンが鳴り響く。それだけではない。乱暴に扉を叩く音まで続いた。咲夜は眉をひそめながら玄関に向かう。門の外に立っていたのは――森崎家の面々だった。晴南の両親に加え、晴南と彼の姉の森崎青音(もりさき あおね)までいる。全員、露骨に怒りを滲ませた顔つきだった。その様子を見ただけで分かる。真奈美に文句を言いに来たのだ。本来なら相手にするつもりはなかった。だが真奈美が薬を飲んで、ようやく眠れたところだと思うと、咲夜は結局、外に出ることにした。花江家は高級住宅街の一角にある一戸建てだ。森崎家の人間たちは、鉄門の外に立っていた。咲夜の姿を見た途端、晴南の両親が視線を交わす。すると青音が、苛立ったように口を開いた。「咲夜、ずっと雲隠れしてたと思ったら、やっぱり実家にいたのね。ほらお母さん、言ったでしょう?絶対ここだって」本来、彼らは真奈美に説明を求めに来たのだ。というのも、森崎家は何日も咲夜と連絡が取れない状態
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第124話

森崎家の人間たちの、あの鼻につくほど尊大な態度を前にしても、咲夜は微動だにしなかった。静香も青音も、最初から自分を快く思っていなかったことを、咲夜はよく分かっている。花江家が没落して以降、二人はずっと「今の森崎家に咲夜は釣り合わない」と思っていた。面と向かって嫌味を言われたことも一度や二度ではない。陰で散々嫌がらせもされた。咲夜も最初は相手にしていなかったが、時には言い返すこともあった。けれど返ってくるのは、決まって晴南のうんざりしたような態度だけ。そのうち咲夜は、森崎家に顔を出すこと自体を減らしていった。そして今、静香と青音の傲慢な顔を見ても、咲夜には相手をする気すら起きない。咲夜は冷たく視線を外すと、そのまま背を向けて立ち去ろうとした。今日、森崎家がここに来た理由が何であれ、ろくな話ではないに決まっている。「咲夜」その時だった。今まで黙って彼女を見つめていた晴南が、ようやく口を開いた。彼は咲夜をじっと見据えたまま言う。「そんなに意固地にならないで、ちゃんと話し合えないか?」晴南の記憶の中で、咲夜がここまで頑なになることはほとんどなかった。あのスライドも、彼はすでに目を通している。いや、今頃は景浦市中の人々が目にしているだろう。内容を一行ずつ読み進めていくうちに、晴南は初めて気づいた。――自分は、こんなにも咲夜を傷つけていたのか、と。彼の胸には、今さらながら強い後悔が渦巻いていた。特に、洸が咲夜を挑発する数々の発言。それが拡散された直後、晴南はすぐに洸を問い詰めた。すると洸は泣きながら、ただ「咲夜さんが羨ましかった」、「晴南さんに愛されている咲夜さんが妬ましかった」のだと言った。そしてその流れのまま、洸は晴南に想いを告げた。今でも忘れられない。もう一度やり直したい。そう縋るように訴えてきたのだ。洸が帰国した時、晴南の中に「復縁」という考えが一瞬よぎったのは事実だった。だが、それは本当にただ「考えただけ」に過ぎない。本気で洸とやり直そうと思ったことは、一度もなかった。晴南自身、誰より分かっていた。洸のような女は、気軽に付き合う相手としてならいい。だが結婚相手として最適なのは、どう考えても咲夜だった。家柄も能力も、咲夜は洸より遥かに上だ。
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第125話

