会社へ向かう電車に揺られながらも、美咲の頭から朝のニュースは離れなかった。(……関係ない)そう何度も心の中で繰り返す。けれど、人は本当に関係のないことを何度も自分に言い聞かせたりはしない。岡本蒼太。一年前まで付き合っていた恋人。そして、一年前に終わった恋。美咲にとって、彼は過去の人間だった。だから、死んだと聞いたところで悲しむ理由などない。そう思っている。そう思いたい。ふと、スマートフォンを見つめる。もちろん、彼とのメッセージはもう残っていない。別れた日にすべて削除した。写真も、連絡先も、残しておく理由がなかった。残したくもなかった。岡本蒼太の浮気相手は会社の上司だった。役職も年齢も彼より上。最初は仕事の相談なのだと思った。「ただの業務連絡だよ」彼は笑ってそう言った。完全に信じていたわけではない。けれど、そのときの美咲には疑うだけの証拠もなかった。今思えば、違和感はいくつもあった。仕事とは関係のない時間に届く通知。【いま何をしてる?】【今日は真っすぐ帰ったの?】そんな内容がスマートフォンの画面に何度も表示される。業務連絡だけでは説明できない距離感だった。でも。岡本蒼太は隠さなかった。美咲の隣で平然とスマートフォンを開き、その場で返信する。画面を伏せることもない。悪いことをしているという雰囲気がなかった。だから、「ただの上司」だと信じた。違う。悪いことをしているという自覚すらなかったのだ。(堂々と浮気する人だった)思い返すだけで胸の奥が熱くなる。怒りなのか。呆れなのか。自分でもよく分からない。あの日。美咲は彼に問いかけた。 『ホテルに入って、何をしてたの?』馬鹿みたいな質問。でも。少しでも否定してほしかった。苦しい言い訳でもよかった。一瞬でも迷ってくれたら、違う未来があったかもしれない。けれど。 『彼女と寝た』岡本蒼太の答えに迷いはなかった。寝た。たった二文字。その短い言葉で、二人の時間は終わった。気づけば美咲は拳を握っていた。勢いのまま彼の頬を殴る。その乾いた音だけが部屋に響いた。鍛えていると言っていた体はびくともしない。痛かったのは、自分の拳のほうだった。それでも後悔はしていない。何もしなかったら、一生悔やんでいたと思う。 岡本蒼太は頬
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