これまでなら、自分がここまで言えば、真奈美は必ず何かしら反応していた。だが今は違う。彼女は一言も口を開こうとしない。そのせいで興一は完全に宙ぶらりんになり、どう収拾をつければいいのか分からなくなっていた。一方の咲夜は、もはや先ほどの話題を続ける気などないようで、再び契約書に目を落としている。幸い、それらの契約はまだ締結されていなかった。真奈美が最終的に承認し、その後で興一が署名する流れになっていたのだ。彼は用心深い男だった。真奈美さえ了承してしまえば、後から問題になったとしても、「最終的に決めたのは奥様です」と言って責任を押しつけることができる。「その契約ですが……」興一は真奈美を見た。だが真奈美が口を開く前に、咲夜が即座に答えた。「契約しません。当社は現在、森崎グループとの関係整理を進めています。今後、森崎グループと関わりのある案件には一切手を出しません」興一の目の前で、咲夜はあえてはっきりと言い切った。興一は困ったように眉をひそめる。「森崎グループと距離を置く、ですか……ですが、これまで森崎グループには随分助けてもらったではありませんか。お嬢様、個人的な感情の問題を企業間の提携に持ち込む必要はないと思います。もし外部に知れれば、恩知らずだと言われるかもしれませんよ」遠回しではあるが、十分に脅しめいた忠告だった。だがその言葉を聞いた咲夜は、むしろ笑みを浮かべた。「朝倉さん、そこまでおっしゃるなら、この場で少し会社の名誉を回復させておきましょうか」興一は思わず目を見開く。咲夜は淡々と続けた。「森崎グループが出資してからというもの、当社はすべてのプロジェクトで利益の35%を譲渡してきました。それだけではありません。毎年の利益配分でも、相当な割合を森崎グループに渡しています。会社を管理しているのは朝倉さんですよね。毎年どれだけの金額が森崎グループに流れているか、私よりずっとご存じでしょう?」その瞬間、興一の顔色が変わった。内心では必死に返答を組み立てているのが見て取れる。だが咲夜は彼に考える時間を与えなかった。「花江グループは、もう少しで会社そのものを森崎グループに差し出すところだったんですよ。それでもなお、『花江グループが恩知らずだ』と言う人がいるなら、私はもう何も言えませ
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