晴南は苛立ったように口を開いた。「姉さん、少し黙っててくれないか」昔からそうだ。今も変わらない。晴南は、自分と咲夜のことにいちいち口を挟んでくる姉に、心底うんざりしていた。そんな息子の険しい表情を見て、静香は慌てて青音の腕を引っ張り、黙るよう目配せする。それぞれが、それぞれの思惑を抱えていた。そんな空気の中、英樹が咲夜に向かって口を開く。「咲夜、ほら……今日は正式に結婚の話をしに来たんだ。君のお母さんも、ずっと君に森崎家に嫁いでほしいと思ってただろう?今日はちゃんと誠意を持って来てる」その言葉を聞き、咲夜は目の前の四人を見渡したあと、ふっと口元を歪めた。「……手ぶらで来るのが、『誠意』なんですか?」言い終えると、皮肉っぽく笑う。結婚の申し込みに来て、何一つ持たずに現れる人間など、初めて見た。しかも夜に。まるで、人目を避けて何か後ろ暗いことでもしているみたいだった。英樹の顔色がわずかに変わる。確かにそこまで気が回っていなかった。咲夜に指摘されて初めて、自分たちの非常識さに気づいたのだ。だが青音は首を突き出し、不満げに言い返した。「何よその態度。私たち一家がわざわざ足を運んであげているだけで十分誠意あるでしょう?いちいちもったいぶって、自分の価値を吊り上げるような真似しないでくれる?今の落ちぶれた花江家の状況で、森崎家があんたを嫁に迎えてあげるんだから、感謝してこっそり喜んでればいいのよ」咲夜は思わず吹き出した。「へぇ?じゃあ私は、『身の程知らず』ってこと?もしかして、森崎家が『仕方なく』私を受け入れてくださることに、土下座でもして感謝しなきゃいけないんですか?」「それは当然――」青音は、咲夜がようやく身の程を弁えたのかと思った。だが最後まで言わせる前に、咲夜が遮る。「本当に、森崎家の人たちって面白いですよね。晴南が人の話を理解できないのはもう分かったけど、まさか一家揃って通じないとは思わなかったわ。確かに今の花江家は、昔ほどじゃない。でも、森崎家がそんなに偉そうにできる立場ですか?昔、森崎家が何度も危機に陥って、そのたびに花江家に頭を下げに来てた時は、『釣り合わない』なんて言いませんでしたよね?」森崎家の醜く傲慢な本性に、咲夜は嫌悪感しか抱けなかった。だからこそ彼女は、彼ら
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第126話

晴南は、これ以上ないほど誠意を見せているつもりだった。だが咲夜の目には、それがただただ白々しく映る。咲夜は冷たく笑った。「写真は『向こうが勝手にそう見える角度で撮ったもの』だったとしても、じゃあ動画まで合成だって言うつもり?」まさか自分が、昔みたいに簡単に騙されると思っているのだろうか。もう洸と同じベッドに転がり込んでいたくせに。咲夜は、とっくに洸と晴南のベッド写真や動画まで、モザイク処理をしたうえでまとめて公開していた。おそらく晴南はまだ知らない。でなければ、彼もこんなセリフを平然と言えなかっただろう。その瞬間、晴南の顔色が変わった。彼は本当に、動画の件を知らなかったのだ。その驚きが滲む表情を見て、咲夜はすべてを察する。彼女の眼差しは、さらに冷え切っていった。「『洸が陰でそんなことしてた』って、よくそんなふうに言えるよね。あなたにその気がなければ、そもそも白羽さんに付け入る隙なんてなかったでしょう?あなたが甘やかしてたから、白羽さんはあそこまで私を挑発できたんじゃない。今になって全部バレた途端、『悪いのは洸だ』『俺は騙されてただけだ』って……自分だけは潔白みたいな顔をして、晴南、滑稽だと思わないの?」晴南は押し黙ったまま、複雑な表情を浮かべている。だが咲夜の嫌悪感は、もう隠そうともしなかった。「結局、あなたって誰のことも愛してないのよ。あなたにとって女は、ただのアクセサリーみたいなもの。両手に花でいい気になって、女同士が自分を巡って争うのを見て、優越感に浸ってるだけ。晴南。あなたは優柔不断で、自分勝手で――結局、自分しか愛してない」咲夜は容赦なく、その本質を突きつけた。そもそも彼が洸を本当に愛しているなんて、咲夜には思えない。結局のところ彼は、女たちに取り合われる男を演じているだけなのだ。今、身を引いた咲夜としては、これから先、晴南が洸をどう扱うのか、見ものだった。それにしても、本当に笑える。晴南の情の深い男を装う演技は、毎回同じだ。毎回同じ手口で、同じように取り繕う。咲夜は、そんな彼を心底軽蔑していた。――気持ち悪い。込み上げる吐き気を押さえ込みながら、咲夜は冷たく言い放つ。「もう帰って」すると英樹が横から口を挟んだ。「咲夜。たとえ晴南との婚約を解
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第127話

英樹にとって、それはあくまで双方合意の取引だった。彼は、自分が弱みに付け込んだなどとは少しも思っていない。利益の前で情を語れと言われても、自分は慈善事業をしているわけではない。なぜ無条件で花江家を助けなければならないのか。咲夜は拳を強く握り締め、冷たく言い返した。「私が気持ち悪いって言ってるのは、あなたたちが『施してやった側』みたいな顔をしてることです。利益も欲しい、恩も売りたい、感謝まで求める――だから晴南の恋愛観もああなるんでしょうね。さすが英樹さん、立派な教育です」その言葉には、痛烈な皮肉が込められていた。途端に、英樹と晴南の顔色が同時に険しくなる。だが咲夜は構わず続けた。「森崎家が利益を求めるのは勝手です。でも、それなら最初から綺麗事みたいに『情』を語らないでください。本当に気分が悪いので。もうお帰りください」咲夜は再び、はっきりと追い返した。今の彼女にとって、森崎家の人間には嫌悪感しかない。すると青音が腰に手を当て、咲夜を指差しながら激しく罵り始めた。その姿は、まるで路上で怒鳴り散らす喧嘩女そのものだった。普段、外では上品で愛想のいい「森崎家のお嬢様」を演じている面影など微塵もない。咲夜の目が冷え切る。そしてついに、我慢の限界を迎えた。彼女の視線が、鉄門脇に向く。そこには庭用の蛇口とホースがあった。普段は花の水やりに使っているものだ。咲夜は無言で蛇口をひねると、そのままホースを掴み、門の外に向けた。もう、この連中にこれ以上言葉を使う気などなかった。咲夜は勢いよく水を噴きつけ、森崎家の面々を追い払う。もし鉄門がなければ、青音はとっくに中に突撃していただろう。ちょうど青音は門にしがみつきながら怒鳴っていたため、真っ先に直撃を受けた。大量の水が顔面に叩きつけられる。丁寧に作り込んでいた化粧は一瞬で崩れ落ち、見るも無惨な有様になった。青音は悲鳴を上げながら後ろに飛び退く。「きゃあっ!咲夜、あんた頭おかしいんじゃない!?」髪はびしょ濡れになり、水滴がぽたぽたと垂れている。全身ずぶ濡れのまま、青音は叫びながら晴南の背後に逃げ込んだ。結果、とばっちりを受けたのは晴南と英樹だった。怒鳴り声と罵声が飛び交う中、英樹は妻と子供たちを連れ、そのまま
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第128話

その疑問が頭から離れず、咲夜は結局一晩中眠れなかった。どう考えても、森崎家がこの三年間「何もしなかった」理由が分からない。だが同時に、その違和感は彼女の決意をさらに強くしていた。――やはり、会社へ行って確かめるしかない。……翌朝。咲夜は身支度を整え、真奈美と朝食を済ませると、そのまま一緒に会社に向かった。移動中、スマホに着信が入る。瞳からだった。「ねえ、めちゃくちゃ面白い話あるんだけど、聞きたい?」声からして、かなり機嫌がいい。咲夜も付き合うように返す。「聞きたい」すると瞳は、待ってましたとばかりに話し始めた。スライドが拡散されたあと、晴南と洸は大喧嘩になったらしい。しかも、かなり派手に揉めたという。さらに昨夜、晴南は再び洸のもとを訪ね、何かを問い詰めていたそうだ。その結果、二人は取っ組み合いの喧嘩になり、洸は道路に突き飛ばされた。ちょうどそこに車が突っ込んできて、そのまま接触事故になったらしい。もっとも、幸い怪我は軽傷程度で済んだ。今、世間では「二人の間に何があったのか」と大騒ぎになっている。話を聞き終えた咲夜は、昨夜森崎家一家が結婚話を持ち込んできた件を瞳に話した。すると瞳は、電話口で吹き出しかける。「いや待って、森崎家どの面下げて来たの!?無理、笑い死ぬんだけど。現場見てなくても、あいつらの醜い顔が想像できるわ。晴南、咲夜に復縁断られて逆ギレして、そのまま白羽洸に当たったんじゃないの?」だが咲夜は否定する。「そこまで私に執着してるとは思わないわ。でも、白羽洸にハメられてたって知った以上、晴南の性格的に黙って終わるとは思えないかな」おそらく、それが原因だろう。二人はそれ以上深く話さなかった。ちょうどその時、真奈美がこちらを見ているのに咲夜が気づく。咲夜は瞳に軽く一言告げ、通話を切った。それから真奈美に向き直る。「昨日、森崎家の人たちが来たんだ。でも中には入れなかった。そのまま追い返したから」この件を、咲夜は最初から隠すつもりなどなかった。真奈美は少し戸惑ったように聞き返す。「……本当に、結婚の話をしに来たの?」ここまで揉めておきながら「正式に縁談を進めたい」と言い出す森崎家の行動は、どう考えても不自然だった。真奈美ですら、どこか引っかかるも
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第129話

事情を知らなければ、咲夜もきっと興一の温厚で礼儀正しい表の顔に騙されていたことだろう。「奥様、お嬢様」興一は笑みを浮かべ、二人に挨拶した。真奈美も微笑みながら応じる。「朝倉さん、昨日お話ししたでしょう。娘を連れてきて、会社のことを少し見せておこうと思って」興一はうなずいた。「承知しました。こちらは私のアシスタント、小林千雪(こばやし ちゆき)です。お嬢様には小林が社内をご案内しますので、その間に私は奥様に今月の会社の状況をご報告いたしましょう」これまで真奈美が会社に顔を出す機会はそれほど多くなかった。だが興一は毎回、会社の状況をまとめて彼女に報告していた。しかし咲夜はその提案を断った。「朝倉さん、見学は結構です。母と一緒にお話を聞かせていただきます」興一は咲夜が同席すると聞いた瞬間、反射的に真奈美に視線を向けた。その様子を見て、咲夜は笑みを浮かべる。「どうしました?何か不都合でも?」「いえ、とんでもない」興一は笑顔を崩さないまま答えた。「ただ、お嬢様は会社の業務にあまり触れたことがないでしょうから、聞いていて退屈なのではないかと思いまして」咲夜は口元をわずかに吊り上げた。「朝倉さん、私は大学で経営学を専攻しましたし、卒業後もずっと勉強を続けています」つまり、彼の言う「退屈」という心配は当てはまらない。ここまで言われては、興一もそれ以上反対することはできなかった。彼は真奈美と咲夜を執務室に案内し、現在進行中のいくつかのプロジェクトについて説明し始めた。咲夜は机の上に置かれた数冊の契約書を手に取る。ざっと目を通した彼女は、不意に二人の会話を遮った。「すみません、少しよろしいですか」興一が振り向く。咲夜は契約書の末尾を指差した。「ここですが――森崎グループが保証人となり、乙は残金の支払い完了後、利益の35%を受け取る。また、甲が契約内容を期限内に履行できなかった場合、乙に違約金を10倍支払うものとする、とありますね。つまり、何事もなければ森崎グループは利益の35%を受け取り、問題が起きた場合は花江グループがすべての責任を負う。では、保証人としての森崎グループは一体どんな役割を果たしているんですか?」その契約内容は、かつて花江家と森崎家が結んでいた契約によく似ていた。だが、これは森崎グループ
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第130話

咲夜は怒りを露わにした興一を見つめた。――自分はまだ何も言っていないのに、どうして急に逆上するのだろう。咲夜は彼の視線を受け止めながら言った。「私はまだ何もお話ししていませんよね。朝倉さんは、いつもそんなに余裕がないんですか?」その言葉には明らかに含みがあった。だが興一は聞こえなかったかのように無視し、真奈美に向き直った。「奥様も、私を疑っておられるのですか?私を採用された当時の会社の状況は、奥様ご自身が一番よくご存じのはずです。これまでの年月、私に功績があったかどうかはともかく、少なくとも苦労はしてきました。会社をどれほど立て直したかを自慢するつもりはありません。しかし、奥様から任されたことは、できる限り全力でやってきたつもりです。胸に手を当てて言えます。私は奥様の信頼に背くようなことはしていません」話が進むにつれ、興一の感情はますます高ぶっていった。その勢いに押され、真奈美はたちまち戸惑った表情になった。そして助けを求めるように咲夜を見た。会社に向かう途中、咲夜は何度も真奈美に念を押していた。――会社で何が起きても、特に興一が何を言っても、できるだけ反応しないでほしい。真奈美には咲夜の真意までは分からなかったが、その言葉だけはしっかり覚えていた。自分が力になれないのなら、せめて足を引っ張らない。それが今の自分にできることだった。興一としては、ここまで言えば真奈美が自分の味方をすると思っていた。これまで自分が何を言っても、彼女はほとんど反対したことがない。以前など、真奈美は咲夜が大学を卒業したら会社に入れ、興一に面倒を見てもらおうと提案したこともあった。その時、興一は表向きは了承したものの、巧みに話をすり替えた。今の花江グループには森崎グループという後ろ盾がある。しばらく会社が傾く心配はない。会社の経営は自分が見ているから大丈夫だ。それより咲夜には晴南との関係をしっかり築かせるべきだ。そうすれば将来、花江グループにも頼れる後ろ盾ができる。そんなふうに真奈美を説得していたのだ。だが今、真奈美は黙ったまま立ち尽くし、困り果てた顔をしている。その様子を見て、興一の表情は何とも言えないものになった。咲夜はぱちりと瞬きをし、無邪気そうな顔で言う。「別に朝倉さんが会社に貢献
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